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第6回 ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム設計競技について

■内 容

 「ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム設計競技」は,2015年度で6回目の開催となります。本設計競技は,社会人を対象とする一般の部では「新しい伝統構法の家」,高校生の部では「近隣の森の木を使用した家」とそれぞれにテーマを掲げています。また,高校生の部では,毎回,テーマにサブタイトルを付けており,今回は「バイオミメティクスな家」としました。
 一般の部は,これまでに手がけてきた実施作品においてテーマに即した住宅を募集の対象とし,高校生の部では,サブタイトルである「バイオミメティクスな家」として,生物の機能や形態の考え方を建築に組み込んだ住宅を提案してもらいました。
 各部門とも入賞作品には,表彰状と副賞が授与されます。副賞は,一般の部第1位15万円,第2位10万円,第3位5万円で,高校生の部では,第1位7万円,第2位5万円,第3位3万円,佳作(7作品)各1万円となっています。また,高校生の部には団体賞として,協賛の総合資格学院により総合資格賞が設けられ,表彰状,表彰楯と1万円分の図書券が贈呈されます。作品の応募期間は,2015年12月1日(火)~2016年2月6日(土)とし,審査員は,赤松明,伊藤大輔,大島博明,大塚秀三(審査員長),小野泰,白井裕泰,田尻要,林英昭,深井和宏,藤原成曉,三原斉(五十音順)が担当しました。


■審査総評
一般の部 「新しい伝統構法の家2015」

今回の登録数は10点,そのうち応募作品数は9点で,前年度より7点減少したものの,内容のある質の高い作品が寄せられました。
 審査基準は,主要な構造を伝統的な木造軸組構法とし,かつ専用住宅に関する新しい提案を前提とした上で,下記の5点を重視しました。
①文化としての家づくりを目指しているか
②近隣の森の木の利用を前提としているか
③伝統的な木造技術及びその関連技術を活かした家となっているか
④現代生活に調和したデザインとなっているか
⑤屋内環境に配慮した工夫が見られるか
 第1次審査は2月9日(火)に行いました。各審査員の持ち点を1作品1点として,5作品を選定してもらい,合計点の高い4作品が11日(木)の第2次審査に進みました。第2次審査では,各審査員の持ち点を1位3点,2位2点,3位1点とし,投票・集計後さらに全審査委員による協議が行われ,第1位から第3位までの3作品を決定しました。今回の審査では,第1位と第2位は総合点と審査委員の総意により決定したものの,第3位はB-002とB-004両作品の総得点が僅差であり,共にそれぞれ複数の審査員が推しており,全審査委員による慎重審議の結果,B-004の作品が選出されました。
 第1位の「木格子の家-木格子による空間と視線の操作」 (甲村健一/KEN一級建築士事務所)は,伝統的な田の字型プランをベースとして木格子で端正な空間を表現しており,最も多くの票を集めました。審査員の満場一致で第1位に選出されました。
 第2位の「緑と暮らす家」(永井智樹・小山明子/akka一級建築士事務所)は,緑豊かなロケーションを借景として小品ながらも気持ちの良い空間を表現した点が評価されました。
 第3位の「谷のある家」(関卓志/誠設計事務所)は,快適な温熱環境と住空間を現しの木組みで表現した点が評価されました。
 「TATENOCHO STYLEⅡ リノベで培った手作り記憶を継承する新しい木造の作り方」は,今回は僅差で選外となりましたが,本設計競技の意図を表現した作品であることは,全審査委員が認めるところです。
 以上,審査経緯と入賞作品の総評を述べて参りましたが,改めてご応募頂きました皆様に感謝申し上げます。当フォーラムは,地域の自治体の皆様も交え,さらに積極的に,「新しい家づくりネットワーク」の構築を推進して行きたいと思います。今後ともご賛同頂き,ご協力を賜れば幸いです。


