執筆コラム 3分間でわかるドラッカー [293]
−「経営学の巨人」の名言・至言(週刊ダイヤモンド)

「社内を歩き回れ」は間違い
社外の”変化”を知らなければ
時代に置き去りにされる
『未来企業』より



「技術が変化していることは、誰もが知っている。市場がグローバルになったことや、労働力や人口の構造が変化していることも知っている。しかし、流通チャネルが変化していることについてはまだ認識が甘い」(『未来企業』)

 あらゆる組織が、世のため人のために存在する。すべて組織は、世の中や人が必要とするものを生み出し、届ける。だからドラッカーは、組織としての企業の目的は”顧客の創造”だという。
 じつは、この当然のことが当然でなくなるのが好況期であり、バブル期である。あえて世のため人のためを考えずとも、流れに乗ることによって、事業が成り立つ。
 だから不祥事も起こる。世のため人のためでもないビジネスモデルまで生まれる。目的が顧客でなくなり、利益になってしまう。
 ところが、不況期となれば、原点に帰らざるをえない。わが社のミッションとすべきは何か、顧客は誰か、顧客にとっての価値は何かを根本から考えざるをえない。そしてそのとき、市場の構造と流通チャネルが急激に変化しつつあることに愕然とする。愕然とすれば不幸中の幸いである。多くの場合は、手遅れになるまで気がつかない。
 ドラッカーは、盲点は流通チャネルの変化にあると言う。役員室で報告を待っていたのでは変化はわからない。自ら出かけていって体感しなければならない。歴史に名を残す経営者は皆、外をほっつき歩いていた。
 八〇年前に、GMを世界一のモノづくり企業に育てたアルフレッド・P・スローンは、数か月に一度は一週間ほどディーラーめぐりをし、セールスマンの真似事をしていた。マクドナルドを生んだレイ・クロックも、町へ出ては自分の店を外から見ていた。
 しかも、不況期こそ、顧客に出会い、教えを請う好機である。「私がトップ経営者たちに対し、歩き回ること、すなわち、役員室を出て、部下の所で話をすべきことを助言してからすでに久しい。しかし今では、それは間違った助言になってしまった。社内ばかりを歩き回れば、間違った安心感に陥る。知らされたことは、部下が知らせようとしたものにすぎないにも関わらず、情報を手にしているものと思いこむ。今では、外を歩き回れが、正しい助言である」(『未来企業』)


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