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ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム主催第2回コンペについて

■第2回コンペの内容
 ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラムは、ものつくり大学が主体となって新しい木造住宅づくりのネットワークを構築し、大学ブランドの21世紀型の木造住宅を建設することを目的として2010年12月に発足し、現在に至っています。当フォーラムは「新しい家づくりネットワークプロジェクト」を計画し、大学と住み手・作り手・自治体が共に手を携えて近隣の森の木を使いながら、高度な伝統的木造建築技術及びその関連技術を活かした家づくり、即ち「伝統構法を用いた新しい家づくり」を目指します。
 この一環として昨年度に引き続き、今年度も社会人及び高校生を対象に設計競技を行ました。テーマはそれぞれ、「新しい伝統構法の家2011」、「近隣の森の木を使用した家-環境型最小限住宅」としました。
 賞金は、実作部門第1位20万円、第2位10万円、第3位5万円、高校生部門第1位7万円、第2位5万円、第3位3万円、佳作(7点)各1万円とし、応募期間は、共に2011年12月1日(木)から2012年2月7日(火)迄、審査員として、赤松明、伊藤大輔、大島博明、大塚秀三、小野泰、佐々木昌孝、白井裕泰、林英昭、藤原成曉、三原斉、八代克彦(五十音順)が担当しました。
■第2回コンペの審査総評
総評 一般の部 「新しい伝統構法の家2011」
 登録数29点のうち応募作品数は15点でした。 応募点数は前回の24作品に比べて少ないものの、総じて内容のある質の高い作品が寄せられ、上位3作品の絞り込みに時間を要しました。審査基準は、主構造を伝統的木造軸組構法とし、かつ新しい専用住宅に関する提案を前提とした上で、①「文化としての家づくり」を目指しているか、 ②近隣の森の木の利用を前提としているか、 ③伝統的木造技術およびその関連技術を活かした家となっているか、④現代生活に調和したデザインとなっているか、⑤室内環境に配慮した工夫が見られるかを重視しました。
 コンペの1次審査は2月13日(月)に行われ、上位10作品を選出、翌日2月14日(火)の2次審査で審査員の持ち点を1位3点、2位2点、3位1点として投票、集計後、上位6作品に絞り、更に協議した結果、第1位から第3位までの3作品に決定しました。
 第1位の「花内屋リノベーション」(吉村理/吉村理建築設計事務所)は、耐震補強の「貫壁」を核とした部分的なリノベーションにも拘わらず、「大黒壁」として全体に存在感の精神性をも獲得している作品として高く評価されました。第2位の「ナガヤネ」(安河内 健司・西岡久実/一級建築士事務所 group-scoop)は、通り土間に特徴のある伸びやかなプランが平屋の「一枚屋根」と調和し、現代の木造建築としてシンプルにして豊かな空間を実現しています。第3位の「世代を超えて受け継がれる家づくり」(野尻稔/野尻稔建築設計事務所)は、川場村の風土に気を配りながら景観や眺望を生かした配置計画と伝統木造の長所を現代に適用した点が評価されました。
 その他、「見わたしの家」や「光格子の家」は選外となりましたが、入賞作品と共に最後まで残り、優劣つけ難い作品であったことを附記致します。
 以上、簡単に審査の経緯と入賞作品の感想を記して参りましたが、改めてご応募戴きました方々に感謝申し上げます。そして、今後とも当フォーラムが推進する「新しい家づくりネットワーク」の構築にご賛同いただき、ご協力を賜れば幸いです。

