2つのフラワーデザインアート ものつくり大学の最寄り駅である高崎線吹上駅の改札を出ると、コスモスなどの美しい花々でデザインされた柱が視線に入ります。北口案内には元荒川の桜並木、南口案内には水管橋、窓にはコウノトリや花などのデザインが描かれています。これらは、「地域連携」および「高大連携」の取り組みの一環として制作されたものです。ものつくり大学では、学生プロジェクト団体として「ものつくりデザイナーズプロジェクト」(以下、MDP)が登録されています。作品制作や学外展示、ヒーローショーを行うプロジェクトとしてデザイン活動をしています。2021年度に鴻巣市、観光協会からの依頼により「鴻巣駅自由通路フラワーデザインアートプロジェクト」として、鴻巣駅自由通路に作品を展示し、次に、2022年度「吹上駅自由通路フラワーデザインアートプロジェクト」を実施しました。2022年度のプロジェクトでは、鴻巣高等学校、鴻巣女子高等学校、吹上秋桜高等学校美術部の生徒さんが四季を通じた花やコウノトリ、桜、水管橋などを手書きおよびコンピューターグラフィックスにより作品を制作しました。それらの作品群を、本学のMDPメンバーがレイアウト構成をし、大きさや濃淡の調整を行いながら全体を完成させました。 吹上駅改札付近のフラワーデザインアートとMDPの内田颯さん(写真左)、松本拓樹さん(写真右) 高校の生徒さんには、授業やテスト、学校行事の忙しい合間を縫いながら、素敵な作品を制作してもらいました。生徒さんの提案で、窓をスライドし、2枚の窓を重ね合わせることで、デザインの見え方が変化するなどの工夫も凝らしています。さらに、朝と夜間では外光の差し込み方や照明灯の反射により、作品の輪郭が白く浮かび上がるなど、時間帯によっても窓のデザインについて異なる見え方が楽しむことができます。窓越しから視線をさらに運ぶと、青空や大きな雲が広がり、それらが窓に溶け込むことで、さながら窓自体が額縁のようにも感じられます。 「地域連携」と「高大連携」の成果 「駅の通路」という多くの方々が日常的に利用する空間に、これらの作品が末永く展示されることを嬉しく思います。MDPメンバーにとっても、やりがいのあるプロジェクトでした。プロジェクトを通じて、名所、史跡や地域を知ること、高校との協力による作品制作など、「地域連携」と「高大連携」の成果が正に統合されたものと感じています。吹上駅および鴻巣駅の近郊では、多くの名所、史跡および観光スポットがございます。散歩および観光の「出発点」として、吹上駅および鴻巣駅へお立ち寄りの際に、これらの作品についてもご覧いただき、楽しんでいただければ幸いです。埼玉新聞「知・技の創造」(2023年8月4日)掲載 Profile 松本 宏行(まつもと・ひろゆき) 情報メカトロニクス学科教授工学院大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。専門は機械力学、設計工学。 関連リンク ・フラワーデザインアートで駅利用者をHAPPYに!・ものつくりデザイナーズプロジェクト「MDP」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ
NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、大会優勝を目標にロボット開発に必要な知識や技術を自主的に学び、ロボットを製作しているプロジェクトです。 NHK学生ロボコン2023(2023年6月4日開催)に、4年ぶりに出場し奨励賞を受賞しました。 8月8日に掲載した「リーダー&操作担当者編」に続き、ピットクルーを務めた杉山丈怜さん(総合機械学科3年、上記写真:左)、篠木優那さん(総合機械学科3年、上記写真:中左)、茂木柊斗さん(情報メカトロニクス学科2年、写真:右)と、大学院生で後輩たちをサポートした荒川龍聖さん(ものつくり学研究科1年、上記写真:左)にピットクルーの役割や試合を間近で見て感じた思いを伺いました。 ピットクルーの仕事 -リーダー・操作担当者へのインタビューでは高校生の時からロボコンに関わっているメンバーがいましたが、皆さんは?【杉山】高校生の時は関わっていないです。ロボコンを始めたきっかけは、リーダーの川村君に誘われて、大学に入って何をするか決めていなかったので、ちょうど良いなと思って入りました。やっているうちにロボットを製作するのが楽しくなってきて、今も続けています。【篠木】私も大学から始めました。元々、どの大学に進学するか検討している時に、以前ロボコンがテレビで放送された時にものつくり大学の名前を見たことを思い出しました。オープンキャンパスに参加して、ロボット製作の楽しさを知り本学に入学しました。【茂木】私は高校からロボコンに関わっています。【荒川】私もロボコンをやりたくて、ものつくり大学に入学しました。ロボコンの常連校は国立大学が多くて、私立大学でロボコンに出場している大学はあまり無いんです。ロボットを作るには100万円、200万円かかります。さらに、国立大学のロボコンチームは、毎年100人単位で入部するので、一回もロボットに触ることができない人もなかにはいます。なので、ロボットを自分の手で作りたいと思っている人には、私立大学は穴場だったりします。その中で私たちは、ロボットを完成させるための加工技術が優れている大学なので、その点が評価されているのかなと思います。レーザー加工機などは本学くらいしか使っていませんから、他大学に羨ましがられます。 -大会出場までに大変だったことや、ロボットの製作でこだわったことはありますか。【杉山】私はうさぎロボットの射出機構の設計と各機構同士の組み付けを担当しました。大変だったのは、うさぎロボットが例年のロボットに比べて小さかったため、寸法の限界値も小さく、その中に機構を収めることです。こだわった点は、リングを射出するために使うローラーを3Dプリンタやゴム等を使って自作したことです。足回りのタイヤ等も3Dプリンタとゴムチューブを組み合わせて自分たちで作りました。【篠木】私は象ロボットの制御を担当していました。象ロボットの射出機構の角度が変わらない設計でしたから、その分回転速度を変えることで同じ場所からでもリングの飛距離を変えられるようにするのに苦労しました。2次ビデオ審査を提出する前から練習を始めましたが、射出精度を高めるため大会ギリギリまで何度も数値を変えてリングを放っては修正を繰り返しました。 練習中に機体を確認する篠木さん(左) 【茂木】私は両ロボットの加工を担当しました。2次ビデオ審査に合格して、本格的にロボットを仕上げる時に、象ロボットの精度を向上させるためにリング回収機構と射出機構が全て変更になり、加工を間に合わせるのが大変でした。 -ピットクルーはテストランや試合の時はどんな事をしているのでしょうか。【杉山】うさぎロボットは、基本的に想定したとおりに動いていました。大会前日のテストランでは、射出の回転数の調整や操縦者がロボットとポールの位置を確認していました。大会当日は変更を加えて不具合が出ても困るので、回転数などは変えずに、ロボットのネジがしっかり締まっているかとか、パーツが消耗していないかを確認していました。試合中、うさぎロボットが会場の電波干渉の影響でコントロールが難しくなってしまいましたが、その場では解決できなかったので、電波の干渉があまり起きない距離まで操縦者がロボットに近づく等の対策を考えていました。【篠木】象ロボットはテストランの時点では数値や制御を変える必要も無く、上手くいっているなと思いました。他の大学ではテストラン中にロボットが暴走したり、試合中に機体が破損した大学もありましたが、私たちのロボットはそういったトラブルはありませんでした。うさぎロボットは、電波干渉で止まらなくなりましたが、ぶつかって破損することが無かったのは不幸中の幸いです。 試合前に整列するメンバー(左3人がピットクルー) フィールド外の物語 -試合中はどんな気持ちでピットにいましたか。【杉山】「頑張れ!」という気持ちで試合を見ていました。私は設計がしたくてロボコンに参加しているので、操縦は得意な人に任せて、自分はサポートに徹しました。私がロボコンを始めてから、大会で自分たちのロボットを実際に動かせたのは初めてで、その楽しさを実感しました。