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  • VTuber研究に感じた「学ぶ自由」という贅沢

    Introduction 「その研究、何の役に立つの?」大学での学びを考えるとき、多くの人が一度は抱く疑問かもしれません。建設学科4年の小島都和さん(日常意匠研究室)が取り組んだ卒業研究のテーマは、VTuberの演奏に感じる“違和感”。一見すると、実務とは結び付かない不思議なテーマです。しかし、その研究過程で見えてきたのは、「役に立つかどうか」では測れない学びの価値でした。 「なんか変だよね」から始まった研究 「腕が楽器を貫通している」「指が弦に触れていない」研究室のゼミでVTuberの演奏動画を見たとき、そんな声が次々上がりました。軽音学部に所属している小島さんにとって、その違和感は見過ごせないものでした。とはいえ、当初から明確な研究テーマがあったわけではありません。自分の音楽遍歴を振り返ったり、人によって楽器の取り扱い方がどう違うの調べたり--。試行錯誤を重ねる中で、なかなか形にならないもどかしさを感じていたといいます。 軽音学部のライブで演奏する小島さん(写真:左) そんな中で見つけたのが、「VTuberの演奏シーンに感じる違和感」でした。「この“何か変だよね”をちゃんと説明できないだろうか」。その素朴な疑問が研究の出発点となりました。しかし、「違和感」を研究することは簡単ではありません。そもそも違和感とは何なのか。どこからが不自然なのか。明確な基準はありません。さらに、目に見えるデータとして集めることも難しいテーマです。研究を始めた当初、小島さんは迷走していたと振り返ります。それでも、学問とは「問いを学ぶこと」だという教授の主催するゼミでの議論を重ねる中で気づいたのは、答えがすぐに出ない問いに向き合うこと自体に意味があるということでした。その気づきによって「考えることがどんどん面白くなった」と小島さんはいいます。 「分からない」を言葉にするという挑戦 小島さんが取り組んだのは、「違和感」という曖昧な感覚を言葉にすることでした。まず、違和感を「人間にはできない動きや、物理的に不自然な現象」と定義します。そして、VTuverだけでなく、実在のバンドやアニメ、漫画など複数のコンテンツを対象に演奏シーンを一つひとつ検証していきました。収集したシーンは203にのぼります。さらに、小島さんは実際に同じフレーズを自分で演奏し、映像と比較することで検証を深めました。重要だったのは、「誰にでも伝わる言葉」にすることです。専門的な言葉をそのまま使うのではなく、「弦の端にある金属のパーツ」など、楽器を知らない人にもイメージできるように言い換える。その積み重ねによって、“何となく変”だった感覚が少しずつ輪郭を持ち始めました。 それは本当に“役に立たない”のか 分析を進める中で、小島さんはある視点にたどり着きます。それが、「ライブ感」と「リアル感」という2つの軸です。音や演出によって高い臨場感を生み出す「ライブ感」、見た目の動作が人間として自然に見えるかという「リアル感」。VTuberの演奏はライブ感が高い一方で、リアル感が低い。このアンバランスさこそが、違和感の正体でした。同じく日常意匠研究室に所属している羽多叶さんは、小島さんの研究の面白さについて、「ライブ感」と「リアル感」の2軸が基準となったことで、VTuberを推している人たちはリアルさを求めているわけではないということが可視化された点だといいます。一見すると、この研究は「VTuberの分析」に過ぎないように見えるかもしれません。しかし、その本質は「人の技能をどう表現するか」という、より普遍的な問いにあります。この視点は、音楽だけでなく、スポーツや伝統芸能など、そしてもちろん、ものづくりの技能も含め、様々な分野に通じるものです。 卒業研究を発表する小島さん 役に立たない研究ができる幸せ 「何の役に立つか分からない研究ができることが幸せなんです」日常意匠研究室を主宰する土居浩教授は、そう語ります。すぐに成果が求められる社会において、「役に立つかどうか」は需要な基準です。しかし、大学という場所には、それだけではない価値があります。すぐに答えが出ない問いについて、時間をかけて考え続けること。仲間と議論しながら、「なぜ?」を深掘りしていくこと。「ああだこうだと言い続けられる場所があること自体が、すごく貴重なことだと思うんです」その言葉に、小島さんも強く共感したといいます。ものづくりの現場では、計画通りに進める「PDCA」だけでなく、状況に応じて判断し行動する「OODA」という考え方も重要だと言われています。今回の研究もまた、あらかじめ決まった答えに向かうものではありませんでした。違和感に気づき、観察し、試し、また考える。その繰り返しの中で少しずつ輪郭が見えてくる。大学とは、そうしたプロセスを経験する場所でもあります。 大学は「答えを出す場所」ではない 「何の役に立つか分からない」その問いに、すぐに答えを出す必要はありません。むしろ、分からないまま考え続けること。違和感を言葉にし、問いを重ね、他者と共有すること。その積み重ねが新しい価値を生み出していきます。ものつくり大学には、そんな“無駄かもしれない時間”を本気で過ごせる環境があります。そして、その時間こそが、これからの時代に必要とされる力を育てていくのかもしれません。 関連リンク ・日常意匠研究室WEBページ・創造しいモノ・ガタリ03~「問い」を学ぶ。だから学問は楽しい~

  • 【知・技の創造】建築観察学

    建築観察学とは 本稿タイトルの“建築観察学”とは何か?この言葉は、小生が数年前から本学で展開している授業の科目名です。この授業では、建築物を構成する建築材料とそれらがどのように建築に取りついているのかを、本学の校舎を受講生が子細に観察して、最終的に図面化することを行います。 では、なぜ“建築観察”なのか?例えば大学入試の問題では、問題文が答えであることはないと思いますが、建築は謂わば答えが見えて建っている状態と言えます。目の前に立ち上がっている建築は倒壊していなければ,それがある意味の正解だからです。正解が目の前にあるのにこれを観察しない手はありません。建築物は,主には構造材料、仕上材料および下地材料(建築材料を支えるための下地に使われる建築材料、一般には壁や天井の中にあるため目に触れることは少ない)で構成されており、非常に多くの建築材料の集合体と言えます。 これらを観察することによって、建築材料の成り立ちや諸物性を知るとともに、どのように施工して組み立てられているかなど、建築を成立させるための技術体系の一端を体得できる効果があります。 現場を知る 建築は、経験工学の集積である側面が強く、机上の空論よりも現場を知ること、観察することによって、正に「百聞は一見に如かず」の事象の塊と言っても過言ではありません。小生は若い頃に大学での正式な建築の教育を受けないまま建設業界に勤めることとなりました。そのため、業務で分からないことがあると、どの書籍にどの技術が書かれているのか?について、恐らく大学の建築学科において専門教育を受けてきた方々は知っている基本的な事柄すら分かりませんでした。 そこで、当時の少ない給料で片っ端から専門書を購入し、読み漁りました。その結果、どの書籍にどのような技術的な答えが載っているのかの見当がつけられるようになりましたが、一部の書籍では実務では使わない古すぎる技術が記載されていることにも気づきました。すなわち、市販の書籍が全てではないことが分かったのです。 自分の足で調査する そこで始めたのが、自分が触れる建築物がどの建築材料でできているのか?材料はどのように構成されているのか?寸法?などについて、巻き尺やスケッチブックを手に測ることでした。元来凝り性なところがあって、山手線の車内のつり革や手摺の直径にはじまり、椅子の寸法構成なども乗客からの奇異な目で見られることも厭わず測ることが癖づいていました。お酒を飲みに行っても、カウンターの素材や寸法などを観察していました。周りからするとちっとも酔えない酒席です。 現在のようにインターネットが無く、自分の足を使って情報収集するしかなかったのです。今どきで言うところの“タイパが悪い行為”でした。ところが、観察することによって体得した知識が未だに活きており,普段の教育研究活動のみならず日常業務への向き合い方を考える際にも大いに役立っています。建築に限らず,特に初学者や新入社員の若い方々は、目の前にある物事や事象を観察する癖をつけてみてはいかがでしょうか。必ずや将来の自身の血となり肉となり、真の知識として体得できると思います。 埼玉新聞「知・技の創造」(2026年3月6日号)掲載 Profile 大塚 秀三(おおつか しゅうぞう)建設学科教授川口通正建築研究所を経て、2005年ものつくり大学技能工芸学部建設技能工芸学科卒業(社会人入学、1期生)2013年日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了 博士(工学)2018年4月より現職。専門は建築材料施工、コンクリート工学

  • 先端技術×伝統技法で14mの木橋を蘇らせる。学生が挑んだリノベーションの舞台裏

    Introduction 2024年5月、ものつくり大学と草加市が締結した「木橋リノベーション事業に関する基本協定」。その第2弾として2025年度に取り組んだのが、橋長14メートルの木橋「ふれあい橋」の再生です。橋梁・構造を研究する建設学科の大垣研究室と、木造構造・材料を研究する芝沼研究室による共同リノベーション事業として実施されました。この事業の中心を担った、建設学科4年生の小林駿斗さん(大垣研)と坂本匠さん(芝沼研)に、実践的な学びや苦闘、そして成長の記録をインタビューしました。 想像を超えた14メートル橋との対面、研究室を越えた結束 -まずは、このリノベーション事業に携わることになったきっかけと、その時の思いを教えてください。 【坂本】私は卒業研究のテーマを考えていた際、芝沼先生から「大垣研究室と合同で木橋のリノベーションをやってみないか」と勧められたのがきっかけです。元々大きい橋の改修という話を聞いていましたが、当初は「古い橋の一部を新しいものに作り直すだけなら、そんなには難しくないだろう」と少し楽観的に考えていた部分もありました。 【小林】私は前年度の「中根ふれあい橋」の補修も経験していたので、大垣先生からお話をいただいた時は「昨年の経験が生かせる」と引き受けました。しかし、現場で実際に14メートルの「ふれあい橋」を目にした時は、想像の3倍くらい巨大で驚きました。「本当にこれを自分たちだけで補修し、卒業できるのかな」とプレッシャーが押し寄せてきたのを覚えています。 坂本匠さん 小林駿斗さん 大学に搬入された補修前の「ふれあい橋」 -大垣研究室(橋梁・構造)と芝沼研究室(木造構造・木材)の共同リノベーション事業で異なる専門性を持つ学生がどのように連携したのですか? 【坂本】私は主に高欄(手すり)の製作を担当し、小林君たちは橋の骨組みである主桁(しゅけた)1や床板(しょうばん)2の補修を担当しました。高欄は、組み立てなど人が必要な時は、芝沼研究室のメンバー以外にも声を掛けて10人くらいで作業をしました。高欄を主桁に取り付ける段階に入ってからは小林君たちとずっと一緒に作業に取り組みました。 【小林】大垣研究室側は、私と大学院生の平田さんを中心に、3~4人で動いていました。先生方の指導はもちろんですが、平田さんは昨年の知見もありますし、木材にも詳しいのでさまざまなアドバイスをいただきました。 小林さんが作成した「ふれあい橋」の側面図 硬くて重い木材「ボンゴシ」との格闘 -2025年6月、大学に「ふれあい橋」が運び込まれましたが、実際に目の当たりにしてどうでしたか? 【小林】現場で見た時は「表面が少し痛んでいるかな」という程度に思えましたが、いざ解体してみると愕然(がくぜん)としました。木材の内部がアリに食い尽くされていたり、雨水が溜まって芯まで腐っていたり・・・。前回の「中根ふれあい橋」は日本の材で軽かったのですが、今回の「ふれあい橋」は南アフリカ原産「ボンゴシ」という非常に硬く、重い木材が使われていました。本来、腐食や雨などに強いはずの材ですが、3本ある主桁の1段目がほぼ全滅状態でした。 【坂本】橋をぱっと見て、高欄の柱の接合部は腐っていると思いました。実際、表面上は硬そうに見えても、解体してみると、中はかなり腐朽劣化した状態でした。 接合部の解体作業 腐朽劣化状況 -その「ボンゴシ」材の解体作業にかなり苦労されたそうですね。 【小林】正直、もう二度と触りたくないと思うほど大変でした。とにかく硬くて重い。例えば、ビスを一本打つのも一苦労で、木が硬すぎてビスが負けて、途中でねじ切れてしまう感じだったんです。腐った部分を削ろうとしても、ノミや丸鋸とかの刃が欠けたりすることもあり、作業する学生全員が悲鳴を上げてしまうような状況でした。 【坂本】ボンゴシ材に触れ、木材の中に深く埋まっている鉄筋を抜く作業にはかなり苦戦しました。当初は「使える部分は再利用する」という方針でしたが、あまりの劣化の激しさに、多くの部材が再利用不可能だと判断されました。そこから急きょ、新しい材を発注し、一から加工し直すことに・・・。作業量は当初の予想を上回ることになりました。 先端素材CFRPと伝統技法「腰掛鎌接」の融合 -小林さんが担当された主桁や床板の補修では腐朽部分に樹脂3施工とCFRP(炭素繊維強化プラスチック)4施工を行ったそうですね。樹脂施工で大変だったことは? 【小林】苦労したのは「樹脂」の温度管理でした。解体後に腐った部分を取り除き、そこに樹脂を流し込んで固める作業をしたんです。樹脂を漏らさないために木材の欠損部に合わせ枠を貼って、樹脂を流し込む型枠を作りました。樹脂は混ぜると化学反応で熱を持ちますが、夏の猛暑もあって、型枠の中でグツグツと煮え立ってしまうんですよ。それを防ぐため、早朝から少しずつ注入し、つきっきりで作業しました。型枠を外して整えるまで計3日。日付をまたぐこともありましたが、木材を確実に蘇らせるためには欠かせない工程でした。 樹脂注入作業 -今回のリノベーションでは、最先端素材である「CFRP」が補修の鍵となっていますね。この素材の特性と採用した狙いについて教えてください。 【小林】CFRPは鉄と同等の強度を持ちながら非常に軽く、腐食しないという特性があります。日光に弱い点も塗装でカバーできるんです。今回は、腐食して弱くなった木材の一部を樹脂で埋め戻し、その上からCFRPシートを何層も貼り付けることで、元の木材単体よりもはるかに高い耐久性と強度を持たせる手法を取りました。 -CFRP施工で最も気を使われたポイントは? 【小林】特に「成型版(CFRPシートを何層も重ねて固めた板)」を作る時は気を使いました。CFRPシートに樹脂を染み込ませて積層し、板状のパーツ(成型版)を自作するのですが、これが時間との勝負なんです。樹脂が固まり始める前に、すべてのシートを重ねなければならない。休憩も一切取れず、ゼミの仲間10人とシャツを絞れば汗が出るくらいになりながら極限状態で作業しました。でも、その苦労があったからこそ、完成後の「載荷試験」で、設計荷重をかけても「たわみ」が従来の半分以下に抑えられた時は、努力が報われた気がしてうれしかったです。 接合部のCFRP成型版による補修 -坂本さんが担当された高欄は、橋の「顔」とも言える部分ですね。特にこだわったポイントは? 【坂本】デザインに関しては、元々の形状を最大限に尊重しました。その中で特にこだわったのが、人の手が直接触れる「笠木(かさぎ)5」の部分です。当初は、木材同士を直角に切って組み合わせる単純な接合方法でしたが、あえて、ものつくり大学で学んだ昔ながらの伝統的な継手「腰掛鎌継(こしかけかまつぎ)6」を採用しました。木材同士を複雑に噛み合わせることで、一本の太い木のように強固に繋がり、乾燥や湿気による「ねじれ」にも強い構造になるんです。ここには非常に力を入れました。 -高欄づくりにおいて、苦労した点や工夫したところはありますか? 【坂本】とにかく加工と組み立ての物量が膨大でした。例えば、高欄の縦材を差し込むための穴を200個ほど開ける作業などは、非常に時間がかかり苦労しましたね。また、仕上の際、通路側の柱の節(ふし)が目立つ箇所に塗装がうまく乗らず、黒ずんでしまった部分がありました。そこを小さな木材で丁寧に補修する「埋木(節などの穴を木片で埋める作業)」を施し、指先で触れたときに引っかかりがないよう、徹底的に磨き上げました。 -この橋を訪れる利用者には、どのようなことを感じてほしいですか? 【坂本】高欄には、ヒノキや杉といった柔らかく温かみのある木材を使用しています。橋を渡る人がふと高欄に手を置いたとき、「あ、なんだか温かみがあるな」と、木の持つ優しさを肌で感じてもらえたらうれしいですね。 笠木の加工の様子 予期せぬトラブルと深まった互いへの信頼 -お二人の間で、冷や汗をかいた場面があったそうですね。 【坂本】実は、最終組み立ての段階で大きなミスが発覚しました。私と小林君の間で、ボルトを通す位置の打ち合わせが不十分だったんです。私が主桁に高欄を取り付けようとした場所には、小林君が主桁を補強するため大量のビスが打ってあって。ボルトを通そうとドリルを当てても、中のビスに当たって進まない。でも、橋の構造上、ボルトの位置はもう変えられない。結局、反対側から慎重に穴を開け、中にあるビスを鉄鋼用のヤスリでひたすら削り落とし、貫通させたのは何より大変でした。 【小林】あれは本当に青ざめました。補強を強固にすることに必死で、後からボルトを通すスペースを確保することを失念していたんです。ミスマッチがないように「事前の打ち合わせの『ほうれんそう(円滑な業務遂行のための「報告」「連絡」「相談」の頭文字をとった言葉)』」がいかに重要かを痛感しました。 -異なる強みを持つお二人がタッグを組んだからこそ成し遂げられたと感じます。一緒に作業をされたことで、お互いに刺激を受けたり、助けられたりしたことはありますか? 【小林】坂本君は加工技術が本当に卓越していて、現場では何度も助けられました。実は、最初は自分一人ですべての補修を担うつもりだったんです。でも、芝沼先生から「一人では大変すぎるから坂本さんにも入ってもらおう」と助言をいただいて。もし自分一人で高欄まで手掛けていたら、作業は膨大な時間を要していたはずです。彼の高度な技術があったからこそ、このクオリティで完成させることができました。 【坂本】僕は木造が専門なので、樹脂やCFRPシートに関する知識は全くない状態からのスタートでした。しかし、今回手がけた高欄も、実は笠木の部分にシートを巻くなど、先端素材の技術や知識が必要な場面があったんです。そんな時、小林君や大垣研の皆さんが人手を出して一緒に作業してくれたり、大学院生の先輩が木造の作業まで手伝ってくれたりと、知識面でも作業面でも本当に支えられました。自分一人では決して届かなかった領域を、仲間のおかげで形にすることができました。 実学が教えてくれた、ものづくり人としての成長 -補修完了にあたり、1月7日に行われた完成式を終えた今、自分自身の成長をどう感じていますか? 【小林】私はもともと、図面を正確に書くことやCADの操作が苦手で、どこか避けている部分がありました。しかし、14メートルの橋をリノベーションするには、構造計算をし、ミリ単位の図面を引き、それを現場に落とし込む必要があります。そのプロセスを逃げずにやり遂げたことで、技術的な自信がつきました。また、共同事業では何より協力体制が大事だったので、必要不可欠なコミュニケーション能力も向上したと思います。 【坂本】私は「工程管理」の重要性を学びました。見積り通りに進まず、自分の予測の甘さを痛感させられたこともありました。しかし、最終的には「この作業は何日くらいで終わるだろう」といった予測を立てられる能力が身についたと感じています。大学4年間の集大成としてこの事業をやり遂げることができたのは自分にとって大きな自信になっています。 -ものつくり大学での学びは、リノベーション事業でどのように生かされましたか? 【坂本】私は高校が普通科出身でしたが、ものづくりが好きでこの大学に進学しました。3年生の時に技能五輪国際大会に出場させてもらった経験があり、そこで培った「正確性とスピードの両立」という意識が橋の高欄をきれいに作る上で生きました。 【小林】私も普通科出身で、最初は「体を動かして学びたい」という理由で入学しました。オープンキャンパスで「工事をしているのも全部学生だよ」と教わった時の衝撃は今も覚えています。CADの使い方や図面の書き方が役に立ったのはもちろん、道具の使い方や危険時対応の学びも生きました。今回のリノベーション事業では、ものつくり大学だからこそ、ストラクチャー実習場7という充実した設備を使えたり、ラフタークレーンも入ってこられたりして大変助かりました。 補修が完了した「ふれあい橋」 未来へつなぐ、伝統と責任の架け橋 -自分たちが直した橋が、草加市民の生活の一部になることへの思いを聞かせてください。 【坂本】元々あった「ふれあい橋」は散歩道として交通量も多く、地域のみなさんに馴染み深いものだったと思います。私たちが改修した橋も親しみを感じて使って欲しいです。私が作った腰掛鎌継の継手や、細かな「埋め木」の跡に気づいてくれる人がいたらうれしいです。「ふれあい橋」が草加市の方々に大切に使い続けてもらえるよう、ものつくり大学の後輩たちにメンテナンスを引き継いでもらい、整備を継続していってほしいと思います。 【小林】公園が目の前にあるので、交通量もありますし、人が歩くので「安全に使われてほしい」と思います。私たちが施したCFRP補強や防水加工も万能ではありません。日々の点検や塗装の塗り替えなど、適切なメンテナンスをしていただければ助かります。 -最後にお二人の卒業後の進路に今回のリノベーション事業はどのようにつながっていると感じますか? 【坂本】4月からは、群馬の住宅工務店で大工として働き始めます。橋であっても住宅であっても、「人が使うものを作る」という本質は変わりません。今回のリノベーション事業を通し、人が使うもの、毎日の生活に必要なものを作れたことで、未来に向けた一歩になったと感じています。 【小林】私はゼネコンに就職し、施工監理か生産管理の道に進みます。木造の現場ではありませんが、実際に使われる橋の改修を行ったので、工程管理や人との連係プレーの学びは、これから必ず生きると信じています。 用語解説 1.主桁(しゅけた):橋の「背骨」となる最も重要な構造部材。橋の長さ方向に架けられ、橋の上に乗る人や車を支え、その力を土台に伝える役割を果たす。2.床版(しょうばん):人が直接通る「床」の部分。主桁の上に敷き詰められる板材のこと。常に雨や歩行による摩耗にさらされるため、高い耐久性と滑りにくさが求められる。3.CFRP(炭素繊維強化プラスチック):「鉄より強く、アルミより軽い」最先端の複合素材。炭素繊維を樹脂で固めたもので、重さは鉄の約4分の1だが、強度は10倍近くある。4.樹脂(じゅし):木材の欠損部を埋め、強度を回復させる「液体プラスチック」。2種類の液体を混ぜることで化学反応を起こし、カチカチに硬化する。腐朽して空洞になった内部に流し込むことで、腐食の進行を止め、木材を内部から補強する。5.笠木(かさぎ):手すり(高欄)の最上部に取り付ける仕上げ材。橋を渡る人が直接手を置く部分。手触りの良さといった意匠性だけでなく、下の構造体に雨水が浸入するのを防ぐ「屋根」のような役割も持っている。6.腰掛鎌継(こしかけかまつぎ):釘を使わずに木材をつなぐ、日本伝統の「継手(つぎて)」技法。一方の材を「鎌」のような形に削り、もう一方の凹みに落とし込んでスライドさせることで、引っ張っても抜けない強固な連結を可能にする。乾燥による木の狂いにも強い、先人の知恵が詰まった技法。7.ストラクチャー実習場:巨大な構造物の製作・実験が可能な、ものつくり大学独自の施設。学生が「本物」のスケールで実習を行える、実践教育の象徴的な場所。 関連リンク ●建設学科ウェブページ

