前口上[2006-10-18]
このレポートは、ものつくり大学建設技能工芸学科で2006年度に開講した「基礎インターンシップ」履修生のひとりである、富田晴貴くんから提出されたものの一部を、担当教員である土居がhtmlに変換し若干の修正を施したものです。インターンシップの様子を具体的に伝えてくれると土居が判断し、土居研究室のサイトで紹介しています。
加筆修正[2008-01-29]
インターンシップ関連レポートの増設に伴い、コンテンツタイトル等一部加筆修正しました。このレポート本文内容には変更ありません。
加筆修正[2008-09-24]
サイト構成の大幅変更に伴い、リンク先等一部加筆修正しました。このレポート本文内容には変更ありません。

インターンシップ研修レポート

目次(小見出し)


2006年度のかみえちご山里ファン倶楽部におけるインターンシップでは、茅葺屋根の葺き替えが主な作業でした。以下ではその手順を紹介します。


茅葺屋根の修復作業

茅で葺かれた屋根は、葺き方・勾配・厚さ・立地条件・風あたり・手入れなどにもよりますが、意外と丈夫で長持ちします。また、雨が降ってもさらさらと水を下に落とし、雨音がほとんどせず、断熱性・保温性・通気性・吸音性などに優れています。

しかしながら茅葺作業は規模が大きく、日数・人手・費用などがかかります。そのため現代では、屋根を茅葺でつくることはほとんどなくなってしまいました。

こうした中、かみえちご山里フャン倶楽部では、この地域の人達でもつくらなくなった茅葺屋根を復活させるべく、数年がかりで職人さんを探し、茅を確保し、人手を集め、活動を続けています。

茅葺作業の手順を聴く

上の写真は、かみえちご山里ファン倶楽部の取り組みのひとつ「ことこと村づくり学校」の様子です。イベントに集まった人達が、トタン板をはがした茅葺屋根を前にNPOスタッフ(山根さん)の説明を受けているところです。

足場は、皮を剥がした杉材を荒縄で縛り固定したものです。足場の上までの高さがおよそ3mほどあります。現代の建設現場はもちろん、大学の実習においても、足場は単管・鋼製布板・筋交い・ジャッキベース・・・など既製の金属製足場材料を組み立てて造られます。そのため今回のような手作りの木製足場は、当初少し心配でした。しかし、こうした足場こそが建設の基本です。おそらくこのような足場で、昔の建造物は臨機応変に造られてきたのです。

しかもこの地域は豪雪地帯なので、一般的な住宅の屋根もかなり傾斜がありますが、茅葺屋根はさらに傾斜がきつく、足元が急勾配になります。隣の赤い屋根の家と比較するとわかりやすいでしょう。それに加え、茅は自然素材であるために弾力性があり、足元が不安定です。

まずは古い茅を取り外し、それから新しい茅を葺いていくことになります。


折り茅をつくる

折り茅をつくる

長茅を折って束ね、藁で結んで折り、茅にする作業です。この折茅を作ることが、茅葺屋根の基本だそうです。単調な作業であっても、これがなかなか難しいです。イベントでは、多くの人が折り茅を作るため、できた折り茅の長さや束の大きさもまちまちとなります。職人さん曰く、折り茅が上手に作れるようになったら、一人前なのだそうです。座った状態で長時間この作業を行うため、足が痺れて痛くなります。

古茅外し

古茅外し

トタン板を剥がした茅葺屋根から、古い茅を取り外していく作業です。ぎっちり詰まっていて長い時間が経過しているため、茅を引き抜くのはなかなかの重労働です。下から順々に取り外していきます。茅はくすんでいて湿気っぽいです。大量の茅ゴミが出ますが、屋根の左下にまとめて置いておきます。


茅運び作業

茅運び作業

下から長茅と折り茅を階段を使って担ぎ上げて茅置き場に置く作業です。ここに一旦置いておきすぐに屋根に葺けるようにしておきます。足元が丸木のため踏み抜く恐れがあり、注意が必要。長茅と折り茅を分けておく。茅運びは自発的にかなりの量をこなした。


