創造しいモノ・ガタリ 04 ~私の原動力-「誰も想像していなかったもの」をつくりたい~

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教養教育センターの井坂康志教授が、ものつくり大学の教員に、教育や研究にのめりこむきっかけとなったヒト・モノ・コトについてインタビュー。今回は、的場やすし客員教授に伺いました。

Profile

的場 やすし(まとば やすし)

的場ラボ(個人事業主)主宰
信州大学理学部生物学科卒業後、本田技術研究所における自動車材料研究、認知症高齢者介護施設運営に理事として参画等を経て現在は、ものつくり大学客員教授、お茶の水女子大学学部教育研究協力員。仮想世界と実物体を融合した新しいインターフェースを研究中。これまでに、ACM SIGGRAPH Art Gallery(2000、2007)、Emerging Technologies(2011、2012、2013年)や、Ars Electronica(1999年)への作品出展をはじめ、デジタルコンテンツグランプリ アート部門インタラクティブ賞(2001年)、アジアデジタルアート大賞展 インタラクティブアート部門優秀賞(2012、2013年)、Laval Virtual Awards 部門賞(2011、2012、2013年)グランプリ(2013年)、CEDEC インタラクティブ賞(2017年)、経済産業省 Innovative Technologies 特別賞(2013、2017年)、テレビ東京 WBS トレンドたまご年間大賞(2013、2017年)他受賞

先生の研究の原点はどのようなものだったのでしょうか。

子どもの頃からアイディアを考えるのが好きでした。優れたアイディアを見るのも大好きで、小さい頃に初めてトイレットペーパーをワンタッチで交換できる機構を見たときに、ものすごく感動した記憶があります(それまでは伸縮する棒で固定する、面倒くさい機構しか知らなかったので)。小さい頃から面倒くさがりで、常に「楽をしたい」と思っていたので「苦労して行っていた作業がアイディアひとつで楽になる」というのは非常に素晴らしいことだと考えていました。

大学時代は信州大学理学部の生物学科に在籍し、蚕のさなぎの休眠時の呼吸について研究していました。
卒業後は、バイク好きだったこともあり、本田技術研究所で材料関係の研究職に就いて、内装材の研究開発などに従事していましたが、20代の後半に違うことをしたいと思って研究所を辞めて、介護施設の運営に関わる仕事などを行ってきました。

このころから「HCI」(ヒューマンコンピュータインタラクション)分野に興味を持ち、メディアアート作品の制作を始めました。

ものつくり大学との出会いは2008年、修士課程入学を機としています。ずっとものをつくるのは好きだったので木工などは得意でしたが、金属加工などはわからないことが多かったので、菅谷諭先生のもとで取り組みました。2009年の大学祭の「ものつくりコンペ」に「シャボン玉 空気砲」という作品を出展して優勝したこともあります。

ものつくり大学を卒業した後、電気通信大学の博士課程に籍を置き、約8年インターフェースの研究を続けました。

2009年ものつくりコンペ優勝作品「シャボン玉 空気砲」
現在先生は流動床で知られていますね。きっかけを教えてください。

流動床という現象は古くから様々な産業で使われてきましたが、一般にはほとんど知られていませんでした。

私は流動床と仕事の上で直接の関係があったわけではありません。そのおもしろさを見つけることができたのは半ば偶然の出合いであり、非常に幸運だったと感じています。

きっかけは、ある日 YouTube で流動床焼却炉の動画を目にしたことです。それを見ていた時、「普通の状態では、その上を歩くことのできる砂が、スイッチを入れると液状化して、中で泳げるようになる」という世界初の装置が作れると思いました。そしてこれをインターフェースとして、面白いエンターテイメントシステムが絶対作れると確信したわけです。このアイディアが始まりでした。そして2016年に「流動床インターフェース」を作ったのですが、作ってみたら液状化した砂の感触が想像以上に面白くてびっくりしました。

それまでもいろいろなディスプレイを作ってこられたのですね。その話を伺えますか。

2011年に制作した「スプラッシュディスプレイ(SplashDisplay)」があります。たとえば、通常のテレビや映画では爆発のシーンが映っても実際に画面上で物理的に物体が飛び散る現象が起きるわけではありませんが、物理的な物体の移動を伴うことで、リアルに爆発したように見えるディスプレイを実現しました。

