2024年5月、ものつくり大学と草加市が締結した「木橋リノベーション事業に関する基本協定」。その第2弾として2025年度に取り組んだのが、橋長14メートルの木橋「ふれあい橋」の再生です。橋梁・構造を研究する建設学科の大垣研究室と、木造構造・材料を研究する芝沼研究室による共同リノベーション事業として実施されました。この事業の中心を担った、建設学科4年生の小林駿斗さん(大垣研)と坂本匠さん(芝沼研)に、実践的な学びや苦闘、そして成長の記録をインタビューしました。
想像を超えた14メートル橋との対面、研究室を越えた結束
-まずは、このリノベーション事業に携わることになったきっかけと、その時の思いを教えてください。
【坂本】
私は卒業研究のテーマを考えていた際、芝沼先生から「大垣研究室と合同で木橋のリノベーションをやってみないか」と勧められたのがきっかけです。元々大きい橋の改修という話を聞いていましたが、当初は「古い橋の一部を新しいものに作り直すだけなら、そんなには難しくないだろう」と少し楽観的に考えていた部分もありました。
【小林】
私は前年度の「中根ふれあい橋」の補修も経験していたので、大垣先生からお話をいただいた時は「昨年の経験が生かせる」と引き受けました。しかし、現場で実際に14メートルの「ふれあい橋」を目にした時は、想像の3倍くらい巨大で驚きました。「本当にこれを自分たちだけで補修し、卒業できるのかな」とプレッシャーが押し寄せてきたのを覚えています。



-大垣研究室(橋梁・構造)と芝沼研究室(木造構造・木材)の共同リノベーション事業で異なる専門性を持つ学生がどのように連携したのですか?
【坂本】
私は主に高欄(手すり)の製作を担当し、小林君たちは橋の骨組みである主桁(しゅけた)1や床板(しょうばん)2の補修を担当しました。高欄は、組み立てなど人が必要な時は、芝沼研究室のメンバー以外にも声を掛けて10人くらいで作業をしました。高欄を主桁に取り付ける段階に入ってからは小林君たちとずっと一緒に作業に取り組みました。
【小林】
大垣研究室側は、私と大学院生の平田さんを中心に、3~4人で動いていました。先生方の指導はもちろんですが、平田さんは昨年の知見もありますし、木材にも詳しいのでさまざまなアドバイスをいただきました。

硬くて重い木材「ボンゴシ」との格闘
-2025年6月、大学に「ふれあい橋」が運び込まれましたが、実際に目の当たりにしてどうでしたか?
【小林】
現場で見た時は「表面が少し痛んでいるかな」という程度に思えましたが、いざ解体してみると愕然(がくぜん)としました。木材の内部がアリに食い尽くされていたり、雨水が溜まって芯まで腐っていたり・・・。前回の「中根ふれあい橋」は日本の材で軽かったのですが、今回の「ふれあい橋」は南アフリカ原産「ボンゴシ」という非常に硬く、重い木材が使われていました。本来、腐食や雨などに強いはずの材ですが、3本ある主桁の1段目がほぼ全滅状態でした。
【坂本】
橋をぱっと見て、高欄の柱の接合部は腐っていると思いました。実際、表面上は硬そうに見えても、解体してみると、中はかなり腐朽劣化した状態でした。


-その「ボンゴシ」材の解体作業にかなり苦労されたそうですね。
【小林】
正直、もう二度と触りたくないと思うほど大変でした。とにかく硬くて重い。例えば、ビスを一本打つのも一苦労で、木が硬すぎてビスが負けて、途中でねじ切れてしまう感じだったんです。腐った部分を削ろうとしても、ノミや丸鋸とかの刃が欠けたりすることもあり、作業する学生全員が悲鳴を上げてしまうような状況でした。
【坂本】
ボンゴシ材に触れ、木材の中に深く埋まっている鉄筋を抜く作業にはかなり苦戦しました。当初は「使える部分は再利用する」という方針でしたが、あまりの劣化の激しさに、多くの部材が再利用不可能だと判断されました。そこから急きょ、新しい材を発注し、一から加工し直すことに・・・。作業量は当初の予想を上回ることになりました。
先端素材CFRPと伝統技法「腰掛鎌接」の融合
-小林さんが担当された主桁や床板の補修では腐朽部分に樹脂3施工とCFRP(炭素繊維強化プラスチック)4施工を行ったそうですね。樹脂施工で大変だったことは?
【小林】
苦労したのは「樹脂」の温度管理でした。解体後に腐った部分を取り除き、そこに樹脂を流し込んで固める作業をしたんです。樹脂を漏らさないために木材の欠損部に合わせ枠を貼って、樹脂を流し込む型枠を作りました。樹脂は混ぜると化学反応で熱を持ちますが、夏の猛暑もあって、型枠の中でグツグツと煮え立ってしまうんですよ。それを防ぐため、早朝から少しずつ注入し、つきっきりで作業しました。型枠を外して整えるまで計3日。日付をまたぐこともありましたが、木材を確実に蘇らせるためには欠かせない工程でした。

