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ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム主催第4回コンペについて

■第4回コンペの内容
 「ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム設計競技」は、2013年度で4回目の開催となります。本設計競技は、社会人を対象とする一般の部では「新しい伝統構法の家」、高校生を対象とする高校生の部では「近隣の森の木を使用した家」とそれぞれにテーマを掲げています。また、高校生の部では、毎回、テーマにサブタイトルを付けており、今回は「高耐久・高耐震の家」としました。
一般の部は、これまでに手がけてきた実施作品においてテーマに即した住宅を募集の対象とし、高校生の部では、サブタイトルである「高耐久・高耐震」に取り組んだ住宅を提案してもらいました。 
 各部門とも入賞作品には、表彰状と副賞が授与されます。副賞は、一般の部第1位15万円、第2位10万円、第3位5万円で、高校生の部では、第1位7万円、第2位5万円、第3位3万円、佳作(7作品)各1万円となっています。また、今回より高校生の部には団体賞として、協賛の総合資格学院により総合資格賞が設けられ、表彰状、表彰楯と1万円分の図書券が贈呈されます。作品の応募期間は、2013年12月1日(日)~2014年2月8日(土)とし、審査員は、赤松明、伊藤大輔、大島博明、大塚秀三、小野泰、佐々木昌孝、白井裕泰、田尻要、林英昭、深井和宏、藤原成暁、三原斉、八代克彦(五十音順)が担当しました。

■第4回コンペの審査総評
総評 一般の部 「新しい伝統構法の家2013」
 今回の登録数は14点、そのうち応募作品数は10点で、前年度より3点減少したものの、内容のある質の高い作品が寄せられました。
審査基準は、主要な構造を伝統的な木造軸組構法とし、かつ専用住宅に関する新しい提案を前提とした上で、下記の5点を重視しました。
①文化としての家づくりを目指しているか
②近隣の森の木の利用を前提としているか
③伝統的な木造技術及びその関連技術を活かした家となっているか
④現代生活に調和したデザインとなっているか
⑤屋内環境に配慮した工夫が見られるか
第1次審査は2月12日(水)に行いました。各審査員の持ち点を1作品1点として、5作品を選定してもらい、合計点の高い5作品が13日(木)の第2次審査に進みました。第2次審査では、各審査員の持ち点を1位3点、2位2点、3位1点とし、投票・集計後さらに全審査委員による協議が行われ、第1位から第3位までの3作品を決定しました。今回の審査では、第1位と第2位は総合点と審査委員の総意により決定したものの、第3位はB-006とB-008両作品の総得点が僅差であり、共にそれぞれ4人の審査員が推しており、全審査委員による慎重審議の結果、家族が参加する家づくりを実践したB-006の作品が選出されました。
第1位の「伊賀の家」~伝統技術を用いた中庭のある家~(石井智子/株式会社美建設計事務所)は、中庭を取り込むという一般的なアイデアではあるものの、審査基準を無理のないプランで配慮した住宅として、多くの票を集めました。
第2位の「14/10勾配屋根の家」(金田正夫/有限会社無垢里一級建築士事務所)は、叉首(さす)屋根の勾配を四季の日射角度を考慮した14寸勾配として風景を取り込む工夫や省エネ対策が評価されました。
第3位の「大きな栗の木の下で-豊かな自然環境と自然体で生きる家族のための住宅-」(浦篤志/株式会社じょんのび一級建築士事務所)は、タイトル通りの家族参加型の家づくりを実践し、子供時代の建築体験が次世代に受け継がれるという未来に向けられた点が評価されました。
「自然に帰る家」と「岡崎の家」の2作品は、今回は惜しくも選外となりましたが、本設計競技の意図を表現した作品であることは、全審査委員が認めるところです。
以上、審査経緯と入賞作品の総評を述べて参りましたが、改めてご応募頂きました皆様に感謝申し上げます。当フォーラムは、地域の自治体の皆様も交え、さらに積極的に、「新しい家づくりネットワーク」の構築を推進して行きたいと思います。今後ともご賛同頂き、ご協力を賜れば幸いです。

