解題 ドラッカー36選
織りなす二つの系譜―社会生態学とマネジメント

1. 『「経済人」の終わり−全体主義はなぜ生まれたか』 1939年(2007年新訳)


第一次大戦後、民主主義が根づいていなかった国では、ブルジョア資本主義とマルクス社会主義に失望した大衆がファシズム全体主義にはしった。経済のために生き、経済のために死ぬという経済至上主義からの脱却を説く本書は、実に65年を経た今日、われわれの問題意識と同じである。後の大英帝国宰相ウィンストン・チャーチルの激賞を得た。ドラッカー29歳のときの処女作であって、ナチズムの日常と本質を描いて息をつかせない。


2. 『産業人の未来−改革の原理としての保守主義』 1942年(2008年新訳)


社会が機能するには、一人ひとりの人間に「位置」と「役割」があって、かつそこに存在する権力に「正統性」がなければならない。しかも、よりよい社会への改革の道は、現実に立脚した正統保守主義の原理によらざるをえない。ソクラテスからフランス啓蒙思想、ルソー、ロベスピエール、社会主義、マルクス、ヒトラーとつづく進歩主義、全体主義の系譜の破綻を明らかにするとともに、イギリスとアメリカの正統保守主義の実績をこれに対比させる。社会にかかわる一般理論を確立し、その産業社会への適用を特殊理論として展開したドラッカー社会学の原点である。


3. 『企業とは何か』 1946年(2008年新訳)


当時の世界最大最強のメーカーGMに招かれて同社を1年半にわたって調査したドラッカーがまとめた本書が、世界中の企業、政府機関、NPOの組織と経営に重大な影響を与えた。フォードの再建の教科書となり、GEの組織再編の教科書となった。人類社会にとってのマネジメント、経営学は本書から始まった。今日のカンパニー制も本書がいちはやく唱えていたものである。


4. 『現代の経営』 1954年(2007年新訳)


企業の機能はマーケティングとイノベーションである。経営の本質を明示することによって、世界中の企業と経済に直接の影響を与えたロングセラーである。『企業とは何か』発表の後、ドラッカーは、産業社会の主たる機関としての企業とその経営の成否が社会の行方を左右するとの認識のもとに、マネジメントを深化集大成し、本書によってマネジメントの父とあおがれるようになった。ドラッカー経営学の原典である。


5. 『変貌する産業社会』 1957年


本書においてドラッカーは、「われわれはこの二十年の間のどこかでモダン(近代合理主義)と呼ばれる時代から、名もない新しい時代へと移行した」と宣言したのだった。しかも、「われわれはこの新しい現実についての理論、コンセプト、スローガン、知識を持ち合わせていない」といった。それは実に、今日のポストモダンブームの半世紀前の先駆けだった。


6. 『創造する経営者』 1964年(2007年新訳)


マネジメントの師たちの師とよばれるに至ったドラッカーは、世界の企業、政府機関、NPOの相談相手となった。その豊富な経験をもとに、事業とは何かを明らかにした世界最初の、かつ今日にいたるも最高の経営戦略書である。本書においてドラッカーは、事業とは顧客の創造であると断じた。


7. 『経営者の条件』 1967年(2006年新訳)


成果をあげることは学ぶことができる。かつて社会のパワーセンターは、国王をはじめとする少数支配者だった。今日では、組織とともに働く一人ひとりの人間である。全員がトップのように働かなければ、組織の成功、社会の繁栄はない。プラトンからマキアベリにいたる賢人たちが時の支配者に教えたように、ドラッカーは現代社会の担い手たる普通の人たちに教える。万人のための帝王学として今日も再版を重ねている。


8. 『断絶の時代−いま起こっていることの本質』 1969年(2007年新訳)


地震の群発のように、激動が先進社会を襲いはじめた。その原因は地殻変動としての断絶にある。この断絶の時代をグローバル化の時代、多元化の時代、知識の時代、起業家の時代ととらえた本書は、世界中で読まれ世紀のベストセラーとなった。今日まさにその渦中にある大転換期への突入の様相と、その本質を明らかにしている。イギリスの首相マーガレット・サッチャーがドラッカーによるものとして推進し、やがて世界中に広がった政府現業部門民営化の構想は本書で発表された。現代社会最高の哲人としての名声を不動にした名著である。


9. 『マネジメント−課題、責任、実践』 1973年(2008年新訳)


われわれの社会は組織社会として極度に多元化した社会となった。経済的な財とサービスの提供、医療、福祉、教育、知識の探求から環境の保護まで、主な社会的課題のほとんどすべてが専門の社会的機関にゆだねられた。それらの課題をいかに果たすかがマネジメントの課題である。 原著800頁を超える本書は、今日も大学、ビジネススクール、経営セミナーの教科書としてつかわれている。「マネジメントを発明した男」(ジョン・タラント)の筆によるマネジメントの集大成である。この『マネジメント』の主要部分を抜粋したものが『抄訳マネジメント』であり、2001年発行の『エッセンシャル版マネジメント』である。