  • 世界銀メダリストが導く、中庭再生までの100日。~大学生と高校生の挑戦~

    Introduction 技能五輪国際大会造園職種の銀メダリストで、大学院ものつくり学研究科1年の田子雅也さんがリーダーとなり、高大連携の一環として、2024年12月から約1年にわたり取り組んだ「岩槻商業高等学校 中庭整備プロジェクト」。ものつくり大学の学生と岩槻商業高等学校(以下、岩槻商業)の生徒との協働により2025年12月22日に完成に至った中庭。デザインの考案から造園実技の指導に至るまで、持ち前のものづくり魂でプロジェクトを完遂させた田子さんに、完成までの歩みと思いをインタビューしました。 ものづくり魂で挑んだプロジェクト -まず、このプロジェクトにどのような思いで関わろうと決められたのですか? 【田子雅也さん(以下、田子)】私はものづくりに対して、「人から満足してもらえ、自分が本当に納得したものをつくりたい」という気持ちを常に持っています。今回の岩槻商業の中庭整備プロジェクトは、未経験の課題も山積みでした。しかし、「生徒さんや先生方に喜んでもらえるなら、全力で挑戦しよう」という思いが何より勝りました。自分が「こうしたい」という思いももちろんありますが、高校側の「こういう場所があったらいいな」という願いを、可能な限り実現しよう、と覚悟を決めて臨みました。 インタビューに答える田子さん 中庭のデザインに込めたこだわり ー中庭のデザイン考案も田子さんが担当されたそうですね。具体的にどのようなニーズを汲み取り、形にしていったのでしょうか。 【田子】高校側からは大きく分けて2つの要望がありました。一つは「機能的・交流的側面」。鬱蒼(うっそう)としていた中庭を開放的な空間にし、生徒たちが昼食を食べたり、触れ合ったりできる「広場」にしたいという声です。もう一つは「教育的・地域共生的な側面」。前校長先生の熱い思いでもあったのですが、「近隣の保育園児などが家庭菜園を体験できるような、地域との繋がりを育む場所にしたい」という声でした。デザインにあたっては、まず「庭との関わり方」と「空間構成」を徹底的に考えました。庭には「外から眺める庭」と「中に入って体験する庭」がありますが、今回は、生徒たちが主体的に使えるよう、広々とした空間構成を意識しました。また、学校施設である以上、安全面に留意しました。中庭の下には避難設備として埋設物が埋まっているのですが、そこを壊さず、しっかり機能させたまま計画しました。 -デザインにおいて、特に「田子さんのこだわり」を出した部分はどこですか? 【田子】特にこだわったのは、「板石石畳(いたいしいしだたみ)」です。自然石の切り石を精密に舗装していく技術は、私が以前から自身の表現として極めたかった分野でした。これを今回のプロジェクトにどう落とし込むか、何度もシミュレーションを重ねました。そして、もう一つは「タイルアート」です。通常の造園ではあまり行わない手法ですが、岩槻商業のマスコットキャラクターである「商子(しょうこ)ちゃん」をタイルで描くことにしました。 3方向が交差する、プロジェクトの象徴の石畳。100㎏超の板石を「歩かせる」ように運び、足裏で感じる微細な段差まで徹底して調整。後輩に石の加工やデザインを伝承しながら、安定感のある美しさと歩きやすさを両立させた。 -デザイン画を描くプロセスや、それに対する高校側の反応はいかがでしたか? 【田子】手描きで2案作成しました。1枚描くのに1時間半くらいかけました。平面的なポイント。つまり庭のメインになる場所を決め、それと同時にそのメインを引き立てる「空き」、つまり空間の余裕を大切にしたいと考えました。植栽や石の「高さ」のバランスを重視して構成をもしたんです。そこから高校側と打ち合わせを重ね、2案それぞれの良さを残しながらブラッシュアップしていきました。2025年3月頃に最終案がまとまったのですが、生徒たちは「これが本当に自分たちの学校にできるの?」とワクワクした表情を見せてくれました。一方で、先生方からは「このクオリティを予算内で本当に実現できるのか」という不安の声もありました。そこで工夫したのが、「循環型の資材調達」です。既存の中庭にあった石を再利用し、足りない分は非常勤講師の渡邉先生が経営する「株式会社八廣園」から譲り受けた余剰材などを活用しました。4月の段階で、予算計算と綿密な工程計画を詰め、徹底的に準備しました。 田子さんがデザインした完成図面 ものつくり大学特有の「多職種」の絆 -実際の施工は2025年5月から始まったのですね。完成までのプロセスを教えてください。 【田子】施工期間は大学での準備を含めると100日を超え、岩槻商業の現場には約80日通い詰めました。工程としては、まず地盤を整えてコンクリートを打ち、洗い出しの仕上げを施してから石畳を組んでいく。骨格となる「固い物(石や構造物)」ができてから、最後に樹木を入れ、芝を張って「柔らかさ」を出す。これが造園のセオリーです。 -プロジェクトに関わったものつくり大学の学生の構成や協力体制は? 【田子】私のほかに、のべ10名ほどの4年生が手伝ってくれました。彼らは卒業研究で多忙な中、合間を縫って現場に入ってくれました。特に中心となった4、5名は、私とほぼ同じ頻度で現場を支えてくれたんです。一人では絶対に不可能だったプロジェクトです。現場の制約は想像以上に厳しかったです。最大の問題は「重機を入れられない」こと。さらに私自身が免許を持っていなかったため、免許のある学生がいる時しか軽トラが使えず、350㎏という積載量の限界と格闘しながら、巨大な石や木を運びました。技術的な難所やクレーンが必要な場面では、八廣園さんのプロの助けを借りましたが、基本は学生たちの手作業です。ここで、ものつくり大学の強みが発揮されました。 田子さんと一緒に作業をした学生たち -「ものつくり大学ならでは」の強みとは? 【田子】「多職種の力」です。ベンチの設計には大工を目指している学生から木材の性質について意見をもらい、タイルアートでは技能五輪全国大会のタイル張り職種で金賞を取った学生のアドバイスを受けました。「庭」という空間は、植物、石、木工、左官、タイル・・・あらゆる業種が重なり合って成立しています。それを学生同士のネットワークで補完し合い、一つの作品を作り上げられたのは、大きな収穫でした。造園だけをやっていては辿り着けないクオリティを実現できました。 酷暑、重機なき苦悩。例え話で高校生に伝えた「ものづくりの技」 -特に夏場の作業は、過酷を極めたのではないでしょうか。 【田子】本当に、その時期が一番きつかったですね。60平米もの面積を、重機を使わずスコップだけでひたすら手掘りしたんです。掘り出した大量の土を、400~500メートル先の置き場までネコ(一輪車)でひたすら運び続けました。体力のある学生たちですら、汗だくで無言になってしまって。「声がけをしなければ、誰か倒れてしまう」という、命の危険を感じるほどの暑さでした。高校生の安全を守るため、一番過酷な時期の土台作りは我々大学生が引き受け、進めました。 -重機が使えない中、どのような苦労や工夫をされたのですか? 【田子】300㎏~400㎏ある石を動かすために「三又(さんまた)」という原始的な三脚とチェーンブロックを使いました。クレーンなら5分で済む作業に、準備から30分以上かかりました。効率が悪く、安全面にも気を使ったのですが、道具を駆使して石を据える経験が貴重でした。また、工期短縮のために「プレキャスト化(事前製作)」の工夫もしました。大学でパーツをあらかじめ作っておき、現場で繋ぎ合わせました。 三又(さんまた)で作業を行う田子さん達 -高校生への技術指導で意識したことはありますか? 【田子】高校生には「商子ちゃん」のタイル仕上げや、植栽、石の加工などの作業を手伝ってもらいました。石の加工の仕方やデザインの考え方を、実践を交えて教えました。タイルの加工は大半はこちらで準備しました。初めて触る「タイルニッパー」でタイルを割ってもらい、一緒に作り上げました。専門用語を並べても伝わらないので、身近に感じてもらうために「例え」を使いました。例えば、タイルの目地を繋ぐ時、「3枚のタイルが合わさる部分を『Y』の字にすると綺麗に見えるよ。三ツ矢サイダーのマークを意識してみて」と教えました。例えを使うことで生徒さんの理解が深まり、一気に作業の精度が上がるんです。植栽では、やはり高校生たちのセンスもあると思うんですね。色使いとか、本当は華道部の生徒さんにも参加してほしかったのですが、日程が合わなくて、最終的に高校側のプロジェクトメンバーの15名が、放課後の時間を使って、自分たちの庭に命を吹き込んでくれました。 伝統の「洗い出し」に映える、マスコットキャラクター「商子ちゃん」。乾ききる前に表面を水やスポンジでさらい、中の砂利を露出させる「洗い出し」、地元の砂利や色鮮やかな砂利を混ぜた表情豊かな足元には、タイルアートの「商子ちゃん」もデザインされている。この柔らかな凸凹は、高いデザイン性だけでなく、雨の日でも滑りにくい効果をもたらす。 技能五輪の経験がもたらしたもの -田子さんは世界銀メダリストですが、高校時代から技能五輪全国大会に出場されていますよね。その経験はこのプロジェクトにどう反映されましたか? 【田子】大会に出るための訓練で、実際に庭を見て、感性を磨いてきたことが一番生きました。植木の植え方、高さのバランス、平面的な空間構成、これらは訓練の中で無数の庭を見て、実際に手を動かす中で自然と身についてきたものです。そのおかげで、今回のデザイン案もあまり悩まずに、かなり早い段階でまとめ上げることができました。「これは自分でも実現可能だ」という裏付けがあるからこそのデザインで、それは間違いなく、これまでの厳しい訓練の結果です。 -自身の中で、この100日間で感じた「成長」は何でしょうか。 【田子】一番は「段取り」の重要性を再認識したことです。大学から岩槻商業までは往復3時間。忘れ物一つが、致命的なタイムロスとコスト増を招きます。「段取り八分、仕事二分」という言葉の重みを、責任者として身をもって学びました。材料、道具、人員の動き、そのすべてを先読みして管理するプロデュース能力は、技能五輪で得た経験がベースにあり、現場ならではの学びとなりました。 高校生との交流、そして「生きた庭」の未来へ -商業高校の生徒さんとの交流で、意外な発見や喜びはありましたか? 【田子】私は農業高校の生徒さんとの交流は多いのですが、商業高校の生徒さんとはなかなか機会がなかったんです。普段はパソコンや電卓に向き合っている生徒たちにとって、土を触り、自分の手で形を作る作業はとても新鮮だったようです。「今日は作業をやるから来てね」と言うと、興味をもって参加してくれる生徒さんがたくさんいました。「ものを作るのが好き」という言葉を聞いた時、商業という枠組みを超えて、ものづくりの可能性を感じました。デザインを立体として具現化し、生徒さんに喜んでもらえる空間を実現できたことも、何よりの達成感になりました。最初は全容が見えなかった中庭に、緑が入り形になっていくにつれ、生徒さんから「ああ、すごいな」、学生が作ったベンチを見て「これすごいね」と声をかけていただけるようになったときはうれしかったです。 -2025年12月22日、ついに中庭が完成しました。高校側の反応はいかがでしたか? 【田子】「暑い中も含め、長い間ありがとうございました」と感謝の声をいただきました。完成が冬だったので、今はまだ木々が少し寂しい姿をしています。だから高校生たちには「春に芽吹くまでは、しっかり水をあげてね。これからどんどん緑が増えていくから」と伝えました。校長先生が庭を眺めて、「あそこに何か植えたいな」とポツリとつぶやいてくださったのはうれしかったですね。 -この中庭が、今後どのように育ってほしいですか。 【田子】岩槻商業には、これまで「憩いの場」と呼べる緑地が少なかったと聞きます。文化祭などの行事はもちろん、日常の何気ない時間に、ふとこの庭を通り抜けてほしいです。あえて通り抜けができる動線を設計したのは、生活の一部に庭を取り込んでほしかったからです。季節ごとに変化する緑に目を向け、心がふっと軽くなる。そんな場所になってほしいですね。 植栽は、地面のフリク(不陸・凸凹)に合わせて、自然本来の育ち方を再現する「自然樹形」を意識した。ツツジやアジサイ、沈丁花など、高校という場所にふさわしい樹種を厳選。高校に生えていた「龍のひげ」も学生と一緒に植え直し、四季折々の風景を楽しめる憩いの場としての中庭に。 建築と庭を繋ぐ、次世代のプロデューサーを目指して -田子さんが、そもそも造園を志したきっかけは何だったのでしょう? 【田子】中学2年生の時に見た、東京スカイツリーの建設動画です。最初は建築そのものに興味が湧いたのですが、スカイツリーが建った後の下町の映像を見て、心が動きました。人間が作ったコンクリートの直線的な建物と、植木の曲線的な要素が絡み合った街の景色。それが「人と自然の合作」のように見えたんです。建築もいいけれど、緑地デザイン、特にランドスケープデザインをやりたいと直感しました。 -農業高校からものつくり大学、そして大学院へ。学び続ける理由は? 【田子】高校時代は緑地デザインコースで学び、造園部に入り、1年から3年まで毎年技能五輪全国大会に出場し、敢闘賞や銀賞を受賞しました。仲間と切磋琢磨するのが楽しくて技術も上達したのだと思います。ものつくり大学を選んだのは、建築の要素も学びつつ、技能五輪で金賞を目指せる環境があったからです。緑地デザインの中には建築の要素も入っているんですよね。大学院に進んだのは、造園をより建築に馴染ませるための勉強をしたかったからです。現在は三原研究室で、技能五輪を通した若手技能者のスキルアップについての論文を書きつつ、京都の桂離宮や迎賓館などを巡り、空間のあり方を自主的に研究しています。私の目標は、「建築が分かる造園屋」になることです。将来は、建築と庭の両方を一貫してプロデュース、設計・施工できる存在になりたいです。特に今は、商業施設や店舗の庭に興味があります。飲食店などに立ち寄った人の目に留まり、「この庭はいいな。自分の庭もこの人に任せたい」と思ってもらえるような、そんなきっかけを作れる庭を手がけていきたいですね。 -最後に、このプロジェクトを通して、高校生たちにメッセージを。 【田子】庭は完成して終わりではありません。5年後、10年後、木々が大きく育ち、花が咲き、実が成る。その時、関わった生徒たちが卒業生としてここを訪れ、「この石は自分が置いたんだ」「このタイル、一緒に割ったな」と思い出してくれたら。自分たちが作った場所が、後輩たちに愛され、育っている。その誇りと達成感を共有し続けてほしいです。 一緒に中庭を作った岩槻商業高校の生徒さんとともに 関連リンク ・大学院ものつくり学研究科・第47回技能五輪国際大会応援ページ・岩槻商業高等学校「岩商Topics」

  • 【知・技の創造】非破壊検査が開く可能性

    コンクリート構造物の老朽化の対応 現在、高度経済成長期以降に整備された大量のインフラの老朽化が深刻になっており、建設から50年以上経過した構造物が増加しています。「国土交通省白書」では、損傷発生後に補修する「事後保全」から、損傷が軽微な段階で補修を行う「予防保全」に転換することを打ち出しています。そのためには、劣化の状況を目視だけでなく、非破壊検査を活用することが重要になってきます。さらに、深刻な労働者不足に対応するために、AIの活用や、ロボット化の技術が必要不可欠になります。 共同研究の紹介 コンクリート構造物の耐久性は、使用するコンクリートの性能に大きく左右されます。そこで、まずはコンクリート構造物をつくる段階からAI等を活用した技術が研究、実用化されています。近年、生コンの全数の流動性をリアルタイムで確認できる技術が開発され、流れている生コンの画像解析とAIを活用したもの、センサを取り付け流れる生コンの抵抗を測定する方法などがあります。私は流れてくる生コンの抵抗を測定する方法で(株)フジタと共同研究を行っています。幅の異なる金属棒にセンサを取り付け、それぞれの金属棒の生コンが流れる際に受ける抵抗値を測定・解析し、ビンガムモデルを用いて流動性を評価する方法です。現在、施工現場で実用化実験を行っているところです。 次に、コンクリート構造物の劣化調査では、高速道路のコンクリート床版の劣化に着目し、私はコンクリート床版の内部劣化を調査する衝撃弾性波法の自動打撃装置の開発を(株)ネクスコ東日本エンジニアリング、リック(株)、(株)シーテックと共同研究を行っています。衝撃弾性波法は、コンクリート面を鋼球などで打撃し、衝撃により発生した弾性波をコンクリート面に受信センサとして設置した加速度計により受信して、コンクリート内部等の状態を推定する試験方法ですが、実構造物での適用事例が少ないです。また、打撃・受信方法についても従来の人力ではなく、一定の力でコンクリート面を打撃でき、弾性波を正しく受信できる機構を持つ自動打撃装置を開発しました。現場実装に向け、実橋梁による検証や、容易な測定手法、評価方法の確立に取り組んでいます。 非破壊検査への今後の期待 現在、様々な方法でコンクリートを壊さずに調べることのできる非破壊検査技術が研究・実用化しています。今後は、更なるAIやロボットの活用、これら非破壊試験方法のJIS(日本産業規格)やNDIS(日本非破壊検査協会規格)などの標準化、そして若手技術者の育成に力を入れ、国土を守る役割を担えたらと思う次第です。埼玉新聞「知・技の創造」(2026年1月9日号)掲載 Profile 澤本 武博(さわもと たけひろ)建設学科教授 東京理科大学卒業、同大学院博士後期課程修了、博士(工学)。若築建設株式会社、東京理科大学助手を経て、2005年着任、19年より学長補佐、22年より教養教育センター長。

