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ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム主催第5回コンペについて

■第5回コンペの内容

「ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム設計競技」は、2014年度で5回目の開催となります。各回ともに本設計競技は、社会人を対象とする一般の部では「新しい伝統構法の家」、高校生を対象とする高校生の部では「近隣の森の木を使用した家」とそれぞれのテーマを掲げています。また、高校生の部では、毎回、サブ・テーマを付けており、今回は「左官塗り仕上げの木造住宅」としました。
一般の部は、これまでに手がけてきた実施作品においてテーマに即した住宅の設計図を募集の対象とし、高校生の部では、サブ・テーマの「左官塗り仕上げの木造住宅」の設計図を提案してもらいました。
 各部門とも入賞作品には、表彰状と副賞が授与されます。副賞は、一般の部第1位15万円、第2位10万円、第3位5万円で、高校生の部では、第1位7万円、第2位5万円、第3位3万円、佳作(7作品)各1万円となっています。また、高校生の部には団体賞として、協賛の総合資格学院により総合資格賞が設けられ、表彰状、表彰楯と1万円分の図書券が贈呈されます。作品の応募期間は、2014年12月1日(月)~2015年2月7日(土)とし、審査員は、赤松明、伊藤大輔、大島博明、大塚秀三、小野泰、佐々木昌孝、白井裕泰、田尻要、林英昭、深井和宏、藤原成暁、三原斉、八代克彦(五十音順)が担当しました。

■第5回コンペの審査総評
総評 一般の部 「新しい伝統構法の家2014」

今回の登録数は19点、そのうち応募作品数は16点で、前年度より5点増え、内容のある質の高い作品が寄せられました。
審査基準は、主要な構造を伝統的な木造軸組構法とし、かつ専用住宅に関する新しい提案を前提とした上で、下記の5点を重視しました。
①文化としての家づくりを目指しているか
②近隣の森の木の利用を前提としているか
③伝統的な木造技術及びその関連技術を活かした家となっているか
④現代生活に調和したデザインとなっているか
⑤屋内環境に配慮した工夫が見られるか
第1次審査は2月10日(火)に行いました。各審査員の持ち点を1作品1点として、5作品を選定してもらい、合計点の高い6作品が12日(木)の第2次審査に進みました。第2次審査では、各審査員の持ち点を1位3点、2位2点、3位1点とし、投票・集計後さらに全審査委員による協議が行われ、第1位から第3位までの3作品を決定しました。
第1位の「西向きの家 House Facing West」(髙砂 正弘 髙砂建築事務所/和歌山大学大学院教授)は、前庭、路地、庭、坪庭、作業庭を挟んで片流れ屋根と深い軒、西向きに大きな開口を設けた細長い母屋と共有空間である小間を東西に配置した2世帯住宅です。静岡県の地場産材である天竜杉を使用しているところに特徴があり、多くの票を集めました。
第2位の「生駒の家」(安部 秀司/松田 修平 安部秀司建築設計事務所)は、各種の機能が詰め込まれた4つの箱のそれぞれに隙間を設けて配置し、中央の隙間を家中庭とし、そこに空のリビングというトップライトを設け、採光し、各居室に自然光を届けていることが評価されました。
第3位の「王禅寺の家 蔵の壁を持つ家」(金田 正夫 有限会社無垢里「ムクリ」)は、木造軸組構法に小舞壁(こまいかべ)や置き屋根構法を取り入れ、伝統的な木造建築の良さがしっかりと伝わってくる点が評価されました。
選外の作品は、今回は惜しくも入賞できませんでしたが、本設計競技の意図を表現した作品であることは、全審査委員が認めるところであり、次回の設計競技に出品していただきたいと考えております。
以上、審査経緯と入賞作品の総評を述べて参りましたが、改めてご応募頂きました皆様に感謝申し上げます。当フォーラムは、地域の自治体の皆様も交え、さらに積極的に、「新しい家づくりネットワーク」の構築を推進して行きたいと思います。今後ともご賛同頂き、ご協力を賜れば幸いです。