底面120センチ×90センチ、深さ30センチの容器を発砲ビーズで満たし、上方に設置したプロジェクターからビーズの表面へ映像を投影して水平型のディスプレイを構成します。容器の底は網状になっており、その下に多数の送風機または移動できる送風機を設置して、投影される爆発の映像に合わせて送風機を作動させ、風によってビーズを上方に吹き飛ばします。このため、ユーザーからはディスプレイ表面にリアルな爆発が発生したように見えるのです。

この作品は、2012年の SIGGRAPH(北米で行われるCGやインタラクション技術などを扱う世界最大の学会)における発表、2012年の Laval Virtual Award(フランスで行われる世界最大の VR・3Dなどのコンテスト)における「3D Games and Entertainment 賞」の受賞、アジアデジタルアート大賞優秀賞受賞などでの発表の機会に加えて、国内外50か所以上の美術館などでの展示を行い、好評を博することができました。

もう一つ、「アクアトップ ディスプレイ(Aquatop Display」は、お風呂の水面をタッチパネルディスプレイにしたものです。お風呂に入浴剤を入れて真っ白にした状態で、上からプロジェクターで映像を投影することで水面をディスプレイにします。さらに「キネクト」という特殊なセンサーカメラで、水面にタッチした指や、水の中から水面上へ突き出した指の位置を検出することで、お風呂の水面がタッチパネル付きディスプレイになるという作品です。

フランスで開催された Laval Virtual 2013 でのグランプリ受賞や、WBS 2013 トレンドたまご年間大賞 他、数々の賞を受賞することができました。

その他にも触ると痛いタッチパネルディスプレイ「Biri-Biri」や、生きた魚のディスプレイ「ChatFish」、水の滝のディスプレイ「AquaFall Display」他を作っています。

スプラッシュディスプレイ
アクアトップ ディスプレイ
流動床に戻りますが、どのようにして世に出していったのでしょうか。

「流動床インターフェース」を制作したのは2016年ですが、発表で最も早いものは、2017年3月3日明治大学で行われた、情報処理学会主催のシンポジウム「インタラクション2017」でのデモ発表ですね。このシンポジウムには多数の HCI 研究者が参加していたのですが、流動床について知識を持っている来場者はほとんどいないことがわかりました。デモ発表では、HCI 研究者から大きな驚きと興味をもって迎えられ、一般参加者の投票で選ばれる賞とプログラム委員で決定する賞の2つのデモ賞を受賞することができました。得票数は「断トツ」ということでした。

テレビや新聞にもこれまでに40回以上取り上げられています。2017年3月17日テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」というニュース番組の「トレンドたまご」コーナーで、最初に取り上げてもらいました。スタジオの方々には「流動床による砂の液状化や HMD を使ったVR」のハイテクな要素と「人間の手を介して実現されるアナログな演出」のローテクの要素のギャップに、ユニークな印象を持っていただけたようです。同年12月に「2017トレンドたまご年間大賞」を受賞しています。

これまでに何度も大学外で展示を行っていますが、ほとんどの人が水のように変化する砂に初めて接することで、驚き、歓声を上げていました。また流動化した砂に腕を入れてかき混ぜる体験は、水のようになめらかなのに濡れることがない何とも言えない不思議な感覚で、「気持ちが良い」「目を閉じれば水」「癒される」「家に欲しい」という意見が多く聞かれました。

流動床を世に出すにあたっては、ものつくり大学の菅谷諭先生のご尽力に触れないわけにはいきません。菅谷先生は砂1トンを必要とする本装置のために、学内に場所を提供してくださいました。また、特許取得にあたっても、菅谷先生はお知り合いの弁理士の紹介等、特許取得を後押ししてくださいました。

初期の流動床インターフェース
テレビ収録の様子
他に印象に残っているものは。

幕張メッセ及び ZOZO マリンスタジアムで開催されたロックフェスティバル「SUMMER SONIC 2017」(2017年8月19~20日)にて、江崎グリコ社ブース内の体験型アトラクション「なめらカヌー」の流動床部分を制作し、展示を行いました。