茅葺き

茅葺き

茅葺屋根は伝統技能であり、これといったマニュアルがあるわけではありません。この茅葺職人の先生はあまり喋らないないので、先生の作業をサポートしながら、どのように作業をしいくのか、よく見て勉強しなければなりません。


おさえぶち

おさえぶち

「おさえぶち」と呼ばれる雑木の枝や根曲がり竹を用いた棒で押さえつけ、下地に番線でくくり付けます。このようにして屋根に茅を固定していきます。

おさえぶち(力縄)

結びつけて余った番線に、力縄(=茅を踏んで締め付けるときに人が握るもの)をとりつけます。このとき縄が番線から外れないようしっかりと取り付けます。力縄を持ち、ぬいぶちを思い切り踏みつけ、葺いた茅を締め付けていきます。その際、2つの力縄を持ち、踏みつけてから力縄を引っ張るようにすることがたいせつです。掛け声などをかけてやりました。


足場の取り付け

足場の取り付け

足場は、杉の皮を剥がした丸太に荒縄を結びつけて固定して作っていきます。3〜4人で作業をしていきます。だいたい2本の丸太を繋ぎ合わせたくらいの長さで作ります。この足場を角材などで作ると、足場と茅の間に足がはまってしまったときに、自重で締め付けられ危険です。なので、丸太で足場をつくる方が良いそうです。

足場の取り付けより高く

茅が葺けると、下から順々に足場をつくっていき、だんだんと高いところで作業していくことになります。高くなっていくのはうれしいものです。


茅葺き作業

茅葺き作業に挑戦

作業を進めていき何段かできると、こんどは学生が茅葺きに挑戦です。まず折り茅を葺き、その上に長茅を葺いていきます。とにかくやってみるわけです。本来このような茅葺の作業は、わずか2人ほどの職人で仕事をしてしまうそうです。

古茅も残しながら葺き替え

古茅を取り外し、新たに茅を葺いていきますが、全ての古茅を取り外すというわけではありません。全ての茅を取り外すと、横屋中と縦屋中が出て、屋根裏が出てきて踏み抜いてしまいます。下の層や厚みなどを考慮し、使える部分は古茅も使いながら、新しい茅を葺いていきます。


茅の固定

茅の固定

折り茅・長茅と葺いて、縄で縛りつけて固定していきます。この縄を(藁を掻き分けつつ)下のおさえぶちに通す作業がなかなか大変でした。素手でこの作業を行うと指が痛くなります。また、荒縄の結び方もしっかりと覚えなくてはいけません。


茅を揃える

茅を揃える

葺いた際に、茅の外側に出てしまった下の部分を、槌で叩いて均一に整えていきます。一見単純な作業ですが、叩きすぎると奥へ入りすぎてしまい、せっかく葺いた茅が台無しになってしまいます。微妙な力加減が大切な仕事となってきます。


縄通し

縄通し

茅を素手で掻き分け、荒縄を中へ入れて引っ掛けていきます。葺かれた茅は意外と堅く、この作業はかなり大変です。正直なところ手がとても痛いです。


縄取り

縄取り

タカの中に入って行う作業です。この中は暗く、長い歳月をかけて付着した煤が、床や天井など全ての物にくっついているような気がします。屋根の上からは、竹針で荒縄が突き刺されてきます。この縄を取って、上の横屋中にひっかけます。狭い場所なので危険です。確実に汚れます。映画トトロの「真っ黒くろすけ」がいそうです!