総評 高校生の部「近隣の森の木を使用した家 - 左官塗り仕上げの木造住宅 -」

今回は9校17点の応募があり、前年度より大幅に減少してしまいました。大幅な減少の要因としては、サブ・テーマである「左官塗り仕上げの木造住宅」における左官塗りの技術・技能をどのように作品に取り入れるかが、高校生にとっては非常に難しいことだったと思います。現代構法の木造住宅においても、やっとのことでセメントモルタル塗りを外壁に使用する程度であり、ましてや伝統構法の木造住宅における土壁やしっくい、三和土(たたき)、竹小舞、京壁、珪藻土、版築等の各材料や施工方法を知らない高校の先生方や高校生がいてもおかしくはありません。是非、この機会に多くの左官仕上げがあることを知っていただき、自然素材である左官の湿式工法を建築設計や施工に取り入れていただきたいと考えています。
 審査基準は、近隣の森林から得た木材を活用すること、延べ面積120㎡程度であること、作品に相応しいタイトルをつけることの3点を前提として、下記に示した2つの条件を重視しました。
①提案者が居住している地域の海、山、川、畑等にあるものや、ホ-ムセンター等で容易に購入できる左官材料となるものを、工夫して使用することを想定してください。
②左官仕様の適用範囲は、内外壁、屋根、床等で、これらの一部分でも可です。

第1次審査及び第2次審査は一般の部と同日に行いました。第1次審査では、各審査員の持ち点を1作品1点として、合計点の高い10作品が第2次審査に進みました。第2次審査では、各審査員の持ち点を1位3点、2位2点、3位1点とし、投票・集計後さらに全審査委員による協議が行われ、第1位から第3位までの3作品と佳作7作品を決定しました。選定した10作品は、いずれもメインテーマについて、伝統的な構法を応用したもの、現代の技術を取り入れたものや新しい技術を提案したもの、サブ・テーマである左官の技術や技能を活かした住宅になっていることなど、高校生らしい作品であり、期待以上の充実した設計競技となりました。
第1位の「地球環境にやさしく、人にやさしく、住み続けられる住処~現在によみがえる漆喰の町屋~(加藤 涼太/吉田 悠人 埼玉県立熊谷工業高等学校)」では、タイトルとサブ・タイトルに示されたことが、そのまま図面に表現されていることが読み取れました。例えば、土壁の材料とそのつくり方、しっくい仕上げ材料とつくり方、三和土の材料とつくり方、これらのどれをとっても、左官の伝統構法を十分に理解し満足しているものです。伝統構法と現代構法を上手く融和し、かつ表現していることが高く評価され、多くの票を集めました。
第2位の「土を感じる家(高桑 江理 静岡県立科学技術高等学校)」では、設計条件の「地域の土を使用」、「土壁にする」にすること以外に、「版築にする」、「屋根を緑化する」等の工夫を取り入れ、土をふんだんに使った住宅を表現しています。また、土壁の特徴や版築のつくり方など、左官構工法上重要なポイントがわかりやすく示されており、審査員から高い評価を得ました。さらに、図面のすべてが手書きであり、かつイラストで描かれており、見やすく大変興味深いものとなっています。
第3位の「土壁樹木の家(阿川 誠 東京工業大学付属科学技術高等学校)」の設定では、陶芸作家の家族を取り上げ、敷地は陶芸で有名な益子町としています。家族構成は、陶芸家の夫婦と2人の子供たちの4人家族です。1階には、陶芸を行うための工房と作品展示スペースを設けており、2階は家族の住まいとしています。ここでは、仕事を行い、家族が団らんするための空間を構成するために、木くずを入れた暖か味のある荒壁仕上げにしたところが好評でした。左官仕上げの良さが十分に表現されていることから、審査員から高い評価を得ました。
佳作では、多くの現代的および伝統的左官技術や技能を取り入れた住宅を提案してくれました。例えば、『土間廊下で繋ぐ家-新しい形容(かたち)のシェアハウス-(川原井 千晴 栃木県立宇都宮工業高等学校)』では、「三和土(たたき)の廊下」・「土佐しっくい」・「大津みがき」を図面表現し、『包忍の家(安生 天翠 東京工業大学付属科学技術高等学校)』では、「珪藻土」・「土塀」を使用、『次世代原始人の暮らし(高舘 由莉香 東京工業大学付属科学技術高等学校)』では、「しっくい塗り」を使用、『トンネルを潜る家(増野 紗樹 東京工業大学付属科学技術高等学校』では、「しっくい」・「藻からなる珪藻土」・「貝灰」を使用、『左官がつくる層の家(飯澤 舞 静岡県立科学技術高等学校)』では、「土間」を使用、『廻る(松井 和也/大竹 花奈 静岡県立富岳館高等学校)』では、「しっくい」を使用、『左官さんのつくるいえ -土壁の蓄熱・放熱効果を最大限に活用する-(中家 萌瑛/小野 洵弥 大分県立大分工業高等学校)』では、「土壁」等をそれぞれ取り入れ、かつこれらを上手く図面表現しており、左官の仕事および左官材料の調査や研究をしっかりと行っていることが良くわかりました。
団体賞では、6作品を出品してくれた、東京工業大学付属科学技術高等学校が受賞しました。次年度も多くの出品を期待しています。
以上が、審査経緯と入賞作品の総評です。最後に、当設計競技に募集された意欲溢れる高校生諸君は、今後とも努力を重ね、創造性の高い建築設計を目指して頂きたいと思います。また、ご指導にあたり、多くの貴重な時間を作ってくださった高等学校の教員の皆様には、たいへん感謝しております。今後とも当フォーラムの主旨を理解して頂き、主催する「ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム設計競技」にさらなるご協力をお願い申し上げます。

