Activities & Works活動・仕事

2020年度

Ⅰ.TMD制振(Tuned Mass Damper)

地震大国の我国では、法隆寺・五重塔の「芯柱制震」に代表されるように、古来から制震構造が採用されてきました。現在では、地震だけでなく強風対策も含めて制振装置(ダンパー)の設置されていない超高層建物は皆無といって良いでしょう。このように制震(振)構造は、いわばポピュラーな技術ではありますが、その制動原理が広く知られているわけではありません。ここでは模型制作によって、制震(振)構造の原理を学習してみましょう。

TMDとは同調型マスダンパーの略称で、最もポピュラーな制振装置の一つです。建物の固有周期に同調してマス(重錘)が動くことで建物の振動エネルギーを吸収します。ここでは、同調マスの動きを「振り子」の揺れに代えた「同調型振り子制振模型」を制作して振動実験を行いました。なお、この模型の設計・制作方法の詳細は2020年度卒業研究にまとめて掲載されています。

実験では建物模型と同じ固有周期の振り子の場合(ケースⅠ(a):同調比1.0)、振り子の方が1.4倍ほど周期の長い場合(ケースⅠ(b):同調比1.4)の2ケースを比較しました。実験動画より、ケースⅠ(a)では振り子が建物に共振するため、振り子が振動エネルギーを吸収して大きく揺れ、建物を制動する効果が見られます。一方、ケースⅠ(b)では建物と振り子が各々の周期で振動するため、この制動効果が見られません。このメカニズムはブランコの制動原理に似ていて、実は身近なところで体験していることなのです。

TMDの実験ケース
TMDの実験ケース
ブランコとTMDの制動原理
ブランコとTMDの制動原理
ケースⅠ(a)
ケースⅠ(b)

Ⅱ.SMD制振(Sloshing Mass Damper)

SMDはスロッシング・マスダンパーの略称で、液体のスロッシング効果を利用した制振装置です。制動原理がⅠのTMDと同様であることから、同調型液体ダンパーTLD(Tuned Liquid Damper)と呼ばれることもあります。SMDでは、液体として水を用いるため取り扱いが容易なことから、主にタワーや高層建物の強風対策として実用化されています。ここでは、この「スロッシング制振模型(SMD)」を制作して、液体のスロッシング効果による制動原理を学習してみましょう。

SMDの振動実験では、建物模型の固有周期に同調して液体がスロッシングする場合とスロッシングが生じない場合の全3ケース(Ⅱ(a)~(c))を比較しました。実験動画から明らかなように、建物の固有周期に同調してスロッシングが生じる場合には、かなりの制動効果が見られます。このメカニズムを解明するため、ケースⅡ(a)のスローモーションビデオも用意しました。これを見ると、液体のスロッシングによる揺動壁圧は建物が振動するときの復元力と逆向きに作用していることが分かります。これがスロッシングによる制動原理で、このような簡単な模型実験からも確認することができます。

なお、SMD制振模型の設計・制作・実験方法の詳細は2020年度卒業研究にまとめて掲載されています。

SMD実験ケースの一覧
SMD実験ケースの一覧
スロッシングによる制動原理
スロッシングによる制動原理
ケースⅡ(a)
ケースⅡ(a)のスローモーション
ケースⅡ(b)
ケースⅡ(c)

A. 本学キャンパス諸施設の耐震診断

学生諸君が多くの時間を過ごすキャンパス内の建物施設、これらの耐震性能を把握する目的で耐震診断を実施しました。今年度は「管理・図書館棟(本部棟)」、「中央棟(講義棟)」、「ドーミトリ(学生寮)」の3棟について診断しました。診断結果は構造耐震指標(IS値)についてマップ化しました。

本学は2001年開校なので、全ての施設が「新耐震設計法(1981年6月施行)」で設計されています。したがって、IS値マップから分かるように診断結果のIS値は全ての建物施設において、新耐震設計法による耐震性能とほぼ同等とされるIS値=0.6を上回る結果となりました。なお、この詳細は2020年度卒業研究に掲載されています。