高校生の部 「バイオミメティクスな家-近隣の森の木を使用した家-」

今回は9校56点の応募があり,前年度と同じ学校数となりましたが作品数は39点増加しました。サブタイトルである「バイオミメティクス(生物模倣)」とは,生物(動物・植物・昆虫など)の形態・構造・機能・成長プロセスなどに着想を得て新技術の開発やものづくりに応用する考え方のことを指します。このバイオメミティクスの考え方は,建築分野において比較的古くから様々に応用されてきていますが,昨今のコンピューティングの発達を基盤とした技術の高度化により,従前に比べ応用できる領域が増えてきていると言えます。
 今回は高校生諸君の既成概念に囚われない自由な発想を促すため,設計条件については構造を木造とすること以外に,あえて制約を設けませんでした。この設計条件がないことが高校生諸君にとっては非常に難しいとの懸念もありましたが,興味深い着想の作品が多く集まりました。
 第1次審査及び第2次審査は一般の部と同日に行いました。第1次審査では,各審査員の持ち点を1作品1点として,10作品を選定してもらい,合計点の高い13作品が第2次審査に進みました。第2次審査では,各審査員の持ち点を1位5点,2位4点,3位3点,4位2点,5位1点とし,投票・集計後さらに全審査委員による協議が行われ,第1位から第3位までの3作品と佳作10作品を決定しました。選定した3作品は,いずれもメインテーマについて,高校生らしい視点で丁寧に造られた作品であり,期待以上の充実した設計競技となりました。
 第1位の「かまどの家」(高橋奏/静岡県立科学技術高等学校)は,セアカカマドドリの巣の形態に着想を得て,パブリックゾーンとプライベートゾーンを渦巻き状の平面構成により緩やかに分節しつつ,一体の空間を造り出している点が評価されました。審査員の満場一致で選出されました。
 第2位の「温度のつぼみを持つ家」(中島航輝/埼玉県立春日部工業高等学校)は,植物の温度調整機能に着想を得て,地熱利用と大屋根を組み合わせることにより自然エネルギーを有効利用した住環境を造り出している点が評価されました。
 第3位の「屋根の下,土球の住処」(西澤克真/静岡県立科学技術高等学校)は,土を使って造られるドロバチの巣に着想を得て,土で塗り固められたドーム状の居住空間の連なりと,直射日光を遮断する木組みの大屋根を組み合わせることにより自然と一体化した新しい空間を創出している点が評価されました。
 佳作では,「建築の敵から建築を盗む」,「家族の絆を紡ぐ家」,「しっくい×バイオミメティクス→It’s Super Roof」,「雨水と生きる家」が上位3位を決定する際に協議の対象となり,入賞は逃したものの優れた作品として評価されました。また,団体賞である総合資格賞は,16作品の応募があった秋田県立横手清陵学院高等学校に加え,初参加ながら多くの応募があった大阪市立都島工業高等学校(17作品)と岸和田市立産業高等学校(7作品)の3校にそれぞれ授与されました。
 以上,審査経緯と入賞作品の総評を述べて参りましたが,現代の家づくりは,豊かな住空間を造り出すことはもちろんですが,高耐久・高耐震など高度化する技術要求にも応えていく必要があります。一方で,今回の課題でもあるバイオミメティクスの考え方など建築分野以外の知見を応用することにより,新しい住空間を造り出していくことも重要です。
 最後に,当設計競技に募集された意欲溢れる高校生諸君は,今後とも努力を重ね,建築設計の道を目指して頂きたいと思います。また,ご指導にあたり,多くの貴重な時間を作ってくださった教員の皆様には,たいへん感謝しております。今後とも当フォーラムの主旨を理解して頂き,主催する「ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム設計競技」にさらなるご協力をお願い申し上げます。


2016年3月31日
ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム
コンペ審査員長 
大塚 秀三(ものつくり大学 建設学科 准教授)




講評/大塚 秀三
一般の部 「新しい伝統構法の家 2015」  

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1位: 木格子の家-木格子による空間と視線の操作-
甲村 健一/KEN一級建築士事務所

 建築の外皮から内部空間に至るまで,木格子によって統一された表現は洗練されており純粋に美しく,また至極現代的である。一方でよく読み込んでいくと,ファサードは京の町家のメタファーであるし,平面計画に至っては「田の字型プラン」を採用しているし,古民家を想起させる骨太の横架材が顔を出していることが分かる。すなわち正真正銘の伝統建築とも言えるものなのである。これを観察者に一瞬で「現代的で美しい建築」と誤読させることにこの建築の最大の魅力があるし,伝統木造建築の具有する美点の解法として極めて示唆的である。

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2位:緑と暮らす家
永井 智樹・小山 明子/akka一級建築士事務所

 緑豊かな恵まれたロケーションを借景として,明快な軸組構成とともに小品ながらも気持ちの良い空間を創出している。特に,2階のLDKはこの建築の最大の見せ場である。極限まで壁要素を減じることにより,一方を除いて全面開口として,ロケーションと一体化することに成功している。また,ルーフデッキ上には深い軒を掛け,内部空間と連続した気持ちの良い外部空間を造り出している。さらには,1階には縁側を配すことによって,自然と居室間の中間領域として機能している。木造建築の長所を活かしつつ,現代的な住空間を構築した小住宅の好例である。

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3位:谷のある家
関 卓志/株式会社 誠設計事務所

 田の字型プランをベースに,「谷」を媒介とした骨太な架構で構成されている。この「谷」は,ストリップの段板で構成された階段による垂直移動や室内外の視線の抜け考慮した動的空間とも言うべきもので,建築に躍動感を与えることに成功している。また,室内空間においては,内部壁を真壁として,外皮の断熱の工夫により梁の骨太な架構を現しにしており,木造であることを明快に感じさせている。一方,空地を最大限確保し,コンパクトなボリュームとすることで周辺環境に対して配慮している。住宅地に建つ良質な木造建築のモデルケースと言える。

