世界では地震の度に甚大な被害を被っている。途上国での地震による人的被害は、建物の倒壊によるものである。特に被害が拡大する原因として、庶民住宅の一般的な建設工法である組積造の脆弱性があげられる。これら組積造住宅の多くは地域の職人あるいは住民自身によって建設された技術者が関与していないノンエンジニアド建設である。

2015年のネパール地震でも、建物被害の大半はノンエンジニアド組積造住宅の被害であり、特に山間部の石積み組積造が全体の被害数の8割を超えている。震災から数年経った現在、ネパールでは耐震工法の普及に向けた復興住宅の再建事業が進んでいるものの、山間部ではアクセスも悪く、セメント等の建設資材の搬入も困難である地域が多いため、耐震性不適合の新築住宅や既存住宅が多い。これらの住宅に対して耐震補強工法の技術開発が喫緊の課題である。

この課題に対して現地で入手可能な材料によるローコストな耐震補強工法を実験研究し、脆弱な建物から人的被害軽減に向けた技術開発に資することを目的とする。

 途上国での地震被害が甚大になる原因をよく表している言葉がある。

It is not earthquake that kills, it is not even the buildings that kill, it is the poorly constructed buildings that kill.( 人々が犠牲になったのは、地震のためではなく、建物によるでもなく、建物の脆弱性によってである。)

これに対して、昨今の地震災害からの復興支援では、災害発生前よりも災害に強い社会を構築することを目的とした“Build Back Better(BBB)”という理念を掲げて活動が実施されている。

災害に強い社会を構築する上でも、最も優先されることは、災害からの人的被害減少である。建物の被害をなくすためには、建物を耐震化することでカバーできるが、途上国のノンエンジニアド庶民住宅は、その国の建築基準法の準ずる耐震性能を有する強度型の耐震化は、経済性等の理由ですぐには困難である。そこで仮に建物に被害が出たとしても、人的被害を減少できるような建築技術が必要である。

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