総評 高校生の部「近隣の森の木を使用した家 - 高耐久・高耐震の家 -」
 今回は12校24点の応募があり、前年度より11校61点減少しました。減少の要因としてサブタイトルである「高耐久・高耐震」をどのような手法で作品に取り入れるかが、高校生にとっては非常に難しいことだったと思います。一般に、設計競技で耐震性や耐久性を謳うことは稀であり、当フォーラム内においても難しいという意見がありましたが、あえてそれを課題とし、高校生の取り組みに期待して、今回の設計競技の審査に臨みました。
 審査基準は、近隣の森林から得た木材を活用すること、延べ面積120㎡程度であること、作品に相応しいタイトルであることの3点を前提として、下記のメインテーマを重視しました。
①住まいの耐久性に関する提案
②住まいの耐震性に関する提案
③住まいの維持管理の方法・し易さに関する提案
第1次審査及び第2次審査は一般の部と同日に行いました。第1次審査では、各審査員の持ち点を1作品1点として、10作品を選定してもらい、合計点の高い13作品が第2次審査に進みました。第2次審査では、各審査員の持ち点を1位5点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点とし、投票・集計後さらに全審査委員による協議が行われ、第1位から第3位までの3作品と佳作7作品を決定しました。選定した10作品は、いずれもメインテーマについて、伝統的な構法を応用したもの、現代の技術を取り入れたものや新しい技術を提案したものなど、高校生らしい作品であり、期待以上の充実した設計競技となりました。
第1位の「4つのコアの家」(兼森洸樹/静岡県立科学技術高等学校)は、丸太組構法により構造材を現しとし、軒の出の大きい屋根で雨水から母屋を守るなど、単純明快なプランでメインテーマを良く表現した作品であり、多くの票を獲得しました。
第2位の「一間の美しさ~機能・くつろぎをもとめ~」(出口由也/熊本県立球磨工業高等学校)は、軸組フレームによる構造架構に移動式の耐震パネル工法を組み合わせた現代的な工法による住宅であり、真壁や軒先・庇による耐久性の確保や維持管理がし易い作品で、獲得票は1位に僅差でした。
第3位の「木造住宅を未来につなげる◆過去の技術、そして現代の技術の集合体◆」(衛藤雅矢、小野洵弥、鳥井田瑠音/大分県立大分工業高等学校)は、 1本の心柱とワイヤーで建物を支え、地震や風等の水平荷重を心柱の揺れで逃がすという制振工法をツリー(吊り)ハウスで表現した作品で、新しい工法を提案した点が評価されました。
佳作では「奥多摩の自然と暮らす家」と「衣替えする多層レイヤーの家」が上位3位を決定する際に協議の対象となり、入賞は逃したものの現在使われている工法を取り入れた作品として評価されました。その他、伝統的な構法を取り入れた作品として「温故知新~自然とともにいきる家~」、「心の柱」、「宝物を守る倉」や「柔宅」、新しい材料・構法の提案として「SUN PILLER~ドーナツ型ウッドパネル工法による高耐久・高耐震住宅~」など、いずれの作品も、審査員の興味をそそり、楽しく審査に臨むことが出来ました。
また、団体賞である総合資格賞は、6作品数の応募をいただいた静岡県立科学技術高等学校に授与されました。
以上、審査経緯と入賞作品の総評を述べて参りましたが、現代の家づくりは、持続型社会の構築にむけて、環境にやさしく、そして世代を超えて住み続けられるサスティナブルデザインの住まいが基本となっています。一つの住宅に住み続けるためには、住まいに十分な耐久性能や耐震・耐風性能を与えると共に、住まいの維持管理が重要なポイントになります。
最後に、当設計競技に募集された意欲溢れる高校生諸君は、今後とも努力を重ね、建築設計の道を目指して頂きたいと思います。また、ご指導にあたり、多くの貴重な時間を作ってくださった教員の皆様には、たいへん感謝しております。今後とも当フォーラムの主旨を理解して頂き、主催する「ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム設計競技」にさらなるご協力をお願い申し上げます。