-今回のリノベーションでは、最先端素材である「CFRP」が補修の鍵となっていますね。この素材の特性と採用した狙いについて教えてください。
【小林】
CFRPは鉄と同等の強度を持ちながら非常に軽く、腐食しないという特性があります。日光に弱い点も塗装でカバーできるんです。今回は、腐食して弱くなった木材の一部を樹脂で埋め戻し、その上からCFRPシートを何層も貼り付けることで、元の木材単体よりもはるかに高い耐久性と強度を持たせる手法を取りました。
-CFRP施工で最も気を使われたポイントは?
【小林】
特に「成型版(CFRPシートを何層も重ねて固めた板)」を作る時は気を使いました。CFRPシートに樹脂を染み込ませて積層し、板状のパーツ(成型版)を自作するのですが、これが時間との勝負なんです。樹脂が固まり始める前に、すべてのシートを重ねなければならない。休憩も一切取れず、ゼミの仲間10人とシャツを絞れば汗が出るくらいになりながら極限状態で作業しました。でも、その苦労があったからこそ、完成後の「載荷試験」で、設計荷重をかけても「たわみ」が従来の半分以下に抑えられた時は、努力が報われた気がしてうれしかったです。

-坂本さんが担当された高欄は、橋の「顔」とも言える部分ですね。特にこだわったポイントは?
【坂本】
デザインに関しては、元々の形状を最大限に尊重しました。その中で特にこだわったのが、人の手が直接触れる「笠木(かさぎ)5」の部分です。当初は、木材同士を直角に切って組み合わせる単純な接合方法でしたが、あえて、ものつくり大学で学んだ昔ながらの伝統的な継手「腰掛鎌継(こしかけかまつぎ)6」を採用しました。木材同士を複雑に噛み合わせることで、一本の太い木のように強固に繋がり、乾燥や湿気による「ねじれ」にも強い構造になるんです。ここには非常に力を入れました。
-高欄づくりにおいて、苦労した点や工夫したところはありますか?
【坂本】
とにかく加工と組み立ての物量が膨大でした。例えば、高欄の縦材を差し込むための穴を200個ほど開ける作業などは、非常に時間がかかり苦労しましたね。また、仕上の際、通路側の柱の節(ふし)が目立つ箇所に塗装がうまく乗らず、黒ずんでしまった部分がありました。そこを小さな木材で丁寧に補修する「埋木(節などの穴を木片で埋める作業)」を施し、指先で触れたときに引っかかりがないよう、徹底的に磨き上げました。
-この橋を訪れる利用者には、どのようなことを感じてほしいですか?
【坂本】
高欄には、ヒノキや杉といった柔らかく温かみのある木材を使用しています。橋を渡る人がふと高欄に手を置いたとき、「あ、なんだか温かみがあるな」と、木の持つ優しさを肌で感じてもらえたらうれしいですね。

予期せぬトラブルと深まった互いへの信頼
-お二人の間で、冷や汗をかいた場面があったそうですね。
【坂本】
実は、最終組み立ての段階で大きなミスが発覚しました。私と小林君の間で、ボルトを通す位置の打ち合わせが不十分だったんです。私が主桁に高欄を取り付けようとした場所には、小林君が主桁を補強するため大量のビスが打ってあって。ボルトを通そうとドリルを当てても、中のビスに当たって進まない。でも、橋の構造上、ボルトの位置はもう変えられない。結局、反対側から慎重に穴を開け、中にあるビスを鉄鋼用のヤスリでひたすら削り落とし、貫通させたのは何より大変でした。
【小林】
あれは本当に青ざめました。補強を強固にすることに必死で、後からボルトを通すスペースを確保することを失念していたんです。ミスマッチがないように「事前の打ち合わせの『ほうれんそう(円滑な業務遂行のための「報告」「連絡」「相談」の頭文字をとった言葉)』」がいかに重要かを痛感しました。
-異なる強みを持つお二人がタッグを組んだからこそ成し遂げられたと感じます。一緒に作業をされたことで、お互いに刺激を受けたり、助けられたりしたことはありますか?
【小林】
坂本君は加工技術が本当に卓越していて、現場では何度も助けられました。実は、最初は自分一人ですべての補修を担うつもりだったんです。でも、芝沼先生から「一人では大変すぎるから坂本さんにも入ってもらおう」と助言をいただいて。もし自分一人で高欄まで手掛けていたら、作業は膨大な時間を要していたはずです。彼の高度な技術があったからこそ、このクオリティで完成させることができました。
【坂本】
僕は木造が専門なので、樹脂やCFRPシートに関する知識は全くない状態からのスタートでした。しかし、今回手がけた高欄も、実は笠木の部分にシートを巻くなど、先端素材の技術や知識が必要な場面があったんです。そんな時、小林君や大垣研の皆さんが人手を出して一緒に作業してくれたり、大学院生の先輩が木造の作業まで手伝ってくれたりと、知識面でも作業面でも本当に支えられました。自分一人では決して届かなかった領域を、仲間のおかげで形にすることができました。
実学が教えてくれた、ものづくり人としての成長
-補修完了にあたり、1月7日に行われた完成式を終えた今、自分自身の成長をどう感じていますか?
【小林】
私はもともと、図面を正確に書くことやCADの操作が苦手で、どこか避けている部分がありました。しかし、14メートルの橋をリノベーションするには、構造計算をし、ミリ単位の図面を引き、それを現場に落とし込む必要があります。そのプロセスを逃げずにやり遂げたことで、技術的な自信がつきました。また、共同事業では何より協力体制が大事だったので、必要不可欠なコミュニケーション能力も向上したと思います。
【坂本】
私は「工程管理」の重要性を学びました。見積り通りに進まず、自分の予測の甘さを痛感させられたこともありました。しかし、最終的には「この作業は何日くらいで終わるだろう」といった予測を立てられる能力が身についたと感じています。大学4年間の集大成としてこの事業をやり遂げることができたのは自分にとって大きな自信になっています。
-ものつくり大学での学びは、リノベーション事業でどのように生かされましたか?
【坂本】
私は高校が普通科出身でしたが、ものづくりが好きでこの大学に進学しました。3年生の時に技能五輪国際大会に出場させてもらった経験があり、そこで培った「正確性とスピードの両立」という意識が橋の高欄をきれいに作る上で生きました。
【小林】
私も普通科出身で、最初は「体を動かして学びたい」という理由で入学しました。オープンキャンパスで「工事をしているのも全部学生だよ」と教わった時の衝撃は今も覚えています。CADの使い方や図面の書き方が役に立ったのはもちろん、道具の使い方や危険時対応の学びも生きました。今回のリノベーション事業では、ものつくり大学だからこそ、ストラクチャー実習場7という充実した設備を使えたり、ラフタークレーンも入ってこられたりして大変助かりました。

