CPUE 2015「航路の途上」

CPUE 2015「航路の途上」

企画:多摩美術大学美術学部芸術学科 展覧会設計ゼミ(CPUE)
日時:2015/11/7-11/23
出展作家:市川裕司 太田三郎 川久保ジョイ
会場:NAA アートギャラリー 成田国際空港 第1 ターミナル 中央ビル5F

総合アドバイザー:長谷川祐子(多摩美術大学美術学部芸術学科教授/東京都現代美術館チーフキュレーター)
空間アドバイザー:岡田公彦(建築家/岡田公彦建築設計事務所)

 

多摩美術大学 美術学部芸術学科/ 長谷川祐子ゼミ 企画展覧会の会場構成アドバイザーとして参加。

今年度の企画展は成田空港のギャラリーで開催するという。空港のもつ、多国籍で老若男女が利用する高い公共性と、移動のためのノードであるという特別なコンテクストをどのように扱っていくのか、興味が持たれた。

空を映す大きなトップライトを持つ吹き抜けと、最上階に向けて上昇するエスカレーター。この2つに面するギャラリーは、空港の持つ高揚感、ダイナミズムを空間的に翻訳した場所ともいえるだろう。その上昇する流れの意識を損なわずに自然にギャラリーに誘導するよう、市川裕司によるアルミ箔のインスタレーションを前面に配置した。その表皮はトップライトから降り注ぐ光を反射しつつ、空港を行き交う人々や観覧者自身をも映し出し、刻々と表情を変えていく。ふと、そのさらに前面に点々と吊られた飛行機に目を向けていくと、パーティションの奥の空間へと導かれる。白く漂白された、内省的な雰囲気を持つ第二の部屋では空港のもつコンテクストもまた漂白され、観覧者の意識は川久保ジョイによる写真の世界へと入り込んでいく。その背後には太田三郎による、植物の種子を使った作品が並ぶ。その小さな作品はシャーレに入って静謐で控えめな姿を見せる。命をつなげる役割を失った種子は切手となり、実際に葉書と共に世界中を横断しつつ新たな航路を与えられている。このような一連の意識の流れが、これから旅に出る、もしくは旅から戻った意識とかさなり合い、変化をもたらすことが意図されている。

私たちをとりまく世界や環境との繋がり、その多様性をテーマとする今回の展覧会で、選ばれた作品は写真やインスタレーションなど、全て具体的なモノを媒介とする表現であった。空港という物理的な移動のための場を選んだことも含め、若い感性によってこのような選択がなされたことは興味深く、行き詰まった情報化への新たな意識を垣間見せた展覧会ともいえるだろう。


photograph:Kimihiko Okada

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