2015年3月31日
ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム
コンペ審査委員長 
三原 斉(ものつくり大学 建設学科 教授)

新しい家づくりネットワークプロジェクト 第5回コンペ
テーマ <新しい伝統構法の家 2014>  講評/白井 裕泰

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1位: 西向きの家 House Facing West
髙砂 正弘/髙砂建築事務所/和歌山大学大学院教授

 西向きの家は、前庭・路地・庭・坪庭・作業庭を挟んで片流れ屋根と深い軒、西向きに大きな開口を設けた細長い主屋と共有空間である小間を東西に配置した、2世帯住宅であり、1階を親世帯、2階を子世帯とし、西側の小間を介してつながっている。この家の特徴は、静岡の地場産材である天竜杉を用い、1階外壁のスタッコ、2階外壁の焼杉板、床と天井・軒天井の赤味板の面構成による白と黒と赤のコントラストであり、このような簡明な建築構成にすがすがしさを感じる作品である。

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2位:生駒の家
安部 秀司・松田 修平/安部秀司建築設計事務所

 生駒の家は、いろいろな機能が納められた4つの箱を、隙間を設けて配置し、中央の隙間を「家中庭」とし、そこに採光のためのトップライト(空のリビング)を設け、各居室に光を届けている。箱と隙間が、連続する空間として構成され、ワンルームのような繋がりのある空間を演出している。「家中庭」を外部的空間として捉え、外部の光と風、すなわち自然を感じることのできる空間に各居室が繋がっている構成や、グレイを基調とした色調、隙間に架構された大梁とグレーチングは、都会的なアトリウム空間をイメージさせる。

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3位:王禅寺の家(蔵の壁をもつ家)
金田 正夫/有限会社 無垢里(ムクリ)

 王禅寺の家は、写真家である夫のギャラリーと鍼灸師である妻の診療所を兼ねた建物である。作者は、日本の伝統的木造建築に精通し、この建物は、軸組工法、外部大壁・内部真壁造、懸造、小舞土壁、置き屋根といった技法を用いてつくられている。特に、調湿・蓄熱・防火・断熱・耐震(粘り)・遮音・省資源といった七つもの特性を兼ね備えた小舞土壁に強いこだわりをもって建築をつくっている姿勢は、まるで伝統的木造建築の伝道師のような振る舞いである。ただしこの作品が「家」であるかどうか議論になったことを付け加えておかなければならない。

新しい家づくりネットワークプロジェクト 第5回高校生コンペ
テーマ <近隣の森の木を使用した家 -左官塗り仕上げの木造住宅->  講評/三原 斉

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1位:地球環境にやさしく、人にやさしく、住み続けられる住処~現在によみがえる漆喰の町屋~
加藤 涼太・吉田 悠人/埼玉県立熊谷工業高等学校

 タイトル「地球環境にやさしく、人にやさしく、住み続けられる住処 -現在によみがえる漆喰の町屋―」に示されたことが、そのまま図面に表現されていることが読み取れる。例えば、土壁の材料とそのつくり方、しっくい仕上げ材料とつくり方、三和土の材料とつくり方、これらのどれをとっても、左官の伝統構法を十分に理解し満足しているものである。伝統構法と現代構法を上手く融和し、かつ表現していることが、高く評価できる。

