講演 「ドラッカー経営思想の真髄−この転換期をいかに生きるか」
(社) 埼玉県経営者協会 平成13年度定時総会 特別講演要旨

プロフェッショナルの条件(いかにして仕事でプロになるか)


 大事なことは、今は一人ひとりが社長のように動かなければならない時代だということです。だからこそ、それぞれが自らの強みを知って、その強みの上にモノを考えていかなければいけないと言います。誰それには何ができないということは一切考えないで、誰それには何ができるということを考えなければならない。
 リンカーンは、グラントが酒飲みだということで、「司令官にしていいんですか」と幕僚から言われた時、彼の好きな銘柄を聞いて、その酒を他の将軍にも贈ってやれと答えたそうです。酒飲みであるという弱みよりも、戦争上手であるという強みのほうが大事だということです。
 組織というものは、不得手なことに意味がないようにし、得手のことをフルにやらせるところです。一人でやっている会計事務所だと、人と会うのがいやだといっていたら商売にならない。しかし、会社なら人に会わないところで、会計だけをやってもらうことができる。組織は強みを中心に考えなければなりません。
 従って、この得手不得手を早く知らなければなりません。一人ひとりが早く見つける。見つけ方は簡単です。何かやろうとしたらそれをメモして、半年後、一年後、どれだけ出来ているかを成果で見ていけば、どんなことが自分の得手かハッキリ分かる。ある人は、ある種のものは簡単にやってしまうが、ある種のものはいくら頑張ってもできない。
 ドラッカーの言うことはこうです。なぜかが分からないことはいくつもある。しかし、それが分かるまで待ってはいられない。真理はなかなか掴めないが、原則や方法論は分かる。その分かっていること、経験の集積、分かっている方法論を使っていけということです。
 起業家としてはどうしたらよいのか。それは小さくシンプルに―。ただし、世界一を目指して事業を始める。そういう種類のことはワンサとあります。イノベーションの方法は、まず捨てることです。捨てないと、新しい事業には進んでいけない。とかく優秀な人間ほど問題が引きつけてしまい、明日を開拓してもらうことができない。ドラッカーは、こういう種類の方法論を教えてくれます。
 時間管理の方法論があります。経営者にとって一番大事なのは時間です。どのようにして有効に使ったらいいか。いたって簡単です。まず、リアルタイムで記録を取る。次に無用なものを全部切り捨てる。その上で大きな時間のまとまりにする。まとまった時間がなければ何もできません。記録して、捨てて、まとめる。それだけです。  同族会社はどう経営するか。これにも方法論がある。外部の人間を必ず一人はトップマネジメントに入れる。後継者についていざござが起こった時のための調整人をあらかじめ外に持っておく。それから余りにも仕事のできないものは、社長の直系であっても会社には来させないようにする。
 このように、ドラッカーは原則と方法を与えてくれる。しかも、みなが知っていることを当たり前の形で示してくれる。
 例えば、経営者の資質―。社交的か内向的は関係ない。考えるタイプか、動くタイプかも関係ない。共通しているのはただ一点だそうです。英語でインテグリティ(integrity)と言います。真摯さ、です。品性と訳すとちょっと違います。真面目さ、もっと別の言い方をすると、言行一致です。部下は他のことは全部許すが、このことは許さないと言う、それが真摯さの欠如だそうです。
 人間が幸せになるには社会が機能し、その社会が機能するためには、組織がうまくマネジメントされなければならない。そのようにして世の中は進み、世の中がより良くなる。それを決めるのは、政治家でも官僚でもない。一人ひとりのビジネスマンであり、企業家だということで、彼は起業家精神の方法論まで書いて、みなさんに期待しています。ご清聴、ありがとうございました。



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