5軸制御マシニングセンタの導入
昨年末、本学情報メカトロニクス学科に5軸制御マシニングセンタが、機械加工関連の実習用の機器として導入されました。5軸制御マシニングセンタとは、従来からある汎用の旋盤やフライス盤といった複数の工作機械の機能を1台に統合し、高度なIT技術で自動化された最新鋭のNC工作機械です。
類似のものに複合加工機がありますが、これらの出現により、これまでの工作機械では加工できなかった複雑な形状の製品が、容易に加工できるようになりました。今回、伝統的な技能と最新の技術を合わせ持つテクノロジストを育成する本学では、新しいモノの作り方を理解するために、5軸制御マシニングセンタは不可欠な要素であるという判断のもとでの導入となりました。
国内機械加工業界の現場では…
5軸制御マシニングセンタや複合加工機(以下、二つをまとめて5軸加工機)により、機械加工の現場は、さらなる自動化や省人化が可能になります。その優位性についての理解が進む欧州では、順調に販売実績を伸ばしていますが、日本国内では少々伸び悩んでいるのが実態です。
工作機械メーカーによる実機の貸し出しや、加工実績の紹介など、様々なキャンペーンが実施されてはいますが、国内機械加工業界全体に広がりを見せているとは、まだまだ言えません。これは高額な設備投資と、これらの新しい機械を使いこなすスキルを持つ人材が、圧倒的に不足していることが理由として挙げられます。
しかし、少子高齢化の影響による労働人口の減少は明らかで、すでに待ったなしの状況です。これに対応していくには、工程の自動化と省人化が絶対条件で、投資額や人材確保の問題を上回るものとなります。その答えのひとつとして、5軸加工機の導入があります。また、5軸加工機を用いての製造を前提とした製品や部品の設計がなされていないことも大きな要因と言えます。
これには、古くから国内産業の基盤を担ってきた、安定した生産体制を敷くためのノウハウの踏襲や、5軸加工機の強みを積極的に取り入れるなどといった、設計部門の十分な理解が得られていないことが考えられます。
教育現場の対応とこれから
一方で、我々のような教育機関での教育実績が少ないことも課題となっています。特に5軸加工機は、機械本体だけでなく、その周辺機器や加工プログラムを作成するアプリケーションは、高価なものが多く、これらを複数用意する必要があるため、費用面でも教育カリキュラムに組み込むことを困難にしています。
そして何よりも、指導する教員のスキルアップも重要です。しかし、5軸加工機の販売実績が好調な欧州を中心とした海外では、これらの工作機械は機械加工の初学者が扱い、従来のものは、高度な技術や技能を持つ熟練者が扱うべきものという考え方があります。つまり、高度なIT技術により自動化された最新の工作機械は、誰でも扱いやすいので初学者向きであるということです。
この考え方には賛否両論あると思いますが、生まれた時からIT技術が身近にある若年層は、これまでのような汎用の工作機械からではなく、自動化が進んだ最新のものから学び始めるというのは、これからの機械加工の学び方に、我が国でもなるのかもしれません。
埼玉新聞「知・技の創造」(2024年4月5日号)掲載
武雄 靖(たけお やすし)
情報メカトロニクス学科教授
東京農工大学大学院工学府機械システム工学専攻(博士後期課程)修了。博士(工学)、MOT(技術経営修士)。専門は機械加工学、技術経営、技能伝承など。