執筆コラム 3分間でわかるドラッカー [251]
−「経営学の巨人」の名言・至言(週刊ダイヤモンド)

企業家精神の原理は
変化を当然のこととする行動であり姿勢である
『イノベーションと企業家精神』より



「企業家精神とは、個人であれ組織であれ、独特の特性を持つ何かである。気質ではない。実際のところ私はいろいろな気質の人たちが、企業家的な挑戦を見事に成功させるのを見てきた」(ドラッカー名著集D『イノベーションと企業家精神』)

 企業家精神というと、100人に一人が持つという感覚がある。100人に一人の気質、100人に一人の才能としかねない。ドラッカーは、そこがそもそもの間違いだという。それは、気質でも才能でもない。

 ただし、ひとつだけ企業家精神に向かない気質がある。確実性を旨とする気質である。それはそれで立派な気質だが、企業家には向かないという。

 しかし、意思決定を行うことができるならば、学習を通して、企業家として企業家的に行動することができるようになる。企業家精神とは、気質ではなく、行動であり、同時に姿勢だからである。

 イノベーションは、才能とも関係がない。企業家精神の才能などはなく、方法論が必要なだけなのである。それが今、ようやく各所で開発中である。

 ドラッカーは、企業家精神はインスピレーションとも、ほとんどあるいはまったく関係ないという。逆にそれは、厳しく、組織的な作業である。

 企業家に天才的なひらめきがあるというのは、神話にすぎない。ドラッカー自身、60年以上にわたっていろいろな企業家と仕事をしてきた。ベンチャーを立ち上げた人もいれば、社内企業家もいた。どの人も働き者だったという。天才的なひらめきを当てにするような人は、ひらめきのように消えていったという。

 イノベーションは、変化を利用することによって成功するのであって、変化をもたらそうとすることによって成功するのではない。

 ということは、変化を当然のこととして受け止めることである。日本人にとって、諸行無常を旨とすることは、おなじみなのではないか。

「本人が自覚しているか否かにかかわらず。あらゆる仕事が原理にもとづく。企業家精神も原理にもとづく。企業家精神の原理とは、変化を当然のこととすることである」
(『イノベーションと企業家精神』)




↑ コラムリストへ戻る ← 前へ | 次へ →