  • 【知・技の創造】ブルーチェアと皆野町

    色鮮やかな「みなのんち」 埼玉県秩父盆地に位置する皆野町では、森林資源の循環と地域交流をテーマにした取り組みが進められています。その拠点となるのが、皆野駅前にある移住相談センター「みなのんち」です。移住希望者と地域住民が気軽に立ち寄れる場所として改修されましたが、より親しみやすく魅力ある空間とすることが課題でした。 私たちはその一環として、町内の製材工場から提供された端材を活用し、子どもたちを対象に「イスづくりワークショップ」を企画しました。小学五年生から中学生までが参加し、役場職員や地域おこし協力隊、そして私たち大学生が協力して進めました。完成したイスの一部は「みなのんち」に常設し、残りは参加者が自宅に持ち帰る仕組みとしました。施設に置いたものは町のイメージカラーの青で仕上げ、「みなのブルーチェア」と名付けました。 当日は子どもたちが思い思いの色を選び、真剣な表情で組み立てに挑みました。材料の不足で急な調整が必要になったり、木材の節をどう扱うか迷ったりする場面もありましたが、そのたびに学生と子どもたちが一緒に考え、工夫を重ねていきました。完成したイスに腰掛けたときの誇らしげな笑顔は忘れられません。アンケートでも「楽しかった」「またやりたい」という声が多く寄せられました。 次の世代へつなげること こうしたワークショップは、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えることが主な目的でした。しかし、ふり返ると最も大きな学びを得たのは、実は運営側の学生だったのではないかと感じています。部材の準備や加工方法の検討、当日の進行計画や資料づくり、さらに地域の方々との調整など、授業では経験できない実践的な課題に向き合いました。現場での予想外のトラブルにも対応し、参加者に安心して取り組んでもらえるよう工夫を凝らす過程は、ものづくりの技術以上に貴重な学びを与えてくれました。 森林資源を無駄にしない端材の活用、地域の人々との交流、子どもたちの体験。これらはいずれも大切な目的でしたが、その裏で学生自身が大きく成長できたことが、このプロジェクトの思わぬ成果だったと実感しています。 「みなのんち」に置かれた青いイスは、町の象徴であると同時に、私たち学生にとっても学びの証です。この小さな家具が、地域への愛着や次世代への継承のきっかけとなることを願っています。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年11月7日号)掲載 Profile 大竹 由夏(おおたけ ゆか)建設学科講師筑波大学博士後期課程修了。博士(デザイン学)。一級建築士。筑波大学博士特別研究員を経て現職。

  • 手を動かす「ものづくり」から、考える「仕組みづくり」に~料理研究サークル、ラジオパーソナリティー、そして商店街の活性化に取り組んで見えたこと~

    Introduction 学内外で多岐にわたる活動に取り組んでいる和田燿(ひかる)さん(建設学科4年・田尻研究室)。ラジオパーソナリティーなど、ものつくり大学の学生として稀有な分野に挑戦してきた和田さんにインタビューしました。 やりたいことを実現できる環境があるものつくり大学 現在、田尻研究室でまちづくりの一環として商店街の活性化プロジェクトに取り組んでいるほか、料理研究サークルの代表やFMクマガヤのラジオパーソナリティーとして活動しています。この大学生活を通じ、ものつくり大学には「やりたいことを実現できる環境」が存在し、意欲と行動が伴えば、教職員の方から地域の方まで誰でも協力してくれると実感しています。もともと建築系を学びたい気持ちがあり、ものつくり大学を選びましたが、進学の決め手は、オープンキャンパスでの体験でした。特に響いたのは、田尻教授による建設学科の説明と、その後の先輩方によるキャンパスツアーです。先輩方が心から楽しそうに大学の魅力を語る姿は印象に残っています。特に「溶接のいいところ」を熱弁してくださった女性の先輩の姿からは、「本当に好きでやっているのだな」という情熱が伝わってきました。「この大学なら、真に楽しんで勉強できる」と確信し、進学を決めました。 碧蓮祭から誕生した「料理研究サークル」 大学1年で初めて学園祭である碧蓮(へきれん)祭に参加したとき、イベントとしての土台となるステージのイベントや出展物の面白さはずば抜けていると感じました。しかし、イベントに欠かせない飲食店があまり賑わっていない印象を受けました。人が並んでいるのは主に外部からの出店で、学生主体の飲食店の盛り上がりが欠けていたのです。そこで、「自分たちでその盛り上がりをつくろう」と思い、もともと料理が好きだったこともあり、1年生の12月にメンバーを集めて料理研究サークルを立ち上げました。「学祭で学生主体の飲食販売を盛り上げる」ことを目標に掲げました。料理研究サークルの活動を通して、好運な出会いもありました。サークル内でピザを作っていたところ、学生課の職員の方が、行田市内で特色あるピザ屋さんに連れて行ってくれたのです。これがきっかけで、私はそのピザ屋でアルバイトをすることになりました。「ピザが好き」「料理研究サークル」「ものつくり大学」という3つの要素を掛け合わせ、2年生の2023年6月にレンガで「移動式ピザ窯」をつくりました。レンガ1個が2.5㎏あり、合計で300~400個のレンガを買ったのですが、総重量が約1トンにも及び、かなり労働力を要しました。このピザ窯は常設できないため、組み立ててバラす形にしました。ピザ窯は30分ほどで組み立てられますが、建設棟の保管場所から運搬する作業を含めると2~3時間かかります。台車に載せられるだけのレンガを何度も往復して運び、みんなで数100個のレンガを頑張って積む作業をします。 レンガを積み上げて作ったピザ窯 このピザ窯は、碧蓮祭のほか、学内の留学生交流会やサークルの新入生歓迎会など様々なイベントで活躍し、碧蓮祭で飲食販売の盛り上がりをつくることができたと感じています。また、私がかかわっているFMクマガヤや商店街の活性化プロジェクトがきっかけで、大学外にピザを出店することもできました。私たちの出店により、ものつくり大学に興味を持っていただいたり、たくさんの方から純粋にピザの味を喜んでもらえたり、貴重な体験ができました。現在、料理研究サークルのメンバーは20人弱いて、一人ひとりパワーがあります。メンバーはみな決断や行動がスムーズで、課題が生じると自らで解決しようと動きます。対応力や行動力がある主体的なサークルだと感じています。 碧蓮祭でピザを販売する料理研究サークル(中央が和田さん) 碧蓮祭で販売したピザ ピザから繋がったFMクマガヤのパーソナリティー 2024年11月、アルバイト先のピザ屋が市内のお寺の縁日へ出店した際、学生である私のブースを設けてくださり、チャレンジメニューとしてオリジナルピザを販売しました。その時、FMクマガヤのパーソナリティーの方がピザ屋に取材に訪れていました。料理研究サークルを学外にもPRしたいと考えていたので、思い切ってサークルのPR方法について相談してみました。すると、「スタジオにおいでよ」と声をかけていただき、好運にも11月に「週刊フードラボ」という番組にサークルの仲間とゲスト出演することができました。初めてのラジオ出演は、シンプルに緊張しました。目の前にマイクがあるだけでこんなに話す内容が変わるんだという驚きがありました。マイクを前にすると普段の雑談や会話とは全く異なるベクトルが必要だと感じました。「週刊フードラボ」の番組内では、料理研究サークルの活動内容や今後の目標を多くの人に知ってもらえるよう意識して話をしました。翌月の12月には、クリスマスイベントの公開放送にも誘われ出演。そこでFMクマガヤの局長の宇野さんから「パーソナリティーをやってみないか?」と声をかけられました。自分がやれるものだとは思っていませんでしたが、「もらえるチャンスは全部取る」という衝動的な思いから、挑戦を決意。面接後に研修をFMクマガヤの代表の栗原さんから受けました。実際の放送中に受けたミキサー等の機械類の研修では、ミスが生放送に大きく影響してしまったのですが、ミスを受け止めつつ、生放送という場でどうつなげていくかの心構えを学びました。その後、2025年3月にパーソナリティーとなりました。 飾らない大学生の姿が魅力のパーソナリティーでありたい 現在、週2日ほど番組に携わっており、第3火曜日の19時から「りすチャン2025」という番組のナビゲーターも務めています。週に約6時間ものフリートークを行うため、日頃からネタを探し、メモを取るようにしています。思いついたことやあった出来事を箇条書きにし、そこから話を広げています。自分の中で思っているくだらないことを「こうなんですよね」とリスナーに語りかけることで、日常の中から何かをひねり出そうと努めています。夜の番組なので、多少の大学生らしいゆるさは許してほしいという気持ちがあります。大人になると忘れがちな気持ちや、「とりあえずやってみたい」という学生らしさをストレートに受け取ってもらいたいです。飾らない大学生の姿が魅力のパーソナリティーでありたいと思っています。私のように料理研究サークルの活動を外部に広げられたのは、たまたまだと思っています。発信できないだけで、ものつくり大学には木工や、機械いじりといった、各々が持つ個性が溢れています。ラジオという媒体を通じて、そうした学生の魅力を発信し、ものつくり大学の学生の「とがり」を出していきたいです。 学内にFMクマガヤのサテライトスタジオが 今月(2025年10月)からFMクマガヤのサテライトスタジオが学内の図書館・メディア情報センターに設置される予定です。碧蓮祭の1日目である10月25日に公開生放送が行われることになり、話が早く進んでいることに驚いています。私はサテライトスタジオ設置の話を知り、9月にメディア研究サークルを立ち上げ、図書館・メディア情報センター長の井坂教授に顧問をお願いしました。このサークルはラジオに限定せず、メディア全般を取り扱い、学生と地域のつながりを広げていく予定です。サテライトスタジオが実際にどう動くかは未知数ですが、行田とものつくり大学、そして学生の魅力を発信していきたいです。私以外に、主軸に立ってメインで動く学生も見つけていきたいです。こうした活動に前向きな学生が見つかれば、きちんと活動を継続していけると思います。10月25日の公開生放送では碧蓮祭に携わる人や団体の魅力を掘り下げていく予定です。 今までの活動で見えてきたもの 今後は、田尻研究室での取り組みに特に力を注いでいきたいと考えています。建築系を学びたくて進学したものの、サークル活動やラジオパーソナリティなどを通じ、実際に手を動かして「ものをつくる」よりも、いろいろ考えて「仕組みをつくる」ことに興味が移りました。田尻研究室は、物理的な「もの」をつくるような研究ではなく、「基盤の仕組みづくり」の研究室であり、考えることに重きを置いています。まちづくりや都市計画の分野が研究の中心です。私は、商店街の活性化に取り組んでおり、現在、先輩からプロジェクトを引き継ぎ、イベント等を運営する側となっています。この研究室で学ぶ中で、これからやるべきことも見つかりました。まずは学部卒と名乗るだけの能力を身に付けるために学びを深めたいです。また、以前は施工監理といった職種しか考えていませんでしたが、それ以外の可能性もあることを知りました。本当に自分がやりたいことを見つけるために、大学院へ進学し、より深く専門的な知識と考える力をつけたいと考えています。 挑戦や行動力の原点は「興味」 現在に至るまでの大学生活での挑戦や行動力の原点は、単純に「興味」です。「やったことのないこと」「簡単にやれないこと」をやってみる気持ちが強いです。料理研究サークルをつくったことが全てのはじまりでしたが、ラジオのパーソナリティーにしても、一つずつ行動したことに対して評価され、誘っていただく機会に恵まれました。一個ずつやったことに対して派生していった結果、今があります。これからは、今まで培った力や縁の一つ一つを大切にしつつ、田尻研究室の一員として研究活動を追求できればと思います。大学生活は「何もしないのはもったいない」と強く思います。なにかに興味をもち、やりたいと思ったら、まずはいったん口に出し、人に話してみることが大切です。たとえ無理そうでも、夢物語でも、話してみることで周囲の協力が集まり、話はどんどん広がっていくと実感しています。 関連リンク ・建設学科 まちづくり研究室(田尻研究室)・ものつくり大学料理研究サークル(@iot_oryouri)-Instagram

  • 【知・技の創造】万博という円環

    設計に込める構想 現在開催されている大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、その設計と構想には都市的・建築的な意義が込められています。夢洲という人工島に突如現れるこの仮設都市は、従来の都市構造─中心と周縁、効率と消費、競争と排除─の限界を浮き彫りにし、それを超克しようとする試みとして注目されています。 工事中の万博空撮写真 建築家・藤本壮介氏による会場デザインの最大の特徴は、その環状型の配置です。中央に巨大な回廊「リング」を据え、その下に各国・企業のパビリオンが点在する構成は、従来の軸線的・階層的な都市設計とは一線を画します。リング=円という構成は、古来より強い中心性を持つ完璧な形として、権威の象徴に多く用いられてきました。例えば、ローマのパンテオンでは、建物の中心から神を象徴する光が降り注ぐように設計されていますし、パリの都市構造も凱旋門などの記念碑を中心に据え、放射状・円環状の道路によってその中心性を強調しています。また、円形の都市や建築は、外部から内部を守る防御の形としても多用されてきました。中国の客家土楼という集合住宅は外敵から身を守る擁壁として機能し、イタリアのパルマノーバなどの要塞都市でも円形構成が見られます。 今後の可能性と近代都市 妹島和世氏と西沢立衛氏の設計による金沢21世紀美術館は、こうした歴史的な円形構成の意味を大きく転換させた建築として注目されました。この美術館では、円形を「すべての方向が正面」と捉え、複数の入り口を設け、外周の壁を全面ガラスとすることで視覚的な開放性を実現。内部には展示室が島のように等価に配置され、階層性のない空間が生まれています。 大阪・関西万博においても、中心近くに森が配置されているものの、動線の起点とはされず、体験として中心と周縁の境界は曖昧です。また、巨大なリングは幅があり、通路でありながら居場所にもなっており、2階に上がることもできます。その最高地点に登るとリング全体が見渡せ、周縁でありながら円全体が中心のような印象を与えます。地上レベルでは柱がグリッド状に林立し、どこからでも入場可能であることも大きな特徴です。こうした設計は訪問者に自由で非直線的な体験と印象を促し、階層性を前提とした近代都市モデルからの脱却を象徴しています。この万博が一時の夢にとどまるのか、それとも都市と建築の在り方を問い直す契機となるのかは、今後の実装と継承の意思にかかっています。私たちは、この人工島の風景から、持続可能で包摂的な空間づくりの可能性を汲み取ることができるでしょうか。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年9月5日号)掲載 Profile 岡田 公彦(おかだ きみひこ)建設学科教授 神奈川県横浜市生まれ。その後、旧大宮市(現さいたま市)で育つ。明治大学理工学部建築学科卒。専門は建築設計、デザイン、街づくり。

  • 【知・技の創造】住宅の気密性能

    隙間風のあれこれ 私は主に住宅の省エネ・快適・耐久性(防露・乾燥)の向上について研究しており、その一つに、住宅の気密性能(隙間の大きさ)に関する研究があります。住宅外表面の隙間が大きいと、その隙間からの外気の出入りによって、暖冷房エネルギーの増大を招き、冬期には足元に冷たい気流が生じて不快になります。これは外部風がない時でも生じます。冬期は室内の温度が外気に比べて高いので、住宅上方の隙間から室内空気が流出し、1階下方の隙間から外気が流出します。 隙間風の寒さに困っている方、またはより省エネにしたいけど、費用面で改修に躊躇されている方は、例えば1階の幅木下だけでも塞ぐ、あるいは床下に潜って壁下の手の届くところだけでも隙間を塞ぐ工事を行ってみてください。暖かくなったとの実感が得られるかを保証するのは難しいですが、暖房エネルギーは確実に減ります。 気密測定と建物の関係性 この住宅全体の隙間面積を測定する方法(気密測定)はJISで制定されています。室内の空気をファンで排気することを思い浮かべてください。気密性が良い(密閉性が高い)建物では少量の排気で、内外の気圧差(差圧)が大きくなり、気密性の悪い建物では、大量に排気しても、各所の隙間からどんどん外気が入ってくるので、あまり差圧がつかないことが想像できるかと思います。 この性質を利用したものが気密測定で、ファンの流量を3段階以上変えて、それぞれで得られる排気量と差圧の関係の累乗関数から、隙間面積に換算します。ただ、この測定には大きな排気ファンも含めて、それなりに高額な専用の器材が必要です。そこで、排気に台所のレンジファンを利用して簡易化できるのではと考えて、昨年、ある企業の支援を得て特許を取得し、廉価で販売し始めました。これには、測定器そのもののコストダウンだけでなく、コンパクト・簡易化したことで測定の人件費も大幅に下げられると見込んでいます。 レンジフードを利用した気密測定 建築は耐久性や断熱性など、実際に出来たものが設計の通りの性能なのかを確認することが難しい分野です。その中で、気密性能は完成後の現場測定で分かる性能です。また、木造住宅の場合は(吹付け断熱工法の場合を除くと)、工事全般の丁寧な施工が気密性能に影響するので、それを測る目安にもなると考えています。それゆえ、私は今後の全ての住宅で建築者が気密性能を確認してから住まい手に引き渡してほしいと思っています。今回開発した測定器がその一助になれば良いと思っています。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年7月8日号)掲載 Profile 松岡 大介(まつおか だいすけ)建設学科教授 東洋大学大学院博士前期課程修了。京都大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)・一級建築士。2017年4月より現職。専門は建築の温熱環境分野。

  • 【知・技の創造】歴史的建造物の保存再生

    歴史建造物の調査研究 2005年に本学に着任以来、これまでに50件を超える歴史的建造物の調査研究や修復設計・技術指導に関するご依頼を賜り、自身の専門分野となる近世社寺建築を嚆矢に、古民家や本陣建築のほか、近代の洋風建築や足袋蔵、特攻訓練も行われた戦争遺跡、さらには土木遺産となる河川のれんが造門樋や鉄骨バランスアーチ橋に加え、産業技術遺産となる蒸気機関車など、多岐に渡る歴史的遺産の調査研究を学生と共に携わってきました。 横山研究室が復原整備を手掛けた旧忍町信用組合店舗 旧忍町信用組合店舗の解体修理調査の様子 鍵は建造物と「対話」すること 上掲に伴う調査研究の手法は「実態調査」・「文献調査」・「数例比較調査」の三柱を基軸に進めていくことになりますが、大切なことは実践的な調査研究を通して歴史的建造物との対話がいかに行えるかが鍵となります。つまり、これには現状把握のための精緻な実態調査が必要で、室内空間だけに留まらず、床下・小屋裏・屋根裏と真っ黒に汚れながらも丁寧且つ敏速に膨大な調書を取り、それを整理して図面化することが対話の第一歩につながります。 このような前提のもと、次のステップとして創建当初の姿がどのような形態であったかを探るため、建物を構成する主要軸部の柱や梁などに残存する仕口や埋木痕跡のほか、木材表面に残る釘穴なども隈なく調べることで、復元考察が進められています。なお、近世以前の歴史的建造物は古写真が実在することは殆ど皆無であるため、このためにも文献調査を粘り強く広範囲に行い、絵図や規模を記す文書を見つけ出すことができれば大金星となります。 さらに同一の建築様式となる歴史的建造物との類例比較調査を行い、これらを踏まえながら対話の密度を高めて行けば、徐々に創建当初の姿が見えてくることになるのです。 いずれにしても日々の積み重ねが重要であり、一朝一夕に研究成果の到達を見ることはできませんが、東松山市に所在する箭弓稲荷神社社殿は二年間に及ぶ調査研究の結果、近世最後の大規模権現造形式の社殿であることを明らかとすることができ、昨年の1月19日に国の重要文化財指定に導くことがかないました。 箭弓稲荷神社の調査の様子 箭弓稲荷神社の社殿外部透かし彫り彫刻 地方都市再生の鍵 首都圏に位置する埼玉県においても、残念ながら地方都市では人口減少が見受けられ、これを何とか食い止める施策が官民によって打ち出されています。街輿しに伴う手法はそれぞれの地域的特性に添ったコンセプトに基づき、計画性を持って段階的に進められていますが、これからの時代は「土着性と新規性の融合」が地方都市再生の鍵だと考えられます。このためにも、地域に残存する歴史的建造物をバナキュラー建築に位置づけ、保存再生と積極活用を図ることが重要だと言えます。 これにより、その歴史的建造物は地域のランドマークとなり、結果的にオンリーワンとなる地域ブランディング確立にも寄与し、例えば川越市の「蔵造りの街並み」のように、歴史の香りが漂う小江戸として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されるなど、全国にその名を知らしめることになります。 なお、土着性と新規性の融合比率は、土着性の方が優位でなければなりません。これが過度に逆転すると地域特性を生かした街並み再生のコンセプトが瓦解する恐れもあり、関係者が特に留意すべき点として掲げられます。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年5月9日号)掲載 Profile 横山 晋一(よこやま しんいち)建設学科教授 横浜国立大学大学院博士課程後期修了。博士(工学)。財団法人文化財建造物保存技術協会、立教大学を経て現職。専門分野は市域に残る歴史的建造物の保存再生と活用提案。

