新しい家づくりネットワークプロジェクト 第3回コンペ
テーマ <新しい伝統構法の家 2012> 講評/大島博明
1位: 木と土のある暮らし -土間・土壁・置き屋根による自然共生住宅-
金田 正夫/有限会社無垢里 一級建築士事務所
第一に、伝統工法である土間・土壁・置き屋根による低気密高蓄熱工法を科学的に立証する姿勢が評価された。快適な温熱環境づくりを伝統工法に求めながら、温水配管による土間蓄熱、根太間モルタル蓄熱などの新たな設備手法に取り組んでいる。第二に、現代の「結」として、小舞掻きと荒壁塗を復権させた点も、評価された。デザイン性において、審査員の評価が分かれたが、ものつくり大学の求める「新しい伝統構法の家」の審査基準に合致したたいへん挑戦的な力作である。5年後、10年後とすまい手の「生活感」を継続してお聞きしたいと思う興味ある作品である。
2位:風塔の家
野尻 稔/野尻稔建築設計事務所
上州の気候風土と建築文化から導き出されたこの住まいは、風をメインテーマに構成されている。2層半の「風の塔」が、四季を通して土地の風を巧みにコントロールする仕組みづくりは、有効と考えるが、家自体がカシグネとなることによる2階寝室部分の音環境が心配である。上州のからっ風は、たいへん強い。光庭を中心に置き、間仕切りにより4つの部屋が夏は開き、冬は閉じる可変性のある空間づくりは、パッシブデザインの基本となる。限られた敷地を有効に生かしているが、今後の植栽計画による内外部空間の演出に期待したい。地域材の活用も、評価される。
3位:八ヶ岳の山荘
森 清敏・川村 奈津子/株式会社MDS 一級建築士事務所
環境を形にするオーソドックスな建築手法にたいへん共感する作品である。形態に媚びる作品が多い中で、環境を分析し、環境因子を巧みに操作しながら、豊かな空間を作り出している。八ヶ岳の様々な風景と一体化しながら、季節を楽しみ、ひかりと影で演出された空間構成は見事である。八ヶ岳の自然を楽しむために用意された和モダンの空間は、素材感を大切にした、周到に練られた素材によって作られている。四季折々楽しめる、何度も訪ねたくなる山荘である。障子のある主開口は、ひかりの様々な制御が可能であり、より繊細な演出を可能としている。風景と共に成立している室相互の連続感を確認したい。
新しい家づくりネットワークプロジェクト 第3回高校生コンペ
テーマ <近隣の森の木を使用した家 -住み続けられる家-> 講評/大島博明、大塚秀三
1位:陽に包まれる空間
古川 亮・松本 祐輝/神奈川県立神奈川工業高等学校
本設計競技のテーマについて、十分に研究し、よく練られた案である。設計力及び建築知識も十分あり、たいへん実現性の高い秀作である。住み替えについて、真摯に考え、収納壁による間仕切り変更という、基本的な手法で解決した。水廻りコアを中心に置き、外壁と内壁の2重構造を採用し、冬と夏の温熱環境を制御しながら、ひかりに満ちた中間領域を創り出している。この中間領域は、ワンルーム空間の動線計画を解決しながら、環境型住宅のメインテーマを構成している。【大島】
2位:~続の棲家~
福田 奎也/埼玉県立春日部工業高等学校
家族構成の変化だけでなく、地域コミュニティの変化も同時に考察しながら、「続の棲家」をとらえている点がよい。空間構成としては、水廻り空間を固定し、中心にひかりと風を取り入れる「かまど空間」をつくり、テラスのフレキシビリティが、すまいの可変性を可能にしている。桐職人家族の温かい人間関係と愛情を感じるすまいとなっている。家族の成長と地域とのふれあい及び桐を中心とした生命の活動が、様々な生活シーンとして描かれている。【大島】
佳作:Endless House 親から子,子から孫へ家を,伝統を,繋いでいく―.
吉田 聖/国立明石工業高等専門学校
地場産の和紙で構成された空間の雰囲気を,デジタルツールを用いた淡い色彩使いにより魅力ある表現にまとめている。ただ,現実離れした急勾配の屋根など,立・断面構成の詰めにやや甘さを感じる点が惜しいところである。【大塚】
佳作:森と共に生きる家
大石 理奈/静岡県立科学技術高等学校
丁寧なタッチのドローイングによって作品の意図をうまく表現できている。可動式の家具化されたボックスによって住空間を可変できる点が面白い。ボックスのサイズが最小限に過ぎるのが惜しい点である。【大塚】
佳作:羽子板職人の家 ~続いていく技術~
後藤 琢哉/埼玉県立春日部工業高等学校
羽子板職人を題材として,師弟関係の持続性の観点から住空間を構成している点に独自性が見出せる。デジタルツールによる表現で統一されており,スキルの高さが垣間見られる。弟子が使用する空間のスケールに少々無理がある点が惜しいところである。【大塚】
佳作:思考×試行 ~七割が動く家~
髙畠 亜由美 /鹿児島県立隼人工業高等学校
スケルトンインフィル住宅の考え方を基本に,家具の配置により空間構成を可変させることを目論んでいる。家具の配置を変えた場合の展開を示すと,より本提案の魅力が増すと思われる。【大塚】