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ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム主催コンペについて

■はじめに
 ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム(略称:もの大住宅建設フォーラム)は、ものつくり大学が主体となって新しい木造住宅づくりのネットワークを構築し、大学ブランドの21世紀型木造住宅を建設することを目的として、2010年12月1日に発足されました。
 当フォーラムは学長プロジェクトとして、「新しい家づくりネットワークプロジェクト」を計画し、大学と住み手・作り手・自治体が共に手を携えて、近隣の森の木を使いながら、高度な伝統的木造建築技術およびその関連技術を活かした家づくり、すなわち「伝統構法を用いた新しい家づくり」をめざします。
■コンペの内容
 本プロジェクトの第1段階の活動として、コンペ1:「新しい家づくりネットワークプロジェクトコンペ」およびコンペ2:「高校生建築設計競技」の2つのコンペを開催しました。コンペ1では<新しい伝統構法の家>というテーマで、全く新しい構想・提案に関する<アイデア部門>と既に実施された作品・取り組みに関する<実作部門>に分けて募集し、コンペ2では<近隣の森の木を使用した家>というテーマで募集しました。
 賞金は、アイデア部門および実作部門第1位20万円、第2位10万円、第3位5万円、高校生部門第1位10万円、第2位5万円、第3位3万円、佳作1万円とし、応募期間は2010年12月1日(水)~2011年2月28日(月)としました。なお審査員として、白井裕泰(審査員長)、赤松明、伊藤大輔、大塚秀三、小野泰、佐々木昌孝、林英昭、三原斉、八代克彦、特別審査員として大島博明、藤原成暁が担当しました。
■コンペの審査
 コンペの応募は、コンペ1アイデア部門が登録数110点で応募した作品数は40点、実作部門が登録数31点で応募した作品数は24点、コンペ2高校生部門では21校から58点の作品応募がありました。
 コンペの審査は、3月9日(水)に第1次審査が行われ、9人の審査員にアイデア・実作部門各8点、高校生部門10点を選んでもらいました。その結果、アイデア部門は16点、実作部門は18点、高校生部門は20点が1時審査を通過しました。
 第2次審査は8人の審査員によって、3月10日(木)に行われ、各審査員がそれぞれの部門の第1位に5ポイント、第2位に4ポイント、第3位に3ポイント、第4位に2ポイント、第5位に1ポイントをいれて(ただし同位の場合0.5ポイント単位の点数を入れた審査員がいました)、合計点によって順位を決めました。その結果、アイデア部門の第1位がA-049(27.5ポイント)、第2位がA-006(21.5ポイント)、第3位がA-040(21ポイント)、第4位がA-027およびA-105(7ポイント)、第6位がA-033(6ポイント)でした。実作部門の第1位はB-020(20.5ポイント)、第2位はB-011(15.5ポイント)、第3位はB-007(12ポイント)、第4位はB-021およびB-029 (10ポイント)、第6位はB-015(6ポイント)でした。高校生部門の第1位はNo.02(22ポイント)、第2位はNo.05(16.5ポイント)、第3位はNo.46(14.5ポイント)、第4位はNo.15(10.5ポイント)、第6位はNo.53(7.5ポイント)、第7位はNo.45(7ポイント)、第8位はNo.14および58(4ポイント)、10位はNo.04(3ポイント)でした。各部門の1~3位については、個別の講評を行い、順位を確認しました。
■審査結果
 入賞者は以下の通りです。