江崎グリコ社は毎年、同社のアイス製品「パピコ」のなめらかさを表現する趣旨のアトラクションを展示しています。2017年は「なめらかに流動化した砂の上でパピコの形をしたカヌーに乗り、複数の小型バスケットゴールに投げ入れる」という競技の要素を持った展示を行うことになり、これまでにない大規模な装置を製作しました(4メートル×3メートル、深さ30センチ、砂を約5トン使用)。

カヌーはパピコをそのまま大きくした形状にしたため、胴体が円筒状となり、底が丸く非常に不安定で転覆しやすい状態になってしまいました。このため、砂の中に隠れて見えないように、底からワイヤーを伸ばしてカヌーにつなげ、傾く角度に制限をつけて転覆しない構造にしました。来場者は、乗り込むまでは安定しているのですが、その後のスイッチ操作で砂が突如液状化し、不安定な状態になるアトラクションに、新鮮な驚きを感じてくれたようです。

最後に、ものつくり大学の学生にメッセージをお願いします。

私にとって創造の原動力になっているのは、「今まで誰も想像していなかったアイディアを考え、新しくてすごい物を作りたい」という思いでした。これまで、思いついたアイディアをいろいろな場で提案してきました。ただ、変わった発想のアイディアって認めてもらえないことが多いですね。特に日本ではそうなのかもしれません。将来、学生の皆さんが提案したアイディアが周りの人から認められない、ということがあるかもしれません。でも、めげないでください。よくあることです。

実は、私が今まで作ってきた研究作品の中で、もっとも優れたアイディアだと自分で思うのは「信号機カメラ」と「ツイドア」という作品です。「信号機カメラ」は全盲の方に歩行者用信号機の色を音声で伝えるスマホアプリで、「ツイドア」は認知症高齢者の徘徊の発生をツイッターを利用して写真付きで伝える装置です。「福祉関係だから良い」という訳ではなく、アイディアのシンプルさや効果など、総合的に考えて今までの作品の中でダントツに良いと思っています。しかしこの2つとも今までの学会発表やテレビでの紹介では(自分では不思議に思うのですが)ほとんど評価されていません。評価基準が人とずれているのかも…とも思いますが。

電気通信大学時代に開発した「アクアトップ ディスプレイ」も、大学でこのアイディアを私が最初に提案したときの周りの反応は「お風呂はそういうことをするところじゃないでしょ」といったように芳しくないもので、共同研究者を探すのも苦労するほどでした。しかし、実際に開発すると高い評価を受け、数々の賞を受賞しました。

流動床インターフェースも開発当初、都内にある知り合いの大学の研究室に共同研究を持ちかけたものの、共同研究には至らなかった経緯があります。

もしも、おもしろいアイディアを思いついたけれど他人から評価されなかったときは、説明がうまく出来ていないのかもしれません(本当におもしろくないという可能性もありますが…)。そんなときは試作品を作って見せると、理解してもらえることも多いです。

ものつくり大学は機材が充実しているし、すぐれた技術を持つ先生方からアドバイスをもらえます。アイディアがあればどんどん実現させることができる環境があるので、ものつくり大学の学生の皆さんにも、どんどんおもしろいものを作り出してほしいと思っています。

モチベーションは何でもいいと思います。私の場合、流動床が世の中の関心を集めたこともあって、テレビ取材を多く受けました。たくさんの芸能人に会うこともできました。そのような動機でもいいと思います。

また、おもしろいものをおもしろいと思える感性も大切だと思います。他人の意見に左右されず、感性を磨きましょう。おもしろいものを作るためにはアイディアをたくさん考え、たくさん試して、たくさん失敗することも大事だと思います。たくさん失敗を経験することで「失敗しない作り方」がわかってきます。

ぜひどんどん挑戦して、優れたアイディアを世の中に出してほしいと願っています。

取材・原稿
井坂 康志(いさか やすし)
ものつくり大学教養教育センター教授

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ものつくり大学

大学概要、学科紹介、入試情報など、 詳しくは大学ホームページをご覧ください。
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