【知・技の創造】ものづくりの原点

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トヨタ生産方式とは

トヨタ自動車で36年間、生産現場に携わり、改善や人材育成に取り組んできました。
今年4月から大学に移り、若い学生と向き合う中で、改めて「ものづくりの本質をどう伝えるか」を深く考えるようになりました。

戦後の日本経済を支えてきたのは製造業、とりわけ自動車産業です。その中心にある「トヨタ生産方式(TPS)」は、「ジャストインタイム」や「自働化」といった仕組みで知られますが、本質はそこに留まりません。最も大切なのは、時代が変わっても“人が中心であり、人が軸である”という考え方です。

「つくる」から始まる

TPSの源流は、創業者が改良した機織り機にまでさかのぼります。当時、両手で行っていた作業を片手でできるように改善した背景には、「母親の仕事を楽にしてあげたい」という子の思いがありました。TPSの原点は「効率化」ではなく、「誰かを楽にしてあげたい」という心にあります。それは利益や生産性を超え、「すべての人の幸せ」を目指す思想でした。

TPSには「工程は常に改善できる状態にしておく」という重要な考え方があります。現場は常に変化するため、“後から改善できるようにしておく”ことが肝心です。人が工夫しやすい環境を整えることが、持続的な生産性向上につながります。

一方、今の製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。人口減少や高齢化、グローバル競争、カーボンニュートラル、AIの急速な進化――未曾有の時代です。これからの100年を見据えるとき、「ものづくりは人づくり」という視点を忘れてはなりません。AIは設計や保全で活躍しますが、現場の気づきや創造的発想は人にしかできません。人の五感=“センサー”を生かし、技術と融合してこそ「知と技の創造」が生まれます。

幸せを追求する姿勢

私が思い出すのは、ものつくり大学初代会長・豊田章一郎氏の言葉です。
「新しいものをつくるために知恵を絞り、仲間と一緒に汗をかき、時間を忘れて熱中する、その瞬間が極めて楽しい。」
学内では学生たちが自主的にプロジェクトに挑み、仲間と試行錯誤する姿があります。 その姿に、TPSの精神、“人が中心”であり、“人の幸せ”を追求する姿勢があります。 生産性向上は重要ですが、人を犠牲にしては長続きしません。 人にはそれぞれの価値観、個性があります。それを受け入れ、多様性を力に変えられる職場こそ、これからの製造業に求められる姿です。

学生たちは柔軟な発想を持ちながらも、将来に不安を抱えています。だからこそ伝えたい。 「ものづくりは人を幸せにできる仕事である」という事を。 埼玉には多くの中小企業があり、地域を支えてきました。 私は大学・企業・地域を結び、人を中心としたものづくりを探求し、支援していきたいと思います。

埼玉新聞「知・技の創造」(2025年12月5日号)掲載

Profile

荒井 豊(あらい ゆたか)
情報メカトロニクス学科教授

法政大学工学部卒。トヨタ自動車株式会社、愛三工業株式会社を経て2025年4月より現職。専門はトヨタ生産方式、所属学会:生産管理学会、鋳造工学会。

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ものつくり大学

大学概要、学科紹介、入試情報など、 詳しくは大学ホームページをご覧ください。
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