未来へつなぐ、伝統と責任の架け橋
-自分たちが直した橋が、草加市民の生活の一部になることへの思いを聞かせてください。
【坂本】
元々あった「ふれあい橋」は散歩道として交通量も多く、地域のみなさんに馴染み深いものだったと思います。私たちが改修した橋も親しみを感じて使って欲しいです。私が作った腰掛鎌継の継手や、細かな「埋め木」の跡に気づいてくれる人がいたらうれしいです。
「ふれあい橋」が草加市の方々に大切に使い続けてもらえるよう、ものつくり大学の後輩たちにメンテナンスを引き継いでもらい、整備を継続していってほしいと思います。
【小林】
公園が目の前にあるので、交通量もありますし、人が歩くので「安全に使われてほしい」と思います。私たちが施したCFRP補強や防水加工も万能ではありません。日々の点検や塗装の塗り替えなど、適切なメンテナンスをしていただければ助かります。
-最後にお二人の卒業後の進路に今回のリノベーション事業はどのようにつながっていると感じますか?
【坂本】
4月からは、群馬の住宅工務店で大工として働き始めます。橋であっても住宅であっても、「人が使うものを作る」という本質は変わりません。今回のリノベーション事業を通し、人が使うもの、毎日の生活に必要なものを作れたことで、未来に向けた一歩になったと感じています。
【小林】
私はゼネコンに就職し、施工監理か生産管理の道に進みます。木造の現場ではありませんが、実際に使われる橋の改修を行ったので、工程管理や人との連係プレーの学びは、これから必ず生きると信じています。
1.主桁(しゅけた):橋の「背骨」となる最も重要な構造部材。橋の長さ方向に架けられ、橋の上に乗る人や車を支え、その力を土台に伝える役割を果たす。
2.床版(しょうばん):人が直接通る「床」の部分。主桁の上に敷き詰められる板材のこと。常に雨や歩行による摩耗にさらされるため、高い耐久性と滑りにくさが求められる。
3.CFRP(炭素繊維強化プラスチック):「鉄より強く、アルミより軽い」最先端の複合素材。炭素繊維を樹脂で固めたもので、重さは鉄の約4分の1だが、強度は10倍近くある。
4.樹脂(じゅし):木材の欠損部を埋め、強度を回復させる「液体プラスチック」。2種類の液体を混ぜることで化学反応を起こし、カチカチに硬化する。腐朽して空洞になった内部に流し込むことで、腐食の進行を止め、木材を内部から補強する。
5.笠木(かさぎ):手すり(高欄)の最上部に取り付ける仕上げ材。橋を渡る人が直接手を置く部分。手触りの良さといった意匠性だけでなく、下の構造体に雨水が浸入するのを防ぐ「屋根」のような役割も持っている。
6.腰掛鎌継(こしかけかまつぎ):釘を使わずに木材をつなぐ、日本伝統の「継手(つぎて)」技法。一方の材を「鎌」のような形に削り、もう一方の凹みに落とし込んでスライドさせることで、引っ張っても抜けない強固な連結を可能にする。乾燥による木の狂いにも強い、先人の知恵が詰まった技法。
7.ストラクチャー実習場:巨大な構造物の製作・実験が可能な、ものつくり大学独自の施設。学生が「本物」のスケールで実習を行える、実践教育の象徴的な場所。