  • 【知・技の創造】デザインで世界から街へ

    Design for the other 90%(世界を変えるデザイン)  30代、40代の大半は、海外の紛争地や自然災害の被災地で過ごしてきた。アフガニスタン、シエラレオーネ、コソボなど、通常見聞できない土地での生活で「世界を変えるデザイン(原題:Design for the other 90%)」を強く意識してきた。 私たちの住む日本では、あたらしいもの、きれいなもの、珍しいものなど「ほしいもの」は次々につくられ売られている。世界に目を向けると、196か国のうち水道水が飲める国は日本を含む9か国のみ。ユニセフによると世界では全人口81億のうち18億人が自宅の敷地内で水を手に入れることができないという。 アフリカでは子どもが水汲みのために長い道のりを歩くことに時間を使い、教育や余暇の時間が奪われている。その状況に対して、考案されたドラム缶をドーナッツ型にして穴に紐を通し、水を転がす容器のデザインには、正直目から鱗であった。十分な量の水は重く重労働であるが、75リットルもの水を子どもひとりで運べる。 「ほしいもの」ではなく「必要なもの」に対しての真のデザイン。それこそが世界を変えるデザインである。 ネパール地震での復興支援  2015年ネパール地震からの復興支援に関わった。現地政府と共に耐震性の高い再建住宅を普及するため制度設計から職人トレーニングを実施した。復興期間の5年間を通して、確実に耐震性の高い建物が普及するに至った。それでもヒマラヤ山系の山岳地帯の村々では、建設材料の搬入が困難で、倒壊したまま取り残されていたり、石を積み直しただけの状態であったりした。 そこで蛇篭(じゃかご)を用いた新たな耐震補強工法の開発を行った。蛇篭の材料である針金はどこでも入手しやすく運搬もしやすい。また住人たちの手により現地で編むことができる。日本の実大振動台実験を何度も実施し、大地震下でも蛇篭壁は大変形するものの倒壊はしないことが検証された。最優先課題である人命を守るための効果的なデザインであると考える。 官民学で取り組む街づくり 行田市水城公園に設置した手描き花手水傘の仮設休憩所  2019年に本学に着任してから、官民学連携で行田市や熊谷市の街づくりに取り組んでいる。本学ならではの知と技を融合し、学生と共に仮設休憩所や屋台制作など地元を盛り上げる活動を行ってきた。現在、「行田まちなか再生未来ビジョン」の策定に取り組んでいる。長期的な視野に立ち将来を担う子どもたちがワクワクできるような街づくりを目指す。  これからも真のニーズに焦点をあて、デザインを通した社会貢献をしていきたい。世界から身近な地域をフィールドとして、学生と共に笑顔と技術力を備えたテクノロジストとして活動していく。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年1月10日号)掲載 profile 今井 弘(いまい ひろし)建設学科教授 三重大学博士後期課程修了、一級建築士。設計事務所、NGO、JICA、建築研究所、防災科学技術研究所を経て、2019年より現職。主に設計、製図、構造の授業を担当。 関連リンク ・建設学科WEBページ ・建築技術デザイン研究室(今井研究室)

  • 【知・技の創造】建設施工のロボット化

    近年の建設現場では、直接作業に従事する技能者(いわゆる職人)が高年齢者と外国人で大半を占めるケースも少なくありません。技能者の減少と高齢化に歯止めがかからず、業種によっては外国人技能実習生などに頼らざるを得ない状況が慢性化しています。また、国交省の2022年の統計データによると、29歳以下の技能者の割合は全体の約12%で、他産業と比べて顕著に少ないです。 建設業の担い手の確保・育成に向けて、処遇改善と働き方改革に加え、生産性向上など技術面の改善を一体的に推進することが求められています。 処遇改善と働き方改革の推進 建設工事では、効率的な施工体制の下、低コストかつ短工期で良質な構造物を完成させることが理想的です。一方、建設業は、重層下請構造の典型であり、下請けとなる専門工事業者(原則3次以内)が費用や工期の面でしわ寄せを受ける場合があることも否定できません。  下請けが下層になるほど、企業の利益や技能者の賃金は減少傾向にあります。また、工期に余裕のない現場では、休日出勤や早出・残業を余儀なくされ、長時間労働が常態化しています。さらには、末端の技能者まで管理が行き届かず、工事の安全性や品質の低下を招くリスクも高まります。将来の担い手の確保の観点からも、適正な賃金を維持しつつ、長時間労働の是正と週休2日の定着が求められてきました。これに対しては、働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限規制が今年(2024年)の4月から建設業にも適用され、日給制が多い技能者においては収入減少の可能性が課題として残るものの、建設業全体の労働環境の改善に向けて一歩前進しました。 施工の自動化・ロボット化 国交省では、2016年の「i-Construction」を皮切りに、ICT等を活用した生産性向上の取組みを推進してきました。今年(2024年)の4月には、「i-Construction 2.0」が策定され、現場のオートメーション化(自動化)に重点を置き、2040年度までに、生産性1.5倍以上の向上を目標に掲げています。  この取り組みは、主に土木(インフラ)分野を対象としたものですが、建築分野でも、生産性向上が喫緊の課題であり、生産プロセス全体のDXに加えて、施工の自動化・ロボット化に関する技術開発が活発化しています。その背景には、ICTやIoT、AI、AR・MRなどのデジタル技術の飛躍的な進化があったことは周知の通りです。ゼネコン各社では、省力化・省人化を企図した建設ロボットの技術開発が主に進められており、実用化に至った技術も増えてきました。例えば、3Dプリンティング技術は、RC工事の埋設型枠や構造体の一部に適用されており、生産性向上への貢献のみならず、これまでにないユニークで自由なデザインを可能にしました。  現在、2021年設立の「建設RXコンソーシアム」が中心となり、建設ロボット技術の共同開発とその相互利用を推進しています。各種ロボットの実用化・普及に当たっては、費用対効果をはじめ、関連法令と資格の整備、トラブル発生時の責任問題など、検討事項が山積みですが、建設業界全体の生産性および魅力の向上への寄与が期待されています。 建設現場において、人とロボットが協力して作業することが一般的になる日もそう遠くないかもしれません。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年11月8日号)掲載 profile 荒巻 卓見(あらまき たくみ)建設学科講師 ものつくり大学大学院修士課程修了、日本大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。日本大学助手を経て2021年4月より現職。専門は建築材料・施工、コンクリート工学。 関連リンク ・建設学科WEBページ

  • 【知・技の創造】大切なものを守ろう

    耐震性能の低い建物 1981年以前に建てられた建物は、構造種別(木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など)にかかわらず耐震性能が低い可能性が高いです。木造に関しては1981年~2000年に建てられた建物も現在と仕様規定が一部異なるため耐震性能が低い可能性があります。大地震時には耐震性能が低いと建物は地震の揺れに耐えきれずに倒壊してしまいます。 建物が倒壊すると命、生活、歴史などいろいろなものが失われます。失われたものは元に戻らないものがほとんどです。元に戻る場合であっても長い時間が必要となります。そのため、大切なものを守るために事前に対策をする必要があります。 耐震診断 建物の地震に対する性能を耐震性能といい、既に建っている建物の耐震性能を把握する方法として耐震診断があります。耐震診断は、建物の図面や調査から大地震時に建物が倒壊するかどうかを判定するものです。耐震診断を行うことにより大地震時に建物がどのような状態となってしまうのかを把握することができます。 耐震診断により大地震時に倒壊する可能性があると判定された場合には、耐震性能を向上させるための耐震補強設計に進みます。耐震補強設計では補強壁を設けるなど耐震性能を向上させるための補強設計図の作成、補強設計図に基づく耐震補強計算を行います。補強設計が完了したら、補強設計図の内容で耐震補強工事を行うことで耐震性能を確保します。耐震診断、耐震補強設計、耐震補強工事が耐震性能の把握から確保までの一通りの流れとなります。 耐震性能の目標 耐震補強を行うにあたり、耐震性能の目標を決めます。一般的には建物が倒壊しないということを目標とします。建物が倒壊しないことで人の命が守られます。新築の場合にも建築基準法では人の命を守ることが目標です。 しかし、この場合に建物は倒壊しませんが大きな被害を受けます。地震後に建物に引き続き住むことは難しい可能性が高く、住むためには大きな改修が必要となり、場合によっては取り壊して建て替えるしかない場合もあります。 大地震後も引き続き住み続けられるよう。補強量を多くすることで地震時の被害を軽微に抑え、少ない改修で自分の建物で暮らすことを目標とすることもできます。 改修工事の注意点  昨今、古い建物をリフォームやリノベーションをして活用することが多くなっています。これは、持続可能な社会を実現するためにとてもよいことですが、そのような建物は耐震性能が低い可能性が高いです。耐震診断を行う必要があります。怠ってしまうと見た目はきれいであっても耐震性能が低い建物となってしまい、大地震により建物は倒壊してしまいます。また、耐震補強工事はリフォーム工事と一緒に行うことで費用が安くなります。 まとめ 大切なものを守るためにまずは建物の耐震診断を行い、耐震性能を把握しましょう。耐震診断についての相談は、お住いの市役所に担当する課がありますので、まずは相談してみてください。耐震診断には補助金が出ることが多く、費用の負担は少なくなっています。耐震補強設計や耐震補強工事にも補助金が出る場合があります。近年では1981年から2000年までの建物についても補助金が出る場合もあります。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年9月6日号)掲載 profile 芝沼 健太(しばぬま けんた)建設学科講師 工学院大学卒業。宇都宮大学大学院修士課程修了。 修士(工学) 。有限会社設計工房佐久間を経て2024年より現職。専門は、木質構造、耐震診断・耐震補強。 関連リンク ・建設学科WEBページ

  • 【学生による授業レポート #3】実際に作った経験が知識に変わる

    第3回「学生による授業レポート」をお届けします。今回は、建設学科2年の上田翔大さんが「仕上基礎および実習Ⅴ」で学んだことについてレポートします。実習を通じて、学生たちは何を感じ、何を学んでいるのか、リアルな声をお届けします。(学年は記事執筆当時) 「仕上基礎および実習Ⅴ」の授業について この授業は2年の1クォータで履修することができます。RC(コンクリート)製のモニュメント制作を通じて図面と施工の関わりを学びます。今回は「ものつくり大学」のそれぞれの文字を4等分にして1つの文字を完成させるという大きなRC構造物を制作しました。私たちの班は「も」の下部分2つを担当しました。 この授業は、RCにとって最も重要な型枠・鉄筋・コンクリートの三拍子が揃った実習となっています。 実習内容 最初に行ったのは型枠に文字をレタリングする作業です。外形線を綺麗に書いたら、ジグソー(電動ノコギリ)で切り落としていきます。 切った部分を底板に固定して凹凸部分が完成しました。 次に、形を形成する型枠の加工に入っていきます。この作業が疎かになってしまうと、コンクリートが漏れてしまったり形が歪になったりしてしまいます。最初の難関として、チームのみんなで確認し合いながら作業をしていきました。 鉄筋の加工も同時進行で進めていきました。鉄筋はコンクリートとは離れられない運命になっているほど重要なもので、お互いの欠点を補いあい力を発揮してくれます。鉄筋の加工から切断まで手作業で行うことは大変でしたが、それ以上に楽しさが勝り、あっという間に鉄筋加工の作業は終わりました。 型枠・鉄筋の加工が終わると施工に移ります。この時、重要なことは鉄筋と型枠の被り(隙間)を一定にしたいので、できる限り位置や垂直を正確に出すようにします。また、そのままではコンクリートを打設した際に圧力で型枠がはずれ、コンクリートが漏れてしまうかもしれないので周りを単管パイプや木材等を使用して固定します。ここまでで、コンクリートを流す下準備は完了しました。 コンクリートの打設では、コンクリートが目に入る等、怪我をする可能性がある作業が多いので周囲の確認や声掛けをしっかり行います。コンクリートは一輪車を使用して、ミキサー車から運ぶので肉体作業になります。何往復もしてコンクリートを流し込み、バイブレーター(振動機)を用いて均等に均します。実は、この作業が一番きつかったです。この時に型枠に当ててしまうと傷がつき、変形してしまい完成時に形が変わる原因になるので、意外と繊細な作業も求められます。流し込めたら鏝を使用して表面を均します。 コンクリートが固まったら、傷つけないように型枠を外して分別します。再利用できるものは分けるようにします。外し終えたら、フォークリフトを用いて反転させて文字が上になるようにします。 最後に塗装を行います。手に付くと落ちにくいものなので手袋を着けて作業を行います。文字に沿って養生テープを貼るのが難しく、思った通りに貼れないので苦戦しました。塗装は数回に分けて行うので、時間と集中力が必要になります。ただ塗ればいいだけではなく、下地となる塗装など様々な種類があるので間違えないように気を付けます。塗装の作業は乾かす時間も必要になってくるので、実際の現場ではこの待ち時間も他の作業をしているのかなと感じました。 この授業を通して、良かった点や反省点は以下のとおりです。【良かった点】チームで効率よく作業できたので、最終週は余裕をもって授業を終わらせることができました。皆で確認しながら作業を行うことで、知識の定着を感じられました。 【反省点】今回、型枠の施工不良で文字の一部分が欠けてしまいました。しかし、原因を突き止め、修繕する方法を学ぶことができたので失敗をしても大丈夫です。実際の現場では迷惑をかけることになるので失敗するなら今のうちだと思いました。 何を学ぶことができたか 配布された図面通りに加工・施工をすることができ、図面から読み取る力・頭の中で想像する力を養うことができました。作業での適切な道具や使い方を再確認でき、応用も教わったので基礎を学んだだけで満足するのはまだ早いなと感じました。成功した経験だけではなく、失敗した経験を積み、原因を考え次に生かすことは大学生の今のうちにしか許されないので、何事も挑戦して学ぶ姿勢が大切だと思いました。 また、先生のアドバイスだけでなく、自分たちで考えることで知識や作業の質を高めることができるので、周りの人とのコミュニケーションが大事です。中には上級生も参加していますが、一緒に作業をすると意外と話しやすくなります。 私は木造系に興味がありましたが、様々な実習を学んでいくうちに、この業種にはこんな魅力があって、こんなことをしているんだと知ることができたので、今では他の業種にもアンテナを広げて学びを深めていこうかなと考えるようになりました。どの授業でも同じだとは思いますが、自分たちで実際に作り上げたものは記憶して知識に変わります。その過程を楽しく感じながら成長できたことは良い経験でした。 今回の授業は今まで学んだことの総復習だと感じています。私は1年次に「仕上基礎および実習Ⅰ~Ⅳ」を履修し、コンクリートとは?鉄筋・型枠とは?のいろはを学びました。今回の授業はその知識を深め、実際に作ってみて、学内に設置するという内容でとてもワクワクしました。実習が終わる頃には、コンクリートの建物はこんな工程で建てられているんだなと想像力が広がりました。 原稿建設学科2年 上田 翔大(うえだ しょうた) 関連リンク ・【学生による授業レポート】ジジジジッ、バチバチッ…五感で学ぶ溶接技術・【学生による授業レポート #2】受講後もSA(スチューデント・アシスタント)を通じて深める学び・建設学科WEBページ

  • 【知・技の創造】ものづくりを体験する

    日本の建築文化について ものつくり大学では実習授業が豊富に組まれており、他の大学では体験できない実務的な技術を学べる授業内容になっています。私が担当している授業では、大工道具の使い方、木材の加工方法、原寸大での木造建築の施工など様々なことを学び、木造建築に関わる技術の基礎の習得を目指します。 日本の建築文化は木の文化とともに育まれてきました。しかし、時代を経ていく中で、日本の建築文化は多様化し、木造建築は主流から外されてきました。ところが、最近では木造建築の価値や魅力が見直され、これまで鉄やコンクリートなどで造られていた中高層ビルにも木材を用いようとする新しい試みが実行に移されてきており、大規模な木造建築物を目にする機会も増えてきました。 ものづくりによって創造される人々の生活の豊かさ 人々の生活の豊かさは、ものづくりによって創造されてきたといえます。ものづくりにおける建築物を建てる技術は、古くから引き継がれてきた技術を根幹としつつ、時代の流れの中で新たな技術の受容を繰り返し、革新され進化を続けてきました。中でも木造建築に関する技術は古くから脈々と引き継がれてきた部分が多いです。それは、日本人が生活の中で、四季を通して日本独特の気候と向き合い、木と密接に関わり合いながら豊かな文化を形成してきたことによります。 そして、木造の技術を使って建築された民家や社寺建築など多くの建築物が、修復を繰り返しながら現在まで大切に保存されてきました。それによって、古い時代に建てられた建築物の存在を、現代に生きる私たちが体感し、そこから多くのことを学ぶことができています。 特に重要なのは、その背景にある高度な技術を備えた技術者の存在です。修復には、的確な技術を備えた技術者が必要であり、その技術は後世に伝えていかなければなりません。技術を的確に伝える上では、理論や知識だけではなく人の手によって伝えていくことが不可欠であり、そのためには、その技術を扱える技術者を育成することが必要です。 技術者がいて、その技術力を発揮できる環境があってこそ、それらが絶えることなく伝わるのです。ものづくりの技術の継承には、技術を習得し、活用していく技能が必要であり、そのためには手を動かして実践し、ものづくりを体験することが必要です。体験することは、自ら考えることにつながり、理論や知識を学び、技術を習得することにつながります。 現在の研究とこれから 私は、近世から近代にかけて活動していた大工家の建築生産に関する研究を行っています。研究では、それら大工による社寺建築の遺構や社寺建築を建てる上で作成された造営史料などの分析を行います。そこには、技術者である大工の技術・技能に関する情報がつまっています。その技術・技能は現代に通じるものがたくさんあります。現代の技術・技能は、過去の技術・技能を工夫し、研鑽し、発展させたものなのです。過去の技術・技能を知ることは、現代の技術・技能の発展に不可欠なことです。 ものつくり大学の教育を通して、過去にも目を向けて学び、新たなことを創造し、培った技術・技能を後進へと伝播していけるような技術者を輩出できるよう努めてまいりたいと思います。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年7月5日号)掲載 profile 奥崎 優(おくざき ゆう)建設学科助教 芝浦工業大学大学院修士課程修了、工務店勤務を経て芝浦工業大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。2024年4月より現職。 関連リンク ・建設学科WEBページ

  • 【知・技の創造】外国人建設労働者の就労

    建設業界の人手不足と外国人労働者 平成30年12月14日、出入国管理および難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(平成30年法律第102号)の公布により、新しい在留資格『特定技能』が設けられました。これを受け、人手不足が深刻である建設業界において外国人労働者の就労が可能となりました。 14分野のひとつ、建設業界もまた深刻化する人手不足に悩まされています。建設業界の就業者数は1997年の685万人をピークに、2020年11月時点では505万人に減少しています。生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材の確保が困難な建設分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく制度が構築されました。 この制度では、特定技能1号が在留期間の通算が5年までで、家族の帯同は認められていません(図参照)。また、外国人建設就労者で技能実習2号等修了した者は引き続き通算5年間働いてもらうことができます(図のルート2参照)。 また、母国に帰国している技能実習修了者も呼び寄せ、直接雇用できるようになりました。 建設関係の業務区分と業務内容 これまでの建設分野の特定技能1号は、19業務区分(18試験区分)に分かれていました。旧制度では、ある区分で特定技能の資格を取得しても、その業務以外に携わることができませんでした。また、技能実習対象なのに特定技能にない職種があるなどの不整合もありました。 建設関係の業務区分は3つであり、【土木】【建築】【ライフライン・設備】に再編しました。これにより、特定技能外国人が従事可能な業務範囲が拡大、柔軟に仕事ができるようになりました。 業務内容は、指導者の指導・監督を受けながら、建築物の新築、増築、改築、もしくは移転また修繕もしくは模様替えに係る作業等に従事することになります。 主な業務内容は、①型枠施工、②左官、③コンクリート圧送、④屋根ふき、⑤土工、⑥鉄筋施工、⑦鉄筋継手、⑧内装仕上げ、⑨表装、⑩とび、⑪建築大工、⑫建築板金、⑬吹付ウレタン断熱、その他、建築物の新築、増築、改築もしくは移転、修繕、模様替または係る作業があります。 新たな制度と今後の期待 特定技能1号外国人の受入れ第一号が建設分野で誕生したのは2019年9月でした。2023年11月に特定技能2号評価試験ルートを整備することで今後の外国人技能者の活用が大いに期待できます。建設工事現場における技能者不足を少しずつ解消できることを願っています。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年5月3日号)掲載 profile 三原 斉(みはら ひとし)建設学科教授 近畿大学卒業。工学院大学大学院博士課程修了。博士(工学)・一級建築士・一級建築施工管理技士。村本建設株式会社を経て2001年より現職。専門は、建築生産、建築構法、建築技術技能教育。 関連リンク ・建築再生研究室(三原研究室)・建設学科WEBページ