おさえぶちの固定

おさえぶちの固定

おさえぶちを固定する作業です。力縄をしっかりと握り、ぬいぶちを思い切り踏みつけて茅を固定します。このとき隣の人と呼吸を合わせる必要があります。そのため屋根の茅葺きには、掛け声というか歌があるそうです。


足で踏む

掛け声とともに足で踏む

屋根の茅葺き作業も終盤になり勢いが出てきました。2つの力縄をしっかりと握り、めいいっぱい踏みつけてから、力縄を強く引っ張ります。このとき、掛け声をかけます。「よ〜いやさ、よ〜いやさ、も一つおまけに、も一つも一つ。」などいろいろです。


茅葺屋根はイベント

茅葺はイベント

屋根に茅を葺いていくことは、高所作業であるために、常に危険と隣あわせの作業です。晴れた日の横畑の景色はよいのですが、炎天下での長時間の作業はなかなかこたえます。


さし止め

さし止め

最後は職人さんが、切り茅というものを作り、それを屋根のいちばん上の隙間にさし込んでいきます。この作業が茅葺の最終作業となります。

この後刈り込みバサミで茅を切り揃えます。

茅の切り揃え

新しく茅を葺くことができました。天気が良く気持ちいいです。


鋏の研ぎ

鋏の研ぎ

茅の刈り込み鋏は、研ぎがとても重要です。上手く研げるかどうかで作業の効率は変わってきます。目の粗い砥石から徐々に細かい砥石に変えていき刃先を仕上げていきます。使っているうちに刃こぼれするので、使う前には必ず研がなければいけません。


茅の刈り込み

茅の刈り込み

茅を鋏で刈り込んで整えていきます。鋏の切れ味や切り方にもよりますが、実際に作業してみると意外と堅くて上手く切るのは難しいです。切っていくと、パラパラとかすが落ちていき、切れた面がなめらかになるので、作業しいていて面白いです。切り過ぎてはいけないので、慎重に作業しなければいけません。


刈り込みされた茅葺屋根

足場を取り外し、刈り込みバサミで茅を切り整えると、きれいになりました。

切り整えられた屋根

若干の感想と考察

茅葺き作業は、いくつもの技術を組み合わせて、それを何回もくりかえしていきます。

準備の段階から屋根の上での実際の作業まで、束ねる・結ぶ・整える等どの作業も、動きの取りずらい場所での作業に適した知恵があります。

「昔はこのようにして茅葺屋根を作っていたのか」と、実体験としてその構造や造り方を知ることができたことは、学生として今の時代、とても貴重な経験になりました。

現代では、茅葺屋根自体あまり造られなくなってしまったので、茅葺き屋根職人さんも、何十年ぶりかで仕事をしたようです。また、イベントで多くの参加者がいて、このような屋根を造ったということに意味があると思います。昔の伝統技能や技術は残そうという強い気持ちがなければいずれは消えてしまうものが多くあると感じました。今回のような茅葺においても技術を持った職人さんは高齢化しているというのが現状です。そして、伝統技能などは後継者を育成するにしても、強い志を持った若者がいなくてはどうにもなりません。

したがって、伝統技能や技術などは、映像や文章などの媒体を利用して残していく必要があるものだとも思いました。

この茅葺屋根はイベントであり、多人数参加の作業であるため、できた建設物の精度や出来栄え如何よりも、人を集め、このような活動を行い、実際にものをつくり、記録し、保存し、次の活動へと繋げていくものなのだと思いました。

しかし今回は、刈り込みが途中の段階で研修終了となってしまったので、この作業に携わった人間としては、メインの作業であっただけに残念な気持ちがあります。ただ、この作業も実験的な側面があります。職人さんにしても、イベントに集まった人にしてもその人達が、経験したことのない大きな活動なのです。実際に作業してみなければわからなかったことが、スタッフにも職人さんにもたくさんあったようです。

今後、もしかしたら茅葺屋根の必要性が見直されることがあるかもしれません。

一本一本の茅の大きさや形はばらばらでも、集めて重ねて整えることにより、このようにきれいな屋根になることを体験できたことは、ものつくりを学ぶうえで良い勉強になりました。


(c)富田晴貴 (質問は土居浩まで) doi@iot.ac.jp ものつくり大学 建設技能工芸学科
更新日:2008-09-24