他大学のロボットを間近で見られたことも大きな財産ですね。【篠木】私たちピットクルーは、外から試合を見ることしかできないので、少し怖いというか心配しながら応援するしかありませんでした。何か自分にできることはないのかと歯がゆい気持ちもありました。当日まで出場する実感がなかったのですが、会場で他大学のロボットを見て、やっと憧れの大会に出ていることに感激しました。【茂木】試合中は、フィールドの3人に聞こえているかは分からないですけど、声援を送っていました。NHK学生ロボコンの出場は良い経験になったと思います。高校からロボコンに関わっていますが、やっぱりNHK学生ロボコンはレベルが違うと感じました。来年は私がロボットを操作して、チームを勝たせたいと思っています。1年生の時のF3RC(エフキューブロボットコンテスト)では操作をしていたので、自分の操作技術を上げてチームをカバーしたいと思います。 フィールド外で試合を見守るピットクルー -院生としてサポートに回った荒川さんはどんな気持ちで大会を見守っていましたか。【荒川】2019年のNHK学生ロボコンに出場して、もう一度NHK学生ロボコンに出たいと思っていましたが、叶いませんでした。後輩たちが出場しているのを目の当たりにしてくやしい気持ちもありましたが、純粋に頑張れと思っていました。ルール上、大学院生がロボット製作をサポートすることはできないのですが、1次ビデオ審査や2次ビデオ審査の振り返りの時はアドバイスをして、ミーティングには参加していました。 練習中にアドバイスをする荒川さん(左) -体育館で練習をしている後輩を見ていてどうでしたか。【荒川】このまま上手く行けば良いところまで行けそうだとは感じていました。でも、大会を見ていて、電波干渉とか、ロボットが動かなくなるとかそういった会場でのトラブルは経験の差が出てしまうと思いました。私たちが2019年に出場してから、しばらく途切れてしまったのが悪いよなって。連続して出場できていれば、電波干渉も過去に経験していたかもしれません。やっぱり、出場し続けることが大切なのだと感じました。 -荒川さんが出場した2019年大会と比べて、今回の大会で何か感じたことは。【荒川】メンバー全体で設計の質や効率化について考えることができるようになってきました。後は、メンバー同士のコミュニケーションが変わりました。良くも悪くも学年関係なしに仲が良いので助かっています。以前は先輩後輩を意識していた感じでしたが、今は先輩にも容赦なく意見が飛ぶようになりました。特にここにいる茂木君とかは(笑)。 優勝に必要なこと -ピットクルーの皆さんは大会で何か課題を感じましたか。【杉山】今回、うさぎロボットは2台の試作機を作りましたが、他大学は何種類も試作機を作って戦略や戦術に沿った機体や機構を作っていました。例えば、ひたすら早く動くことを戦略にした場合、それに一貫した設計ができるようになれば、勝てる機体が作れると思いました。私たちもスケジュール管理をしっかりして、どんどん試作機の設計を進めていかなければならないと感じています。後は、設計についてもっと勉強して、強度を確保した上でコンパクトな機構を考え、基盤のスペースをもっと確保できるようにしたいです。【篠木】他大学の制御は半自動で効率化された動きですが、本学は完全手動なので、自動化していかないと他大学に追いつけないと感じています。私はプログラムに特別詳しいわけではないので、とにかく勉強するしかありません。センサーについても他大学は性能の良いセンサーを使っています。ただ、性能は良くても処理する技術がないと実力を発揮できないので、そういった点が課題になっていくと思います。【茂木】私たちは大体のパーツを自分で作っていますが、もっと既製品を使っていく必要があると思います。既製品を使えば効率的だし、規格が決まっているので代用がきくというメリットがあります。今までは金銭不足や自分たちで作りたいというこだわりで自作してきました。自作パーツのメリットは、設計に合わせて既製品にはない寸法のパーツを作れるところです。歯車一つにしても既製品を買うのか、3Dプリンタで作るのか。ちょっとの寸法のズレで誤差が生じてしまいます。どちらも一長一短がありますが、そこをもっと考えていきたいです。【荒川】実は、技術継承という意味でも既製品を使った方が良くて、「買える」というのが強いんです。自分たちで作る場合、技術が継承されていなかったら作れなくなってしまうリスクがあります。それならば、自分たちで作れる物の他に変える部品を増やしていったほうが良いのかなと思います。それと、今は予算がちょっと増えて、買える物が増えたから気になるものをバンバン買って、来年に向けて色々試している状況です。 関連リンク ・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!① ~リーダー&操作担当者編~・NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」Webページ・情報メカトロニクス学科Webページ・学生ロボコンWebサイト
NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、大会優勝を目標にロボット開発に必要な知識や技術を自主的に学び、ロボットを製作しているプロジェクトです。 NHK学生ロボコン2023(2023年6月4日開催)に、4年ぶりに出場し奨励賞を受賞しました。 今回は、チームリーダーの川村迪隆さん(総合機械学科3年、上記写真:中)、ロボットを操縦した岡本恭治さん(総合機械学科4年、上記写真:右)と藤野楓土さん(情報メカトロニクス学科2年、上記写真:左)に、大会出場に懸けた思いやこれからの目標をインタビューしました。 NHK学生ロボコン2023の競技ルールなどは以下のリンクをご参照ください。 【NHK学生ロボコン2023ルール動画】 https://youtu.be/eEnqrpgW8jU Road to NHK学生ロボコン2023 -4年ぶりのNHK学生ロボコンでしたが、出場が決まった時はどんな気持ちでしたか。【岡本】2021年度、2022年度と挑戦してきました(2020年度は新型コロナの影響でオンライン開催)がどちらも本戦には出場できず、私にとって今年がラストイヤーでしたから、出場決定の報せをチームリーダーの川村君から受けたときは、純粋に嬉しかったです。 【川村】私は高校生ロボコンに関わって、全国大会にも出場経験がありました。全国大会でしか味わえない緊張感を大学生になっても経験したいと思っていました。私はリーダーとして、大会事務局からの出場決定の連絡が届くまで毎日メールをチェックしていました。出場決定の連絡を何度も何度も確認しました。念願の大会にやっと出場できることを確信して感無量になりました。それからは、メンバー全員で出るからには結果を残そうという思いで頑張りました。 【藤野】私は中学・高校とロボコンに関わっています。なので、大学生になったらNHK学生ロボコンに出場することを目標として、大学を受験しました。本戦出場が決まった時は寮の自室でくつろいでいたのですが、メールを見た瞬間「え?マジ?よっしゃー!」って叫んでいました。そこでスイッチが入り、大会までに何をするか、どこを改善するか問題点を洗い出していました。高校生の時にロボットアメリカンフットボール大会の全国出場権があったのですが、残念ながらコロナ禍で大会が中止になりました。このまま終わってたまるかと、初めての全国大会で晴れの舞台だし、全力でいこうと意気込みました。 -本戦出場が決定するまでに苦労したことはありますか。【岡本】私は象ロボットの設計を担当しました。印象に残っているのは2次審査のビデオ提出締め切り前夜に、射出機構の角度を変更したことです。それまでは、射出口に対してリングを直角に送り出していたのですが、リングの射出距離が安定していませんでした。改善策をずっと考えていて、締め切り直前に角度を無くして水平にリングを送ってみたら、距離の差異が無くなりました。締め切り直前でCADの設計は間に合わないから、現場合わせでやることになるけど変更するか?というギリギリの選択でした。