  • VTuber研究に感じた「学ぶ自由」という贅沢

    Introduction 「その研究、何の役に立つの?」大学での学びを考えるとき、多くの人が一度は抱く疑問かもしれません。建設学科4年の小島都和さん(日常意匠研究室)が取り組んだ卒業研究のテーマは、VTuberの演奏に感じる“違和感”。一見すると、実務とは結び付かない不思議なテーマです。しかし、その研究過程で見えてきたのは、「役に立つかどうか」では測れない学びの価値でした。 「なんか変だよね」から始まった研究 「腕が楽器を貫通している」「指が弦に触れていない」研究室のゼミでVTuberの演奏動画を見たとき、そんな声が次々上がりました。軽音学部に所属している小島さんにとって、その違和感は見過ごせないものでした。とはいえ、当初から明確な研究テーマがあったわけではありません。自分の音楽遍歴を振り返ったり、人によって楽器の取り扱い方がどう違うの調べたり--。試行錯誤を重ねる中で、なかなか形にならないもどかしさを感じていたといいます。 軽音学部のライブで演奏する小島さん(写真:左) そんな中で見つけたのが、「VTuberの演奏シーンに感じる違和感」でした。「この“何か変だよね”をちゃんと説明できないだろうか」。その素朴な疑問が研究の出発点となりました。しかし、「違和感」を研究することは簡単ではありません。そもそも違和感とは何なのか。どこからが不自然なのか。明確な基準はありません。さらに、目に見えるデータとして集めることも難しいテーマです。研究を始めた当初、小島さんは迷走していたと振り返ります。それでも、学問とは「問いを学ぶこと」だという教授の主催するゼミでの議論を重ねる中で気づいたのは、答えがすぐに出ない問いに向き合うこと自体に意味があるということでした。その気づきによって「考えることがどんどん面白くなった」と小島さんはいいます。 「分からない」を言葉にするという挑戦 小島さんが取り組んだのは、「違和感」という曖昧な感覚を言葉にすることでした。まず、違和感を「人間にはできない動きや、物理的に不自然な現象」と定義します。そして、VTuverだけでなく、実在のバンドやアニメ、漫画など複数のコンテンツを対象に演奏シーンを一つひとつ検証していきました。収集したシーンは203にのぼります。さらに、小島さんは実際に同じフレーズを自分で演奏し、映像と比較することで検証を深めました。重要だったのは、「誰にでも伝わる言葉」にすることです。専門的な言葉をそのまま使うのではなく、「弦の端にある金属のパーツ」など、楽器を知らない人にもイメージできるように言い換える。その積み重ねによって、“何となく変”だった感覚が少しずつ輪郭を持ち始めました。 それは本当に“役に立たない”のか 分析を進める中で、小島さんはある視点にたどり着きます。それが、「ライブ感」と「リアル感」という2つの軸です。音や演出によって高い臨場感を生み出す「ライブ感」、見た目の動作が人間として自然に見えるかという「リアル感」。VTuberの演奏はライブ感が高い一方で、リアル感が低い。このアンバランスさこそが、違和感の正体でした。同じく日常意匠研究室に所属している羽多叶さんは、小島さんの研究の面白さについて、「ライブ感」と「リアル感」の2軸が基準となったことで、VTuberを推している人たちはリアルさを求めているわけではないということが可視化された点だといいます。一見すると、この研究は「VTuberの分析」に過ぎないように見えるかもしれません。しかし、その本質は「人の技能をどう表現するか」という、より普遍的な問いにあります。この視点は、音楽だけでなく、スポーツや伝統芸能など、そしてもちろん、ものづくりの技能も含め、様々な分野に通じるものです。 卒業研究を発表する小島さん 役に立たない研究ができる幸せ 「何の役に立つか分からない研究ができることが幸せなんです」日常意匠研究室を主宰する土居浩教授は、そう語ります。すぐに成果が求められる社会において、「役に立つかどうか」は需要な基準です。しかし、大学という場所には、それだけではない価値があります。すぐに答えが出ない問いについて、時間をかけて考え続けること。仲間と議論しながら、「なぜ?」を深掘りしていくこと。「ああだこうだと言い続けられる場所があること自体が、すごく貴重なことだと思うんです」その言葉に、小島さんも強く共感したといいます。ものづくりの現場では、計画通りに進める「PDCA」だけでなく、状況に応じて判断し行動する「OODA」という考え方も重要だと言われています。今回の研究もまた、あらかじめ決まった答えに向かうものではありませんでした。違和感に気づき、観察し、試し、また考える。その繰り返しの中で少しずつ輪郭が見えてくる。大学とは、そうしたプロセスを経験する場所でもあります。 大学は「答えを出す場所」ではない 「何の役に立つか分からない」その問いに、すぐに答えを出す必要はありません。むしろ、分からないまま考え続けること。違和感を言葉にし、問いを重ね、他者と共有すること。その積み重ねが新しい価値を生み出していきます。ものつくり大学には、そんな“無駄かもしれない時間”を本気で過ごせる環境があります。そして、その時間こそが、これからの時代に必要とされる力を育てていくのかもしれません。 関連リンク ・日常意匠研究室WEBページ・創造しいモノ・ガタリ03~「問い」を学ぶ。だから学問は楽しい~

  • 【知・技の創造】建築観察学

    建築観察学とは 本稿タイトルの“建築観察学”とは何か?この言葉は、小生が数年前から本学で展開している授業の科目名です。この授業では、建築物を構成する建築材料とそれらがどのように建築に取りついているのかを、本学の校舎を受講生が子細に観察して、最終的に図面化することを行います。 では、なぜ“建築観察”なのか?例えば大学入試の問題では、問題文が答えであることはないと思いますが、建築は謂わば答えが見えて建っている状態と言えます。目の前に立ち上がっている建築は倒壊していなければ,それがある意味の正解だからです。正解が目の前にあるのにこれを観察しない手はありません。建築物は,主には構造材料、仕上材料および下地材料(建築材料を支えるための下地に使われる建築材料、一般には壁や天井の中にあるため目に触れることは少ない)で構成されており、非常に多くの建築材料の集合体と言えます。 これらを観察することによって、建築材料の成り立ちや諸物性を知るとともに、どのように施工して組み立てられているかなど、建築を成立させるための技術体系の一端を体得できる効果があります。 現場を知る 建築は、経験工学の集積である側面が強く、机上の空論よりも現場を知ること、観察することによって、正に「百聞は一見に如かず」の事象の塊と言っても過言ではありません。小生は若い頃に大学での正式な建築の教育を受けないまま建設業界に勤めることとなりました。そのため、業務で分からないことがあると、どの書籍にどの技術が書かれているのか?について、恐らく大学の建築学科において専門教育を受けてきた方々は知っている基本的な事柄すら分かりませんでした。 そこで、当時の少ない給料で片っ端から専門書を購入し、読み漁りました。その結果、どの書籍にどのような技術的な答えが載っているのかの見当がつけられるようになりましたが、一部の書籍では実務では使わない古すぎる技術が記載されていることにも気づきました。すなわち、市販の書籍が全てではないことが分かったのです。 自分の足で調査する そこで始めたのが、自分が触れる建築物がどの建築材料でできているのか?材料はどのように構成されているのか?寸法?などについて、巻き尺やスケッチブックを手に測ることでした。元来凝り性なところがあって、山手線の車内のつり革や手摺の直径にはじまり、椅子の寸法構成なども乗客からの奇異な目で見られることも厭わず測ることが癖づいていました。お酒を飲みに行っても、カウンターの素材や寸法などを観察していました。周りからするとちっとも酔えない酒席です。 現在のようにインターネットが無く、自分の足を使って情報収集するしかなかったのです。今どきで言うところの“タイパが悪い行為”でした。ところが、観察することによって体得した知識が未だに活きており,普段の教育研究活動のみならず日常業務への向き合い方を考える際にも大いに役立っています。建築に限らず,特に初学者や新入社員の若い方々は、目の前にある物事や事象を観察する癖をつけてみてはいかがでしょうか。必ずや将来の自身の血となり肉となり、真の知識として体得できると思います。 埼玉新聞「知・技の創造」(2026年3月6日号)掲載 Profile 大塚 秀三(おおつか しゅうぞう)建設学科教授川口通正建築研究所を経て、2005年ものつくり大学技能工芸学部建設技能工芸学科卒業(社会人入学、1期生)2013年日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了 博士(工学)2018年4月より現職。専門は建築材料施工、コンクリート工学

  • 先端技術×伝統技法で14mの木橋を蘇らせる。学生が挑んだリノベーションの舞台裏

    Introduction 2024年5月、ものつくり大学と草加市が締結した「木橋リノベーション事業に関する基本協定」。その第2弾として2025年度に取り組んだのが、橋長14メートルの木橋「ふれあい橋」の再生です。橋梁・構造を研究する建設学科の大垣研究室と、木造構造・材料を研究する芝沼研究室による共同リノベーション事業として実施されました。この事業の中心を担った、建設学科4年生の小林駿斗さん(大垣研)と坂本匠さん(芝沼研)に、実践的な学びや苦闘、そして成長の記録をインタビューしました。 想像を超えた14メートル橋との対面、研究室を越えた結束 -まずは、このリノベーション事業に携わることになったきっかけと、その時の思いを教えてください。 【坂本】私は卒業研究のテーマを考えていた際、芝沼先生から「大垣研究室と合同で木橋のリノベーションをやってみないか」と勧められたのがきっかけです。元々大きい橋の改修という話を聞いていましたが、当初は「古い橋の一部を新しいものに作り直すだけなら、そんなには難しくないだろう」と少し楽観的に考えていた部分もありました。 【小林】私は前年度の「中根ふれあい橋」の補修も経験していたので、大垣先生からお話をいただいた時は「昨年の経験が生かせる」と引き受けました。しかし、現場で実際に14メートルの「ふれあい橋」を目にした時は、想像の3倍くらい巨大で驚きました。「本当にこれを自分たちだけで補修し、卒業できるのかな」とプレッシャーが押し寄せてきたのを覚えています。 坂本匠さん 小林駿斗さん 大学に搬入された補修前の「ふれあい橋」 -大垣研究室(橋梁・構造)と芝沼研究室(木造構造・木材)の共同リノベーション事業で異なる専門性を持つ学生がどのように連携したのですか? 【坂本】私は主に高欄(手すり)の製作を担当し、小林君たちは橋の骨組みである主桁(しゅけた)1や床板(しょうばん)2の補修を担当しました。高欄は、組み立てなど人が必要な時は、芝沼研究室のメンバー以外にも声を掛けて10人くらいで作業をしました。高欄を主桁に取り付ける段階に入ってからは小林君たちとずっと一緒に作業に取り組みました。 【小林】大垣研究室側は、私と大学院生の平田さんを中心に、3~4人で動いていました。先生方の指導はもちろんですが、平田さんは昨年の知見もありますし、木材にも詳しいのでさまざまなアドバイスをいただきました。 小林さんが作成した「ふれあい橋」の側面図 硬くて重い木材「ボンゴシ」との格闘 -2025年6月、大学に「ふれあい橋」が運び込まれましたが、実際に目の当たりにしてどうでしたか? 【小林】現場で見た時は「表面が少し痛んでいるかな」という程度に思えましたが、いざ解体してみると愕然(がくぜん)としました。木材の内部がアリに食い尽くされていたり、雨水が溜まって芯まで腐っていたり・・・。前回の「中根ふれあい橋」は日本の材で軽かったのですが、今回の「ふれあい橋」は南アフリカ原産「ボンゴシ」という非常に硬く、重い木材が使われていました。本来、腐食や雨などに強いはずの材ですが、3本ある主桁の1段目がほぼ全滅状態でした。 【坂本】橋をぱっと見て、高欄の柱の接合部は腐っていると思いました。実際、表面上は硬そうに見えても、解体してみると、中はかなり腐朽劣化した状態でした。 接合部の解体作業 腐朽劣化状況 -その「ボンゴシ」材の解体作業にかなり苦労されたそうですね。 【小林】正直、もう二度と触りたくないと思うほど大変でした。とにかく硬くて重い。例えば、ビスを一本打つのも一苦労で、木が硬すぎてビスが負けて、途中でねじ切れてしまう感じだったんです。腐った部分を削ろうとしても、ノミや丸鋸とかの刃が欠けたりすることもあり、作業する学生全員が悲鳴を上げてしまうような状況でした。 【坂本】ボンゴシ材に触れ、木材の中に深く埋まっている鉄筋を抜く作業にはかなり苦戦しました。当初は「使える部分は再利用する」という方針でしたが、あまりの劣化の激しさに、多くの部材が再利用不可能だと判断されました。そこから急きょ、新しい材を発注し、一から加工し直すことに・・・。作業量は当初の予想を上回ることになりました。 先端素材CFRPと伝統技法「腰掛鎌接」の融合 -小林さんが担当された主桁や床板の補修では腐朽部分に樹脂3施工とCFRP(炭素繊維強化プラスチック)4施工を行ったそうですね。樹脂施工で大変だったことは? 【小林】苦労したのは「樹脂」の温度管理でした。解体後に腐った部分を取り除き、そこに樹脂を流し込んで固める作業をしたんです。樹脂を漏らさないために木材の欠損部に合わせ枠を貼って、樹脂を流し込む型枠を作りました。樹脂は混ぜると化学反応で熱を持ちますが、夏の猛暑もあって、型枠の中でグツグツと煮え立ってしまうんですよ。それを防ぐため、早朝から少しずつ注入し、つきっきりで作業しました。型枠を外して整えるまで計3日。日付をまたぐこともありましたが、木材を確実に蘇らせるためには欠かせない工程でした。 樹脂注入作業 -今回のリノベーションでは、最先端素材である「CFRP」が補修の鍵となっていますね。この素材の特性と採用した狙いについて教えてください。 【小林】CFRPは鉄と同等の強度を持ちながら非常に軽く、腐食しないという特性があります。日光に弱い点も塗装でカバーできるんです。今回は、腐食して弱くなった木材の一部を樹脂で埋め戻し、その上からCFRPシートを何層も貼り付けることで、元の木材単体よりもはるかに高い耐久性と強度を持たせる手法を取りました。 -CFRP施工で最も気を使われたポイントは? 【小林】特に「成型版(CFRPシートを何層も重ねて固めた板)」を作る時は気を使いました。CFRPシートに樹脂を染み込ませて積層し、板状のパーツ(成型版)を自作するのですが、これが時間との勝負なんです。樹脂が固まり始める前に、すべてのシートを重ねなければならない。休憩も一切取れず、ゼミの仲間10人とシャツを絞れば汗が出るくらいになりながら極限状態で作業しました。でも、その苦労があったからこそ、完成後の「載荷試験」で、設計荷重をかけても「たわみ」が従来の半分以下に抑えられた時は、努力が報われた気がしてうれしかったです。 接合部のCFRP成型版による補修 -坂本さんが担当された高欄は、橋の「顔」とも言える部分ですね。特にこだわったポイントは? 【坂本】デザインに関しては、元々の形状を最大限に尊重しました。その中で特にこだわったのが、人の手が直接触れる「笠木(かさぎ)5」の部分です。当初は、木材同士を直角に切って組み合わせる単純な接合方法でしたが、あえて、ものつくり大学で学んだ昔ながらの伝統的な継手「腰掛鎌継(こしかけかまつぎ)6」を採用しました。木材同士を複雑に噛み合わせることで、一本の太い木のように強固に繋がり、乾燥や湿気による「ねじれ」にも強い構造になるんです。ここには非常に力を入れました。 -高欄づくりにおいて、苦労した点や工夫したところはありますか? 【坂本】とにかく加工と組み立ての物量が膨大でした。例えば、高欄の縦材を差し込むための穴を200個ほど開ける作業などは、非常に時間がかかり苦労しましたね。また、仕上の際、通路側の柱の節(ふし)が目立つ箇所に塗装がうまく乗らず、黒ずんでしまった部分がありました。そこを小さな木材で丁寧に補修する「埋木(節などの穴を木片で埋める作業)」を施し、指先で触れたときに引っかかりがないよう、徹底的に磨き上げました。 -この橋を訪れる利用者には、どのようなことを感じてほしいですか? 【坂本】高欄には、ヒノキや杉といった柔らかく温かみのある木材を使用しています。橋を渡る人がふと高欄に手を置いたとき、「あ、なんだか温かみがあるな」と、木の持つ優しさを肌で感じてもらえたらうれしいですね。 笠木の加工の様子 予期せぬトラブルと深まった互いへの信頼 -お二人の間で、冷や汗をかいた場面があったそうですね。 【坂本】実は、最終組み立ての段階で大きなミスが発覚しました。私と小林君の間で、ボルトを通す位置の打ち合わせが不十分だったんです。私が主桁に高欄を取り付けようとした場所には、小林君が主桁を補強するため大量のビスが打ってあって。ボルトを通そうとドリルを当てても、中のビスに当たって進まない。でも、橋の構造上、ボルトの位置はもう変えられない。結局、反対側から慎重に穴を開け、中にあるビスを鉄鋼用のヤスリでひたすら削り落とし、貫通させたのは何より大変でした。 【小林】あれは本当に青ざめました。補強を強固にすることに必死で、後からボルトを通すスペースを確保することを失念していたんです。ミスマッチがないように「事前の打ち合わせの『ほうれんそう(円滑な業務遂行のための「報告」「連絡」「相談」の頭文字をとった言葉)』」がいかに重要かを痛感しました。 -異なる強みを持つお二人がタッグを組んだからこそ成し遂げられたと感じます。一緒に作業をされたことで、お互いに刺激を受けたり、助けられたりしたことはありますか? 【小林】坂本君は加工技術が本当に卓越していて、現場では何度も助けられました。実は、最初は自分一人ですべての補修を担うつもりだったんです。でも、芝沼先生から「一人では大変すぎるから坂本さんにも入ってもらおう」と助言をいただいて。もし自分一人で高欄まで手掛けていたら、作業は膨大な時間を要していたはずです。彼の高度な技術があったからこそ、このクオリティで完成させることができました。 【坂本】僕は木造が専門なので、樹脂やCFRPシートに関する知識は全くない状態からのスタートでした。しかし、今回手がけた高欄も、実は笠木の部分にシートを巻くなど、先端素材の技術や知識が必要な場面があったんです。そんな時、小林君や大垣研の皆さんが人手を出して一緒に作業してくれたり、大学院生の先輩が木造の作業まで手伝ってくれたりと、知識面でも作業面でも本当に支えられました。自分一人では決して届かなかった領域を、仲間のおかげで形にすることができました。 実学が教えてくれた、ものづくり人としての成長 -補修完了にあたり、1月7日に行われた完成式を終えた今、自分自身の成長をどう感じていますか? 【小林】私はもともと、図面を正確に書くことやCADの操作が苦手で、どこか避けている部分がありました。しかし、14メートルの橋をリノベーションするには、構造計算をし、ミリ単位の図面を引き、それを現場に落とし込む必要があります。そのプロセスを逃げずにやり遂げたことで、技術的な自信がつきました。また、共同事業では何より協力体制が大事だったので、必要不可欠なコミュニケーション能力も向上したと思います。 【坂本】私は「工程管理」の重要性を学びました。見積り通りに進まず、自分の予測の甘さを痛感させられたこともありました。しかし、最終的には「この作業は何日くらいで終わるだろう」といった予測を立てられる能力が身についたと感じています。大学4年間の集大成としてこの事業をやり遂げることができたのは自分にとって大きな自信になっています。 -ものつくり大学での学びは、リノベーション事業でどのように生かされましたか? 【坂本】私は高校が普通科出身でしたが、ものづくりが好きでこの大学に進学しました。3年生の時に技能五輪国際大会に出場させてもらった経験があり、そこで培った「正確性とスピードの両立」という意識が橋の高欄をきれいに作る上で生きました。 【小林】私も普通科出身で、最初は「体を動かして学びたい」という理由で入学しました。オープンキャンパスで「工事をしているのも全部学生だよ」と教わった時の衝撃は今も覚えています。CADの使い方や図面の書き方が役に立ったのはもちろん、道具の使い方や危険時対応の学びも生きました。今回のリノベーション事業では、ものつくり大学だからこそ、ストラクチャー実習場7という充実した設備を使えたり、ラフタークレーンも入ってこられたりして大変助かりました。 補修が完了した「ふれあい橋」 未来へつなぐ、伝統と責任の架け橋 -自分たちが直した橋が、草加市民の生活の一部になることへの思いを聞かせてください。 【坂本】元々あった「ふれあい橋」は散歩道として交通量も多く、地域のみなさんに馴染み深いものだったと思います。私たちが改修した橋も親しみを感じて使って欲しいです。私が作った腰掛鎌継の継手や、細かな「埋め木」の跡に気づいてくれる人がいたらうれしいです。「ふれあい橋」が草加市の方々に大切に使い続けてもらえるよう、ものつくり大学の後輩たちにメンテナンスを引き継いでもらい、整備を継続していってほしいと思います。 【小林】公園が目の前にあるので、交通量もありますし、人が歩くので「安全に使われてほしい」と思います。私たちが施したCFRP補強や防水加工も万能ではありません。日々の点検や塗装の塗り替えなど、適切なメンテナンスをしていただければ助かります。 -最後にお二人の卒業後の進路に今回のリノベーション事業はどのようにつながっていると感じますか? 【坂本】4月からは、群馬の住宅工務店で大工として働き始めます。橋であっても住宅であっても、「人が使うものを作る」という本質は変わりません。今回のリノベーション事業を通し、人が使うもの、毎日の生活に必要なものを作れたことで、未来に向けた一歩になったと感じています。 【小林】私はゼネコンに就職し、施工監理か生産管理の道に進みます。木造の現場ではありませんが、実際に使われる橋の改修を行ったので、工程管理や人との連係プレーの学びは、これから必ず生きると信じています。 用語解説 1.主桁(しゅけた):橋の「背骨」となる最も重要な構造部材。橋の長さ方向に架けられ、橋の上に乗る人や車を支え、その力を土台に伝える役割を果たす。2.床版(しょうばん):人が直接通る「床」の部分。主桁の上に敷き詰められる板材のこと。常に雨や歩行による摩耗にさらされるため、高い耐久性と滑りにくさが求められる。3.CFRP(炭素繊維強化プラスチック):「鉄より強く、アルミより軽い」最先端の複合素材。炭素繊維を樹脂で固めたもので、重さは鉄の約4分の1だが、強度は10倍近くある。4.樹脂(じゅし):木材の欠損部を埋め、強度を回復させる「液体プラスチック」。2種類の液体を混ぜることで化学反応を起こし、カチカチに硬化する。腐朽して空洞になった内部に流し込むことで、腐食の進行を止め、木材を内部から補強する。5.笠木(かさぎ):手すり(高欄)の最上部に取り付ける仕上げ材。橋を渡る人が直接手を置く部分。手触りの良さといった意匠性だけでなく、下の構造体に雨水が浸入するのを防ぐ「屋根」のような役割も持っている。6.腰掛鎌継(こしかけかまつぎ):釘を使わずに木材をつなぐ、日本伝統の「継手(つぎて)」技法。一方の材を「鎌」のような形に削り、もう一方の凹みに落とし込んでスライドさせることで、引っ張っても抜けない強固な連結を可能にする。乾燥による木の狂いにも強い、先人の知恵が詰まった技法。7.ストラクチャー実習場:巨大な構造物の製作・実験が可能な、ものつくり大学独自の施設。学生が「本物」のスケールで実習を行える、実践教育の象徴的な場所。 関連リンク ●建設学科ウェブページ

