視覚障害者の転落・衝突事故防止デバイスについて

 国土交通省によると、2010~2017年度に視覚障害者が駅のホームから転落した件数は計605件、また、列車などと接触した事故は計15件、そのうち10人の命が奪われました。鉄道各社が転落の危険性を把握できるよう点字ブロックの整備やホームドアー・ホーム柵の設置を転落防止策として促進し、2020年にはホームドアーが設置されているのは855駅に達しましたが、今なお、駅のホームからの転落事故が後を絶ちません。駅のホーム以外には、階段や歩道と道路の段差などから転落する危険な箇所もあらゆる所に存在しています。さらに、歩行時に障害物や人とぶつかるトラブルも少なくありません。このような背景から、これまでに本研究室が開発してきた「視覚障害者のための転落・衝突事故防止デバイス」を紹介します(以下、本デバイスと呼びます)。
 近年、半導体やセンサーおよび情報通信技術(ICT)の高機能・高性能化と伴い、新しいものづくりの可能性があらゆる分野に広がっています。特に、本デバイスの開発にあたって、まず、周囲の物体の座標(ベクトル)に関するデータを取得するセンサーが小型でなければなりません。
 このため、今回、本デバイスに搭載されたセンサーは、レーザー光を用いた小型距離センサーLiDAR(Light Detection and Ranging)と3軸加速度・ジャイロセンサーMPU6050(DMP)を選定しました。ここで、両センサーからのデータ、すなわち物体までの距離とクォータニオン(回転軸回転角度)を元に物体の座標を特定し、段差もしくは障害物の有無を判断するという情報処理の層には処理量を適宜に考慮して、マイクロコントローラAVRマイコン(ATmega328P)を採用することにしました。AVRマイコンは段差もしくは障害物を検知した場合、視覚障害者に音もしくはバイブレーションなどの手段で通知することになっています。
 視覚障害者の利用を念頭に置いた本開発では、特に利用の形態に応じた「ウェアラブル型」と「白杖型」、2種類を制作しました(写真)。ウェアラブル型はヘッドフォンの装着のように頭から耳あたりに被せるだけで、デバイスを手に取らなくても良い「ハンズフリー歩行」を実現しています。そして、既存の白杖と本デバイスを一体化した白杖型は、視覚障害者にとって感覚的に取っ付きやすいメリットがあります。また、段差・障害物の検出範囲は両方とも半径2メートルのエリアをカバーしています。
最後に、視覚障害者の安全を守るための「イノベーション」が進んでいる中、一方では危険な状況下におかれている視覚障害者方々に“大丈夫ですか”の声かけ、私達一人一人の思いやりのある行動が大切だと思っている次第です。

※ 図:本デバイスの基本構成および周囲の状況(イメージ図)
※ 写真:ウェアラブル型(左)、白杖型(右)