結局、ビデオの撮り直しはせずに、2次審査に通ることを前提にして作業を進めておき、2次審査が通ったらすぐに対応できるようにしていました。 【川村】個人的に大変だったのはビデオ審査の動画編集です。1次審査、2次審査とも私が編集を担当しましたが、今まで動画の編集をしたことが無かったので手探りで進めました。1次、2次とも5分の動画で、1次ではどういう機構を使うのかを紹介。2次では、ロボットの動きを見せて、1次からの変更点を紹介しました。自分たちのロボットを良く見せるためにどうやって撮影するか、編集はどうするかなど、他大学のYouTube動画などを研究しました。2本のビデオ制作にかかった時間は撮影・編集を含めて18時間ほどです。 【藤野】私は、うさぎロボットの制御や基盤をほとんど一人で担当していました。センサーで読み取って射出機構の回転速度を一定にさせるプログラムを急きょ導入しましたが、しっかりした制御システムが成り立っていない状況でプログラムを打ち込んでいたため、練習コートで調整しようとしてもなかなか上手くいかなくて苦労しました。リングを飛ばすローラーが、目標の回転数に到達するまでの時間を短縮させるため色々と手を尽くしましたが、私だけの知識ではなかなかできないこともありました。テストでは動いていたのに、ロボットに搭載したらセンサーの取り付け位置が変わって上手くいかないこともありましたし、ローラーなどの部品を付けて負荷がかかるとテストの時と変わってしまってセンサーが全く計算してくれないこともありました。大会直前まで何度も調整を繰り返していました。 練習中、動作を確認する藤野さん 予選リーグ第1試合 VS大阪工業大学-予期せぬトラブルの連続 【川村】1試合目は、象ロボットがまず手前のポールにリングを入れて、次にセンターエリアの手前の2本を狙い、最後に中心の1本を狙う予定でした。その間に、うさぎロボットがセンターエリアの奥の2本を狙う作戦でした。 今大会のフィールド ですが、象ロボットのリングが詰まってしまい、思うようにいきませんでした。練習では安定して動いていて、大会前日のテストランも問題は無かったのですが、いざ本番になると会場の雰囲気にロボット達も呑まれたみたいで、練習どおりに動かず焦ってしまいました。象ロボットが何発か放った後に詰まってしまい、さらに動かなくなってしまったのは致命的でした。 【岡本】リングが詰まった時はどうしようかと思いましたけど、リトライして再装填すれば数発は放てたので、いかに少ない発射数でポールに入れるかということだけを考えていました。 【藤野】うさぎロボットは会場の電波干渉の影響でコントローラーの電波がロボットに届かなくなり、ロボットが止まらなくなってしまった時は「なぜ⁉」って思いました。直感でコントローラーの電波が届いていないのかと思って、ロボットに近づいたら少しは操作できるようになりましたが、根本的な解決方法が無くて思うように操作できませんでした。 予選リーグ第2試合 VS長岡技術科学大学-今大会随一の大接戦 【岡本】長岡技術科学大学のロボットはリングの連射性能が凄かったので、これはもう「チェイヨ―(8つのポールの得点を全て獲得した状態)」されるかもしれないと思ったので、1試合目とは作戦を変え、相手にチェイヨ―させない戦略に基づいてセンターエリアのポールから狙いました。最後の最後で逆転されてしまいましたが、割と上手くいっていたと思います。 残り数秒まで大接戦だった第2試合 【川村】私は岡本さんの側で象ロボットが狙うポールの指示を出していて、藤野君には、象ロボットが狙っているポールとは別のポールを狙うよう指示していました。割と落ち着いて指示を出せていたと思いますが、会場の歓声で指示が伝わらないこともありました。これは来年度に向けての反省点です。 残り時間を確認しながら指示を出す川村さん(左) 【藤野】電波干渉の問題は2試合目も対策ができず、少しでもロボットに近づいて電波が届くようにするしかありませんでした。練習で想定していなかったトラブルが起きて、事前に考えていた作戦もできずパニックになってしまいました。 これからも優勝を目指して-We love スポ根 -練習の時、川村さんの楽しそうな表情。そして、予選で敗退した時の悔しそうな表情が印象的でした。リーダーとしての意気込みはどうでしたか。【川村】練習は、皆が楽しくできる環境にしたいと思っていました。高校生の時にロボットの操作を担当していて、嫌々やるより楽しくやった方がチームとして相乗効果があったので、今回も「楽しく練習する」をモットーにしていました。後は、メンバーが一人で抱え込まないようにコミュニケーションを取ることを心がけていました。本戦では、長岡技術科学大学が1試合目で勝っていたので、勝てれば1勝1敗で並び、予選突破の可能性が出てくるので何としてでも勝ちたいと思っていました。ところが、残り数秒で負けてしまい、他大学との実力の差を目の当たりにしました。負けず嫌いな性格も相まって悔しさが表情に出てしまいましたね。 体育館での練習の様子 -藤野さんはF3RC(エフキューブロボットコンテスト)優勝のメンバーですが、何か違いを感じましたか。【藤野】まず、観客が多くて会場の雰囲気がF3RCとは全く違っていました。競技は点の取り合いになる試合形式なので、相手からのプレッシャーが凄いです。また、ロボットのレベルが全然違っていました。NHK学生ロボコンは投てき競技が多いのですが、F3RCは投げることはあまり無いので考え方を大きく変える必要がありました。F3RCでやった事と同じやり方では太刀打ちできないことを実感しました。中学生の頃からロボットを作り続けていますが、大会に出る度に段々と難易度が上がり、アイデアの出し方や違う考え方がある事を思い知らされています。2年生のうちに本戦を体験することができて、いろいろな課題を見つけられました。残りの2年間は課題解決に全力を注ぎたいです。 -岡本さんは学生生活最後の年につかんだ出場でしたが、どのような思いで大会に臨みましたか。【岡本】4年生にして初めて出場できたので「あぁ、やっとか」という思いでした。1年生の時は新型コロナがまん延し始めた時で、ロボコンプロジェクトに参加できたのは夏からでした。NHK学生ロボコンもプレゼン形式のオンライン開催でした。2年生の時は無観客で開催されましたが、出場校が通常時より絞られていて私たちは本戦には出場できませんでした。3年生の時は2次ビデオ審査で落ちてしまいました。今大会では、ロボットの性能を最大限活かした操縦を心がけました。設計者だからこそ、特性の理解から特長を活かしつつ、短所も補いながら操縦することを念頭に置いて挑みました。後は、大会を少しでも盛り上げられるようにと思っていました。チーム紹介のビデオに出演しているのですが、顧問の三井先生がストーリーを考えて、私がロボットにされました(笑)。撮影の時は川村君と先輩がいたのですが、何回もダメ出しされて、階段を落ちるシーンは先輩の演技指導を受けながら10テイクくらい撮りました。 https://www.youtube.com/watch?v=IeIpz_GShx4 NHK学生ロボコン2023 チーム紹介動画 -今回出場して得られたものは。【岡本】技術面で言えば、他大学のロボットを間近で観れたことです。他大学は独立ステアリングを用いていて、足回りが強化されていたので、私たちも導入しようと取り組み始めました。独立ステアリングは、操舵と駆動を別々のモーターで制御して、進行方向にタイヤの向きを揃えることができ、タイヤの駆動力すべてを移動に費やせるため高速移動が可能になります。試合の仕方では、他大学は迷わずリトライをしていたのが印象的でした。私たちは4年ぶりの出場で経験者が少なかったのでリトライをした方が良い状況でも、もう一機のロボットが動いていたらリトライを躊躇して行動が遅れることがありましたね。 【川村】大会の雰囲気を感じて、場慣れできたことが大きいです。前回出場したのが4年前で、大会の進行が分からず、他大学の人に「どうしたらいいんですか」とか質問して右往左往していましたが、今回出場したことで後輩たちに伝えていけます。また、SNSで他大学同士が交流している様子を見て、私たちも技術を向上させるためにもっと交流会に参加しないといけないと思うようになりました。