  • 世界銀メダリストが導く、中庭再生までの100日。~大学生と高校生の挑戦~

    Introduction 技能五輪国際大会造園職種の銀メダリストで、大学院ものつくり学研究科1年の田子雅也さんがリーダーとなり、高大連携の一環として、2024年12月から約1年にわたり取り組んだ「岩槻商業高等学校 中庭整備プロジェクト」。ものつくり大学の学生と岩槻商業高等学校(以下、岩槻商業)の生徒との協働により2025年12月22日に完成に至った中庭。デザインの考案から造園実技の指導に至るまで、持ち前のものづくり魂でプロジェクトを完遂させた田子さんに、完成までの歩みと思いをインタビューしました。 ものづくり魂で挑んだプロジェクト -まず、このプロジェクトにどのような思いで関わろうと決められたのですか? 【田子雅也さん(以下、田子)】私はものづくりに対して、「人から満足してもらえ、自分が本当に納得したものをつくりたい」という気持ちを常に持っています。今回の岩槻商業の中庭整備プロジェクトは、未経験の課題も山積みでした。しかし、「生徒さんや先生方に喜んでもらえるなら、全力で挑戦しよう」という思いが何より勝りました。自分が「こうしたい」という思いももちろんありますが、高校側の「こういう場所があったらいいな」という願いを、可能な限り実現しよう、と覚悟を決めて臨みました。 インタビューに答える田子さん 中庭のデザインに込めたこだわり ー中庭のデザイン考案も田子さんが担当されたそうですね。具体的にどのようなニーズを汲み取り、形にしていったのでしょうか。 【田子】高校側からは大きく分けて2つの要望がありました。一つは「機能的・交流的側面」。鬱蒼(うっそう)としていた中庭を開放的な空間にし、生徒たちが昼食を食べたり、触れ合ったりできる「広場」にしたいという声です。もう一つは「教育的・地域共生的な側面」。前校長先生の熱い思いでもあったのですが、「近隣の保育園児などが家庭菜園を体験できるような、地域との繋がりを育む場所にしたい」という声でした。デザインにあたっては、まず「庭との関わり方」と「空間構成」を徹底的に考えました。庭には「外から眺める庭」と「中に入って体験する庭」がありますが、今回は、生徒たちが主体的に使えるよう、広々とした空間構成を意識しました。また、学校施設である以上、安全面に留意しました。中庭の下には避難設備として埋設物が埋まっているのですが、そこを壊さず、しっかり機能させたまま計画しました。 -デザインにおいて、特に「田子さんのこだわり」を出した部分はどこですか? 【田子】特にこだわったのは、「板石石畳(いたいしいしだたみ)」です。自然石の切り石を精密に舗装していく技術は、私が以前から自身の表現として極めたかった分野でした。これを今回のプロジェクトにどう落とし込むか、何度もシミュレーションを重ねました。そして、もう一つは「タイルアート」です。通常の造園ではあまり行わない手法ですが、岩槻商業のマスコットキャラクターである「商子(しょうこ)ちゃん」をタイルで描くことにしました。 3方向が交差する、プロジェクトの象徴の石畳。100㎏超の板石を「歩かせる」ように運び、足裏で感じる微細な段差まで徹底して調整。後輩に石の加工やデザインを伝承しながら、安定感のある美しさと歩きやすさを両立させた。 -デザイン画を描くプロセスや、それに対する高校側の反応はいかがでしたか? 【田子】手描きで2案作成しました。1枚描くのに1時間半くらいかけました。平面的なポイント。つまり庭のメインになる場所を決め、それと同時にそのメインを引き立てる「空き」、つまり空間の余裕を大切にしたいと考えました。植栽や石の「高さ」のバランスを重視して構成をもしたんです。そこから高校側と打ち合わせを重ね、2案それぞれの良さを残しながらブラッシュアップしていきました。2025年3月頃に最終案がまとまったのですが、生徒たちは「これが本当に自分たちの学校にできるの?」とワクワクした表情を見せてくれました。一方で、先生方からは「このクオリティを予算内で本当に実現できるのか」という不安の声もありました。そこで工夫したのが、「循環型の資材調達」です。既存の中庭にあった石を再利用し、足りない分は非常勤講師の渡邉先生が経営する「株式会社八廣園」から譲り受けた余剰材などを活用しました。4月の段階で、予算計算と綿密な工程計画を詰め、徹底的に準備しました。 田子さんがデザインした完成図面 ものつくり大学特有の「多職種」の絆 -実際の施工は2025年5月から始まったのですね。完成までのプロセスを教えてください。 【田子】施工期間は大学での準備を含めると100日を超え、岩槻商業の現場には約80日通い詰めました。工程としては、まず地盤を整えてコンクリートを打ち、洗い出しの仕上げを施してから石畳を組んでいく。骨格となる「固い物(石や構造物)」ができてから、最後に樹木を入れ、芝を張って「柔らかさ」を出す。これが造園のセオリーです。 -プロジェクトに関わったものつくり大学の学生の構成や協力体制は? 【田子】私のほかに、のべ10名ほどの4年生が手伝ってくれました。彼らは卒業研究で多忙な中、合間を縫って現場に入ってくれました。特に中心となった4、5名は、私とほぼ同じ頻度で現場を支えてくれたんです。一人では絶対に不可能だったプロジェクトです。現場の制約は想像以上に厳しかったです。最大の問題は「重機を入れられない」こと。さらに私自身が免許を持っていなかったため、免許のある学生がいる時しか軽トラが使えず、350㎏という積載量の限界と格闘しながら、巨大な石や木を運びました。技術的な難所やクレーンが必要な場面では、八廣園さんのプロの助けを借りましたが、基本は学生たちの手作業です。ここで、ものつくり大学の強みが発揮されました。 田子さんと一緒に作業をした学生たち -「ものつくり大学ならでは」の強みとは? 【田子】「多職種の力」です。ベンチの設計には大工を目指している学生から木材の性質について意見をもらい、タイルアートでは技能五輪全国大会のタイル張り職種で金賞を取った学生のアドバイスを受けました。「庭」という空間は、植物、石、木工、左官、タイル・・・あらゆる業種が重なり合って成立しています。それを学生同士のネットワークで補完し合い、一つの作品を作り上げられたのは、大きな収穫でした。造園だけをやっていては辿り着けないクオリティを実現できました。 酷暑、重機なき苦悩。例え話で高校生に伝えた「ものづくりの技」 -特に夏場の作業は、過酷を極めたのではないでしょうか。 【田子】本当に、その時期が一番きつかったですね。60平米もの面積を、重機を使わずスコップだけでひたすら手掘りしたんです。掘り出した大量の土を、400~500メートル先の置き場までネコ(一輪車)でひたすら運び続けました。体力のある学生たちですら、汗だくで無言になってしまって。「声がけをしなければ、誰か倒れてしまう」という、命の危険を感じるほどの暑さでした。高校生の安全を守るため、一番過酷な時期の土台作りは我々大学生が引き受け、進めました。 -重機が使えない中、どのような苦労や工夫をされたのですか? 【田子】300㎏~400㎏ある石を動かすために「三又(さんまた)」という原始的な三脚とチェーンブロックを使いました。クレーンなら5分で済む作業に、準備から30分以上かかりました。効率が悪く、安全面にも気を使ったのですが、道具を駆使して石を据える経験が貴重でした。また、工期短縮のために「プレキャスト化(事前製作)」の工夫もしました。大学でパーツをあらかじめ作っておき、現場で繋ぎ合わせました。 三又(さんまた)で作業を行う田子さん達 -高校生への技術指導で意識したことはありますか? 【田子】高校生には「商子ちゃん」のタイル仕上げや、植栽、石の加工などの作業を手伝ってもらいました。石の加工の仕方やデザインの考え方を、実践を交えて教えました。タイルの加工は大半はこちらで準備しました。初めて触る「タイルニッパー」でタイルを割ってもらい、一緒に作り上げました。専門用語を並べても伝わらないので、身近に感じてもらうために「例え」を使いました。例えば、タイルの目地を繋ぐ時、「3枚のタイルが合わさる部分を『Y』の字にすると綺麗に見えるよ。三ツ矢サイダーのマークを意識してみて」と教えました。例えを使うことで生徒さんの理解が深まり、一気に作業の精度が上がるんです。植栽では、やはり高校生たちのセンスもあると思うんですね。色使いとか、本当は華道部の生徒さんにも参加してほしかったのですが、日程が合わなくて、最終的に高校側のプロジェクトメンバーの15名が、放課後の時間を使って、自分たちの庭に命を吹き込んでくれました。 伝統の「洗い出し」に映える、マスコットキャラクター「商子ちゃん」。乾ききる前に表面を水やスポンジでさらい、中の砂利を露出させる「洗い出し」、地元の砂利や色鮮やかな砂利を混ぜた表情豊かな足元には、タイルアートの「商子ちゃん」もデザインされている。この柔らかな凸凹は、高いデザイン性だけでなく、雨の日でも滑りにくい効果をもたらす。 技能五輪の経験がもたらしたもの -田子さんは世界銀メダリストですが、高校時代から技能五輪全国大会に出場されていますよね。その経験はこのプロジェクトにどう反映されましたか? 【田子】大会に出るための訓練で、実際に庭を見て、感性を磨いてきたことが一番生きました。植木の植え方、高さのバランス、平面的な空間構成、これらは訓練の中で無数の庭を見て、実際に手を動かす中で自然と身についてきたものです。そのおかげで、今回のデザイン案もあまり悩まずに、かなり早い段階でまとめ上げることができました。「これは自分でも実現可能だ」という裏付けがあるからこそのデザインで、それは間違いなく、これまでの厳しい訓練の結果です。 -自身の中で、この100日間で感じた「成長」は何でしょうか。 【田子】一番は「段取り」の重要性を再認識したことです。大学から岩槻商業までは往復3時間。忘れ物一つが、致命的なタイムロスとコスト増を招きます。「段取り八分、仕事二分」という言葉の重みを、責任者として身をもって学びました。材料、道具、人員の動き、そのすべてを先読みして管理するプロデュース能力は、技能五輪で得た経験がベースにあり、現場ならではの学びとなりました。 高校生との交流、そして「生きた庭」の未来へ -商業高校の生徒さんとの交流で、意外な発見や喜びはありましたか? 【田子】私は農業高校の生徒さんとの交流は多いのですが、商業高校の生徒さんとはなかなか機会がなかったんです。普段はパソコンや電卓に向き合っている生徒たちにとって、土を触り、自分の手で形を作る作業はとても新鮮だったようです。「今日は作業をやるから来てね」と言うと、興味をもって参加してくれる生徒さんがたくさんいました。「ものを作るのが好き」という言葉を聞いた時、商業という枠組みを超えて、ものづくりの可能性を感じました。デザインを立体として具現化し、生徒さんに喜んでもらえる空間を実現できたことも、何よりの達成感になりました。最初は全容が見えなかった中庭に、緑が入り形になっていくにつれ、生徒さんから「ああ、すごいな」、学生が作ったベンチを見て「これすごいね」と声をかけていただけるようになったときはうれしかったです。 -2025年12月22日、ついに中庭が完成しました。高校側の反応はいかがでしたか? 【田子】「暑い中も含め、長い間ありがとうございました」と感謝の声をいただきました。完成が冬だったので、今はまだ木々が少し寂しい姿をしています。だから高校生たちには「春に芽吹くまでは、しっかり水をあげてね。これからどんどん緑が増えていくから」と伝えました。校長先生が庭を眺めて、「あそこに何か植えたいな」とポツリとつぶやいてくださったのはうれしかったですね。 -この中庭が、今後どのように育ってほしいですか。 【田子】岩槻商業には、これまで「憩いの場」と呼べる緑地が少なかったと聞きます。文化祭などの行事はもちろん、日常の何気ない時間に、ふとこの庭を通り抜けてほしいです。あえて通り抜けができる動線を設計したのは、生活の一部に庭を取り込んでほしかったからです。季節ごとに変化する緑に目を向け、心がふっと軽くなる。そんな場所になってほしいですね。 植栽は、地面のフリク(不陸・凸凹)に合わせて、自然本来の育ち方を再現する「自然樹形」を意識した。ツツジやアジサイ、沈丁花など、高校という場所にふさわしい樹種を厳選。高校に生えていた「龍のひげ」も学生と一緒に植え直し、四季折々の風景を楽しめる憩いの場としての中庭に。 建築と庭を繋ぐ、次世代のプロデューサーを目指して -田子さんが、そもそも造園を志したきっかけは何だったのでしょう? 【田子】中学2年生の時に見た、東京スカイツリーの建設動画です。最初は建築そのものに興味が湧いたのですが、スカイツリーが建った後の下町の映像を見て、心が動きました。人間が作ったコンクリートの直線的な建物と、植木の曲線的な要素が絡み合った街の景色。それが「人と自然の合作」のように見えたんです。建築もいいけれど、緑地デザイン、特にランドスケープデザインをやりたいと直感しました。 -農業高校からものつくり大学、そして大学院へ。学び続ける理由は? 【田子】高校時代は緑地デザインコースで学び、造園部に入り、1年から3年まで毎年技能五輪全国大会に出場し、敢闘賞や銀賞を受賞しました。仲間と切磋琢磨するのが楽しくて技術も上達したのだと思います。ものつくり大学を選んだのは、建築の要素も学びつつ、技能五輪で金賞を目指せる環境があったからです。緑地デザインの中には建築の要素も入っているんですよね。大学院に進んだのは、造園をより建築に馴染ませるための勉強をしたかったからです。現在は三原研究室で、技能五輪を通した若手技能者のスキルアップについての論文を書きつつ、京都の桂離宮や迎賓館などを巡り、空間のあり方を自主的に研究しています。私の目標は、「建築が分かる造園屋」になることです。将来は、建築と庭の両方を一貫してプロデュース、設計・施工できる存在になりたいです。特に今は、商業施設や店舗の庭に興味があります。飲食店などに立ち寄った人の目に留まり、「この庭はいいな。自分の庭もこの人に任せたい」と思ってもらえるような、そんなきっかけを作れる庭を手がけていきたいですね。 -最後に、このプロジェクトを通して、高校生たちにメッセージを。 【田子】庭は完成して終わりではありません。5年後、10年後、木々が大きく育ち、花が咲き、実が成る。その時、関わった生徒たちが卒業生としてここを訪れ、「この石は自分が置いたんだ」「このタイル、一緒に割ったな」と思い出してくれたら。自分たちが作った場所が、後輩たちに愛され、育っている。その誇りと達成感を共有し続けてほしいです。 一緒に中庭を作った岩槻商業高校の生徒さんとともに 関連リンク ・大学院ものつくり学研究科・第47回技能五輪国際大会応援ページ・岩槻商業高等学校「岩商Topics」

  • 【知・技の創造】非破壊検査が開く可能性

    コンクリート構造物の老朽化の対応 現在、高度経済成長期以降に整備された大量のインフラの老朽化が深刻になっており、建設から50年以上経過した構造物が増加しています。「国土交通省白書」では、損傷発生後に補修する「事後保全」から、損傷が軽微な段階で補修を行う「予防保全」に転換することを打ち出しています。そのためには、劣化の状況を目視だけでなく、非破壊検査を活用することが重要になってきます。さらに、深刻な労働者不足に対応するために、AIの活用や、ロボット化の技術が必要不可欠になります。 共同研究の紹介 コンクリート構造物の耐久性は、使用するコンクリートの性能に大きく左右されます。そこで、まずはコンクリート構造物をつくる段階からAI等を活用した技術が研究、実用化されています。近年、生コンの全数の流動性をリアルタイムで確認できる技術が開発され、流れている生コンの画像解析とAIを活用したもの、センサを取り付け流れる生コンの抵抗を測定する方法などがあります。私は流れてくる生コンの抵抗を測定する方法で(株)フジタと共同研究を行っています。幅の異なる金属棒にセンサを取り付け、それぞれの金属棒の生コンが流れる際に受ける抵抗値を測定・解析し、ビンガムモデルを用いて流動性を評価する方法です。現在、施工現場で実用化実験を行っているところです。 次に、コンクリート構造物の劣化調査では、高速道路のコンクリート床版の劣化に着目し、私はコンクリート床版の内部劣化を調査する衝撃弾性波法の自動打撃装置の開発を(株)ネクスコ東日本エンジニアリング、リック(株)、(株)シーテックと共同研究を行っています。衝撃弾性波法は、コンクリート面を鋼球などで打撃し、衝撃により発生した弾性波をコンクリート面に受信センサとして設置した加速度計により受信して、コンクリート内部等の状態を推定する試験方法ですが、実構造物での適用事例が少ないです。また、打撃・受信方法についても従来の人力ではなく、一定の力でコンクリート面を打撃でき、弾性波を正しく受信できる機構を持つ自動打撃装置を開発しました。現場実装に向け、実橋梁による検証や、容易な測定手法、評価方法の確立に取り組んでいます。 非破壊検査への今後の期待 現在、様々な方法でコンクリートを壊さずに調べることのできる非破壊検査技術が研究・実用化しています。今後は、更なるAIやロボットの活用、これら非破壊試験方法のJIS(日本産業規格)やNDIS(日本非破壊検査協会規格)などの標準化、そして若手技術者の育成に力を入れ、国土を守る役割を担えたらと思う次第です。埼玉新聞「知・技の創造」(2026年1月9日号)掲載 Profile 澤本 武博(さわもと たけひろ)建設学科教授 東京理科大学卒業、同大学院博士後期課程修了、博士(工学)。若築建設株式会社、東京理科大学助手を経て、2005年着任、19年より学長補佐、22年より教養教育センター長。

