AIの発展
2022年は人工知能(AI)の発展が広く世間に知れ渡る年となりました。まず、夏頃に画像生成を行うAIが複数登場しました。画像生成AIは任意のテキストを与えられるとその内容に合わせた画像を作り出すことができるもので、生成された画像がまるで人の手で描いたような精度を持つことで話題となりました。実際、AIで生成した画像であることを隠して応募された絵が米国アートコンテストのデジタル絵画部門で人間の描いた絵を押し除けて1位を取る、といった出来事が起きています。
また、9月には英語や日本語に限らず様々な言語の音声の高精度な文字起こしができる音声認識AIが公開されました。さらに、11月には高性能な対話型AIが登場し、人間と違和感のないテキスト対話を行うことができる性能を示しました。これまでコンピュータシステムとの対話では対話を続けるうちに人間が不自然さを感じる要領を得ない返答が出力されてしまい対話破綻が生じることが常でしたが、この対話型AIは文脈を踏まえた上で流暢な言葉で回答を生成しており、人間同士の対話と遜色ないやりとりを見せています。
ここで注意しておきたいのは、AIは誤りのない正解を出力しているのではなく、場面に応じて確率的にそれらしい出力をしているに過ぎないということです。
例えば、音声認識AIはきちんと聞き取れない部分があると文法的に誤りにならないように単語を適当に補って出力することがあります。対話型AIは私が「『桃太郎』のあらすじを教えて?」と尋ねると、「『桃太郎』は日本の民話の一つで、主人公の桃太郎は、桃の盗人として知られる少年です。彼は、7人の姉妹を持つ母親を支えるために、毎日森から桃を盗んで帰ってきます。」云々と言った内容をとうとうと披露してくれました。これらは厳密には誤った出力です。
AIらしさとは
これまでのAIは、生成した絵が理解し難い前衛的なものに見えたり、音声認識結果に言語としておかしな部分があったり、対話がまともに続かなかったりといった「AIだから仕方ない」という点でAIらしさを感じさせていました。
しかし、昨年登場したAIたちはそのようなAIらしさとは無縁の人間らしさを感じさせます。音声認識AIの単語の補完は人間の空耳のような働きですし、前述の対話型AIの回答は『桃太郎』を知らない人が即興で物語を作っているような妙な人間味があります。つまり、正しくない内容であっても文脈に矛盾なく流暢に出力されると人間らしさを感じてしまうのです。
さて、このような人間らしいAIが日常生活に入ってくるようになると、我々は対話相手が人間かAIか判別できなくなってしまうのでしょうか。私の研究している音声インタラクション分野では人間同士の会話では返答までに少し間が開くと不同意を表すとされていて、そのような些細な部分から様々なことを読み取った上で人間はコミュニケーションをとっています。AIを日常的に相手にするようになれば、我々は何かしらの情報を基に新たなAIらしさを感じ取るようになると私は考えています。AIが日常に溶け込んだそのような日々の到来が楽しみです。
埼玉新聞「ものつくり大学 知・技の創造」(2023年2月3日号)掲載
石本 祐一(いしもと ゆういち) 情報メカトロニクス学科准教授
北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程修了。博士(情報科学)。国立情報学研究所、国立国語研究所等を経て2022年4月より現職。