これまで、他大学主催の交流会に参加させてもらっていましたが、今後は私たち主催の交流会を開催したいです。 【藤野】過去のNHK学生ロボコンや高専ロボコンの映像を結構見てきましたが、他大学のロボットを直に見て、もう今までとは違うレベルに進んでいることが身に染みて分かりました、今の自分たちの技術を使いまわしているだけでは駄目だなと。新しい事に挑戦しないと今使っている技術もいずれ古くなり、他大学との差がさらに開いてしまいます。これから私たちが勝つためには、他大学の先を行く考え方や技術が必要です。 -優勝を目指すために変えていきたいところは。【川村】アイデアをしっかり再現できるように技術力を向上させていきたいです。今はインターネットから色々な情報を得られる時代ですから、情報収集をして、アイデアどおりに加工できる技術を身に付けていきたいと思っています。 【藤野】設計、加工、制御の3つの班のうち、私が所属する制御班の強化が必要だと思っています。制御班は人が少ない上に、技術が進化し、覚えなくてはいけないことが莫大になってきています。センサーの扱い方やプログラムの仕方も以前より複雑になっていて、プログラミングの経験が無い人が学ぶには範囲が広すぎる状況になっています。だから、初心者にも分かりやすく教えて、後輩を育てたいです。また、今までのプログラムのデータを再利用できるようにマニュアルを残していきたいです。 【岡本】資料をしっかり残すことです。プログラミングも設計も、ちゃんと動くシステムや機構をデータとして残しておけば、後輩も「このデータを使えば絶対に動くんだ」と安心して設計できます。そうすればもっと精度の高いロボットを作れるようになっていきます。これからも私たちはNHK学生ロボコン優勝を目指して活動を続けます。ものつくり大学に入学したら、ぜひロボコンプロジェクトに参加してください! 関連リンク ・ロボコンはスポコンだ!優勝目指してひた走れ!② ~ピットクルー&大学院生編~・NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ・学生ロボコンWEBサイト
「埼玉学」とは、埼玉県の歴史・文化・産業・地理・自然など、埼玉県に関するあらゆる分野を総合的に研究・探究する学問です。教養教育センターの井坂康志教授が新しい研究テーマとして連載を始めました。 今回は、埼玉県比企郡吉見町にある古墳時代の末期(6世紀末~7世紀末)に造られたとされる吉見百穴を訪れ、その不思議な魅力に触れていきます。 埼玉の不思議なもの 古人の建造物は、石や土、木とは限りません。岩の壁面に穿たれた「穴」もあるからです。吉見百穴の存在を最初に私に教えてくれたのは、学研という出版社が刊行していた「まんがひみつシリーズ」でした。シリーズ発刊は1972年だから、ほぼ半世紀前になります。自然や社会について子供でも理解できる工夫を見ると、仕事は丁寧、文章は達意、じつに卓越したクラフツマンシップの発揮された本に仕上がっています。 思わずため息が出るくらい、よくできたシリーズでした。たとえば、「野球」「切手」「宇宙」「からだ」「昆虫」など子供にとっては何ともいえず心惹かれるテーマ。実に軽快な手さばきで、面白おかしく編み直していく。私もかつては編集の仕事をしていたのですが、大いに脱帽させられたものでした。 とくに気に入っていたのは、『日本のひみつ探検』(「学研まんがひみつシリーズ29」)です。今みたいにスマホもネットもなかったので、暇さえあれば目を落としました。ただめくるだけのときにもありました。各ページ欄外には一つずつ「豆知識」が配されて、それだけで心が揺らめくのです。日本の地殻変動の目覚ましい働きから、自然的造形や名所旧跡などをとても親しげに、子供に寄り添って示してくれる。鬼の洗濯板、琵琶湖、青木ヶ原樹海、天橋立など、神秘の予感に彩られた地名はたぶんこの本で知ったと思います。 子供の頃の愛読書 一つが吉見百穴です(確か本には「ひゃっけつ」とルビが振られていた記憶がありますが、「ひゃくあな」が一般的のようですね)。古代の旧跡が自分の住む埼玉県にあるというので、根拠なく湧いてきた誇らしい気持ちだけは覚えています。いつか訪れてみたいと思いました。ですが、埼玉県民を悩ませる複雑怪奇の鉄道事情も相まって、訪れることができずに今日に至ってしまいました。(余談となりますが、私の勤める行田市の大学から隣町・加須市の実家に行くのに、高崎線の吹上駅まで15分、一度大宮まで出て宇都宮線に乗り換えて栗橋まで約1時間、徒歩で15分と計90分かかります。ちなみに、同地点から新宿までとほぼ同じ時間です。あるいは所沢あたりに出ようと思ったら、東京より遠い) 百穴を訪ねてみた 鴻巣駅からバスが出ていることは聞いていました。初夏の汗ばむような暑い日、吉見百穴を訪ねてみました。とにかく長い荒川の橋を抜けていきます。対岸まで続く緑の農地を眺めるともなく眺めながら、表れては消える田野や林と心の中で対話していると、唐突に現れたのが吉見百穴でした。日本の昔から名勝や景勝と言われている地はたいていは素朴な演出が施されているのが常ですが、完全にむき出し、空に向かって露出しています。 異様な無数の穴は唐突に現れる 川一つ隔てた向こうの灰色の岩壁には、蜂の巣のように詰まった感じの穴が目に入る。現代でいうところのカプセルホテルを思わせるところがあります。異様な穴がある時代に突如として出現したのに、どのような事情があったのは、私にはわかりません。実は、この疑問はすでに『日本のひみつ探検』を読んだ頃から私の頭を占めていました。 穴の用途については二つのまったく異質の説が存在していました。一つは、コロボックルの住処とする住居説、もう一つは墓所説です。両説は、考えるほど不明瞭になる気がします。ある時代にこのような構造物の突如とした出現について、どのような詳細があったのか、私は知りません。というか、知りたくもない。かくも得体の知れない穴についての説明など、どんな本を読んでも、人から聞いても、とうてい自分を納得させる自信がないからです。 異様な300の目 私はひたすら穴ばかり凝視していました。私のごとき素人には見当もつかないながらも、何か理解を求めてやまぬ生き物のように私には感じられました。あるいは、近くを流れる川向こうの平地の動静を監視している諜報施設のようにも。いずれにしても、近代に汚染された頭脳では及ばない、神妙な調和が付随するのは間違いなく、いつまでも見ていても見飽きることがなかった。これが本当のところです。見ているうちになんだか見られているのはこちらのほうではないか、そんな不気味な感覚に支配されるのです。穴の中に入ってみました。入口は大人一人がやっと入れるくらい、ひんやりとしている。 穴の一つに入ってみる 岩の壁面に穿たれた穴は300を超えるという。百とは「数の多さ」を意味する寓意でしょう。現実はその寓意をはるかに上回っている。しかもただの穴と言っても、300以上の穴を硬い岩壁に穿つ作業が生半可でない以上、何らかの強い意志と固く結ばれていないわけがない。思いつきの気まぐれでないことは確かでしょう。 もちろんその意思が何なのか、どこに通じているのかは私にわかるはずもないのですが、その場に身を置いて私が抱いた勝手な印象は、「戦への備え」でした。いくつもの穿たれた穴から敵方の動静を虎視眈々と監視する「目」です。第二次大戦中、軍事施設が存在していました。現在は柵で仕切られていますが、いくつかの穴の奥は軍需工場に通じていたとのこと。埼玉県には桶川や所沢、戦時中の空を担う重要施設がいくつも設置されていました。時に人は土地に一種のにおいを感じることがあります。古代人の感じ取ったものと同系の土地に染み付くかすかな匂い。そして張り詰めた決死の思い――。これらの穴は一体どこにつながっているのでしょうか。 ここはかつて軍事施設だった。怖い profile 井坂 康志(いさか やすし)ものつくり大学教養教育センター教授 1972年、埼玉県加須市生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。東洋経済新報社を経て、2022年4月より現職。ドラッカー学会共同代表。専門は経営学、社会情報学。 関連リンク 【埼玉学①】行田-太古のリズムは今も息づく