コンペ1:「新しい伝統構法の家」(一般・大学生の部)
 アイデア部門第1位:小椋祥司<木骨・骨太の新・伝統構法でつくる「新・地域の家」>フォレスト建築研究所
アイデア部門第2位:村上貴彦<新・日本の家>一級建築士事務所士
アイデア部門第3位:杉本喜一<「足し算=和」の家−住居を原型から考える−>一級建築士杉本喜一建築士事務所
実作部門第1位:遠野未来<みらいのいえ>遠野未来建築事務所
実作部門第2位:増谷高根<吉野の家>一級建築士事務所増谷高根建築研究所
実作部門第3位:藤原由貴子<岩間の家>ふじわら建築設計室
コンペ2:「近隣の森の木を利用した家」(高校生の部)
第1位:黒澤宏樹<Cedar Frame Unit ライフスタイルで変化する木の家>埼玉県立春日部工業高等学校
第2位:村越勇人・牧田光<軸組ハウス~木の温もりに包まれて~>静岡県立科学技術高等学校
第3位:村山大騎<地震で人が死なない家>三重県立四日市工業高等学校
 佳 作:平岡美由紀<ざ かいだん>国立明石工業高等専門学校
 佳 作:前田洋平<自然を取り込む家~自然界に必然性をもち、存在している満ちた光~>北海道札幌工業高等学校
 佳 作:田端由香<知覚する家>埼玉県立熊谷工業高等学校
 佳 作:松澤志門<梁と柱、地震に負けない家づくり>山梨県立甲府工業高等学校
 佳 作:浅野拳人<はたらき蜂の住処 ハニカム構造で高齢者と尾鷲ひのきを支える家>三重県立四日市工業高等学校
 佳 作:池田沙恵子・白樫信貴<嵐山の学生寮>京都市立伏見工業高等学校
 佳 作:洞口由宇<一家の細胞>静岡県立科学技術高等学校
■入賞作品の講評
 コンペ1の審査基準として、「①「文化としての家づくり」を目指しているか②近隣の森の木の利用を前提にしているか③伝統的木造技術およびその関連技術を活かした家となっているか④現代生活に調和したデザインとなっているか⑤室内環境に配慮した工夫が見られるか」を上げ、コンペ2では、「近隣の森の木の使用に関して工夫しているか」を重視しました。
 この審査基準に対して、アイデア部門第1位作品A-049(27.5ポイント)および実作部門第1位作品B-020(20.5ポイント)、高校生部門第1位作品No.02(22ポイント)は誠実に答えていて、いずれも20ポイントを超える得点を獲得しました。特に作品A-049の27.5ポイントは群を抜いた最高得点であり、本コンペの主旨にもっとも誠実に答えたものとして、多くの審査員の評価を得たことがわかります。
 この作品が主張する「新・地域の家」住まいづくりの基本コンセプトは「①伝統的構法のエッセンスを継承した住宅とする②伝統構法の技術を継承・発展させた住宅とする③地域材を積極的に使用した住宅とする④木材の量的、質的な利用拡大構法の住宅とする⑤長寿命でサスティナブルな住宅とする⑥スケルトン・インフィルに対応可能なシステム構法住宅とする⑦リニューアル、リフォーム、リサイクル対応の構造・設備システムの住宅とする⑧ライフサイクル、ライフスタイルの変化に対応可能な可変住宅とする⑨住み手にやさしく、住み継いでゆけるユニバーサル住宅とする⑩家族が仲良くつながる「広間型住まい」とする⑪木の本性と可能性を追求した、自然を呼吸する「木の家」を実現⑫木材の多目的・多用途利用(角材、丸太材、小径木、間伐材他)を追求⑬人と住まいと環境に寄与する木材価値の創出⑭木の家づくりが「まち中の森づくり」「山の森づくり」につながる活動⑮地域とつながり地域とともに成長する家づくり活動」であり、これからの「新しい木造住宅づくり」に関する諸問題について網羅的に指摘しています。この考え方は、当フォーラムが推進する「新しい家づくりネットワークプロジェクト」がめざす方向性と軌を一にするものであり、今後、本プロジェクトの目的を共有できる人たちと一緒にネットワークを構築したいと考えています。