10. 『見えざる革命−年金が経済を支配する』 1976年


ドラッカーは予測しない。すでに起ったことの帰結を予告するだけである。50歳人口は20年後には70歳人口となる。高齢者の健康や住居しか論じられていなかったとき、まさに突然、ドラッカーが人口構造の激変の様相とその帰結について論じた。高齢化社会にかかわる古典として必読の書である。社会の高齢化にともなう経済、社会、政治の変貌を描いて本書の右に出るものはまだない。


11. 『傍観者の時代』 1979年(2008年新訳)
1979年(2008年新訳)

第1次世界大戦、大恐慌、第2次世界大戦と続いた20世紀前半でのドラッカーの出会いと時代への洞察の書。ドラッカーはどのようにつくられたか。ドラッカー・フアン必読の書である。


12. 『乱気流時代の経営』 1980年


「乱気流の時代にあっては、マネジメントにとって最大の責任は自らの組織の生存を確実にすることである。組織の構造を健全かつ堅固にし、打撃に耐えられるようにすることである。急激な変化に適応し機会を捉えることである」の一文に始まる本書は、25年前の初版刊行時にもう少し丁寧に読んでいれば、バブルに踊らされその後遺症に悩むこともなかったであろうと思わせるものである。


13. 『変貌する経営者の世界』 1982年


高度の専門知識をもつ大勢の人たちが共に働くとき組織が生まれる。こうして先進社会はいつの間にか組織社会になった。文明の進歩も一人ひとりの人間の幸せも、組織をいかにマネジメントするかにかかっている。『ウォールストリート・ジャーナル』掲載の論文を中心にまとめられた本書は、第一線のビジネスマン向けの教科書である。


14. 『イノベーションと企業家精神−その原理と方法』 1985年(2007年新訳)


イノベーションと企業家精神が天才のひらめきや天賦の才ではなく、誰でも学び実行することのできるものであることを明らかにした世界最初の方法論である。増刷の続く名著。


15. 『マネジメント・フロンティア−明日の行動指針』 1986年


明日の世界は、政治家、官僚、学者ではなく、組織に働く普通の人たちによって開拓されると説く本書は、『ウォールストリート・ジャーナル』『フォリン・アフェアーズ』『フォーブズ』『ハーバード・ビジネス・レビュー』収載の37本の論文よりなる。「変化が機会である」が本書のテーマである。本書冒頭の「変貌した世界経済」(フォリン・アフェアーズ初出)はその年世界中でもっとも読まれた経済論文となった。


16. 『新しい現実−政府と政治、経済とビジネス、社会および世界観にいま何がおこっているか』 1989年


歴史には、ひとたび越えてしまえば、経済的、社会的、政治的な景色が一変するという境界がある。1965年から73年の間のどこかで世界がそのような境界を越え、新しい次の世紀に入ったことを宣言した名著である。ソ連邦の崩壊、東西冷戦の終結、テロリズムの危険を予告したことでも有名。


17. 『非営利組織の経営−原理と実践』 1991年(2007年新訳)


NPOの役割の増大を予告し、そのマネジメントのあり方を明らかにした本書は、今日なおNPO関係者のバイブル、座右の書である。NPO発展の鍵を「ここでは自分が何をしているかがわかる。私は貢献している。コミュニティの一員になっている」とのボランティアの声にみている。


18. 『未来企業−生き残る企業の条件』 1992年


何があろうと企業の活動は続けられる。本書は、その企業のあげるべき成果に焦点を合わせている。いずれも『ウォールストリート・ジャーナル』『エコノミスト』『ハーバード・ビジネス・レビュー』『ニューヨーク・タイムズ』など世界一流の紙誌に収載の論文である。1992年、経団連が中国の有力大学付属の日本研究所に日本語文献をまとめて贈呈すべく、会員の経済人にサイン入り本の寄贈を依頼したところ、もっとも多く寄せられたものが本書だった。


19. 『すでに起った未来−変化を読む眼』 1992年


「利益の幻想」「シュンペーターとケインズ」「企業倫理とは何か」「日本画に見る日本」「もう一人のキルケゴール」など40年を越える執筆活動からドラッカー自身が選んだ珠玉の論文集。本書においてドラッカーは、自らをゲーテ『ファウスト』の望楼守に擬し、社会生態学者「見るために生まれ、物見の役を仰せつけられ」(橋義孝訳)し者と規定している。


20. 『ポスト資本主義社会−21世紀の組織と人間はどう変わるか』 1993年(2007年新訳)


歴史は数百年に一度際立った転換をする。境界を越える。そのとき社会は数十年をかけて次の新しい時代の用意をする。世界観を変え、価値観を変える。社会構造、政治構造、技能、芸術、機関を変える。やがて50年後にはまったく新しい世界が生まれる。2020年、30年まで続く今回の転換期を描いた必読の書。


21. 『未来への決断−大転換期のサバイバルマニュアル』 1995年


『ウォールストリート・ジャーナル』『ハーバード・ビジネス・レビュー』『フォリン・アフェアーズ』収載の論文26本からなる本書は、マネジメントの指針であり道具である。考えるヒントとなり、行動のきっかけとなるものである。本書収載の「事業の定義」は、順風満帆の企業がなぜ突然挫折するかを明らかにしている。