2つのフラワーデザインアート ものつくり大学の最寄り駅である高崎線吹上駅の改札を出ると、コスモスなどの美しい花々でデザインされた柱が視線に入ります。北口案内には元荒川の桜並木、南口案内には水管橋、窓にはコウノトリや花などのデザインが描かれています。これらは、「地域連携」および「高大連携」の取り組みの一環として制作されたものです。ものつくり大学では、学生プロジェクト団体として「ものつくりデザイナーズプロジェクト」(以下、MDP)が登録されています。作品制作や学外展示、ヒーローショーを行うプロジェクトとしてデザイン活動をしています。2021年度に鴻巣市、観光協会からの依頼により「鴻巣駅自由通路フラワーデザインアートプロジェクト」として、鴻巣駅自由通路に作品を展示し、次に、2022年度「吹上駅自由通路フラワーデザインアートプロジェクト」を実施しました。2022年度のプロジェクトでは、鴻巣高等学校、鴻巣女子高等学校、吹上秋桜高等学校美術部の生徒さんが四季を通じた花やコウノトリ、桜、水管橋などを手書きおよびコンピューターグラフィックスにより作品を制作しました。それらの作品群を、本学のMDPメンバーがレイアウト構成をし、大きさや濃淡の調整を行いながら全体を完成させました。 吹上駅改札付近のフラワーデザインアートとMDPの内田颯さん(写真左)、松本拓樹さん(写真右) 高校の生徒さんには、授業やテスト、学校行事の忙しい合間を縫いながら、素敵な作品を制作してもらいました。生徒さんの提案で、窓をスライドし、2枚の窓を重ね合わせることで、デザインの見え方が変化するなどの工夫も凝らしています。さらに、朝と夜間では外光の差し込み方や照明灯の反射により、作品の輪郭が白く浮かび上がるなど、時間帯によっても窓のデザインについて異なる見え方が楽しむことができます。窓越しから視線をさらに運ぶと、青空や大きな雲が広がり、それらが窓に溶け込むことで、さながら窓自体が額縁のようにも感じられます。 「地域連携」と「高大連携」の成果 「駅の通路」という多くの方々が日常的に利用する空間に、これらの作品が末永く展示されることを嬉しく思います。MDPメンバーにとっても、やりがいのあるプロジェクトでした。プロジェクトを通じて、名所、史跡や地域を知ること、高校との協力による作品制作など、「地域連携」と「高大連携」の成果が正に統合されたものと感じています。吹上駅および鴻巣駅の近郊では、多くの名所、史跡および観光スポットがございます。散歩および観光の「出発点」として、吹上駅および鴻巣駅へお立ち寄りの際に、これらの作品についてもご覧いただき、楽しんでいただければ幸いです。埼玉新聞「知・技の創造」(2023年8月4日)掲載 Profile 松本 宏行(まつもと・ひろゆき) 情報メカトロニクス学科教授工学院大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。専門は機械力学、設計工学。 関連リンク ・フラワーデザインアートで駅利用者をHAPPYに!・ものつくりデザイナーズプロジェクト「MDP」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ
NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、大会優勝を目標にロボット開発に必要な知識や技術を自主的に学び、ロボットを製作しているプロジェクトです。 NHK学生ロボコン2023(2023年6月4日開催)に、4年ぶりに出場し奨励賞を受賞しました。 8月8日に掲載した「リーダー&操作担当者編」に続き、ピットクルーを務めた杉山丈怜さん(総合機械学科3年、上記写真:左)、篠木優那さん(総合機械学科3年、上記写真:中左)、茂木柊斗さん(情報メカトロニクス学科2年、写真:右)と、大学院生で後輩たちをサポートした荒川龍聖さん(ものつくり学研究科1年、上記写真:左)にピットクルーの役割や試合を間近で見て感じた思いを伺いました。 ピットクルーの仕事 -リーダー・操作担当者へのインタビューでは高校生の時からロボコンに関わっているメンバーがいましたが、皆さんは?【杉山】高校生の時は関わっていないです。ロボコンを始めたきっかけは、リーダーの川村君に誘われて、大学に入って何をするか決めていなかったので、ちょうど良いなと思って入りました。やっているうちにロボットを製作するのが楽しくなってきて、今も続けています。【篠木】私も大学から始めました。元々、どの大学に進学するか検討している時に、以前ロボコンがテレビで放送された時にものつくり大学の名前を見たことを思い出しました。オープンキャンパスに参加して、ロボット製作の楽しさを知り本学に入学しました。【茂木】私は高校からロボコンに関わっています。【荒川】私もロボコンをやりたくて、ものつくり大学に入学しました。ロボコンの常連校は国立大学が多くて、私立大学でロボコンに出場している大学はあまり無いんです。ロボットを作るには100万円、200万円かかります。さらに、国立大学のロボコンチームは、毎年100人単位で入部するので、一回もロボットに触ることができない人もなかにはいます。なので、ロボットを自分の手で作りたいと思っている人には、私立大学は穴場だったりします。その中で私たちは、ロボットを完成させるための加工技術が優れている大学なので、その点が評価されているのかなと思います。レーザー加工機などは本学くらいしか使っていませんから、他大学に羨ましがられます。 -大会出場までに大変だったことや、ロボットの製作でこだわったことはありますか。【杉山】私はうさぎロボットの射出機構の設計と各機構同士の組み付けを担当しました。大変だったのは、うさぎロボットが例年のロボットに比べて小さかったため、寸法の限界値も小さく、その中に機構を収めることです。こだわった点は、リングを射出するために使うローラーを3Dプリンタやゴム等を使って自作したことです。足回りのタイヤ等も3Dプリンタとゴムチューブを組み合わせて自分たちで作りました。【篠木】私は象ロボットの制御を担当していました。象ロボットの射出機構の角度が変わらない設計でしたから、その分回転速度を変えることで同じ場所からでもリングの飛距離を変えられるようにするのに苦労しました。2次ビデオ審査を提出する前から練習を始めましたが、射出精度を高めるため大会ギリギリまで何度も数値を変えてリングを放っては修正を繰り返しました。 練習中に機体を確認する篠木さん(左) 【茂木】私は両ロボットの加工を担当しました。2次ビデオ審査に合格して、本格的にロボットを仕上げる時に、象ロボットの精度を向上させるためにリング回収機構と射出機構が全て変更になり、加工を間に合わせるのが大変でした。 -ピットクルーはテストランや試合の時はどんな事をしているのでしょうか。【杉山】うさぎロボットは、基本的に想定したとおりに動いていました。大会前日のテストランでは、射出の回転数の調整や操縦者がロボットとポールの位置を確認していました。大会当日は変更を加えて不具合が出ても困るので、回転数などは変えずに、ロボットのネジがしっかり締まっているかとか、パーツが消耗していないかを確認していました。試合中、うさぎロボットが会場の電波干渉の影響でコントロールが難しくなってしまいましたが、その場では解決できなかったので、電波の干渉があまり起きない距離まで操縦者がロボットに近づく等の対策を考えていました。【篠木】象ロボットはテストランの時点では数値や制御を変える必要も無く、上手くいっているなと思いました。他の大学ではテストラン中にロボットが暴走したり、試合中に機体が破損した大学もありましたが、私たちのロボットはそういったトラブルはありませんでした。うさぎロボットは、電波干渉で止まらなくなりましたが、ぶつかって破損することが無かったのは不幸中の幸いです。 試合前に整列するメンバー(左3人がピットクルー) フィールド外の物語 -試合中はどんな気持ちでピットにいましたか。【杉山】「頑張れ!」という気持ちで試合を見ていました。私は設計がしたくてロボコンに参加しているので、操縦は得意な人に任せて、自分はサポートに徹しました。私がロボコンを始めてから、大会で自分たちのロボットを実際に動かせたのは初めてで、その楽しさを実感しました。