講評/大塚 秀三
高校生の部 「バイオミメティクスな家-近隣の森の木を使用した家-」  

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1位:かまどの家
高橋 奏/静岡県立科学技術高等学校

 セアカカマドドリの巣の形態に着想を得た作品である。卵の存在を外敵から守るための形態を読み替えて,パブリックゾーンとプライベートゾーンを渦巻き状の平面構成により緩やかに分節しつつ,一体の空間を造り出している点が面白い。また,ゾーンごとの屋内外の関係性もうまく連動させており,フリーハンドのドローイングと相まって魅力的なプレゼンテーションとなっている。一方で,家族構成とともに示した住まい方と建築の関係性が読み取りにくく,さらに一歩踏み込んだ提案が期待される。

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2位:温度のつぼみを持つ家
中島 航輝/埼玉県立春日部工業高等学校

 ザゼンソウの温度調節機能に着想を得た作品である。ザゼンソウが開花するために自己発熱することにより融雪する機能を,地中熱の利用に置き換えて室内空間に温度調節機能を付与する提案である。地中熱の利用についての丁寧な説明や模型を用いた表現など,オーソドックスな表現方法ながらも作者が丁寧に取り組んだ姿勢を垣間見ることができ好感が持てる。一方で,大屋根の形態がいささか直喩的で,地中熱の利用との関連性が希薄な点についてはさらなるスタディが望まれる。

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3位:屋根の下、土球の住処
西澤 克真/静岡県立科学技術高等学校

 ドロバチの巣の形態に着想を得た作品である。ドロバチの巣では,泥の塊の中に幼虫1体ごとの住み処が穿つように構成されていることを反転して捉え,土を塗り固めて造られた半球状の有機的な形態の個室群(土球)を連なるように構成している。これと降雨から防御するための大屋根の直線的な形態との対比が面白い。生物の巣に着想を得た作品が多くあった中で造形力については群を抜いており,初学年の作品とは思えないレベルに到達している。ドロバチの巣の徐熱機能についても踏み込むとさらに面白かった。

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佳作::Boccry House 
齊藤 あみ/富山県立高岡工芸高等学校 

 松ぼっくりの形態と機能に着想を得た作品である。平面構成はオーソドックスながらも,松ぼっくりのかさを模して設けた開閉式開口部は,外壁の表層デザインとしては面白い。作者の提案しているソーラーパネルや緑化パネルなどの開口部が持つ機能について詳しい説明があると分かりやすかった。

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佳作家族の絆を紡ぐ糸
坂井 萌華・沖田 あゆ実/富山県立高岡工芸高等学校

 蜘蛛の巣から着想を得た作品である。間仕切りを取り除いて一体となった空間に,蜘蛛の巣(ハンモック)をランダムに配置し,家族の居場所を造り出している点が面白い。やや直截的過ぎる印象があるのと,装置の提案に留まっている点が惜しい。建築化するための踏み込んだ提案が望まれる。

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佳作:雨水と生きる家
佐藤 直喜/静岡県立科学技術高等学校

 ネオレゲリアの形態と機能に着想を得た作品である。花びらの形態を集水装置とし,溜めた雨水を濾過する機能を組み込んだ「装置としての屋根」が面白い。全体に青み掛かったドローイングが独特の雰囲気を醸し出している。屋根の持つ機能と屋内空間との関係性についてさらに踏み込んだ提案が望まれる。

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佳作:風と日を操る家
庄司 志恩/静岡県立科学技術高等学校

 ラクダのまつ毛とコブの形態と機能に着想を得た作品である。まつ毛とコブを屋根に置き換えて住環境の向上を目論んでいる。ファニーなドローイングが作者の個性を感じさせてくれる。実際の効果についてやや説明不足で,建築への組み込み方については形態も含めて工夫が必要である。

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佳作:風のトンネル
國吉 海斗/大阪市立都島工業高等学校

 プレーリードッグの巣の機能と形態に着想を得た作品である。巣を模して,レベル差を付けた階段状に居室を連続させて配置することに加え,換気装置を組み込むことで空気の循環作用を組み込んでいる。ロケーションの設定が良いので,実際の巣と同様に自然換気の仕組みを建築化できると良かった。

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佳作:建築の敵から建築を盗む
同本 陸・ チュウ・エッタイ・ ムハマド・シャフック・ビン・アワズリ/国立明石高等工業専門学校

 シロアリの巣の機能と形態に着想を得た作品である。シロアリの巣のごとく土で覆われた形態は,冷却システムと水の浄化システムをも組み込んでいる。やや未完な印象もあるが妙に惹かれる魅力を持った作品である。機能とセクションの面白みが平面計画によってスポイルされている点が惜しいところである。

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佳作:しっくい×バイオミメティクス→It's Super Roof
川上 大雅/大分県立大分工業高等学校

 しっくいと蜘蛛の糸の特長を組み合わせた作品である。建築材料と生物模倣を複合して捉えた数少ない作品である。細かな説明を丁寧に加えており時間を掛けて課題に取り組んだ様が分かる。屋根を「帽子」と表現するなど作者の個性が垣間見られる。各室が独立して散在する手法は既視感があり,もう少し踏み込んでもらいたかった。