執筆コラム 3分間でわかるドラッカー [259]
−「経営学の巨人」の名言・至言(週刊ダイヤモンド)

価値を生み出すのは人
人を生み出すのは 理念と価値観

『P.F.ドラッカー −理想企業を求めて』より



「マネジメントとは人にかかわることである」 (E.H.イーダスハイム著『P.F.ドラッカー ー理想企業を求めて』)

五〇年前、ニューヨーク大学の大学院でドラッカーに 教わっていた学生の一人に、やがて政界最大級の アルミメーカー、アルコア社の会長兼CEOに就任した ポール・オニールがいた。 オニールは、実業家としての成功はひとえに ドラッカーのおかげだったと言っている。 ドラッカー伝を書くべく、ドラッカーへのインタビューを 一年半にわたって続けいたイーダスハイム博士が、ドラッカーが 亡くなったあと、このオニールに会いに行った。 オニールは、待っていましたとばかりに 今では黄色に変色した紙片を取り出したという。 それは、会社がどれほどのものかは、 そこに書かれている三つの質問に、 社員のどれだけが、なんのためらいもないしに、 はいはいはいと答えられるかによって わかるという、 授業で教わったドラッカー直伝の リトマス試験紙だった。 「あなたは敬意をもって遇されているか。 あなたは応援されているか。あなたが貢献していることを 会社は知っているか」 この話には続きがある。 しかしこの三つの質問のあまりの強烈さに、 私は、その続きを紹介するのを忘れることが多い。 アルコアのCEOに招聘されたオニールは、 この三つの質問を念頭に、 同社を世界初めての労働災害ゼロの 会社にしようとしたのだという。 「本当に個を大切にするのならば、 仕事中にけがなどさせてはならなかった。 私はドラッカーの教えに従って、 仕事でけがなどしない会社をつくろうと思った」 もちろん、このオニールの夢は、 社内だけでなく、産業界からも疑問視された。 アルミの精錬加工という産業の性格上、 労災ゼロは無理とされた。 ところが、同社の労災発生率は急降下。 生産性は急上昇。 人への敬意と、安全と、業績とのあいだに どのような関係があるのかはわからない。 しかし、たとえ数式をもって示すことはできなくとも、 関係はあったと見るべきだろう。 「事業を成功させるには、社員が最高の仕事ができる環境をつくらなければならない」 (『P.F.ドラッカー −理想企業を求めて』)





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