偶然を必然に ~6年間の集大成は自宅兼カフェの自主設計で行田まちなかの活性化に~

投稿 更新

contents section

シェアする
この記事は約14分で読めます。

行田市内に自宅兼店舗のカフェを自ら設計し、行田まちなか再生エリアプラットフォームに携わっている栗原里奈さん(大学院2年・今井研究室)。

修士論文のテーマは「行田まちなか未来ビジョン策定に向けた中心市街地活性化に関する研究-あるくステーションの設計提案を通して-」。ものつくり大学での学生生活の中で、偶然を確かな自身のスキルアップにつなげている栗原さんに6年間の歩みをインタビューしました。

実習の多さと充実した設備が進学の決め手に

大学の進路選択に悩んでいる時、たまたま見たテレビ番組で、ものつくり大学のことが紹介されていました。ものづくりが好きでペーパークラフトや料理など何でも作っていたので、実習が多い大学だと知り興味を持ちました。福岡県出身ですが、実際大学を見学したいと思ったので、オープンキャンパスに参加しました。「ものつくり大学はとても設備が充実していて、今まで見学してきた他の大学とは違う」という印象を受けました。

ただ、福岡から埼玉県行田市までの距離があまりに遠かったので「行田に来ることは一生ない」と正直その時は思いました。しかし、福岡に戻りよく考え、他大学とも比較した結果、ものつくり大学一本に絞ることを決め、指定校推薦で進学しました。

自分の設計でコンクリートの家のオブジェが

自分で想像したものを自由に設計してみるのが好きだったので、2年生では、建設学科の建築デザインコースに進みました。コンクリートのオブジェをつくる授業があり、私が設計したものがチームの中で選ばれました。コンクリートのように机上に収まらないものを作れるのは本学だからこそ可能なことだと思います。実際、自分の設計による家の形をしたオブジェが完成した時はとても嬉しかったです。

インターンシップでは将来は住宅等の設計がやりたかったので、設計事務所に行くことを決めていました。事務所選びに迷いましたが、小さい事務所の雰囲気を味わいたいと思い、3人で運営している川口市の事務所にお世話になりました。実務につながるさまざまなことを学ぶことができ「建物の中でも住宅を設計したい」という思いがさらに強くなりました。

コロナ禍でリアルな先輩の卒業制作に携わることに

3年生(2020年)の頃はコロナ禍で、福岡の実家でオンライン授業を2、3カ月受けていました。今井研究室に所属しましたが、キャンパスに戻ると同研究室の先輩が卒業研究として熊谷まちなか再生エリアプラットフォームに関わり、熊谷まちなか再生未来ビジョン策定に向けたプロジェクトを行っていることを知りました。地域の課題解決に向けた取り組みである国土交通省のプロジェクトの一環で、官民学連携のまちなか再生推進事業として、ものつくり大学も立正大学、千葉大学などに加わり、熊谷市、地元企業、団体と一緒にコロナ禍でも定例会を行っているとのことでした。オンライン授業で福岡にいた私はリアルに活動している先輩の姿を目の当たりにし、温度差を感じました。今井先生からプロジェクトの協力に誘われたのを機に「全然分からないけど、何でもやってみよう」と思い、友人と一緒に携わることにしました。

卒論と同時進行で挑んだプロジェクト

4年次の進路選択は、兄が大学院に進んでいたり、熊谷のプロジェクトにも関わり続けたりしたかったので大学院進学を決めました。早い段階で進学が決まっていたこともあり、修士論文を書く勉強にもなると考え、卒業論文に挑戦しました。ル・コルビュジエによるロンシャンの礼拝堂を研究のテーマにして「窓から入る光が内部にどう影響を与えるか」といった問いを立て、夏と冬の太陽の角度の違いについて論じました。建物の窓の位置が及ぼす影響や論文の書き方を学ぶことで、大学院に進む準備ができました。

卒業論文と同時並行して熊谷でのプロジェクトに協力していました。アットホームな雰囲気で学生の意見を尊重してくれる環境で「何でも1回言ってみる」というスタンスが次第に育ち、いろいろ挑戦ができました。実際、星川沿いで行われる星川夜市に参加し、星川きらきらプロジェクトを実施し、光るカプセルなどを星川に浮かべるイベントをしたり、YATAIプロジェクトを実施し、折りたたんでコンパクトに移動できる屋台製作や活用をしたりしました。

星川夜市に参加する栗原さん(左)

熊谷まちなか再生エリアプラットフォームには大学3年生から大学院1年生(2020年度~2022年度)の3年間関わり、アイデアや意見を形にする経験ができました。

プロジェクトの成果物を発表した栗原さん(右から2人目)

行田まちなか再生プロジェクトに自身の経験を活かしたい

熊谷でのプロジェクト終了後、千葉大学や他の方から「行田市は歴史や文化、自然など豊富な資源を活用して、今抱える地域課題を解決できるのでは」という提案があり、行田まちなか再生エリアプラットフォームが立ち上がりました。ものつくり大学や商工団体、NPO法人などが中心に官民学連携で協力して、キックオフミーティングが2023年3月に行われ、2023年4月にスタートしました。