総評 高校生の部「近隣の森の木を使用した家 - 環境型最小限住宅 -」
前回21校58作品に対し、今回20校84作品の応募がありました。主な審査基準は①最小限住宅としての工夫があるか、②エコハウスの内容、特徴が明記してあるか、③近隣の森の木の使用に関して、工夫した点を具体的に示しているか、④延べ面積が100㎡以内になっているか、⑤住まう人の構成と家の使い方をわかりやすく表現しているか、⑥(内容に相応しい)作品名がついているかの6項目としました。
 1次審査は2月13日(月)に行われ12点を選出、翌2月14日(火)の2次審査で各審査員の持ち点を1位5点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点とし投票、集計後、更に協議した結果、第1位から第3位まで上位3作品と佳作7作品の計10作品に決定しました。全体を通して感じたことは、①の「最小限住宅として工夫」よりも②の「エコハウスの内容、特徴」の方に傾倒した作品が多く見られ、環境への関心の強さが感じられました。
 第1位の「深谷パッシブナガヤ」(高田彬寛/埼玉県立熊谷工業高等学校)は、実際とイメージ図とのギャップはあるものの、日本の伝統的都市型住居の典型である短冊型狭小敷地に対してエコに配慮した提案を行うという意欲とプレゼンテーション力が評価されました。第2位の「タテの筒 / ヨコの筒 」(吉田拓矢/北海道札幌工業高等学校)は、最小の単位空間を設定し、積むことで生まれるタテ方向のエネルギーを建築に応用しています。また、上階に設けられたリビングや寝室に眺望とプライヴァシーが確保されています。第3位の「かぐや姫からの贈り物」(岡太樹ほか/京都市立伏見工業高等学校)は、竹を素材としたワンルーム空間に適度な距離感を持った家具配置がされており、自然と空間を同時体験できる「場」を形成しています。
 その他の作品については、図面表現は魅力的だが平面計画上に問題が残る、内容は良いが表現不足であるなど、後もう少しという作品が目立ちました。前者の例では、佳作1「呼吸する家」(福永真也/愛知県立愛知工業高等学校)、後者の例では、佳作3「ぶどう畑で暮らす」(井部雄介/新潟県立上越総合技術高等学校)が該当し、惜しくも入賞には至りませんでした。
 以上、審査の経緯と主な応募作品の印象を概括して参りましたが、今回のテーマである「環境型最小限住宅」を通して、建築のスケールや人体寸法、自然との共生やエコロジーなどを考えるきっかけにしてもらえれば幸いです。
 最後に当コンペに応募された高校生諸君は元より、ご指導にあたり多くの時間をつくってくださった教員の方々に感謝の意を表します。今後とも、若い芽が育つよう当フォーラムが主催する「高校生建築設計競技」に御理解、御協力をお願い申し上げます。

2012年3月23日
ものつくり大学21世紀型木造住宅建設フォーラム
コンペ審査委員長 
藤原 成曉(ものつくり大学 建設学科 教授)

新しい家づくりネットワークプロジェクト 第2回コンペ
テーマ <新しい伝統構法の家 2011>  講評/大島博明

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1位: 花内屋リノベーション
吉村 理/吉村理建築設計事務所

 伝統構法の家では、構造計画とデザインの表現が同一でありたい。生活の中心となる居間の壁及び天井 は、再生土による塗り壁であるが、ともに構造機能を併せ持ったものとして表現されている。同時にそ れらは地域性に配慮した湿度調整機能を持ったものでもある。通り土間と坪庭につながるこの空間で は、ひかりと風に溢れ、作者の目指す豊かな回遊動線が演出されている。家族の微笑みが見え隠れする、 魅力的な空間となっている。「本来この町屋が持っていた魅力をリノベーションにより、ただ取り戻し ただけである。」とする姿勢即ち自然と伝統への敬意をはらった姿勢が評価される。

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2位:ナガヤネ
安河内 健司・西岡 久実/一級建築士事務所 group-scoop

 景観及び環境との調和から生まれた断面構成はたいへんシンプルであり、明るく快適な空間を創り出している。明快なプランの中で、通り土間が平面構成を特徴づけている。リビングダイニングから通り土間及びキッチンへのレベル差は、生活領域に変化をもたらし、家族の新たな場を生むと考える。室内環境計画も十分に検討され、光と風の流れを考慮して決定されている。作者の言うこの敷地を特徴づけているとする「畑」との関係も具体的に見たい。しかし、刻々と変化するこの住宅地にあっても、木と漆喰などの自然素材に包まれたナガヤネの空間は、家族の生活を暖かく包むことだろう。

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3位:世代を超えて受け継がれる家づくり
野尻 稔/野尻稔建築設計事務所

 持ち山の木を使った家づくりは、伝統構法の家づくりとして、理想形である。里山の景観を包み込む形 の「くの字」平面は、里山の地形や気象と応答した形である。里山の景観を楽しむために2階に主空間 があるが、将来の高齢時対応や2世帯住宅対応まで考えたサスティナブルな空間づくりがなされてい る。スクラップアンドビルドの世相の中で、地域に根差し、地域に支えられて作られたこの家は、世代 を超えて受け継がれ、強いアイデンティティをもつ、文化に根差したものとなる。この家は、大地のエ ネルギーを宿しながら、匠達の技を語り、生活の豊かさを長く語りつないでゆくだろう。

