Research研究活動

研究テーマ

1. 注視行動分析を用いた工場作業者の技能評価と技能伝承に関する研究

技能の習熟度と注視行動には相関があり,これを利用した技能の評価法を確立し,技能伝承の要点を抽出しようとするものある.また,注視行動分析は,ものづくりに関する様々な作業に適応可能であると考えられるので,機械加工以外の作業についても取り組んでいる.たとえば,ベルトコンベアで流れる製品の目視検査がある.近年は,画像処理技術とパラレルリンクロボットの組み合わせで,省人化が進んでいる分野であるが,コストや多品種少量製品への対応,これまでに経験のないトラブルには対処しにくいなどの問題があり,中小企業を中心とした多くの企業で,省人化が進んでいない.そして,この工程を担当するのは,女性のパート社員が多く,高度に熟練技能化されている場合があり,このような技能は,なかなか伝承されていないのが実状である.その他にも,運輸車両や航空機などの整備で行われる目視検査がある.熟練者や指導者による作業中の眼球運動分析のデータは,そのまま教材となり,適用範囲も広いと考えられる.

2. CBNによる生鋼材高速加工に関する研究

CBN(立方晶窒化ホウ素)を切削加工の工具材種として選定する場合,被削材が熱処理された高硬度鋼や,鋳鉄などであることが一般的で,生鋼材を加工する際に選択することはあまりない.しかし,技能五輪全国大会旋盤競技においては,その加工面の美しさや,高精度の加工が可能であることから,多くの選手が仕上げ加工用として使用していることが知られている.これはなぜなのかという疑問に応え,実際の加工現場で使用する条件を設定することがこの研究の主な目的である.CBNを利用することで,工具寿命の長時間化が図れれば,加工コストの削減につながるだけでなく,技能五輪での技術的成果や培った技能を実際のものづくり現場へ還元するための研究である.

3. 工作機械のレトロフィットに関する研究

「レトロフィット」という語源は,1960年代に米国で生まれ,主に汎用工作機械を改造し,NC化することという意味で使用されていた.しかし今日では,広い意味で新しい製品と古い製品を上手くマッチングさせ,機能向上をさせることの総称として使われている.すなわち,摩耗や劣化等により機械精度の落ちた,古いまたは廃棄された工作機械の精度を復元し,機能を向上させ,延命化することをいう.また,既存設備を再利用するので,新規に設備を導入するよりも安価であり,省エネルギーやリサイクルの観点からも環境にやさしいとされている.また,新規設備を導入するよりも非常に安価で,新規設備と同等の機能を持たせても,一般的に1/2から1/3程度の投資ですむといわれているが,一般企業において,盛んに行なわれている設備更新の手段のひとつとは言い難い.それは,レトロフィットの実用性と経済性のバランスが大きな問題であると考えられるからである.これらを踏まえ,どのような業種で,どのような生産体系の中で最も有効なのかを明らかにし,活用する手法を考案する.

4. 機械加工の新技術に付随する新技能の体系化と人材育成に関する研究

機械加工は,CNC工作機械の出現以降,大きく様変わりし,様々な生産システムが急速に発達した.そして,普通旋盤やフライス盤といった汎用機は,徐々に現場から消え,実際の生産活動で利用されることは少なくなった.しかし,汎用機の出荷台数はこの20年以上の間,ほぼ横ばいで,汎用機が現代でも必要とされ続け,これに関連する技能を伝承しようという取り組みが行なわれていることに他ならない.一方で,CNC工作機械は,熟練した技能をNCプログラムにより再現できるという理由で,技能者不要論が提唱されることがあった.しかし,新しい技術の出現に伴い,これに付随して新しい技能が生まれていることは,現在の一般的な考え方となっている.すなわち,技能者の育成は永遠に続くことになり,技能伝承を効率的に行なうことは,今後も重要な研究テーマといえる.本研究は,このような技能を新技術の開発段階から検討し,どのような技能が必要となるかを予測した上で,予め人材育成に活用するために体系化しようというものである.これが実現できれば,新しい機械加工技術の短期立ち上げや早期の定着化が計れると考えられる.

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