新しい家づくりネットワークプロジェクト 第4回コンペ
テーマ <新しい伝統構法の家 2013> 講評/小野 泰
1位: 「伊賀の家」~伝統技術を用いた中庭のある家~
石井 智子 株式会社美建設計事務所
短冊形の敷地に住まいを計画する際、中庭を取り込むアイデアは常套手段であり、一見特にこれと言った新奇性のない地味なプランである。しかし、よく目を凝らしてみると、無理のない良く練られたプランであることが解る。予条件を活かした奇を衒わない、在来木造の良さを現代に伝える住宅として評価された。審査基準に対しても満遍なく配慮されているため平均点が高く、その地道で堅実な仕事に多くの票が集まった。この住まいのもつ空間の豊かさは、「中庭」を挟む吹き抜けのある「居間・食堂」と「主賓室」との程良い関係と適切なスケール感から生まれていると思われる。
2位:14/10勾配屋根の家
金田 正夫 有限会社無垢里一級建築士事務所
都会を離れた自然豊かな蓼科に建つ週末住居。セカンドハウスの持つ非日常の空間を創造するにあたり、主に屋根に伝統的民家から知恵を得て現代に生かしている点が評価された。伝統屋根の構造形式の一つである叉首構造を応用し、更にその勾配を夏冬の日射から割り出した14寸勾配を採用することで風景を取り込むための大開口を獲得している。更に、OMソーラーによる床下コンクリート蓄熱を併用して省エネ効率を上げている。
できるだけ電気・ガスに頼らない住環境をつくるための研究、実測データづくりを今後も先人の知恵から学び、現代に生かし将来に繋げて欲しいと願う。
3位:大きな栗の木の下で-豊かな自然環境と自然体で生きる家族のための住宅-
浦 篤志 株式会社じょんのび一級建築士事務所
人が生活していく上で必要な「衣・食・住」のなかで、我が国は「住(建築)」への関心が低いといわれる。「住宅は買う物であって、つくるものではない」という風潮さえあるなか、本住宅はタイトルから受けるほのぼのとした印象の通り、家族参加型の家づくりを実践している。「三つ子の魂百まで」、子供時代の建築体験が大切であり、「人は家をつくり、家は人を育てる」という。みんなで楽しくつくり上げた手の痕跡、想い出が残る住まいづくりが次世代に伝える意味は大きい。もう少し内外の繋がりを意識した外構・植栽計画を望む。
新しい家づくりネットワークプロジェクト 第4回高校生コンペ
テーマ <近隣の森の木を使用した家 -高耐久・高耐震の家-> 講評/小野 泰
1位:4つのコアの家
兼森 洸樹/静岡県立科学技術高等学校
すまいの耐震性、耐久性及び維持管理のし易さを、単純明快なプランでみごとに表現している作品である。4つのコアに丸太組構法による耐震性とパーソナルスペース等としての機能を与え、家族構成の変化にも対応可能としている。構造材である丸太は現しであるが故に維持管理がし易い。また、軒の出が大きい大屋根で覆うことで、構造材を雨水等から守り、屋根の形状も片流れとしたことで雨仕舞もよく、住戸内の通風も明快である。平家としたことも建物の荷重が軽くなるので耐震性において有利に働く。Simple is best!
2位:一間の美しさ~機能・くつろぎをもとめ~
出口 由也/熊本県立球磨工業高等学校
耐震性は軸組+耐震パネル工法、耐久性及び維持管理のし易さは柱・横架材を現しとした真壁構法、軒先・庇を大きく出し雨水から構造躯体を守り、夏場、冬場の日射をコントロールし、耐震パネルを移動することで家族構成の変化にも対応可能としたスケルトン・インフィルを基本とした提案である。当該提案を活かすためには、耐力パネルを移動する条件として、軸組フレームの各接合部を半剛節としたラーメン架構として剛性を与えること、壁の偏心を考慮して耐震パネルを配置することが不可欠である。
3位:木造住宅を未来につなげる◆過去の技術、そして現代の技術の集合体◆
衛藤 雅矢・小野 洵弥・鳥井田 瑠音/大分県立大分工業高等学校
ツリー(吊り)ハウスである。建物の鉛直荷重を1本の心柱とワイヤーで支え、地震や風等の水平荷重を心柱が揺れることで逃がす制振工法、森林保護を目指した部材の調達法、建物上下のボードによる雨水対策や通風を良くすることでの耐久性の確保など、様々な提案が盛り込まれている作品である。実現化するためには、心柱の素材・剛性、心柱と基礎(地盤面)の接合方法、ケーブルの耐久性、床束と束石との滑り、設備機器配管のフレキシブル性など、解決すべき課題は多いが、セルフビルドも可能な作品である。
佳作:SUN PILLER~ドーナツ型ウッドパネル工法による高耐久・高耐震住宅~
近藤 綾花・高坂 昌樹・本間 結/北海道札幌工業高等学校
遠い宇宙から円盤形のUFOが飛来して来たような未来的なデザインである。間伐材を利用したドーナツ状のウッドパネルの積層による大きな空間や光の柱(サンピラー)によるファンタジックな演出からすれば、住居よりもイベントホールような建築物に適している。
佳作:「衣替え」する多層レイヤーの家-東京都スギ花粉発生源対策「主伐事業」促進のための、高耐久・高耐震・サスティナブルな計画
関 建人・浅井 颯太・黒田 隆志・林 至仁・佐藤 陽介・岩下 浩章/東京都立科学技術高等学校
耐震性、耐久性、維持管理は元より、居住性やサスティナブル性についても、現在使われている技術を元に良くまとめた提案であるが、一部の写真を企業のweb上のコンテンツをそのまま引用しており、コンペとしてのオリジナル性に欠き、非常に残念である。
佳作:温故知新~自然とともにいきる家~
内記 大志・松嶌 優大・山田 泰弘/富山県立高岡工芸高等学校
「枠の内」や「板倉構法」など伝統的な構造手法を取り入れ、構造材を現しとして維持管理のし易さを確保し、方位別に落葉樹、常緑樹を植えた「屋敷林」により風雨から建物を保護することや、炭、漆喰を用いての調湿など、自然素材を活かした提案である。
佳作:心の柱
和田 誠悠/静岡県立科学技術高等学校
「五重塔を住まいとして捉えたらどうなるか?」の提案である。木造の高層化、心柱による制振構法は、木造では研究段階であるが、出雲大社を支えていた集成柱や昨年12月にJASに制定されたCLT(直交集成板)を応用すれば、この作品も現実味が出てきそうだ。