2011年3月26日
ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム代表
ものつくり大学建設学科教授 白井裕泰

新しい家づくりネットワークプロジェクト コンペ
テーマ <新しい伝統構法の家・アイデア部門>  講評/八代克彦

アイデア部門 1位 A-049.pdf

1位:木骨・骨太の新・伝統構法でつくる「新・地域の家」(A-049)
小椋 祥司/フォレスト建築研究所

 今回のコンペの5つのクライテリア、すなわち01:文化としての家づくり、02:近隣の森の木の利用、03:伝統木造技術の活用、04:現代生活に調和したデザイン、05:室内環境への配慮・工夫 に真正面から取り組む真摯な姿勢が評価された。それぞれのクライテリアへの解答は住宅以外にも適用可能で、平面のレイアウトにも私的な「家」というより「地域の拠点」としての公共性を感じる。

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2位:新・日本の家(A-006)               
村上 貴彦/一級建築士事務所 士

 日本の伝統的・精神的な家をテーマに、1階中央の水廻りとその上に載せた屋根裏子供部屋を(構造+環境)×伝統精神のコアとし、その周囲にサーキュレーションを確保しながら諸室を配したユニークな提案。明るく開放的な空間は、住宅へのコンヴァージョンを果たした社寺建築を想起させないでもない。

3位 A-040.pdf

3位:「足し算=和」の家 ―住居を原型から考える―(A-040)
杉本 喜一/一級建築士杉本喜一建築設計事務所

 唐松の産地としても有名な軽井沢を敷地に選び、日本の家の増築システムのプロトタイプ<母屋 + 下屋・庇>を手がかりに、足すことすなわち増築によって各棟間にヌレ縁などの緩衝空間を創出し、住居全体に和をもたらすシステムの提案を端正なプレゼンテーションにまとめている。なお、投票結果は2位の006案とは僅差であった。

新しい家づくりネットワークプロジェクト コンペ
テーマ <新しい伝統構法の家・実作部門>  講評/大塚秀三

実作部門 1位 B-020.jpg

1位:みらいのいえ コミュニティ・ビルドのやわらかな家(B-020)
遠野未来/遠野未来建築事務所

 海の見える広大な敷地というロケーションに恵まれた住宅である。地場産材および古材による架構・建具,現場産土による左官仕上げなど伝統木造の記号を随所に散りばめながら,総体として現代的な表現に収斂させていることに加えて,室内環境への様々な仕掛けを見ることができる。さらに特筆すべきは,延べ200名が参加したワークショップ形式のコミュニティ・ビルドという社会性の高い手法を展開している点である。これにより,伝統木造にあって先進的なモデルの提示に成功していると言え,文化性を具有する伝統木造の道標を示しているとできる。

実作2位 B-011.pdf

2位:吉野の家(B-011)               
増谷高根/増谷高根建築研究所

 吉野杉の産地に存する夫婦のための小住宅である。ファサードは,程よいスケールのヴォリュームに分節することで,全体としてシンプル,かつ端正なプロポーションとなっている。内部空間では,換気塔をも兼ねた2階部分を含めて,全方位に連続的につながる空間構成は,伝統木造が本質的に持つ,気配を感じさせつつ緩やかに分節された空間構成を現代的な表現として昇華させている。これにより,内外共に最小限の素材で豊かな空間の創出に成功しており,これが細部に至るまで完結されている。小品ながら伝統木造の新たな表現を示しているものと言えよう。

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3位:岩間の家(B-007)               
藤原由貴子/ふじわら建築設計室

 首都圏の郊外に位置する住宅である。ファサードにあっては,杉板下見板張りおよび漆喰壁,内部空間にあっては骨太の架構という伝統的手法を多用している。一方で,ハイサイドライトと一体となった架構が風と光の通り道となっており,設備を空間に融解させた“見えない設備”が組み込まれており室内環境への配慮が見てとれる。このほかにも一部に合理的な工法を取り入れており,伝統木造を現代社会に違和感なく溶け込ませるための工夫が見られる。これにより,伝統木造の郊外型住宅としての普遍的な表現を獲得しているものと言える。

新しい家づくりネットワークプロジェクト 高校生コンペ
テーマ <近隣の森の木を使用した家>  講評/藤原成曉、大島博明

01 1位 春日部工・黒澤宏樹.pdf

1位:Cedar Frame Unit (No.02)          
黒澤宏樹/埼玉県立春日部工業高等学校

 地元の県産杉材の利用による加工のし易さやユニット寸法の妥当性、ライフステージの変化に対応した3タイプのプラン内容、更に廃材の家具へのリサイクル利用など、全体にバランス良く提案を行っている点が評価された。但し、ユニットプランによるプレハブ化の試みは過去に多くの例があり、本案に新しい提案のないのが残念である。木造を意識した小屋組や屋根形状にも配慮することが望まれる。【藤原】

