講評/大塚 秀三
一般の部 「新しい伝統構法の家 2015」
1位: 木格子の家-木格子による空間と視線の操作-
甲村 健一/KEN一級建築士事務所
建築の外皮から内部空間に至るまで,木格子によって統一された表現は洗練されており純粋に美しく,また至極現代的である。一方でよく読み込んでいくと,ファサードは京の町家のメタファーであるし,平面計画に至っては「田の字型プラン」を採用しているし,古民家を想起させる骨太の横架材が顔を出していることが分かる。すなわち正真正銘の伝統建築とも言えるものなのである。これを観察者に一瞬で「現代的で美しい建築」と誤読させることにこの建築の最大の魅力があるし,伝統木造建築の具有する美点の解法として極めて示唆的である。
2位:緑と暮らす家
永井 智樹・小山 明子/akka一級建築士事務所
緑豊かな恵まれたロケーションを借景として,明快な軸組構成とともに小品ながらも気持ちの良い空間を創出している。特に,2階のLDKはこの建築の最大の見せ場である。極限まで壁要素を減じることにより,一方を除いて全面開口として,ロケーションと一体化することに成功している。また,ルーフデッキ上には深い軒を掛け,内部空間と連続した気持ちの良い外部空間を造り出している。さらには,1階には縁側を配すことによって,自然と居室間の中間領域として機能している。木造建築の長所を活かしつつ,現代的な住空間を構築した小住宅の好例である。
講評/大塚 秀三
高校生の部 「バイオミメティクスな家-近隣の森の木を使用した家-」
1位:かまどの家
高橋 奏/静岡県立科学技術高等学校
セアカカマドドリの巣の形態に着想を得た作品である。卵の存在を外敵から守るための形態を読み替えて,パブリックゾーンとプライベートゾーンを渦巻き状の平面構成により緩やかに分節しつつ,一体の空間を造り出している点が面白い。また,ゾーンごとの屋内外の関係性もうまく連動させており,フリーハンドのドローイングと相まって魅力的なプレゼンテーションとなっている。一方で,家族構成とともに示した住まい方と建築の関係性が読み取りにくく,さらに一歩踏み込んだ提案が期待される。
2位:温度のつぼみを持つ家
中島 航輝/埼玉県立春日部工業高等学校
ザゼンソウの温度調節機能に着想を得た作品である。ザゼンソウが開花するために自己発熱することにより融雪する機能を,地中熱の利用に置き換えて室内空間に温度調節機能を付与する提案である。地中熱の利用についての丁寧な説明や模型を用いた表現など,オーソドックスな表現方法ながらも作者が丁寧に取り組んだ姿勢を垣間見ることができ好感が持てる。一方で,大屋根の形態がいささか直喩的で,地中熱の利用との関連性が希薄な点についてはさらなるスタディが望まれる。
佳作::Boccry House
齊藤 あみ/富山県立高岡工芸高等学校
松ぼっくりの形態と機能に着想を得た作品である。平面構成はオーソドックスながらも,松ぼっくりのかさを模して設けた開閉式開口部は,外壁の表層デザインとしては面白い。作者の提案しているソーラーパネルや緑化パネルなどの開口部が持つ機能について詳しい説明があると分かりやすかった。
佳作家族の絆を紡ぐ糸
坂井 萌華・沖田 あゆ実/富山県立高岡工芸高等学校
蜘蛛の巣から着想を得た作品である。間仕切りを取り除いて一体となった空間に,蜘蛛の巣(ハンモック)をランダムに配置し,家族の居場所を造り出している点が面白い。やや直截的過ぎる印象があるのと,装置の提案に留まっている点が惜しい。建築化するための踏み込んだ提案が望まれる。
佳作:風と日を操る家
庄司 志恩/静岡県立科学技術高等学校
ラクダのまつ毛とコブの形態と機能に着想を得た作品である。まつ毛とコブを屋根に置き換えて住環境の向上を目論んでいる。ファニーなドローイングが作者の個性を感じさせてくれる。実際の効果についてやや説明不足で,建築への組み込み方については形態も含めて工夫が必要である。
佳作:風のトンネル
國吉 海斗/大阪市立都島工業高等学校
プレーリードッグの巣の機能と形態に着想を得た作品である。巣を模して,レベル差を付けた階段状に居室を連続させて配置することに加え,換気装置を組み込むことで空気の循環作用を組み込んでいる。ロケーションの設定が良いので,実際の巣と同様に自然換気の仕組みを建築化できると良かった。