- 前口上[2008-01-29]
- このレポートは、ものつくり大学建設技能工芸学科における2007年度開講「基礎インターンシップ」および「建設コミュニケーション4(レポート)」履修生のひとりである、土田祥彬くんから提出されたレポートを、担当教員である土居がhtmlに変換し若干の修正を施したものです。インターンシップの様子を具体的に伝えてくれ、なおかつレポートのお手本としても適切だと土居が判断し、土居研究室のサイトで紹介しています。
- 加筆修正[2008-09-24]
- サイト構成の大幅変更に伴い、リンク先等一部加筆修正しました。このレポート本文内容には変更ありません。
今回、自分達インターン生が修復することになった炭焼き窯は、桑取市民の森(新潟県上越市)にある白炭窯である。作業は、地域の炭焼き名人である佐藤新治さんによる指導の下、かみえちご山里ファン倶楽部スタッフの二羽さんとインターン生4名で行われた。
炭焼き窯とは、文字通り炭を焼くための窯であり、二種類ある。黒炭を焼くための黒炭窯と、白炭を焼くための白炭窯である。黒炭窯は、窯の入り口を除くすべてが土でできている。白炭は、黒炭より高温で作るため、窯の壁や床の表面には石が使われている。床の場合、石ではなく耐火レンガを用いることもある。
形状は、上から見ると前後に長い楕円形である。天井部分はドーム状で「ハチ」と呼ばれる。標準的な大きさは奥行き2m、横幅1.4m、高さ1.5mである。また床は10分の1の勾配がついていて(奥が低い)熱が回りやすいようになっている。
設置場所は、材料調達が容易になるよう山の中に作られることが多い。そのため家から炭焼き小屋まで片道数時間という人もいるという話を、以前炭焼きをしていた中ノ俣の村人から聞いた。その村人の窯からは、ひとつの窯で15kgが5〜6俵取れたそうだ。
窯の修復で使った道具は手鋸・鉈・チェーンソー・軽トラック・ツルハシ・カケヤ・シャベル・バケツ・かご・小手である。詳しい説明は「3.どのような手順で修復するのか」の中で述べることとし、ここでは大まかな使い方について記述する。
今回行った作業の流れは、
である。なお8、9の作業は平行して行われた。切り出した木材は窯の中に入れハチを塗り直す時の型となる。作業は手鋸、鉈、チェーンソーを用いて行った。太い木はチェーンソーで、細い木は手鋸で切断した。切り出した木は広くて作業がしやすい場所まで運び出した。運び出した木は鉈で邪魔な枝を掃ってから1mの長さに切りそろえた。切り揃える時も鉈と手を使用した。鋸また、適度に曲がっているものは1mにはせず2mに切りドーム状の部分に用いるため取っておいた。
「木材の切り出し」で切りそろえた木材を軽トラックに積み込み炭焼き小屋の横まで運搬した。今回は軽トラックに山積みにして3往復かかった。
修復するために以前のハチを崩す。その時ひびが入って脆くなっている場所をツルハシやカケヤで叩き、破壊する。ハチは石の壁面の上まで崩した。この時石の上には土が残っていないようにする。
「古い窯のハチ崩し」で床に落ちた焼け土を、シャベルを使って運び出す。運び出した焼け土は修復の際に使う為、外には捨てず小屋の中に残しておいた。この焼け土は再利用するため、塊はカケヤで砕いて細かくした。砕いた焼け土は補修の時に練りやすいよう一箇所に集めて水をかけ水分を含ませておいた。
「古い窯のハチ崩し」で出た焼け土だけでは量が足りないため、焼け土と生土を混ぜて嵩増しをした。練った土は窯の内壁の石と石の隙間に詰められた。
1mに切った木材を窯の中に立てて並べた。始めに太いものを並べ、その隙間に細い木材を立てていった。この時、根の方を上にして並べる。これは根に近いほうは密度が高いため火を入れたときに燃えてしまわず、ゆっくり炭になっていく為である。
始めに2m長のカーブしている木材を中央に設置してからその左右に同じようにカーブしている木材を設置していった。太い木材(径5〜15cm)を先に置き、その隙間に細い木材(径5cm弱)を詰めていった。大まかな形が出来上がったら細い枝(径1cm弱)を細かく切り、隙間に詰めて滑らかなドームになるように積み上げた。この作業でハチの形が決まってしまうので全体のバランスを見ながら慎重に積み上げた。積み上げ終わったらむしろをかけて表面の凹凸をできるだけ無くした。
「古い窯のハチ崩し」で出た焼け土と生土と少量のセメントを混ぜて練った。ハチのベトつけはベトが大量にいるためできるだけ早く均一に練ることが必要である。練ったベトは人の頭くらいの大きさに固めてベトつけの作業をしている人に渡す。
「ベト練り」で、できた泥団子を型に沿って下から積み上げていく。この時空気が入ってしまうと強度が落ちるため空気が入らないようにすることが重要である。
「ベトつけ」が終わってから数日おいてから行う。数日置くことで盛った土の水分が少し抜けるため、そこをカケヤで叩いて締める。カケヤにはビニール袋などを被せておくとハチの表面を荒らすことがない。叩くときは一定の力で叩く。叩くときは半分ずつずらして叩くことで叩く深さを揃えることができる。
叩き締めが終わってからまた数日置き作業に移る。ハチの表面を小手を使って卵の表面のように均す。
表面が均し終わってから2ヶ月ほど乾燥させる。
十分に乾燥したら火を入れて、おかしなところがなければ補修完了。
なお「ハチの表面ならし」「乾燥」「火入れ」は日程の都合上体験することができなかったため、ここで記述した内容は事前に聞いていた話の内容である。
1章では炭焼き窯の補修のことではなく炭焼き窯はどのような種類があり、どれくらいの大きさで、どこにあるかということを記述した。炭には大まかに2つの種類がありその炭を焼く窯も2種類ある。白炭窯と黒炭窯である。窯の違いは表面が石であるか石でないかの違いである。石を用いた白炭窯の方がより高温で焼くことができる。材料は炭焼き小屋を山の中に作ることで集めることを容易にしている。
2章では使用した物について記述した。軽トラックを除くどの道具もホームセンターなどで購入することができ、炭焼き窯の補修には特別な道具は特に必要ないことがわかる。
3章では一部を除き実際に自分が体験した補修の手順を記述した。炭焼き窯は一見単純そうに見える構造だが実際は多くの手間をかけて作られている。材料は基本的に規格品を使うことはないのでその場で調整することが求められる。またひとりでこれらの作業をするのは非常に困難である。しかし実際に補修ができる人は炭を焼くことができる人よりも少ないだろう。つまり「補修の技術を持つ人数」≧「炭を焼くことができる人数」にしなければ確実にこの技術は失われていってしまうだろう。
自分が体験してきたことは他のインターンシップ先の多くの人が教えられる仕事と違い、教えられる技術を持つ人が少ない内容である。この数奇に感謝するとともにかじっただけの技術でも何かの形で他の人に伝えられたらいいと思う。