耐震診断の種別と方法
耐震診断の種別と方法
対象とした建物施設と診断種別
対象とした建物施設と診断種別
本学キャンパス諸施設のIS値マップ
本学キャンパス諸施設のIS値マップ

B. 本学キャンパス諸施設の予想被災度

AのIS値マップは建物施設の耐震性能を定量的に表示したに過ぎず、これが地震時の建物被災度を表しているわけではありません。建物被災度は当該地の地震動強さと建物の耐震性能との関係で決まるからです。そこで、ここでは地震動強さを気象庁震度階(5弱、5強、6弱、6強、震度7)で、建物の耐震性能を診断結果のIS値で評価した被害予想マトリックスから、本学キャンパス諸施設の予想被災度マップを作成しました。

被害予想マトリックスは、気象庁震度階とIS値から一義的に定まる建物の被害モードを無被害・軽微、小破、中波、大破、倒壊の5段階とし、予想される最大被害(90%非超過値)と最も起こりそうな卓越被害(50%中央値)の2ケースについて作成しました。検証事例として東日本大震災(本学地点で最大震度5強)に適用してみると、予想最大被害と予想卓越被害はともに「無被害・軽微」であり、実情に即した結果となることを確認しました。なお、この成果は2020年度卒業研究に詳細が記載されています。

本学キャンパス諸施設の予想被災度マップ(東日本大震災での検証事例を含む)
本学キャンパス諸施設の予想被災度マップ(東日本大震災での検証事例を含む)

C. 本学キャンパスの液状化危険度

ここでは本学キャンパス敷地内の液状化危険度についてマップ化します。本学キャンパスの液状化危険度については、すでに2015年度卒業研究で掲載済みですが、今回は「実験住宅棟」の建設に伴い、あらたに地盤調査地点(No.6)が追加されたことで、より汎用的で精度の高いハザードマップの作成を試みました。

液状化危険度の評価は日本建築学会「液状化判定指針」に準拠して行いました。そのマップ化にあたっては、Bと同様に5強以上の震度階に対する地盤調査地点の地盤沈下量(DS値)と液状化指数(PL値)の2種類について、液状化危険度を色分けして表示しました。作成したハザードマップを見ると、本学キャンパスでは敷地南側になるほど液状化危険度の高いことが分かります。なお、この詳細は2020年度卒業研究に掲載されています。

A~Cで示した各種ハザードマップは、いずれも本学における保全計画(平常時)や避難計画(災害時)での有効活用が期待されます。

本学キャンパス敷地内の地盤調査地点と地層断面図
本学キャンパス敷地内の地盤調査地点と地層断面図
本学キャンパスの液状化ハザードマップ
本学キャンパスの液状化ハザードマップ

複合災害下の避難所

今年度はコロナ禍のため、2017年度から継続して行ってきた東日本大震災の復興状況視察を中止しました。新型コロナウィルスによるパンデミックが終息しない中、日本では首都直下地震や南海トラフを震源とする巨大地震の切迫性が指摘されています。また、最近ではグローバルウォーミングの影響もあって、毎年のように大規模風水害が発生しています。

「3.11を学びに変える」のテーマ継続にあたり、今年度は埼玉県防災学習センター(そなーえ)殿のご協力の下、コロナ下で大災害が発生した場合の避難所の運営方法について調査しました。まず、注目したのは茨城県神栖市PFI事業「かみす防災アリーナ」の運営方法です。そこでは、「もしものときも、いつものところへ」をキャッチコピーに、ハード・ソフトの両面から前例のない一万人規模の避難所運営が模索されています。いま、複合災害下における避難所の問題が、新たな課題としてクローズアップされようとしています。なお、この調査研究の成果は2020年度卒業研究に詳細がまとめられています。

新たな避難所モデルとして注目されている神栖市PFI事業「かみす防災アリーナ」(掲載写真はかみす防災アリーナ殿のご提供による)
新たな避難所モデルとして注目されている神栖市PFI事業「かみす防災アリーナ」
(掲載写真はかみす防災アリーナ殿のご提供による)

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