他大学のロボットを間近で見られたことも大きな財産ですね。【篠木】私たちピットクルーは、外から試合を見ることしかできないので、少し怖いというか心配しながら応援するしかありませんでした。何か自分にできることはないのかと歯がゆい気持ちもありました。当日まで出場する実感がなかったのですが、会場で他大学のロボットを見て、やっと憧れの大会に出ていることに感激しました。【茂木】試合中は、フィールドの3人に聞こえているかは分からないですけど、声援を送っていました。NHK学生ロボコンの出場は良い経験になったと思います。高校からロボコンに関わっていますが、やっぱりNHK学生ロボコンはレベルが違うと感じました。来年は私がロボットを操作して、チームを勝たせたいと思っています。1年生の時のF3RC(エフキューブロボットコンテスト)では操作をしていたので、自分の操作技術を上げてチームをカバーしたいと思います。 フィールド外で試合を見守るピットクルー -院生としてサポートに回った荒川さんはどんな気持ちで大会を見守っていましたか。【荒川】2019年のNHK学生ロボコンに出場して、もう一度NHK学生ロボコンに出たいと思っていましたが、叶いませんでした。後輩たちが出場しているのを目の当たりにしてくやしい気持ちもありましたが、純粋に頑張れと思っていました。ルール上、大学院生がロボット製作をサポートすることはできないのですが、1次ビデオ審査や2次ビデオ審査の振り返りの時はアドバイスをして、ミーティングには参加していました。 練習中にアドバイスをする荒川さん(左) -体育館で練習をしている後輩を見ていてどうでしたか。【荒川】このまま上手く行けば良いところまで行けそうだとは感じていました。でも、大会を見ていて、電波干渉とか、ロボットが動かなくなるとかそういった会場でのトラブルは経験の差が出てしまうと思いました。私たちが2019年に出場してから、しばらく途切れてしまったのが悪いよなって。連続して出場できていれば、電波干渉も過去に経験していたかもしれません。やっぱり、出場し続けることが大切なのだと感じました。 -荒川さんが出場した2019年大会と比べて、今回の大会で何か感じたことは。【荒川】メンバー全体で設計の質や効率化について考えることができるようになってきました。後は、メンバー同士のコミュニケーションが変わりました。良くも悪くも学年関係なしに仲が良いので助かっています。以前は先輩後輩を意識していた感じでしたが、今は先輩にも容赦なく意見が飛ぶようになりました。特にここにいる茂木君とかは(笑)。 優勝に必要なこと -ピットクルーの皆さんは大会で何か課題を感じましたか。【杉山】今回、うさぎロボットは2台の試作機を作りましたが、他大学は何種類も試作機を作って戦略や戦術に沿った機体や機構を作っていました。例えば、ひたすら早く動くことを戦略にした場合、それに一貫した設計ができるようになれば、勝てる機体が作れると思いました。私たちもスケジュール管理をしっかりして、どんどん試作機の設計を進めていかなければならないと感じています。後は、設計についてもっと勉強して、強度を確保した上でコンパクトな機構を考え、基盤のスペースをもっと確保できるようにしたいです。【篠木】他大学の制御は半自動で効率化された動きですが、本学は完全手動なので、自動化していかないと他大学に追いつけないと感じています。私はプログラムに特別詳しいわけではないので、とにかく勉強するしかありません。センサーについても他大学は性能の良いセンサーを使っています。ただ、性能は良くても処理する技術がないと実力を発揮できないので、そういった点が課題になっていくと思います。【茂木】私たちは大体のパーツを自分で作っていますが、もっと既製品を使っていく必要があると思います。既製品を使えば効率的だし、規格が決まっているので代用がきくというメリットがあります。今までは金銭不足や自分たちで作りたいというこだわりで自作してきました。自作パーツのメリットは、設計に合わせて既製品にはない寸法のパーツを作れるところです。歯車一つにしても既製品を買うのか、3Dプリンタで作るのか。ちょっとの寸法のズレで誤差が生じてしまいます。どちらも一長一短がありますが、そこをもっと考えていきたいです。【荒川】実は、技術継承という意味でも既製品を使った方が良くて、「買える」というのが強いんです。自分たちで作る場合、技術が継承されていなかったら作れなくなってしまうリスクがあります。それならば、自分たちで作れる物の他に変える部品を増やしていったほうが良いのかなと思います。それと、今は予算がちょっと増えて、買える物が増えたから気になるものをバンバン買って、来年に向けて色々試している状況です。 関連リンク ・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!① ~リーダー&操作担当者編~・NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」Webページ・情報メカトロニクス学科Webページ・学生ロボコンWebサイト
NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、大会優勝を目標にロボット開発に必要な知識や技術を自主的に学び、ロボットを製作しているプロジェクトです。 NHK学生ロボコン2023(2023年6月4日開催)に、4年ぶりに出場し奨励賞を受賞しました。 今回は、チームリーダーの川村迪隆さん(総合機械学科3年、上記写真:中)、ロボットを操縦した岡本恭治さん(総合機械学科4年、上記写真:右)と藤野楓土さん(情報メカトロニクス学科2年、上記写真:左)に、大会出場に懸けた思いやこれからの目標をインタビューしました。 NHK学生ロボコン2023の競技ルールなどは以下のリンクをご参照ください。 【NHK学生ロボコン2023ルール動画】 https://youtu.be/eEnqrpgW8jU Road to NHK学生ロボコン2023 -4年ぶりのNHK学生ロボコンでしたが、出場が決まった時はどんな気持ちでしたか。【岡本】2021年度、2022年度と挑戦してきました(2020年度は新型コロナの影響でオンライン開催)がどちらも本戦には出場できず、私にとって今年がラストイヤーでしたから、出場決定の報せをチームリーダーの川村君から受けたときは、純粋に嬉しかったです。 【川村】私は高校生ロボコンに関わって、全国大会にも出場経験がありました。全国大会でしか味わえない緊張感を大学生になっても経験したいと思っていました。私はリーダーとして、大会事務局からの出場決定の連絡が届くまで毎日メールをチェックしていました。出場決定の連絡を何度も何度も確認しました。念願の大会にやっと出場できることを確信して感無量になりました。それからは、メンバー全員で出るからには結果を残そうという思いで頑張りました。 【藤野】私は中学・高校とロボコンに関わっています。なので、大学生になったらNHK学生ロボコンに出場することを目標として、大学を受験しました。本戦出場が決まった時は寮の自室でくつろいでいたのですが、メールを見た瞬間「え?マジ?よっしゃー!」って叫んでいました。そこでスイッチが入り、大会までに何をするか、どこを改善するか問題点を洗い出していました。高校生の時にロボットアメリカンフットボール大会の全国出場権があったのですが、残念ながらコロナ禍で大会が中止になりました。このまま終わってたまるかと、初めての全国大会で晴れの舞台だし、全力でいこうと意気込みました。 -本戦出場が決定するまでに苦労したことはありますか。【岡本】私は象ロボットの設計を担当しました。印象に残っているのは2次審査のビデオ提出締め切り前夜に、射出機構の角度を変更したことです。それまでは、射出口に対してリングを直角に送り出していたのですが、リングの射出距離が安定していませんでした。改善策をずっと考えていて、締め切り直前に角度を無くして水平にリングを送ってみたら、距離の差異が無くなりました。締め切り直前でCADの設計は間に合わないから、現場合わせでやることになるけど変更するか?というギリギリの選択でした。