2014年3月31日
ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム
コンペ審査委員長 
小野 泰(ものつくり大学 建設学科 教授)

新しい家づくりネットワークプロジェクト 第4回コンペ
テーマ <新しい伝統構法の家 2013>  講評/小野 泰

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1位: 「伊賀の家」~伝統技術を用いた中庭のある家~
石井 智子 株式会社美建設計事務所

 短冊形の敷地に住まいを計画する際、中庭を取り込むアイデアは常套手段であり、一見特にこれと言った新奇性のない地味なプランである。しかし、よく目を凝らしてみると、無理のない良く練られたプランであることが解る。予条件を活かした奇を衒わない、在来木造の良さを現代に伝える住宅として評価された。審査基準に対しても満遍なく配慮されているため平均点が高く、その地道で堅実な仕事に多くの票が集まった。この住まいのもつ空間の豊かさは、「中庭」を挟む吹き抜けのある「居間・食堂」と「主賓室」との程良い関係と適切なスケール感から生まれていると思われる。

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2位:14/10勾配屋根の家
金田 正夫 有限会社無垢里一級建築士事務所

都会を離れた自然豊かな蓼科に建つ週末住居。セカンドハウスの持つ非日常の空間を創造するにあたり、主に屋根に伝統的民家から知恵を得て現代に生かしている点が評価された。伝統屋根の構造形式の一つである叉首構造を応用し、更にその勾配を夏冬の日射から割り出した14寸勾配を採用することで風景を取り込むための大開口を獲得している。更に、OMソーラーによる床下コンクリート蓄熱を併用して省エネ効率を上げている。
できるだけ電気・ガスに頼らない住環境をつくるための研究、実測データづくりを今後も先人の知恵から学び、現代に生かし将来に繋げて欲しいと願う。

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3位:大きな栗の木の下で-豊かな自然環境と自然体で生きる家族のための住宅-
浦 篤志 株式会社じょんのび一級建築士事務所

 人が生活していく上で必要な「衣・食・住」のなかで、我が国は「住(建築)」への関心が低いといわれる。「住宅は買う物であって、つくるものではない」という風潮さえあるなか、本住宅はタイトルから受けるほのぼのとした印象の通り、家族参加型の家づくりを実践している。「三つ子の魂百まで」、子供時代の建築体験が大切であり、「人は家をつくり、家は人を育てる」という。みんなで楽しくつくり上げた手の痕跡、想い出が残る住まいづくりが次世代に伝える意味は大きい。もう少し内外の繋がりを意識した外構・植栽計画を望む。

新しい家づくりネットワークプロジェクト 第4回高校生コンペ
テーマ <近隣の森の木を使用した家 -高耐久・高耐震の家->  講評/小野 泰

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1位:4つのコアの家
兼森 洸樹/静岡県立科学技術高等学校

 すまいの耐震性、耐久性及び維持管理のし易さを、単純明快なプランでみごとに表現している作品である。4つのコアに丸太組構法による耐震性とパーソナルスペース等としての機能を与え、家族構成の変化にも対応可能としている。構造材である丸太は現しであるが故に維持管理がし易い。また、軒の出が大きい大屋根で覆うことで、構造材を雨水等から守り、屋根の形状も片流れとしたことで雨仕舞もよく、住戸内の通風も明快である。平家としたことも建物の荷重が軽くなるので耐震性において有利に働く。Simple is best!

