新しい家づくりネットワークプロジェクト 第2回コンペ
テーマ <新しい伝統構法の家 2011> 講評/大島博明
1位: 花内屋リノベーション
吉村 理/吉村理建築設計事務所
伝統構法の家では、構造計画とデザインの表現が同一でありたい。生活の中心となる居間の壁及び天井 は、再生土による塗り壁であるが、ともに構造機能を併せ持ったものとして表現されている。同時にそ れらは地域性に配慮した湿度調整機能を持ったものでもある。通り土間と坪庭につながるこの空間で は、ひかりと風に溢れ、作者の目指す豊かな回遊動線が演出されている。家族の微笑みが見え隠れする、 魅力的な空間となっている。「本来この町屋が持っていた魅力をリノベーションにより、ただ取り戻し ただけである。」とする姿勢即ち自然と伝統への敬意をはらった姿勢が評価される。
2位:ナガヤネ
安河内 健司・西岡 久実/一級建築士事務所 group-scoop
景観及び環境との調和から生まれた断面構成はたいへんシンプルであり、明るく快適な空間を創り出している。明快なプランの中で、通り土間が平面構成を特徴づけている。リビングダイニングから通り土間及びキッチンへのレベル差は、生活領域に変化をもたらし、家族の新たな場を生むと考える。室内環境計画も十分に検討され、光と風の流れを考慮して決定されている。作者の言うこの敷地を特徴づけているとする「畑」との関係も具体的に見たい。しかし、刻々と変化するこの住宅地にあっても、木と漆喰などの自然素材に包まれたナガヤネの空間は、家族の生活を暖かく包むことだろう。
3位:世代を超えて受け継がれる家づくり
野尻 稔/野尻稔建築設計事務所
持ち山の木を使った家づくりは、伝統構法の家づくりとして、理想形である。里山の景観を包み込む形 の「くの字」平面は、里山の地形や気象と応答した形である。里山の景観を楽しむために2階に主空間 があるが、将来の高齢時対応や2世帯住宅対応まで考えたサスティナブルな空間づくりがなされてい る。スクラップアンドビルドの世相の中で、地域に根差し、地域に支えられて作られたこの家は、世代 を超えて受け継がれ、強いアイデンティティをもつ、文化に根差したものとなる。この家は、大地のエ ネルギーを宿しながら、匠達の技を語り、生活の豊かさを長く語りつないでゆくだろう。
新しい家づくりネットワークプロジェクト 第2回高校生コンペ
テーマ <近隣の森の木を使用した家 -環境型最小限住宅-> 講評/藤原成曉、大塚秀三
1位:深谷パッシブナガヤ
高田 彬寛/埼玉県立熊谷工業高等学校
住まい手の構成と家の使い方を最小限空間の中に様々なシーンの展開及び多様な空間のあり方を分かり易く表現し ている。完成後のメンテも含めてエコ素材に配慮している点も好ましい。昨今、当たり前に使用される CAD と一 線を画し、フリーハンドによる図面表現とイメージスケッチが相まって、伝えようとする作者の熱意が感じられる。 一方、各室の面積配分と動線計画など改善点も抱えているので、模型を制作して確認し図面にフィードバックする と良い。【藤原】
2位:タテの筒 / ヨコの筒 ~自然環境と応答し風を吸い込む家~
吉田 拓矢/北海道札幌工業高等学校
スケールに見合った最小限空間をタテに積み、ヨコに並べることで相応しい住まい環境をつくり上げている点が評 価された。1階部分を極力最小に押さえて建物を持ち上げ、地面から離すことでプライヴァシーの確保と眺望が獲 得され、更に大地を荒らさずに済むのでこの計画案は、斜面地の場合においても有効であろう。一方、課題として は鉄筋コンクリート造または鉄骨造の様な断面をしているので、木構造のイメージで表現することが重要である。【大島】
佳作:呼吸する家 ~ GROW WITH NATURE ~
福永 真也/愛知県立愛知工業高等学校
ロケーション設定と樹高を超えないヴォリューム構成により、自然に同化した快適な住空間の様子が伝わってくる。水彩を中心とした表現も作品の魅力を増幅させている。近隣の森の木の利用についてのさらなる提案が欲しいところである。【大塚】
佳作:Home Restoration
藤波 友希/静岡県立科学技術高等学校
住まい方や環境技術について丁寧に表現されており好感が持てる。また東日本大震災の復興が急がれる中、瓦礫を再利用する提案も時宜を得ている。フラードームを彷彿とさせるフォルムが直喩に過ぎる点が残念なところである。【大塚】
佳作:融 −木を自給自足する2戸1の住宅−
吉岡 宏晃/三重県四日市工業高等学校
2 棟を大屋根で連結し都市のランドスケープとしての一体性を確保しつつ、樹木の茂る中庭を媒介とした隣人との緩やかな関係性が 構築されている。必ずしも最小限住宅と言えない点に工夫の余地が残される。【大塚】
佳作:森へ恩返し
大滝 康平/埼玉県立熊谷工業高等学校
高床によってアイレベルを森と一体化させようとする試みに加え、樹木を中心とした六角形プランにより自然との融合が積極的に図られている。六角形のセル構成に囚われたためか分節化された内部空間の融合にもさらなる配慮が望まれる。【大塚】