22. 『明日を支配するもの−21世紀のマネジメント革命』 1999年


世界17カ国で発行され直ちにベストセラーとなった話題の著。ビジネスの前提が変わり、現実が変わったことを知らせている。最終章では、いかに生きるべきか、いかに第二の人生を用意すべきかを語っている。


23. 『[はじめて読むドラッカー・自己実現編]プロフェッショナルの条件−いかに成果をあげ、成長するか』 2000年(上田編)


いまや組織に働く者全員がトップマネジメントである。そのように働かなければ、組織の繁栄も、世の中への貢献も、働く者一人ひとりの自己実現もありえない。膨大なドラッカーの世界のエッセンスを網羅した三部作の第一作であって、今も広く読まれる日本発の超ロングセラーである。10カ国語で発行。


24. 『[はじめて読むドラッカー・マネジメント編]チェンジ・リーダーの条件−みずから変化をつくりだせ』 2000年(上田編)


あらゆる財サービスが大勢の知識労働者の手によって生み出される組織の時代にあっては、マネジメントの成否が人の幸せ、社会の安全と繁栄、文明の進歩を左右する。本書は、変化の時代におけるマネジメントの真髄を明らかにする。


25. 『[はじめて読むドラッカー・社会編]イノベーターの条件−社会の絆をいかに創造するか』 2000年


新しい時代が到来しつつある。そこにおける社会、政治、経済、知識、教育はいかなるものとなるか。激動の転換期における思考と行動の原理を説く。(上田編)


26. 『ネクスト・ソサエティ−歴史が見たことのない未来がはじまる』 2002年


第いよいよ社会が経済を変える時代がきた。そのネクスト・ソサエティ(次の社会)とはいかなる社会か、それはいかに経済と経営を変えるかを示す。 


27. 『[ドラッカー名言集]仕事の哲学―最高の成果をあげる』 2003年(上田編)


一人ひとりの人間の貢献と自己実現を中心に、成長、成果能力、貢献、強み、進路、知識労働、起業家精神、チームワーク、コミュニケーション、リーダ―シップ、意思決定、優先順位、時間管理、第二の人生の各項に分けて、二〇〇の名言を精選。


28. 『[ドラッカー名言集]経営の哲学―いま何をなすべきか』 2003年(上田編)


マネジメントの役割、事業の定義、戦略計画、コア・コンピタンス、顧客、マーケティング、イノベーション、生産性、利益、コスト、意思決定、目標管理、人のマネジメント、組織構造、社会的責任をめぐるドラッカー名言二〇〇を精選。


29. 『[ドラッカー名言集]変革の哲学―変化を日常とする』 2003年(上田編)


変革の時代、未来、起業家精神、チェンジ・エージェント、イノベーションの原理とリスクと機会、予期せぬ成功と失敗、ギャップと構造変化、発明発見とアイデア、ベンチャー、成長、多角化、公的機関の起業家精神をめぐるドラッカー名言二〇〇。


30. 『[ドラッカー名言集]歴史の哲学―そこから未来を見る』 2003年(上田編)


大転換期、知識革命、知識社会、組織社会、マネジメント、NPO、経済至上主義、政治の変容、国家の巨大化、政府の再建、経済政策、経済開発、少子高齢化、社会生態学等、社会、政治、経済をめぐるドラッカー名言二〇〇を精選。


31. 『実践する経営者―成果をあげる知恵と行動』 2004年(上田編)


世界一の経済紙『ウォールストリート・ジャーナル』に三〇年にわたって執筆してきた社会時評のうち、具体的な経営の知恵を説いた二八本を精選、ベンチャー専門誌『インク・マガジン』収載のインタビュー二本を加え、事業家必読の書として編集。


32. 『[はじめて読むドラッカー・技術編]テクノロジストの条件−ものづくりが文明をつくる』 2005年(上田編)


かってアメリカ技術史学会会長をつとめたドラッカーのMOT論(技術マネジメント論)の集大成である。はじめて読むドラッカー・シリーズ第四作として編集された。技術、技能、科学、道具、仕事、文明、知識、マネジメント、イノベーション、研究開発を論じて21世紀の世界観を提示する。


33. 『ドラッカー−20世紀を生きて』 2005年


 同年2月日本経済新聞連載の「私の履歴書」をまとめた世界で唯一の半生記。


34. 『ドラッカー 365の金言』 2005年


65年にわたる執筆活動から366のテーマを選び、これにアクション・ポイントを加えて行動のための座右の書とした。


35. 『P.F.ドラッカー経営論』 2006年


『ハーバード・ビジネス・レビュー』へ54年間にわたって寄稿した全34本の論文を収録。ドラッカーの業績を知るうえで最適である。


36. 『プロフェッショナルの原点』 2008年


つまるところ社会、組織、個人のいずれにとっても、重要なことは仕事で成果をあげることである。どうすれば一流になれるか。仕事の本質を洞察し、成果をあげるために必要な姿勢と行動を示す不朽の箴言集。ドラッカーの遺著。


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