  • 【知・技の創造】ブルーチェアと皆野町

    色鮮やかな「みなのんち」 埼玉県秩父盆地に位置する皆野町では、森林資源の循環と地域交流をテーマにした取り組みが進められています。その拠点となるのが、皆野駅前にある移住相談センター「みなのんち」です。移住希望者と地域住民が気軽に立ち寄れる場所として改修されましたが、より親しみやすく魅力ある空間とすることが課題でした。 私たちはその一環として、町内の製材工場から提供された端材を活用し、子どもたちを対象に「イスづくりワークショップ」を企画しました。小学五年生から中学生までが参加し、役場職員や地域おこし協力隊、そして私たち大学生が協力して進めました。完成したイスの一部は「みなのんち」に常設し、残りは参加者が自宅に持ち帰る仕組みとしました。施設に置いたものは町のイメージカラーの青で仕上げ、「みなのブルーチェア」と名付けました。 当日は子どもたちが思い思いの色を選び、真剣な表情で組み立てに挑みました。材料の不足で急な調整が必要になったり、木材の節をどう扱うか迷ったりする場面もありましたが、そのたびに学生と子どもたちが一緒に考え、工夫を重ねていきました。完成したイスに腰掛けたときの誇らしげな笑顔は忘れられません。アンケートでも「楽しかった」「またやりたい」という声が多く寄せられました。 次の世代へつなげること こうしたワークショップは、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えることが主な目的でした。しかし、ふり返ると最も大きな学びを得たのは、実は運営側の学生だったのではないかと感じています。部材の準備や加工方法の検討、当日の進行計画や資料づくり、さらに地域の方々との調整など、授業では経験できない実践的な課題に向き合いました。現場での予想外のトラブルにも対応し、参加者に安心して取り組んでもらえるよう工夫を凝らす過程は、ものづくりの技術以上に貴重な学びを与えてくれました。 森林資源を無駄にしない端材の活用、地域の人々との交流、子どもたちの体験。これらはいずれも大切な目的でしたが、その裏で学生自身が大きく成長できたことが、このプロジェクトの思わぬ成果だったと実感しています。 「みなのんち」に置かれた青いイスは、町の象徴であると同時に、私たち学生にとっても学びの証です。この小さな家具が、地域への愛着や次世代への継承のきっかけとなることを願っています。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年11月7日号)掲載 Profile 大竹 由夏(おおたけ ゆか)建設学科講師筑波大学博士後期課程修了。博士(デザイン学)。一級建築士。筑波大学博士特別研究員を経て現職。

  • 手を動かす「ものづくり」から、考える「仕組みづくり」に~料理研究サークル、ラジオパーソナリティー、そして商店街の活性化に取り組んで見えたこと~

    Introduction 学内外で多岐にわたる活動に取り組んでいる和田燿(ひかる)さん(建設学科4年・田尻研究室)。ラジオパーソナリティーなど、ものつくり大学の学生として稀有な分野に挑戦してきた和田さんにインタビューしました。 やりたいことを実現できる環境があるものつくり大学 現在、田尻研究室でまちづくりの一環として商店街の活性化プロジェクトに取り組んでいるほか、料理研究サークルの代表やFMクマガヤのラジオパーソナリティーとして活動しています。この大学生活を通じ、ものつくり大学には「やりたいことを実現できる環境」が存在し、意欲と行動が伴えば、教職員の方から地域の方まで誰でも協力してくれると実感しています。もともと建築系を学びたい気持ちがあり、ものつくり大学を選びましたが、進学の決め手は、オープンキャンパスでの体験でした。特に響いたのは、田尻教授による建設学科の説明と、その後の先輩方によるキャンパスツアーです。先輩方が心から楽しそうに大学の魅力を語る姿は印象に残っています。特に「溶接のいいところ」を熱弁してくださった女性の先輩の姿からは、「本当に好きでやっているのだな」という情熱が伝わってきました。「この大学なら、真に楽しんで勉強できる」と確信し、進学を決めました。 碧蓮祭から誕生した「料理研究サークル」 大学1年で初めて学園祭である碧蓮(へきれん)祭に参加したとき、イベントとしての土台となるステージのイベントや出展物の面白さはずば抜けていると感じました。しかし、イベントに欠かせない飲食店があまり賑わっていない印象を受けました。人が並んでいるのは主に外部からの出店で、学生主体の飲食店の盛り上がりが欠けていたのです。そこで、「自分たちでその盛り上がりをつくろう」と思い、もともと料理が好きだったこともあり、1年生の12月にメンバーを集めて料理研究サークルを立ち上げました。「学祭で学生主体の飲食販売を盛り上げる」ことを目標に掲げました。料理研究サークルの活動を通して、好運な出会いもありました。サークル内でピザを作っていたところ、学生課の職員の方が、行田市内で特色あるピザ屋さんに連れて行ってくれたのです。これがきっかけで、私はそのピザ屋でアルバイトをすることになりました。「ピザが好き」「料理研究サークル」「ものつくり大学」という3つの要素を掛け合わせ、2年生の2023年6月にレンガで「移動式ピザ窯」をつくりました。レンガ1個が2.5㎏あり、合計で300~400個のレンガを買ったのですが、総重量が約1トンにも及び、かなり労働力を要しました。このピザ窯は常設できないため、組み立ててバラす形にしました。ピザ窯は30分ほどで組み立てられますが、建設棟の保管場所から運搬する作業を含めると2~3時間かかります。台車に載せられるだけのレンガを何度も往復して運び、みんなで数100個のレンガを頑張って積む作業をします。 レンガを積み上げて作ったピザ窯 このピザ窯は、碧蓮祭のほか、学内の留学生交流会やサークルの新入生歓迎会など様々なイベントで活躍し、碧蓮祭で飲食販売の盛り上がりをつくることができたと感じています。また、私がかかわっているFMクマガヤや商店街の活性化プロジェクトがきっかけで、大学外にピザを出店することもできました。私たちの出店により、ものつくり大学に興味を持っていただいたり、たくさんの方から純粋にピザの味を喜んでもらえたり、貴重な体験ができました。現在、料理研究サークルのメンバーは20人弱いて、一人ひとりパワーがあります。メンバーはみな決断や行動がスムーズで、課題が生じると自らで解決しようと動きます。対応力や行動力がある主体的なサークルだと感じています。 碧蓮祭でピザを販売する料理研究サークル(中央が和田さん) 碧蓮祭で販売したピザ ピザから繋がったFMクマガヤのパーソナリティー 2024年11月、アルバイト先のピザ屋が市内のお寺の縁日へ出店した際、学生である私のブースを設けてくださり、チャレンジメニューとしてオリジナルピザを販売しました。その時、FMクマガヤのパーソナリティーの方がピザ屋に取材に訪れていました。料理研究サークルを学外にもPRしたいと考えていたので、思い切ってサークルのPR方法について相談してみました。すると、「スタジオにおいでよ」と声をかけていただき、好運にも11月に「週刊フードラボ」という番組にサークルの仲間とゲスト出演することができました。初めてのラジオ出演は、シンプルに緊張しました。目の前にマイクがあるだけでこんなに話す内容が変わるんだという驚きがありました。マイクを前にすると普段の雑談や会話とは全く異なるベクトルが必要だと感じました。「週刊フードラボ」の番組内では、料理研究サークルの活動内容や今後の目標を多くの人に知ってもらえるよう意識して話をしました。翌月の12月には、クリスマスイベントの公開放送にも誘われ出演。そこでFMクマガヤの局長の宇野さんから「パーソナリティーをやってみないか?」と声をかけられました。自分がやれるものだとは思っていませんでしたが、「もらえるチャンスは全部取る」という衝動的な思いから、挑戦を決意。面接後に研修をFMクマガヤの代表の栗原さんから受けました。実際の放送中に受けたミキサー等の機械類の研修では、ミスが生放送に大きく影響してしまったのですが、ミスを受け止めつつ、生放送という場でどうつなげていくかの心構えを学びました。その後、2025年3月にパーソナリティーとなりました。 飾らない大学生の姿が魅力のパーソナリティーでありたい 現在、週2日ほど番組に携わっており、第3火曜日の19時から「りすチャン2025」という番組のナビゲーターも務めています。週に約6時間ものフリートークを行うため、日頃からネタを探し、メモを取るようにしています。思いついたことやあった出来事を箇条書きにし、そこから話を広げています。自分の中で思っているくだらないことを「こうなんですよね」とリスナーに語りかけることで、日常の中から何かをひねり出そうと努めています。夜の番組なので、多少の大学生らしいゆるさは許してほしいという気持ちがあります。大人になると忘れがちな気持ちや、「とりあえずやってみたい」という学生らしさをストレートに受け取ってもらいたいです。飾らない大学生の姿が魅力のパーソナリティーでありたいと思っています。私のように料理研究サークルの活動を外部に広げられたのは、たまたまだと思っています。発信できないだけで、ものつくり大学には木工や、機械いじりといった、各々が持つ個性が溢れています。ラジオという媒体を通じて、そうした学生の魅力を発信し、ものつくり大学の学生の「とがり」を出していきたいです。 学内にFMクマガヤのサテライトスタジオが 今月(2025年10月)からFMクマガヤのサテライトスタジオが学内の図書館・メディア情報センターに設置される予定です。碧蓮祭の1日目である10月25日に公開生放送が行われることになり、話が早く進んでいることに驚いています。私はサテライトスタジオ設置の話を知り、9月にメディア研究サークルを立ち上げ、図書館・メディア情報センター長の井坂教授に顧問をお願いしました。このサークルはラジオに限定せず、メディア全般を取り扱い、学生と地域のつながりを広げていく予定です。サテライトスタジオが実際にどう動くかは未知数ですが、行田とものつくり大学、そして学生の魅力を発信していきたいです。私以外に、主軸に立ってメインで動く学生も見つけていきたいです。こうした活動に前向きな学生が見つかれば、きちんと活動を継続していけると思います。10月25日の公開生放送では碧蓮祭に携わる人や団体の魅力を掘り下げていく予定です。 今までの活動で見えてきたもの 今後は、田尻研究室での取り組みに特に力を注いでいきたいと考えています。建築系を学びたくて進学したものの、サークル活動やラジオパーソナリティなどを通じ、実際に手を動かして「ものをつくる」よりも、いろいろ考えて「仕組みをつくる」ことに興味が移りました。田尻研究室は、物理的な「もの」をつくるような研究ではなく、「基盤の仕組みづくり」の研究室であり、考えることに重きを置いています。まちづくりや都市計画の分野が研究の中心です。私は、商店街の活性化に取り組んでおり、現在、先輩からプロジェクトを引き継ぎ、イベント等を運営する側となっています。この研究室で学ぶ中で、これからやるべきことも見つかりました。まずは学部卒と名乗るだけの能力を身に付けるために学びを深めたいです。また、以前は施工監理といった職種しか考えていませんでしたが、それ以外の可能性もあることを知りました。本当に自分がやりたいことを見つけるために、大学院へ進学し、より深く専門的な知識と考える力をつけたいと考えています。 挑戦や行動力の原点は「興味」 現在に至るまでの大学生活での挑戦や行動力の原点は、単純に「興味」です。「やったことのないこと」「簡単にやれないこと」をやってみる気持ちが強いです。料理研究サークルをつくったことが全てのはじまりでしたが、ラジオのパーソナリティーにしても、一つずつ行動したことに対して評価され、誘っていただく機会に恵まれました。一個ずつやったことに対して派生していった結果、今があります。これからは、今まで培った力や縁の一つ一つを大切にしつつ、田尻研究室の一員として研究活動を追求できればと思います。大学生活は「何もしないのはもったいない」と強く思います。なにかに興味をもち、やりたいと思ったら、まずはいったん口に出し、人に話してみることが大切です。たとえ無理そうでも、夢物語でも、話してみることで周囲の協力が集まり、話はどんどん広がっていくと実感しています。 関連リンク ・建設学科 まちづくり研究室(田尻研究室)・ものつくり大学料理研究サークル(@iot_oryouri)-Instagram

  • 【知・技の創造】万博という円環

    設計に込める構想 現在開催されている大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、その設計と構想には都市的・建築的な意義が込められています。夢洲という人工島に突如現れるこの仮設都市は、従来の都市構造─中心と周縁、効率と消費、競争と排除─の限界を浮き彫りにし、それを超克しようとする試みとして注目されています。 工事中の万博空撮写真 建築家・藤本壮介氏による会場デザインの最大の特徴は、その環状型の配置です。中央に巨大な回廊「リング」を据え、その下に各国・企業のパビリオンが点在する構成は、従来の軸線的・階層的な都市設計とは一線を画します。リング=円という構成は、古来より強い中心性を持つ完璧な形として、権威の象徴に多く用いられてきました。例えば、ローマのパンテオンでは、建物の中心から神を象徴する光が降り注ぐように設計されていますし、パリの都市構造も凱旋門などの記念碑を中心に据え、放射状・円環状の道路によってその中心性を強調しています。また、円形の都市や建築は、外部から内部を守る防御の形としても多用されてきました。中国の客家土楼という集合住宅は外敵から身を守る擁壁として機能し、イタリアのパルマノーバなどの要塞都市でも円形構成が見られます。 今後の可能性と近代都市 妹島和世氏と西沢立衛氏の設計による金沢21世紀美術館は、こうした歴史的な円形構成の意味を大きく転換させた建築として注目されました。この美術館では、円形を「すべての方向が正面」と捉え、複数の入り口を設け、外周の壁を全面ガラスとすることで視覚的な開放性を実現。内部には展示室が島のように等価に配置され、階層性のない空間が生まれています。 大阪・関西万博においても、中心近くに森が配置されているものの、動線の起点とはされず、体験として中心と周縁の境界は曖昧です。また、巨大なリングは幅があり、通路でありながら居場所にもなっており、2階に上がることもできます。その最高地点に登るとリング全体が見渡せ、周縁でありながら円全体が中心のような印象を与えます。地上レベルでは柱がグリッド状に林立し、どこからでも入場可能であることも大きな特徴です。こうした設計は訪問者に自由で非直線的な体験と印象を促し、階層性を前提とした近代都市モデルからの脱却を象徴しています。この万博が一時の夢にとどまるのか、それとも都市と建築の在り方を問い直す契機となるのかは、今後の実装と継承の意思にかかっています。私たちは、この人工島の風景から、持続可能で包摂的な空間づくりの可能性を汲み取ることができるでしょうか。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年9月5日号)掲載 Profile 岡田 公彦(おかだ きみひこ)建設学科教授 神奈川県横浜市生まれ。その後、旧大宮市(現さいたま市)で育つ。明治大学理工学部建築学科卒。専門は建築設計、デザイン、街づくり。

  • 【知・技の創造】住宅の気密性能

    隙間風のあれこれ 私は主に住宅の省エネ・快適・耐久性(防露・乾燥)の向上について研究しており、その一つに、住宅の気密性能(隙間の大きさ)に関する研究があります。住宅外表面の隙間が大きいと、その隙間からの外気の出入りによって、暖冷房エネルギーの増大を招き、冬期には足元に冷たい気流が生じて不快になります。これは外部風がない時でも生じます。冬期は室内の温度が外気に比べて高いので、住宅上方の隙間から室内空気が流出し、1階下方の隙間から外気が流出します。 隙間風の寒さに困っている方、またはより省エネにしたいけど、費用面で改修に躊躇されている方は、例えば1階の幅木下だけでも塞ぐ、あるいは床下に潜って壁下の手の届くところだけでも隙間を塞ぐ工事を行ってみてください。暖かくなったとの実感が得られるかを保証するのは難しいですが、暖房エネルギーは確実に減ります。 気密測定と建物の関係性 この住宅全体の隙間面積を測定する方法(気密測定)はJISで制定されています。室内の空気をファンで排気することを思い浮かべてください。気密性が良い(密閉性が高い)建物では少量の排気で、内外の気圧差(差圧)が大きくなり、気密性の悪い建物では、大量に排気しても、各所の隙間からどんどん外気が入ってくるので、あまり差圧がつかないことが想像できるかと思います。 この性質を利用したものが気密測定で、ファンの流量を3段階以上変えて、それぞれで得られる排気量と差圧の関係の累乗関数から、隙間面積に換算します。ただ、この測定には大きな排気ファンも含めて、それなりに高額な専用の器材が必要です。そこで、排気に台所のレンジファンを利用して簡易化できるのではと考えて、昨年、ある企業の支援を得て特許を取得し、廉価で販売し始めました。これには、測定器そのもののコストダウンだけでなく、コンパクト・簡易化したことで測定の人件費も大幅に下げられると見込んでいます。 レンジフードを利用した気密測定 建築は耐久性や断熱性など、実際に出来たものが設計の通りの性能なのかを確認することが難しい分野です。その中で、気密性能は完成後の現場測定で分かる性能です。また、木造住宅の場合は(吹付け断熱工法の場合を除くと)、工事全般の丁寧な施工が気密性能に影響するので、それを測る目安にもなると考えています。それゆえ、私は今後の全ての住宅で建築者が気密性能を確認してから住まい手に引き渡してほしいと思っています。今回開発した測定器がその一助になれば良いと思っています。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年7月8日号)掲載 Profile 松岡 大介(まつおか だいすけ)建設学科教授 東洋大学大学院博士前期課程修了。京都大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)・一級建築士。2017年4月より現職。専門は建築の温熱環境分野。

  • 【知・技の創造】歴史的建造物の保存再生

    歴史建造物の調査研究 2005年に本学に着任以来、これまでに50件を超える歴史的建造物の調査研究や修復設計・技術指導に関するご依頼を賜り、自身の専門分野となる近世社寺建築を嚆矢に、古民家や本陣建築のほか、近代の洋風建築や足袋蔵、特攻訓練も行われた戦争遺跡、さらには土木遺産となる河川のれんが造門樋や鉄骨バランスアーチ橋に加え、産業技術遺産となる蒸気機関車など、多岐に渡る歴史的遺産の調査研究を学生と共に携わってきました。 横山研究室が復原整備を手掛けた旧忍町信用組合店舗 旧忍町信用組合店舗の解体修理調査の様子 鍵は建造物と「対話」すること 上掲に伴う調査研究の手法は「実態調査」・「文献調査」・「数例比較調査」の三柱を基軸に進めていくことになりますが、大切なことは実践的な調査研究を通して歴史的建造物との対話がいかに行えるかが鍵となります。つまり、これには現状把握のための精緻な実態調査が必要で、室内空間だけに留まらず、床下・小屋裏・屋根裏と真っ黒に汚れながらも丁寧且つ敏速に膨大な調書を取り、それを整理して図面化することが対話の第一歩につながります。 このような前提のもと、次のステップとして創建当初の姿がどのような形態であったかを探るため、建物を構成する主要軸部の柱や梁などに残存する仕口や埋木痕跡のほか、木材表面に残る釘穴なども隈なく調べることで、復元考察が進められています。なお、近世以前の歴史的建造物は古写真が実在することは殆ど皆無であるため、このためにも文献調査を粘り強く広範囲に行い、絵図や規模を記す文書を見つけ出すことができれば大金星となります。 さらに同一の建築様式となる歴史的建造物との類例比較調査を行い、これらを踏まえながら対話の密度を高めて行けば、徐々に創建当初の姿が見えてくることになるのです。 いずれにしても日々の積み重ねが重要であり、一朝一夕に研究成果の到達を見ることはできませんが、東松山市に所在する箭弓稲荷神社社殿は二年間に及ぶ調査研究の結果、近世最後の大規模権現造形式の社殿であることを明らかとすることができ、昨年の1月19日に国の重要文化財指定に導くことがかないました。 箭弓稲荷神社の調査の様子 箭弓稲荷神社の社殿外部透かし彫り彫刻 地方都市再生の鍵 首都圏に位置する埼玉県においても、残念ながら地方都市では人口減少が見受けられ、これを何とか食い止める施策が官民によって打ち出されています。街輿しに伴う手法はそれぞれの地域的特性に添ったコンセプトに基づき、計画性を持って段階的に進められていますが、これからの時代は「土着性と新規性の融合」が地方都市再生の鍵だと考えられます。このためにも、地域に残存する歴史的建造物をバナキュラー建築に位置づけ、保存再生と積極活用を図ることが重要だと言えます。 これにより、その歴史的建造物は地域のランドマークとなり、結果的にオンリーワンとなる地域ブランディング確立にも寄与し、例えば川越市の「蔵造りの街並み」のように、歴史の香りが漂う小江戸として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されるなど、全国にその名を知らしめることになります。 なお、土着性と新規性の融合比率は、土着性の方が優位でなければなりません。これが過度に逆転すると地域特性を生かした街並み再生のコンセプトが瓦解する恐れもあり、関係者が特に留意すべき点として掲げられます。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年5月9日号)掲載 Profile 横山 晋一(よこやま しんいち)建設学科教授 横浜国立大学大学院博士課程後期修了。博士(工学)。財団法人文化財建造物保存技術協会、立教大学を経て現職。専門分野は市域に残る歴史的建造物の保存再生と活用提案。