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2位:土を感じる家
高桑 江理/静岡県立科学技術高等学校

 タイトル「土を感じる家」では、設計条件である「地域の土を使用」、「土壁にする」にすること以外に、「版築にする」、「屋根を緑化する」等の工夫を取り入れ、土をふんだんに使った住宅を表現している。また、土壁の特徴や版築のつくり方など、左官構工法上重要なポイントがわかりやすく示されており高い評価ができる。さらに、図面のすべてが手書きであり、かつイラストで描かれており、見やすく大変興味深いものである。

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3位:土壁樹木の家
阿川 誠/東京工業大学付属科学技術高等学校

 この住宅の設定では、陶芸作家の家族を取り上げ、敷地は陶芸で有名な益子町としている。家族構成は、陶芸家の夫婦と2人の子どもたちの4人家族である。1階には、陶芸を行うための工房と作品展示スペースを設けており、2階は家族の住まいとしている。仕事を行い、家族が団らんするための家を構成するために、木くずを入れた暖か味のある荒壁仕上げにしたところが面白い。左官仕上げの良さが十分に表現されており、高い評価ができる。

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佳作:土間廊下で繋ぐ家-新しい形容(かたち)のシェアハウス-
川原井 千晴/栃木県立宇都宮工業高等学校

 近年、多くなってきたシェアハウスを取り上げ、その住宅の部屋を三和土の廊下でつなぐという発想が大変面白い。また、外壁は雨風に強いとされる土佐しっくいを使用し、内壁は、大津みがき壁を使用しているところは興味深い。左官をふんだんに取り入れ、一度は住んでみたくなる住宅を表現してくれた。

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佳作:包忍の家
安生 天翠/東京工業大学付属科学技術高等学校

 壁には、珪藻土を使用し、石庭を土塀にする等、左官材料をふんだんに使用したいという気持ちが良く表れている。しかし、これらの左官材料の使い方や図面の表現方法が見つからず、描くことに苦労をしていることも読み取れる。この家では、夫婦お互いの苦労を癒してもらえるものであってほしい。

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佳作:次世代原始人の暮らし
高舘 由莉香/東京工業大学付属科学技術高等学校

 この図面は、ワイルドな父親とその家族が山の中で暮らすため、自然と調和した住宅を設計したものである。図面表現には、左官仕上げがわかるものがないが、文言で「左官塗り仕上げ」を表現している。土壁の上にしっくい塗りを行っているとあるが、これらを適切に図面表現が出来ればさらに良かった。

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佳作:トンネルを潜る家
増野 紗樹/東京工業大学付属科学技術高等学校

 まず、トンネルという設定が興味深い。次に、土間、しっくい壁、珪藻土壁等、左官の伝統構法を現代の住宅に上手に取り入れている。また、この家で使用した珪藻土は、海底から採取した藻類の化石からできている等の発想が良い。さらに、外壁は、貝灰を使用しており、材料の研究を十分に行ったことが良くわかる。

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佳作:左官がつくる層の家
飯澤 舞/静岡県立科学技術高等学校

 タイトル「左官がつくる層の家」とあるが、左官を表現した箇所が少なく、左官壁や土間および左官材料をもう少し詳細に表現してほしかった。しかし、図面全体の表現がとても良い。特に、マリンブルーを主として使用した図面の色合いが良い。左官の表現の少なさが惜しかった。

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佳作:廻る
松井 和也・大竹 花奈/静岡県立富岳館高等学校

 大工の作業と左官の作業が見事に調和した作品である。特に、壁では、健康によく、調湿機能があり、火災に強く、適温にし、廃棄物になりにくい「しっくい」を使用し、その壁のつくり方を、材料の調合、工法のそれぞれに分けて表現している。この住宅は、転生輪廻の世界を上手く表現している。

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佳作:『左官さんのつくるいえ』◆土壁の蓄熱・放熱効果を最大限に活用する◆
中家 萌瑛・小野 洵弥/大分県立大分工業高等学校

 この作品は、住宅に使用する土壁の性質をできる限り有効に活用したことがわかるものである。外で暮らすことには、少々疑問があるが、土のつくり方等の説明がわかりやすく、夏と冬、日中と夜間における調湿や蓄熱の効果を上手く図で表現している。