- 前口上[2009-02-12]
- このレポートは、ものつくり大学建設技能工芸学科における2008年度開講「建設コミュニケーション4(レポート)」履修生のひとりである、横尾勇人くんから提出されたレポートを、担当教員である土居がhtmlに変換し若干の修正を施したものです。インターンシップの経験を伝えてくれ、なおかつレポートのお手本としても適切だと土居が判断し、土居研究室のサイトで紹介しています。
インターンシップとは、企業の中に入って、大学では教えられなかったことを学んでいくという授業の一環である。そして頑張り次第では、大学卒業後に就職を認めてもらうこともできる。たしかにインターンシップ先では、大学で学べなかった社会のアレコレを身につけることができる。しかし考えてほしい。自分を取り巻く環境、すなわちインターン先で一緒に働く周りの人達が、自分をどう評価しているのかということを。あくまでも自分は、企業に押し掛けて厄介になっているのだ、ということを忘れてはいけない。周りの人たちに色々と教わって知識や考えを深めていくことと同時に、自分がこの企業に必要とされるように努めなければならない。
僕は木工業に関心がある。昔話になるがことの始まりは公立高校の見学会でのときだ。そこで美術部員が、幼稚園に寄贈するための木彫の大きなクワガタを作っていた(この出会いがなければ、僕は私立高校の科学部にでも行っていたことであろう)。公立高校の美術部に入って最初に作ったのが木槌である。そのあとはこの手作りの木槌を使って椅子や木彫を手掛けていった。制作を続けていて次第に木工への関心が深まり、将来は木工業に就きたいと考え、僕はものつくり大学に入学した。
今回僕はインターンシップ先として、精密さが必要な木造建築の現場を選び、神奈川県茅ケ崎市にある「K工務店」(仮称)へ行くことになった。本章ではこの現場で任された仕事と、学んだこと、そして自分は役に立つことができたのかを紹介していこうと思う。
インターンシップ初日、初めて企業の中で働くことに、誰でも不安を感じるであろう。この章では、僕のインターンシップ初日を例にとって説明をしていく。
午前8時、指定された時間に出社。最初に言われたのが事務所の掃除だ。朝礼が始まるまでホウキ片手に床の砂埃を掃いていく。朝礼が終わってからトラックに乗り込み、今日の現場へ行く。
今日の現場は仕上げの段階であり、他の現場からの作業員たちが手伝いに来ていた。今回の内容は、外のウッドデッキと縁側の仕上げのみだ。その時の僕の仕事は、部材の運搬と廃材の回収だった。
材木を運び終えたので、指導担当者に次は何をすればいいのかを聞くと、その場で待機していてくれと言われ、しばらくの間周りの作業を見ていた。数分待つと指導担当者からホウキとチリトリを渡され、建物内の掃除を任された。居間では社長と社員の会議が続いている。その会議が終わるまで、僕は一人ホウキで掃き続けた。
会議が終わり、現場の戸締りをして解散となった。その際に指導担当者から、持ってきたノミを見せろと言われたので渡すと、すかさず研ぎ直せと指示された。原因はノミの刃先数ミリしか研がれてないからだ。これを見た指導担当者からは、正しいノミ研ぎを教わった。それは次の通りだ。
アドバイスを受け、指導担当者から荒砥を貸してもらい、今日の実習は終了となった。しばらくの間は現場での研修と並行して、ノミ研ぎを練習することになった。
これが僕のインターンシップ初日での出来事だ。最初の頃は環境の変化に戸惑い、周りの人達に何をするべきか聞くことができても、自分から行動を起こすことは難しいであろう。指導担当者からそこで待機してくれと言われ、何もできずに時間だけが過ぎていくと、はたして自分はこの現場で必要な人材なのだろか、と不安になることであろう。しかしこれは当然のことだ。自分がどんな役目であり、どういう仕事内容なのかがまだ分からないから不安になる。日が経てば自ずとやることが見えてきて、自分から行動を起こせるようになれる。無闇に焦る必要などないのだ。
これはどの現場でもいえることであろうが、初心者にいきなり高度な内容を要求するのは無理な話である。まずは誰でも簡単にできることから始まり、段々と難易度を上げていくのだ。
今回、僕は現場で雑用係として働くことになった。その仕事内容を紹介する。
インターンシップを続けていくうちに気になってくることがある。期間中盤以降から、僕は壁材の釘打ちや金物の取り付けを任せてもらえるようになった。けれども主な仕事内容といえば、現場の掃除や材料を運ぶ雑用係がほとんどである。このことに関して、自分は会社の中で一番立場が下であるから、誰にだってできる雑用をされるのだ、と感じていた。しかし棟上げの現場で、雑用係の必要性を知ることができた。以下は、棟上げ現場の昼休みに、指導担当者から聴いた話である。
棟上げの現場とは、大勢の作業員がやってきて、柱や梁や屋根までも一日で組み立てなければいけない。そのため、部材を包む梱包を剥がしたり片付けたりする時間すら、惜しい。しかし、剥がした梱包をそのまま放置していると、次第に床に積み重なり、足もとがおぼつかなくなってしまい、とても危険である。そこで、代わりに梱包を剥がしたり、回収したりしてくれる人員がいると、とても助かる。その役割が、雑用係だ。
これは普段の現場でも言えることだ。現場は通常二人一組しか作業員がいない。そのため、作業をしながら片付けをすることは、余計な時間を消費してしまうことになる。だから、片付けをやってくれる第三者が必要となるのだ。
インターンシップ初期の頃は企業側も安全性を考慮し、技術性のない雑用係を任されることであろう。技術を学びに来たのにそれに触れさえしてもらえずに現場の掃除ばかりとなると不安な気持ちになり、本当に自分は使ってもらえるのだろうと感じてしまうであろう。しかし現場というのは何も技術面だけが求められるわけではない。第3章で述べたとおり、作業する時間が惜しい人達にとって、現場の掃除や材木の運搬といった面倒な作業を代わりにやってくれる人がいるととても助かるのだ。たとえ雑用係でも総合して見ると凄く重要な役割なのである。
雑用を頑張って続けていけば、今度は技術的な仕事を任せてもらえることができる。ただし、そのことを当たり前のように思ってはいけない。言われたとおりの仕事をすることも大事だが、自分から手伝えることがないか、何をすればいいのかと切り出すことができるようになれば企業の役にも立てるし、さらには自分を成長させることだって出来るのだ。