新しい家づくりネットワークプロジェクト 第2回高校生コンペ
テーマ <近隣の森の木を使用した家 -環境型最小限住宅->  講評/藤原成曉、大塚秀三

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1位:深谷パッシブナガヤ
高田 彬寛/埼玉県立熊谷工業高等学校

 住まい手の構成と家の使い方を最小限空間の中に様々なシーンの展開及び多様な空間のあり方を分かり易く表現し ている。完成後のメンテも含めてエコ素材に配慮している点も好ましい。昨今、当たり前に使用される CAD と一 線を画し、フリーハンドによる図面表現とイメージスケッチが相まって、伝えようとする作者の熱意が感じられる。 一方、各室の面積配分と動線計画など改善点も抱えているので、模型を制作して確認し図面にフィードバックする と良い。【藤原】

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2位:タテの筒 / ヨコの筒 ~自然環境と応答し風を吸い込む家~
吉田 拓矢/北海道札幌工業高等学校

 スケールに見合った最小限空間をタテに積み、ヨコに並べることで相応しい住まい環境をつくり上げている点が評 価された。1階部分を極力最小に押さえて建物を持ち上げ、地面から離すことでプライヴァシーの確保と眺望が獲 得され、更に大地を荒らさずに済むのでこの計画案は、斜面地の場合においても有効であろう。一方、課題として は鉄筋コンクリート造または鉄骨造の様な断面をしているので、木構造のイメージで表現することが重要である。【大島】

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3位:かぐや姫からの贈り物
岡 太樹・栗木 一起・島原 遼・高田 隼弥・橋本 真弥・安田 満胤・矢野 拓也/京都市立伏見工業高等学校

 竹林の中に円形でプランニングすることで外部環境と融合している。フレキシブルなワンルーム空間に自由かつ適 度に家具が配置され、場を形成している。水廻り空間や、インテリアとエクステリアとの関係を再考することが望 まれる。最小限空間や自然環境を手近に体験が出来る作品なので是非、原寸でつくって欲しい。【藤原】

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佳作:呼吸する家 ~ GROW WITH NATURE ~
福永 真也/愛知県立愛知工業高等学校

 ロケーション設定と樹高を超えないヴォリューム構成により、自然に同化した快適な住空間の様子が伝わってくる。水彩を中心とした表現も作品の魅力を増幅させている。近隣の森の木の利用についてのさらなる提案が欲しいところである。【大塚】

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佳作:Home Restoration
藤波 友希/静岡県立科学技術高等学校

 住まい方や環境技術について丁寧に表現されており好感が持てる。また東日本大震災の復興が急がれる中、瓦礫を再利用する提案も時宜を得ている。フラードームを彷彿とさせるフォルムが直喩に過ぎる点が残念なところである。【大塚】

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佳作:ぶどう畑で暮らす −自然の中で表情を変えるパレット−
井部 雄介/新潟県立上越総合技術高等学校

 有機的なフォルムを極めて上品で繊細に表現しており、作者のセンスの良さが感じられる。またワイナリーを題材としている点においても作品のイメージを昇華させることに成功している。さらにプランを詰めればなお評価できる。【大塚】

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佳作:融 −木を自給自足する2戸1の住宅−
吉岡 宏晃/三重県四日市工業高等学校

 2 棟を大屋根で連結し都市のランドスケープとしての一体性を確保しつつ、樹木の茂る中庭を媒介とした隣人との緩やかな関係性が 構築されている。必ずしも最小限住宅と言えない点に工夫の余地が残される。【大塚】

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佳作:森へ恩返し
大滝 康平/埼玉県立熊谷工業高等学校

 高床によってアイレベルを森と一体化させようとする試みに加え、樹木を中心とした六角形プランにより自然との融合が積極的に図られている。六角形のセル構成に囚われたためか分節化された内部空間の融合にもさらなる配慮が望まれる。【大塚】

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佳作:平安物語 ~千年の時を超えて~
伊藤 直宏/愛知県立愛知工業高等学校

 地場産の檜を使った伝統木造建築を素直に表現しており、渡階段がさながら奈良・長谷寺の回廊のような雰囲気を醸成している。いささか伝統木造建築に傾倒している感が否めず、現代的に解釈した提案も拝見したいところである。【大塚】

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佳作:FREE HOUSE
泉谷 晶子/秋田県立横手清陵学院高等学校

 エコハウスを成立させる技術とこれを用いた建築を素直に表現している。少々生真面目な提案に留まっており、動く収納壁と住まい方の関係性など、作品固有の魅力を最大限伝え得る表現力を磨きたい。【大塚】