私も「行田は観光名所があったり、テレビドラマの舞台になったり魅力的な街だ」と感じていたのと、「熊谷のプロジェクトに関わってきた経験を活かせるのでは」と参加することにしました。行田市は足袋産業がかつて盛んだったこともあり、「足袋」と「旅」を掛けて「たび・あるくが楽しい街、住む人々の豊かな暮らしの実現」を目指し、行田まちなか未来ビジョン策定に向けて動き出しました。

行田まちなか再生エリアプラットフォームのミーティング

行田の商店街に自宅兼店舗のカフェを自主設計することに

実は、キックオフミーティングと同時期、行田市内に自宅を建てることが決まっていました。私は大学進学に伴い、福岡から埼玉に来ましたが、兄の結婚を機に2年前、両親も埼玉に移住し、現在一緒に上尾の借家に住んでいます。父には以前から「カフェをやりたい」という夢があり、たまたま行田市の商店街にちょうどいい物件があったため、土地を購入し、自宅兼店舗のカフェを建てることになりました。大学進学をきっかけに埼玉に来て、行田市の大学で学んできたのですが、まさか自分がこの地に住むことになるとは想像もしていませんでした。

今井先生に経緯を話すと「自宅兼店舗のカフェを自主設計してみては」と勧められました。ものづくりが好きで、様々な実習を設備の充実した大学で行い、インターンシップも設計事務所に行き、設計の面白さや楽しさを経験してきた大学生活でもありました。行田まちなか未来ビジョン策定にも関わることになったので、「行田まちなか」にカフェを自主設計することで中心市街地活性化につなげたいと考えました。そして、本学での6年間の学びの集大成として「行田まちなか未来ビジョン策定に向けた中心市街地活性化に関する研究-あるくステーションの設計提案を通して-」を修士論文の研究テーマにすることにしました。

自宅兼店舗のカフェを自主設計する過程で直面した課題とやりがい

自宅兼店舗のカフェの設計を私が自らすることを両親に伝えると、特に父はとても喜んでくれました。自主設計に際し、今井先生の知り合いの工務店が施工を請け負ってくださることになりました。2023年3月から設計の案を考えたのですが、行田市は蔵の街でもあるので「蔵の街並みに合う、まちなかの交流の場としてのカフェの設計」をコンセプトに決めました。現代風の蔵の外観にし、周囲の景観に馴染むような設計にしました。

自宅兼店舗の立面図

先ず直面した課題は限られた予算や坪数の中で、いかに両親の希望に沿った建築設計にするかということでした。2階建ての建物の1階はカフェの店舗に、2階は自宅にといった構想の下、様々な案を練りました。なかなか前に進めない時は今井先生からアドバイスをいただいたことで新たな視点を入れて設計に取り組むことができました、5カ月間構想を練り、繰り返し設計図を書き直し、2023年の夏頃に設計図が完成しました。自主設計したものが実際の建物になっていくのを目にし、達成感を感じています。両親の思いを大切にして自宅兼店舗のカフェを自主設計するやりがいや喜びを体感できたのは、本学での学びや実践があったからこそ叶ったことです。

建築中の店舗兼自宅

行田まちなか未来ビジョン策定に向けた研究を活かしたい

2023年3月から関わっている行田まちなか未来ビジョン策定に向けての行田まちなか再生エリアプラットフォーム。2023年4月から毎月1回まちづくりミュージアムにて定例会を開催したり、講師の先生をお呼びし「行田まちなか再生エリアプラットフォーム・フォーラム」を現時点で3回開催したりして、率先して運営に関わっていますが、なかなか学生の意見が反映されないもどかしさを抱えています。まだ構築段階にあり、1年目なので難しさを感じるのは当然ともいえます。定例会で参加者の発言を記録したり、フォーラム開催時にはアンケートも取ってまとめたりしているのですが、時間がかかり根気もいります。しかし、こういった地道な活動を通し、参加者の声を聞くことで、様々な課題が見えて情報共有もできます。実際少しずつプラットフォームの構築に関わる団体や個人も増えていて、これからが正念場と感じています。

行田市について、正直まだ知らないことが多く、明確にイメージが湧いていないのが実感としてあります。1年間関わってきた中だけでは分からない魅力があるとも思います。修士論文では「行田まちなか未来ビジョン策定に向けた中心市街地活性化に関する研究-あるくステーションの設計提案を通して-」を研究してきたので、「あるくステーションの設計提案」を通して中心市街地活性化につなげられるように今後もものつくり大学の卒業生としてプロジェクトに関わりたいです。

卒業後は都内の内装系の会社に就職し、店舗の設計から施工の仕事に携わることになりますが、地元になる「行田まちなか」の父のカフェに市内外から歩いて来てくださる人たちとの交流を深められたら嬉しいです。

シェアする

ものつくり大学

大学概要、学科紹介、入試情報など、 詳しくは大学ホームページをご覧ください。
大学概要、学科紹介、入試情報など、 詳しくは大学ホームページをご覧ください。

related post

関連記事

  • 諦めない心が生んだ4年間の集大成と、卒業

  • 【知・技の創造】日本の原風景

  • 4年間しかない学生時代だから、とことん学

  • 【知・技の創造】装飾が愛着に繋がる