結局、ビデオの撮り直しはせずに、2次審査に通ることを前提にして作業を進めておき、2次審査が通ったらすぐに対応できるようにしていました。 【川村】個人的に大変だったのはビデオ審査の動画編集です。1次審査、2次審査とも私が編集を担当しましたが、今まで動画の編集をしたことが無かったので手探りで進めました。1次、2次とも5分の動画で、1次ではどういう機構を使うのかを紹介。2次では、ロボットの動きを見せて、1次からの変更点を紹介しました。自分たちのロボットを良く見せるためにどうやって撮影するか、編集はどうするかなど、他大学のYouTube動画などを研究しました。2本のビデオ制作にかかった時間は撮影・編集を含めて18時間ほどです。 【藤野】私は、うさぎロボットの制御や基盤をほとんど一人で担当していました。センサーで読み取って射出機構の回転速度を一定にさせるプログラムを急きょ導入しましたが、しっかりした制御システムが成り立っていない状況でプログラムを打ち込んでいたため、練習コートで調整しようとしてもなかなか上手くいかなくて苦労しました。リングを飛ばすローラーが、目標の回転数に到達するまでの時間を短縮させるため色々と手を尽くしましたが、私だけの知識ではなかなかできないこともありました。テストでは動いていたのに、ロボットに搭載したらセンサーの取り付け位置が変わって上手くいかないこともありましたし、ローラーなどの部品を付けて負荷がかかるとテストの時と変わってしまってセンサーが全く計算してくれないこともありました。大会直前まで何度も調整を繰り返していました。 練習中、動作を確認する藤野さん 予選リーグ第1試合 VS大阪工業大学-予期せぬトラブルの連続 【川村】1試合目は、象ロボットがまず手前のポールにリングを入れて、次にセンターエリアの手前の2本を狙い、最後に中心の1本を狙う予定でした。その間に、うさぎロボットがセンターエリアの奥の2本を狙う作戦でした。 今大会のフィールド ですが、象ロボットのリングが詰まってしまい、思うようにいきませんでした。練習では安定して動いていて、大会前日のテストランも問題は無かったのですが、いざ本番になると会場の雰囲気にロボット達も呑まれたみたいで、練習どおりに動かず焦ってしまいました。象ロボットが何発か放った後に詰まってしまい、さらに動かなくなってしまったのは致命的でした。 【岡本】リングが詰まった時はどうしようかと思いましたけど、リトライして再装填すれば数発は放てたので、いかに少ない発射数でポールに入れるかということだけを考えていました。 【藤野】うさぎロボットは会場の電波干渉の影響でコントローラーの電波がロボットに届かなくなり、ロボットが止まらなくなってしまった時は「なぜ⁉」って思いました。直感でコントローラーの電波が届いていないのかと思って、ロボットに近づいたら少しは操作できるようになりましたが、根本的な解決方法が無くて思うように操作できませんでした。 予選リーグ第2試合 VS長岡技術科学大学-今大会随一の大接戦 【岡本】長岡技術科学大学のロボットはリングの連射性能が凄かったので、これはもう「チェイヨ―(8つのポールの得点を全て獲得した状態)」されるかもしれないと思ったので、1試合目とは作戦を変え、相手にチェイヨ―させない戦略に基づいてセンターエリアのポールから狙いました。最後の最後で逆転されてしまいましたが、割と上手くいっていたと思います。 残り数秒まで大接戦だった第2試合 【川村】私は岡本さんの側で象ロボットが狙うポールの指示を出していて、藤野君には、象ロボットが狙っているポールとは別のポールを狙うよう指示していました。割と落ち着いて指示を出せていたと思いますが、会場の歓声で指示が伝わらないこともありました。これは来年度に向けての反省点です。 残り時間を確認しながら指示を出す川村さん(左) 【藤野】電波干渉の問題は2試合目も対策ができず、少しでもロボットに近づいて電波が届くようにするしかありませんでした。練習で想定していなかったトラブルが起きて、事前に考えていた作戦もできずパニックになってしまいました。 これからも優勝を目指して-We love スポ根 -練習の時、川村さんの楽しそうな表情。そして、予選で敗退した時の悔しそうな表情が印象的でした。リーダーとしての意気込みはどうでしたか。【川村】練習は、皆が楽しくできる環境にしたいと思っていました。高校生の時にロボットの操作を担当していて、嫌々やるより楽しくやった方がチームとして相乗効果があったので、今回も「楽しく練習する」をモットーにしていました。後は、メンバーが一人で抱え込まないようにコミュニケーションを取ることを心がけていました。本戦では、長岡技術科学大学が1試合目で勝っていたので、勝てれば1勝1敗で並び、予選突破の可能性が出てくるので何としてでも勝ちたいと思っていました。ところが、残り数秒で負けてしまい、他大学との実力の差を目の当たりにしました。負けず嫌いな性格も相まって悔しさが表情に出てしまいましたね。 体育館での練習の様子 -藤野さんはF3RC(エフキューブロボットコンテスト)優勝のメンバーですが、何か違いを感じましたか。【藤野】まず、観客が多くて会場の雰囲気がF3RCとは全く違っていました。競技は点の取り合いになる試合形式なので、相手からのプレッシャーが凄いです。また、ロボットのレベルが全然違っていました。NHK学生ロボコンは投てき競技が多いのですが、F3RCは投げることはあまり無いので考え方を大きく変える必要がありました。F3RCでやった事と同じやり方では太刀打ちできないことを実感しました。中学生の頃からロボットを作り続けていますが、大会に出る度に段々と難易度が上がり、アイデアの出し方や違う考え方がある事を思い知らされています。2年生のうちに本戦を体験することができて、いろいろな課題を見つけられました。残りの2年間は課題解決に全力を注ぎたいです。 -岡本さんは学生生活最後の年につかんだ出場でしたが、どのような思いで大会に臨みましたか。【岡本】4年生にして初めて出場できたので「あぁ、やっとか」という思いでした。1年生の時は新型コロナがまん延し始めた時で、ロボコンプロジェクトに参加できたのは夏からでした。NHK学生ロボコンもプレゼン形式のオンライン開催でした。2年生の時は無観客で開催されましたが、出場校が通常時より絞られていて私たちは本戦には出場できませんでした。3年生の時は2次ビデオ審査で落ちてしまいました。今大会では、ロボットの性能を最大限活かした操縦を心がけました。設計者だからこそ、特性の理解から特長を活かしつつ、短所も補いながら操縦することを念頭に置いて挑みました。後は、大会を少しでも盛り上げられるようにと思っていました。チーム紹介のビデオに出演しているのですが、顧問の三井先生がストーリーを考えて、私がロボットにされました(笑)。撮影の時は川村君と先輩がいたのですが、何回もダメ出しされて、階段を落ちるシーンは先輩の演技指導を受けながら10テイクくらい撮りました。 https://www.youtube.com/watch?v=IeIpz_GShx4 NHK学生ロボコン2023 チーム紹介動画 -今回出場して得られたものは。【岡本】技術面で言えば、他大学のロボットを間近で観れたことです。他大学は独立ステアリングを用いていて、足回りが強化されていたので、私たちも導入しようと取り組み始めました。独立ステアリングは、操舵と駆動を別々のモーターで制御して、進行方向にタイヤの向きを揃えることができ、タイヤの駆動力すべてを移動に費やせるため高速移動が可能になります。試合の仕方では、他大学は迷わずリトライをしていたのが印象的でした。私たちは4年ぶりの出場で経験者が少なかったのでリトライをした方が良い状況でも、もう一機のロボットが動いていたらリトライを躊躇して行動が遅れることがありましたね。 【川村】大会の雰囲気を感じて、場慣れできたことが大きいです。前回出場したのが4年前で、大会の進行が分からず、他大学の人に「どうしたらいいんですか」とか質問して右往左往していましたが、今回出場したことで後輩たちに伝えていけます。また、SNSで他大学同士が交流している様子を見て、私たちも技術を向上させるためにもっと交流会に参加しないといけないと思うようになりました。