VTuber研究に感じた「学ぶ自由」という贅沢

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Introduction

「その研究、何の役に立つの?」
大学での学びを考えるとき、多くの人が一度は抱く疑問かもしれません。

建設学科4年の小島都和さん(日常意匠研究室)が取り組んだ卒業研究のテーマは、VTuberの演奏に感じる“違和感”。一見すると、実務とは結び付かない不思議なテーマです。

しかし、その研究過程で見えてきたのは、「役に立つかどうか」では測れない学びの価値でした。

「なんか変だよね」から始まった研究

「腕が楽器を貫通している」
「指が弦に触れていない」
研究室のゼミでVTuberの演奏動画を見たとき、そんな声が次々上がりました。

軽音学部に所属している小島さんにとって、その違和感は見過ごせないものでした。とはいえ、当初から明確な研究テーマがあったわけではありません。自分の音楽遍歴を振り返ったり、人によって楽器の取り扱い方がどう違うの調べたり--。試行錯誤を重ねる中で、なかなか形にならないもどかしさを感じていたといいます。

軽音学部のライブで演奏する小島さん(写真:左)

そんな中で見つけたのが、「VTuberの演奏シーンに感じる違和感」でした。「この“何か変だよね”をちゃんと説明できないだろうか」。その素朴な疑問が研究の出発点となりました。

しかし、「違和感」を研究することは簡単ではありません。そもそも違和感とは何なのか。どこからが不自然なのか。明確な基準はありません。さらに、目に見えるデータとして集めることも難しいテーマです。

研究を始めた当初、小島さんは迷走していたと振り返ります。それでも、学問とは「問いを学ぶこと」だという教授の主催するゼミでの議論を重ねる中で気づいたのは、答えがすぐに出ない問いに向き合うこと自体に意味があるということでした。その気づきによって「考えることがどんどん面白くなった」と小島さんはいいます。

「分からない」を言葉にするという挑戦

小島さんが取り組んだのは、「違和感」という曖昧な感覚を言葉にすることでした。まず、違和感を「人間にはできない動きや、物理的に不自然な現象」と定義します。そして、VTuverだけでなく、実在のバンドやアニメ、漫画など複数のコンテンツを対象に演奏シーンを一つひとつ検証していきました。収集したシーンは203にのぼります。さらに、小島さんは実際に同じフレーズを自分で演奏し、映像と比較することで検証を深めました。

重要だったのは、「誰にでも伝わる言葉」にすることです。専門的な言葉をそのまま使うのではなく、「弦の端にある金属のパーツ」など、楽器を知らない人にもイメージできるように言い換える。その積み重ねによって、“何となく変”だった感覚が少しずつ輪郭を持ち始めました。

それは本当に“役に立たない”のか

分析を進める中で、小島さんはある視点にたどり着きます。それが、「ライブ感」と「リアル感」という2つの軸です。音や演出によって高い臨場感を生み出す「ライブ感」、見た目の動作が人間として自然に見えるかという「リアル感」。

VTuberの演奏はライブ感が高い一方で、リアル感が低い。このアンバランスさこそが、違和感の正体でした。

同じく日常意匠研究室に所属している羽多叶さんは、小島さんの研究の面白さについて、「ライブ感」と「リアル感」の2軸が基準となったことで、VTuberを推している人たちはリアルさを求めているわけではないということが可視化された点だといいます。

一見すると、この研究は「VTuberの分析」に過ぎないように見えるかもしれません。しかし、その本質は「人の技能をどう表現するか」という、より普遍的な問いにあります。この視点は、音楽だけでなく、スポーツや伝統芸能など、そしてもちろん、ものづくりの技能も含め、様々な分野に通じるものです。

卒業研究を発表する小島さん

役に立たない研究ができる幸せ

「何の役に立つか分からない研究ができることが幸せなんです」
日常意匠研究室を主宰する土居浩教授は、そう語ります。

すぐに成果が求められる社会において、「役に立つかどうか」は需要な基準です。しかし、大学という場所には、それだけではない価値があります。すぐに答えが出ない問いについて、時間をかけて考え続けること。仲間と議論しながら、「なぜ?」を深掘りしていくこと。

「ああだこうだと言い続けられる場所があること自体が、すごく貴重なことだと思うんです」
その言葉に、小島さんも強く共感したといいます。

ものづくりの現場では、計画通りに進める「PDCA」だけでなく、状況に応じて判断し行動する「OODA」という考え方も重要だと言われています。

今回の研究もまた、あらかじめ決まった答えに向かうものではありませんでした。違和感に気づき、観察し、試し、また考える。その繰り返しの中で少しずつ輪郭が見えてくる。大学とは、そうしたプロセスを経験する場所でもあります。

大学は「答えを出す場所」ではない

「何の役に立つか分からない」

その問いに、すぐに答えを出す必要はありません。むしろ、分からないまま考え続けること。違和感を言葉にし、問いを重ね、他者と共有すること。その積み重ねが新しい価値を生み出していきます。

ものつくり大学には、そんな“無駄かもしれない時間”を本気で過ごせる環境があります。そして、その時間こそが、これからの時代に必要とされる力を育てていくのかもしれません。

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大学概要、学科紹介、入試情報など、 詳しくは大学ホームページをご覧ください。
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