02 2位 静岡県立科学技術高校 村越、牧田.pdf

2位:軸組ハウス~木の温もりに包まれて~(No.05)         
村越勇人・牧田光/静岡県立科学技術高等学校

 自然と建築の関係を真剣に考察した力作である。コートハウスの考えを取り入れ、ひかりと風の動きを配慮し、快適な居住空間づくりを考えようとしている。また、ハウスインハウスの考えを持ちこみ、建物と外皮の間に新たな空間づくりを志向しているようだが、ポリカーネートの外皮の説明が不十分であったため、評価に意見が分かれた。構造計画も考えて、高校生らしくまとめている。【大島】

3位 三重県立四日市工業高校 村越大騎.jpg

3位:地震で人が死なない家(No.15)               
村山大騎/三重県立四日市工業高等学校

 地震による家具転倒での二次災害を防止するために、地元産の尾鷲ヒノキ材を構造材(筋交い)として使用すると同時に造付家具として機能する本案は、構造材をインテリア化するための一つの解決方法を示している。構造材を如何に空間にスマートに取り込むか、更に洗練して欲しい。普段は廃材を利用したものづくりをするウッドデッキ空間が災害時に対しても機能するというコンセプトもリアリティーがある。【藤原】

04 佳作1 ざ かいだん 明石高専.pdf

佳作:ざ かいだん。(No.46)                    
平岡美由紀/国立明石工業高等専門学校

 中庭を中心に諸室を配置し、それぞれに高さの異なる床をもつ断面構成は興味深く、トップサイドライトにも工夫が見られる。室のほぼ中央にある柱の意味について説明があると良かった。【藤原】

05 佳作2 札幌工業 前田洋平 修正.pdf

佳作:自然を取り込む家~自然界に必然性をもち、存在している満ちた光~(No.57)     
前田洋平/北海道札幌工業高等学校

 自然と一体化した空間を作りたいという思いが伝わってきます。四季を感じながら、生活する空間は、たいへん魅力的です。中庭のスケールと木造建築としての表現を検討してほしい。堅実な表現力を感じる作品です。【大島】

06 佳作3 知覚する家 熊谷工業2.jpg

佳作:知覚する家(No.53)               
田端由香/埼玉県立熊谷工業高等学校

 建築プログラムが面白い、またデザイン性に優れている。木との共存の仕方を問いかけ、形にしているが、木造建築として具体的な木との関係性を表現できるとよい。住まいとしての動線を考察して欲しい。
【大島】

07 佳作4 山梨県立甲府工業 松澤志門.pdf

佳作:梁と柱、地震に負けない家つくり(No.45)                       
松澤志門/山梨県立甲府工業高等学校

 構造補強と壁面緑化を両立させる考えは、注目される。構造補強フレーム(フライングバットレス)を有効利用して、緑陰をつくりながら、くつろぎの空間をつくる配慮は都市計画としても優れている。【大島】

08 佳作5 はたらき蜂の住処 三重県立四日市工業 .jpg

佳作:はたらき蜂の住処 はにかむ構造で高齢者と尾鷲ほのきを支える家(No.14)       
浅野拳人/三重県立四日市工業高等学校

 ハニカム構造の合理性に注目した本案のプランの長所は、3つの空間をコーナーで繋いでワンルーム化している点であろう。壁だけでなく、屋根(天井)にもハニカムを活かして欲しい。【藤原】

09 佳作6 嵐山の学生寮 京都市立伏見工業.JPG

佳作:嵐山の学生寮(No.58)               
池田沙恵子・白樫信貴/京都市立伏見工業高等学校

 間伐材を利用するにあたり伝統的な「筏流し」に着想を得、4つの木造キューヴをロープで繋いで運搬するという遊び心のあるユニークな案。ドローイング表現に工夫が欲しい。【藤原】

佳作7 静岡県立科学技術高校 洞口由宇.pdf

佳作:一家の細胞(No.4)                      
洞口由宇/静岡県立科学技術高等学校

 木の素材感や良さを理解し、生命への愛着を感じる楽しい計画です。プランも形態も有機的であり、デザイン上の配慮がみられる。作ってみたい家であり、住んでみたい家である。【大島】