これまで、他大学主催の交流会に参加させてもらっていましたが、今後は私たち主催の交流会を開催したいです。 【藤野】過去のNHK学生ロボコンや高専ロボコンの映像を結構見てきましたが、他大学のロボットを直に見て、もう今までとは違うレベルに進んでいることが身に染みて分かりました、今の自分たちの技術を使いまわしているだけでは駄目だなと。新しい事に挑戦しないと今使っている技術もいずれ古くなり、他大学との差がさらに開いてしまいます。これから私たちが勝つためには、他大学の先を行く考え方や技術が必要です。 -優勝を目指すために変えていきたいところは。【川村】アイデアをしっかり再現できるように技術力を向上させていきたいです。今はインターネットから色々な情報を得られる時代ですから、情報収集をして、アイデアどおりに加工できる技術を身に付けていきたいと思っています。 【藤野】設計、加工、制御の3つの班のうち、私が所属する制御班の強化が必要だと思っています。制御班は人が少ない上に、技術が進化し、覚えなくてはいけないことが莫大になってきています。センサーの扱い方やプログラムの仕方も以前より複雑になっていて、プログラミングの経験が無い人が学ぶには範囲が広すぎる状況になっています。だから、初心者にも分かりやすく教えて、後輩を育てたいです。また、今までのプログラムのデータを再利用できるようにマニュアルを残していきたいです。 【岡本】資料をしっかり残すことです。プログラミングも設計も、ちゃんと動くシステムや機構をデータとして残しておけば、後輩も「このデータを使えば絶対に動くんだ」と安心して設計できます。そうすればもっと精度の高いロボットを作れるようになっていきます。これからも私たちはNHK学生ロボコン優勝を目指して活動を続けます。ものつくり大学に入学したら、ぜひロボコンプロジェクトに参加してください! 関連リンク ・ロボコンはスポコンだ!優勝目指してひた走れ!② ~ピットクルー&大学院生編~・NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ・学生ロボコンWEBサイト
「埼玉学」とは、埼玉県の歴史・文化・産業・地理・自然など、埼玉県に関するあらゆる分野を総合的に研究・探究する学問です。教養教育センターの井坂康志教授が新しい研究テーマとして連載を始めました。 今回は、埼玉県比企郡吉見町にある古墳時代の末期(6世紀末~7世紀末)に造られたとされる吉見百穴を訪れ、その不思議な魅力に触れていきます。 埼玉の不思議なもの 古人の建造物は、石や土、木とは限りません。岩の壁面に穿たれた「穴」もあるからです。吉見百穴の存在を最初に私に教えてくれたのは、学研という出版社が刊行していた「まんがひみつシリーズ」でした。シリーズ発刊は1972年だから、ほぼ半世紀前になります。自然や社会について子供でも理解できる工夫を見ると、仕事は丁寧、文章は達意、じつに卓越したクラフツマンシップの発揮された本に仕上がっています。 思わずため息が出るくらい、よくできたシリーズでした。たとえば、「野球」「切手」「宇宙」「からだ」「昆虫」など子供にとっては何ともいえず心惹かれるテーマ。実に軽快な手さばきで、面白おかしく編み直していく。私もかつては編集の仕事をしていたのですが、大いに脱帽させられたものでした。 とくに気に入っていたのは、『日本のひみつ探検』(「学研まんがひみつシリーズ29」)です。今みたいにスマホもネットもなかったので、暇さえあれば目を落としました。ただめくるだけのときにもありました。各ページ欄外には一つずつ「豆知識」が配されて、それだけで心が揺らめくのです。日本の地殻変動の目覚ましい働きから、自然的造形や名所旧跡などをとても親しげに、子供に寄り添って示してくれる。鬼の洗濯板、琵琶湖、青木ヶ原樹海、天橋立など、神秘の予感に彩られた地名はたぶんこの本で知ったと思います。 子供の頃の愛読書 一つが吉見百穴です(確か本には「ひゃっけつ」とルビが振られていた記憶がありますが、「ひゃくあな」が一般的のようですね)。古代の旧跡が自分の住む埼玉県にあるというので、根拠なく湧いてきた誇らしい気持ちだけは覚えています。いつか訪れてみたいと思いました。ですが、埼玉県民を悩ませる複雑怪奇の鉄道事情も相まって、訪れることができずに今日に至ってしまいました。(余談となりますが、私の勤める行田市の大学から隣町・加須市の実家に行くのに、高崎線の吹上駅まで15分、一度大宮まで出て宇都宮線に乗り換えて栗橋まで約1時間、徒歩で15分と計90分かかります。ちなみに、同地点から新宿までとほぼ同じ時間です。あるいは所沢あたりに出ようと思ったら、東京より遠い) 百穴を訪ねてみた 鴻巣駅からバスが出ていることは聞いていました。初夏の汗ばむような暑い日、吉見百穴を訪ねてみました。とにかく長い荒川の橋を抜けていきます。対岸まで続く緑の農地を眺めるともなく眺めながら、表れては消える田野や林と心の中で対話していると、唐突に現れたのが吉見百穴でした。日本の昔から名勝や景勝と言われている地はたいていは素朴な演出が施されているのが常ですが、完全にむき出し、空に向かって露出しています。 異様な無数の穴は唐突に現れる 川一つ隔てた向こうの灰色の岩壁には、蜂の巣のように詰まった感じの穴が目に入る。現代でいうところのカプセルホテルを思わせるところがあります。異様な穴がある時代に突如として出現したのに、どのような事情があったのは、私にはわかりません。実は、この疑問はすでに『日本のひみつ探検』を読んだ頃から私の頭を占めていました。 穴の用途については二つのまったく異質の説が存在していました。一つは、コロボックルの住処とする住居説、もう一つは墓所説です。両説は、考えるほど不明瞭になる気がします。ある時代にこのような構造物の突如とした出現について、どのような詳細があったのか、私は知りません。というか、知りたくもない。かくも得体の知れない穴についての説明など、どんな本を読んでも、人から聞いても、とうてい自分を納得させる自信がないからです。 異様な300の目 私はひたすら穴ばかり凝視していました。私のごとき素人には見当もつかないながらも、何か理解を求めてやまぬ生き物のように私には感じられました。あるいは、近くを流れる川向こうの平地の動静を監視している諜報施設のようにも。いずれにしても、近代に汚染された頭脳では及ばない、神妙な調和が付随するのは間違いなく、いつまでも見ていても見飽きることがなかった。これが本当のところです。見ているうちになんだか見られているのはこちらのほうではないか、そんな不気味な感覚に支配されるのです。穴の中に入ってみました。入口は大人一人がやっと入れるくらい、ひんやりとしている。 穴の一つに入ってみる 岩の壁面に穿たれた穴は300を超えるという。百とは「数の多さ」を意味する寓意でしょう。現実はその寓意をはるかに上回っている。しかもただの穴と言っても、300以上の穴を硬い岩壁に穿つ作業が生半可でない以上、何らかの強い意志と固く結ばれていないわけがない。思いつきの気まぐれでないことは確かでしょう。 もちろんその意思が何なのか、どこに通じているのかは私にわかるはずもないのですが、その場に身を置いて私が抱いた勝手な印象は、「戦への備え」でした。いくつもの穿たれた穴から敵方の動静を虎視眈々と監視する「目」です。第二次大戦中、軍事施設が存在していました。現在は柵で仕切られていますが、いくつかの穴の奥は軍需工場に通じていたとのこと。埼玉県には桶川や所沢、戦時中の空を担う重要施設がいくつも設置されていました。時に人は土地に一種のにおいを感じることがあります。古代人の感じ取ったものと同系の土地に染み付くかすかな匂い。そして張り詰めた決死の思い――。これらの穴は一体どこにつながっているのでしょうか。 ここはかつて軍事施設だった。怖い profile 井坂 康志(いさか やすし)ものつくり大学教養教育センター教授 1972年、埼玉県加須市生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。東洋経済新報社を経て、2022年4月より現職。ドラッカー学会共同代表。専門は経営学、社会情報学。 関連リンク 【埼玉学①】行田-太古のリズムは今も息づく