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2位:一間の美しさ~機能・くつろぎをもとめ~
出口 由也/熊本県立球磨工業高等学校

耐震性は軸組+耐震パネル工法、耐久性及び維持管理のし易さは柱・横架材を現しとした真壁構法、軒先・庇を大きく出し雨水から構造躯体を守り、夏場、冬場の日射をコントロールし、耐震パネルを移動することで家族構成の変化にも対応可能としたスケルトン・インフィルを基本とした提案である。当該提案を活かすためには、耐力パネルを移動する条件として、軸組フレームの各接合部を半剛節としたラーメン架構として剛性を与えること、壁の偏心を考慮して耐震パネルを配置することが不可欠である。

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3位:木造住宅を未来につなげる◆過去の技術、そして現代の技術の集合体◆
衛藤 雅矢・小野 洵弥・鳥井田 瑠音/大分県立大分工業高等学校

ツリー(吊り)ハウスである。建物の鉛直荷重を1本の心柱とワイヤーで支え、地震や風等の水平荷重を心柱が揺れることで逃がす制振工法、森林保護を目指した部材の調達法、建物上下のボードによる雨水対策や通風を良くすることでの耐久性の確保など、様々な提案が盛り込まれている作品である。実現化するためには、心柱の素材・剛性、心柱と基礎(地盤面)の接合方法、ケーブルの耐久性、床束と束石との滑り、設備機器配管のフレキシブル性など、解決すべき課題は多いが、セルフビルドも可能な作品である。

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佳作:SUN PILLER~ドーナツ型ウッドパネル工法による高耐久・高耐震住宅~
近藤 綾花・高坂 昌樹・本間 結/北海道札幌工業高等学校

 遠い宇宙から円盤形のUFOが飛来して来たような未来的なデザインである。間伐材を利用したドーナツ状のウッドパネルの積層による大きな空間や光の柱(サンピラー)によるファンタジックな演出からすれば、住居よりもイベントホールような建築物に適している。

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佳作:「衣替え」する多層レイヤーの家-東京都スギ花粉発生源対策「主伐事業」促進のための、高耐久・高耐震・サスティナブルな計画
関 建人・浅井 颯太・黒田 隆志・林 至仁・佐藤 陽介・岩下 浩章/東京都立科学技術高等学校

 耐震性、耐久性、維持管理は元より、居住性やサスティナブル性についても、現在使われている技術を元に良くまとめた提案であるが、一部の写真を企業のweb上のコンテンツをそのまま引用しており、コンペとしてのオリジナル性に欠き、非常に残念である。

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佳作:奥多摩の自然と暮らす家
関 建人・浅井 颯太・黒田 隆志・林 至仁/東京都立科学技術高等学校

 最小限住宅のプランを基本に、下屋を設け水回り集約して、耐久性・維持管理に配慮した提案である。南面の大きなルーバーで四季の日差しをコントールする提案も面白いが、これも企業のweb上のコンテンツを引用していることが残念である。

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佳作:温故知新~自然とともにいきる家~
内記 大志・松嶌 優大・山田 泰弘/富山県立高岡工芸高等学校

 「枠の内」や「板倉構法」など伝統的な構造手法を取り入れ、構造材を現しとして維持管理のし易さを確保し、方位別に落葉樹、常緑樹を植えた「屋敷林」により風雨から建物を保護することや、炭、漆喰を用いての調湿など、自然素材を活かした提案である。

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佳作:心の柱
和田 誠悠/静岡県立科学技術高等学校

 「五重塔を住まいとして捉えたらどうなるか?」の提案である。木造の高層化、心柱による制振構法は、木造では研究段階であるが、出雲大社を支えていた集成柱や昨年12月にJASに制定されたCLT(直交集成板)を応用すれば、この作品も現実味が出てきそうだ。

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佳作:宝物( かぞく)を守る倉(いえ)
井出 愛樹/静岡県立富岳館高等学校

 「温故知新」と同様に、板倉構法や建物を囲む樹木など伝統的な考え方を取り入れた提案である。「温故知新」にも言えるが、上下階の壁(耐力壁線)の位置を一致させて、建物に作用する鉛直・水平荷重が素直に建物全体に行き渡る考え方は、構造計画の基本である。

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佳作:柔宅
松井 和也/静岡県立富岳館高等学校

 この作品も「差し鴨居」、「足固め」や「石場立て」など伝統的な構造手法を取り入れ、水回りを一箇所に集約したことで耐久性・維持管理に配慮しているが、そこから先の提案に乏しい。また、ダイニング・リビングに対する個室(四畳半)の広さは現代的ではない。