  • 【知・技の創造】デザインで世界から街へ

    Design for the other 90%(世界を変えるデザイン)  30代、40代の大半は、海外の紛争地や自然災害の被災地で過ごしてきた。アフガニスタン、シエラレオーネ、コソボなど、通常見聞できない土地での生活で「世界を変えるデザイン(原題:Design for the other 90%)」を強く意識してきた。 私たちの住む日本では、あたらしいもの、きれいなもの、珍しいものなど「ほしいもの」は次々につくられ売られている。世界に目を向けると、196か国のうち水道水が飲める国は日本を含む9か国のみ。ユニセフによると世界では全人口81億のうち18億人が自宅の敷地内で水を手に入れることができないという。 アフリカでは子どもが水汲みのために長い道のりを歩くことに時間を使い、教育や余暇の時間が奪われている。その状況に対して、考案されたドラム缶をドーナッツ型にして穴に紐を通し、水を転がす容器のデザインには、正直目から鱗であった。十分な量の水は重く重労働であるが、75リットルもの水を子どもひとりで運べる。 「ほしいもの」ではなく「必要なもの」に対しての真のデザイン。それこそが世界を変えるデザインである。 ネパール地震での復興支援  2015年ネパール地震からの復興支援に関わった。現地政府と共に耐震性の高い再建住宅を普及するため制度設計から職人トレーニングを実施した。復興期間の5年間を通して、確実に耐震性の高い建物が普及するに至った。それでもヒマラヤ山系の山岳地帯の村々では、建設材料の搬入が困難で、倒壊したまま取り残されていたり、石を積み直しただけの状態であったりした。 そこで蛇篭(じゃかご)を用いた新たな耐震補強工法の開発を行った。蛇篭の材料である針金はどこでも入手しやすく運搬もしやすい。また住人たちの手により現地で編むことができる。日本の実大振動台実験を何度も実施し、大地震下でも蛇篭壁は大変形するものの倒壊はしないことが検証された。最優先課題である人命を守るための効果的なデザインであると考える。 官民学で取り組む街づくり 行田市水城公園に設置した手描き花手水傘の仮設休憩所  2019年に本学に着任してから、官民学連携で行田市や熊谷市の街づくりに取り組んでいる。本学ならではの知と技を融合し、学生と共に仮設休憩所や屋台制作など地元を盛り上げる活動を行ってきた。現在、「行田まちなか再生未来ビジョン」の策定に取り組んでいる。長期的な視野に立ち将来を担う子どもたちがワクワクできるような街づくりを目指す。  これからも真のニーズに焦点をあて、デザインを通した社会貢献をしていきたい。世界から身近な地域をフィールドとして、学生と共に笑顔と技術力を備えたテクノロジストとして活動していく。 埼玉新聞「知・技の創造」(2025年1月10日号)掲載 profile 今井 弘(いまい ひろし)建設学科教授 三重大学博士後期課程修了、一級建築士。設計事務所、NGO、JICA、建築研究所、防災科学技術研究所を経て、2019年より現職。主に設計、製図、構造の授業を担当。 関連リンク ・建設学科WEBページ ・建築技術デザイン研究室(今井研究室)

  • 【知・技の創造】建設施工のロボット化

    近年の建設現場では、直接作業に従事する技能者(いわゆる職人)が高年齢者と外国人で大半を占めるケースも少なくありません。技能者の減少と高齢化に歯止めがかからず、業種によっては外国人技能実習生などに頼らざるを得ない状況が慢性化しています。また、国交省の2022年の統計データによると、29歳以下の技能者の割合は全体の約12%で、他産業と比べて顕著に少ないです。 建設業の担い手の確保・育成に向けて、処遇改善と働き方改革に加え、生産性向上など技術面の改善を一体的に推進することが求められています。 処遇改善と働き方改革の推進 建設工事では、効率的な施工体制の下、低コストかつ短工期で良質な構造物を完成させることが理想的です。一方、建設業は、重層下請構造の典型であり、下請けとなる専門工事業者(原則3次以内)が費用や工期の面でしわ寄せを受ける場合があることも否定できません。  下請けが下層になるほど、企業の利益や技能者の賃金は減少傾向にあります。また、工期に余裕のない現場では、休日出勤や早出・残業を余儀なくされ、長時間労働が常態化しています。さらには、末端の技能者まで管理が行き届かず、工事の安全性や品質の低下を招くリスクも高まります。将来の担い手の確保の観点からも、適正な賃金を維持しつつ、長時間労働の是正と週休2日の定着が求められてきました。これに対しては、働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限規制が今年(2024年)の4月から建設業にも適用され、日給制が多い技能者においては収入減少の可能性が課題として残るものの、建設業全体の労働環境の改善に向けて一歩前進しました。 施工の自動化・ロボット化 国交省では、2016年の「i-Construction」を皮切りに、ICT等を活用した生産性向上の取組みを推進してきました。今年(2024年)の4月には、「i-Construction 2.0」が策定され、現場のオートメーション化(自動化)に重点を置き、2040年度までに、生産性1.5倍以上の向上を目標に掲げています。  この取り組みは、主に土木(インフラ)分野を対象としたものですが、建築分野でも、生産性向上が喫緊の課題であり、生産プロセス全体のDXに加えて、施工の自動化・ロボット化に関する技術開発が活発化しています。その背景には、ICTやIoT、AI、AR・MRなどのデジタル技術の飛躍的な進化があったことは周知の通りです。ゼネコン各社では、省力化・省人化を企図した建設ロボットの技術開発が主に進められており、実用化に至った技術も増えてきました。例えば、3Dプリンティング技術は、RC工事の埋設型枠や構造体の一部に適用されており、生産性向上への貢献のみならず、これまでにないユニークで自由なデザインを可能にしました。  現在、2021年設立の「建設RXコンソーシアム」が中心となり、建設ロボット技術の共同開発とその相互利用を推進しています。各種ロボットの実用化・普及に当たっては、費用対効果をはじめ、関連法令と資格の整備、トラブル発生時の責任問題など、検討事項が山積みですが、建設業界全体の生産性および魅力の向上への寄与が期待されています。 建設現場において、人とロボットが協力して作業することが一般的になる日もそう遠くないかもしれません。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年11月8日号)掲載 profile 荒巻 卓見(あらまき たくみ)建設学科講師 ものつくり大学大学院修士課程修了、日本大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。日本大学助手を経て2021年4月より現職。専門は建築材料・施工、コンクリート工学。 関連リンク ・建設学科WEBページ

  • 【知・技の創造】大切なものを守ろう

    耐震性能の低い建物 1981年以前に建てられた建物は、構造種別(木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など)にかかわらず耐震性能が低い可能性が高いです。木造に関しては1981年~2000年に建てられた建物も現在と仕様規定が一部異なるため耐震性能が低い可能性があります。大地震時には耐震性能が低いと建物は地震の揺れに耐えきれずに倒壊してしまいます。 建物が倒壊すると命、生活、歴史などいろいろなものが失われます。失われたものは元に戻らないものがほとんどです。元に戻る場合であっても長い時間が必要となります。そのため、大切なものを守るために事前に対策をする必要があります。 耐震診断 建物の地震に対する性能を耐震性能といい、既に建っている建物の耐震性能を把握する方法として耐震診断があります。耐震診断は、建物の図面や調査から大地震時に建物が倒壊するかどうかを判定するものです。耐震診断を行うことにより大地震時に建物がどのような状態となってしまうのかを把握することができます。 耐震診断により大地震時に倒壊する可能性があると判定された場合には、耐震性能を向上させるための耐震補強設計に進みます。耐震補強設計では補強壁を設けるなど耐震性能を向上させるための補強設計図の作成、補強設計図に基づく耐震補強計算を行います。補強設計が完了したら、補強設計図の内容で耐震補強工事を行うことで耐震性能を確保します。耐震診断、耐震補強設計、耐震補強工事が耐震性能の把握から確保までの一通りの流れとなります。 耐震性能の目標 耐震補強を行うにあたり、耐震性能の目標を決めます。一般的には建物が倒壊しないということを目標とします。建物が倒壊しないことで人の命が守られます。新築の場合にも建築基準法では人の命を守ることが目標です。 しかし、この場合に建物は倒壊しませんが大きな被害を受けます。地震後に建物に引き続き住むことは難しい可能性が高く、住むためには大きな改修が必要となり、場合によっては取り壊して建て替えるしかない場合もあります。 大地震後も引き続き住み続けられるよう。補強量を多くすることで地震時の被害を軽微に抑え、少ない改修で自分の建物で暮らすことを目標とすることもできます。 改修工事の注意点  昨今、古い建物をリフォームやリノベーションをして活用することが多くなっています。これは、持続可能な社会を実現するためにとてもよいことですが、そのような建物は耐震性能が低い可能性が高いです。耐震診断を行う必要があります。怠ってしまうと見た目はきれいであっても耐震性能が低い建物となってしまい、大地震により建物は倒壊してしまいます。また、耐震補強工事はリフォーム工事と一緒に行うことで費用が安くなります。 まとめ 大切なものを守るためにまずは建物の耐震診断を行い、耐震性能を把握しましょう。耐震診断についての相談は、お住いの市役所に担当する課がありますので、まずは相談してみてください。耐震診断には補助金が出ることが多く、費用の負担は少なくなっています。耐震補強設計や耐震補強工事にも補助金が出る場合があります。近年では1981年から2000年までの建物についても補助金が出る場合もあります。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年9月6日号)掲載 profile 芝沼 健太(しばぬま けんた)建設学科講師 工学院大学卒業。宇都宮大学大学院修士課程修了。 修士(工学) 。有限会社設計工房佐久間を経て2024年より現職。専門は、木質構造、耐震診断・耐震補強。 関連リンク ・建設学科WEBページ

  • 【学生による授業レポート #3】実際に作った経験が知識に変わる

    第3回「学生による授業レポート」をお届けします。今回は、建設学科2年の上田翔大さんが「仕上基礎および実習Ⅴ」で学んだことについてレポートします。実習を通じて、学生たちは何を感じ、何を学んでいるのか、リアルな声をお届けします。(学年は記事執筆当時) 「仕上基礎および実習Ⅴ」の授業について この授業は2年の1クォータで履修することができます。RC(コンクリート)製のモニュメント制作を通じて図面と施工の関わりを学びます。今回は「ものつくり大学」のそれぞれの文字を4等分にして1つの文字を完成させるという大きなRC構造物を制作しました。私たちの班は「も」の下部分2つを担当しました。 この授業は、RCにとって最も重要な型枠・鉄筋・コンクリートの三拍子が揃った実習となっています。 実習内容 最初に行ったのは型枠に文字をレタリングする作業です。外形線を綺麗に書いたら、ジグソー(電動ノコギリ)で切り落としていきます。 切った部分を底板に固定して凹凸部分が完成しました。 次に、形を形成する型枠の加工に入っていきます。この作業が疎かになってしまうと、コンクリートが漏れてしまったり形が歪になったりしてしまいます。最初の難関として、チームのみんなで確認し合いながら作業をしていきました。 鉄筋の加工も同時進行で進めていきました。鉄筋はコンクリートとは離れられない運命になっているほど重要なもので、お互いの欠点を補いあい力を発揮してくれます。鉄筋の加工から切断まで手作業で行うことは大変でしたが、それ以上に楽しさが勝り、あっという間に鉄筋加工の作業は終わりました。 型枠・鉄筋の加工が終わると施工に移ります。この時、重要なことは鉄筋と型枠の被り(隙間)を一定にしたいので、できる限り位置や垂直を正確に出すようにします。また、そのままではコンクリートを打設した際に圧力で型枠がはずれ、コンクリートが漏れてしまうかもしれないので周りを単管パイプや木材等を使用して固定します。ここまでで、コンクリートを流す下準備は完了しました。 コンクリートの打設では、コンクリートが目に入る等、怪我をする可能性がある作業が多いので周囲の確認や声掛けをしっかり行います。コンクリートは一輪車を使用して、ミキサー車から運ぶので肉体作業になります。何往復もしてコンクリートを流し込み、バイブレーター(振動機)を用いて均等に均します。実は、この作業が一番きつかったです。この時に型枠に当ててしまうと傷がつき、変形してしまい完成時に形が変わる原因になるので、意外と繊細な作業も求められます。流し込めたら鏝を使用して表面を均します。 コンクリートが固まったら、傷つけないように型枠を外して分別します。再利用できるものは分けるようにします。外し終えたら、フォークリフトを用いて反転させて文字が上になるようにします。 最後に塗装を行います。手に付くと落ちにくいものなので手袋を着けて作業を行います。文字に沿って養生テープを貼るのが難しく、思った通りに貼れないので苦戦しました。塗装は数回に分けて行うので、時間と集中力が必要になります。ただ塗ればいいだけではなく、下地となる塗装など様々な種類があるので間違えないように気を付けます。塗装の作業は乾かす時間も必要になってくるので、実際の現場ではこの待ち時間も他の作業をしているのかなと感じました。 この授業を通して、良かった点や反省点は以下のとおりです。【良かった点】チームで効率よく作業できたので、最終週は余裕をもって授業を終わらせることができました。皆で確認しながら作業を行うことで、知識の定着を感じられました。 【反省点】今回、型枠の施工不良で文字の一部分が欠けてしまいました。しかし、原因を突き止め、修繕する方法を学ぶことができたので失敗をしても大丈夫です。実際の現場では迷惑をかけることになるので失敗するなら今のうちだと思いました。 何を学ぶことができたか 配布された図面通りに加工・施工をすることができ、図面から読み取る力・頭の中で想像する力を養うことができました。作業での適切な道具や使い方を再確認でき、応用も教わったので基礎を学んだだけで満足するのはまだ早いなと感じました。成功した経験だけではなく、失敗した経験を積み、原因を考え次に生かすことは大学生の今のうちにしか許されないので、何事も挑戦して学ぶ姿勢が大切だと思いました。 また、先生のアドバイスだけでなく、自分たちで考えることで知識や作業の質を高めることができるので、周りの人とのコミュニケーションが大事です。中には上級生も参加していますが、一緒に作業をすると意外と話しやすくなります。 私は木造系に興味がありましたが、様々な実習を学んでいくうちに、この業種にはこんな魅力があって、こんなことをしているんだと知ることができたので、今では他の業種にもアンテナを広げて学びを深めていこうかなと考えるようになりました。どの授業でも同じだとは思いますが、自分たちで実際に作り上げたものは記憶して知識に変わります。その過程を楽しく感じながら成長できたことは良い経験でした。 今回の授業は今まで学んだことの総復習だと感じています。私は1年次に「仕上基礎および実習Ⅰ~Ⅳ」を履修し、コンクリートとは?鉄筋・型枠とは?のいろはを学びました。今回の授業はその知識を深め、実際に作ってみて、学内に設置するという内容でとてもワクワクしました。実習が終わる頃には、コンクリートの建物はこんな工程で建てられているんだなと想像力が広がりました。 原稿建設学科2年 上田 翔大(うえだ しょうた) 関連リンク ・【学生による授業レポート】ジジジジッ、バチバチッ…五感で学ぶ溶接技術・【学生による授業レポート #2】受講後もSA(スチューデント・アシスタント)を通じて深める学び・建設学科WEBページ

  • 【知・技の創造】ものづくりを体験する

    日本の建築文化について ものつくり大学では実習授業が豊富に組まれており、他の大学では体験できない実務的な技術を学べる授業内容になっています。私が担当している授業では、大工道具の使い方、木材の加工方法、原寸大での木造建築の施工など様々なことを学び、木造建築に関わる技術の基礎の習得を目指します。 日本の建築文化は木の文化とともに育まれてきました。しかし、時代を経ていく中で、日本の建築文化は多様化し、木造建築は主流から外されてきました。ところが、最近では木造建築の価値や魅力が見直され、これまで鉄やコンクリートなどで造られていた中高層ビルにも木材を用いようとする新しい試みが実行に移されてきており、大規模な木造建築物を目にする機会も増えてきました。 ものづくりによって創造される人々の生活の豊かさ 人々の生活の豊かさは、ものづくりによって創造されてきたといえます。ものづくりにおける建築物を建てる技術は、古くから引き継がれてきた技術を根幹としつつ、時代の流れの中で新たな技術の受容を繰り返し、革新され進化を続けてきました。中でも木造建築に関する技術は古くから脈々と引き継がれてきた部分が多いです。それは、日本人が生活の中で、四季を通して日本独特の気候と向き合い、木と密接に関わり合いながら豊かな文化を形成してきたことによります。 そして、木造の技術を使って建築された民家や社寺建築など多くの建築物が、修復を繰り返しながら現在まで大切に保存されてきました。それによって、古い時代に建てられた建築物の存在を、現代に生きる私たちが体感し、そこから多くのことを学ぶことができています。 特に重要なのは、その背景にある高度な技術を備えた技術者の存在です。修復には、的確な技術を備えた技術者が必要であり、その技術は後世に伝えていかなければなりません。技術を的確に伝える上では、理論や知識だけではなく人の手によって伝えていくことが不可欠であり、そのためには、その技術を扱える技術者を育成することが必要です。 技術者がいて、その技術力を発揮できる環境があってこそ、それらが絶えることなく伝わるのです。ものづくりの技術の継承には、技術を習得し、活用していく技能が必要であり、そのためには手を動かして実践し、ものづくりを体験することが必要です。体験することは、自ら考えることにつながり、理論や知識を学び、技術を習得することにつながります。 現在の研究とこれから 私は、近世から近代にかけて活動していた大工家の建築生産に関する研究を行っています。研究では、それら大工による社寺建築の遺構や社寺建築を建てる上で作成された造営史料などの分析を行います。そこには、技術者である大工の技術・技能に関する情報がつまっています。その技術・技能は現代に通じるものがたくさんあります。現代の技術・技能は、過去の技術・技能を工夫し、研鑽し、発展させたものなのです。過去の技術・技能を知ることは、現代の技術・技能の発展に不可欠なことです。 ものつくり大学の教育を通して、過去にも目を向けて学び、新たなことを創造し、培った技術・技能を後進へと伝播していけるような技術者を輩出できるよう努めてまいりたいと思います。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年7月5日号)掲載 profile 奥崎 優(おくざき ゆう)建設学科助教 芝浦工業大学大学院修士課程修了、工務店勤務を経て芝浦工業大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。2024年4月より現職。 関連リンク ・建設学科WEBページ

  • 【知・技の創造】外国人建設労働者の就労

    建設業界の人手不足と外国人労働者 平成30年12月14日、出入国管理および難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(平成30年法律第102号)の公布により、新しい在留資格『特定技能』が設けられました。これを受け、人手不足が深刻である建設業界において外国人労働者の就労が可能となりました。 14分野のひとつ、建設業界もまた深刻化する人手不足に悩まされています。建設業界の就業者数は1997年の685万人をピークに、2020年11月時点では505万人に減少しています。生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材の確保が困難な建設分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく制度が構築されました。 この制度では、特定技能1号が在留期間の通算が5年までで、家族の帯同は認められていません(図参照)。また、外国人建設就労者で技能実習2号等修了した者は引き続き通算5年間働いてもらうことができます(図のルート2参照)。 また、母国に帰国している技能実習修了者も呼び寄せ、直接雇用できるようになりました。 建設関係の業務区分と業務内容 これまでの建設分野の特定技能1号は、19業務区分(18試験区分)に分かれていました。旧制度では、ある区分で特定技能の資格を取得しても、その業務以外に携わることができませんでした。また、技能実習対象なのに特定技能にない職種があるなどの不整合もありました。 建設関係の業務区分は3つであり、【土木】【建築】【ライフライン・設備】に再編しました。これにより、特定技能外国人が従事可能な業務範囲が拡大、柔軟に仕事ができるようになりました。 業務内容は、指導者の指導・監督を受けながら、建築物の新築、増築、改築、もしくは移転また修繕もしくは模様替えに係る作業等に従事することになります。 主な業務内容は、①型枠施工、②左官、③コンクリート圧送、④屋根ふき、⑤土工、⑥鉄筋施工、⑦鉄筋継手、⑧内装仕上げ、⑨表装、⑩とび、⑪建築大工、⑫建築板金、⑬吹付ウレタン断熱、その他、建築物の新築、増築、改築もしくは移転、修繕、模様替または係る作業があります。 新たな制度と今後の期待 特定技能1号外国人の受入れ第一号が建設分野で誕生したのは2019年9月でした。2023年11月に特定技能2号評価試験ルートを整備することで今後の外国人技能者の活用が大いに期待できます。建設工事現場における技能者不足を少しずつ解消できることを願っています。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年5月3日号)掲載 profile 三原 斉(みはら ひとし)建設学科教授 近畿大学卒業。工学院大学大学院博士課程修了。博士(工学)・一級建築士・一級建築施工管理技士。村本建設株式会社を経て2001年より現職。専門は、建築生産、建築構法、建築技術技能教育。 関連リンク ・建築再生研究室(三原研究室)・建設学科WEBページ