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研究

  • 諦めない心が生んだ4年間の集大成と、卒業後の姿

    11月8日(火)、東京ビッグサイトにてJIMTOF2022が開催され、DMG森精機株式会社のブースにおいて「第17回切削加工ドリームコンテスト」の表彰式が行われました。本コンテストでは、2021年度3月に本学の製造学科(2022年現在は情報メカトロニクス学科) 武雄研究室の卒業生であり、現在はシチズンマシナリー株式会社に勤務している大澤 怜史さんが卒業研究で製作した「総削りスピーカー」が、アカデミック部門において見事銅賞に選ばれました。そこで、大澤さんが製作に込めた思いや、学びになったことと、今後の目標をお伺いしました。 なぜスピーカーにしようと思ったのですか 趣味でイヤホンやオーディオ機器を集めています。良いものを買って聞くことはいつでもできますが、4年間様々な勉強を積み重ねてきたので、好きなものを1から作ってみよう考えたことがきっかけです。 スピーカー全体図 総削り出しの特徴とは 無垢の金属の塊から形を作り出していくことを総削り出しと言います。彫刻とは違うのですが、彫刻のようなイメージで、機械を使って掘るように加工します。 通常のスピーカーと異なる部分はありますか? 既製品のスピーカーを参考に設計したため、形状に大きな違いはありません。 しかし、一般的なスピーカーには大きく振動させるためにゴムやスポンジ部品が使用されていますが、このスピーカーにはそのような柔らかい素材は一切使用せず、すべて金属で製作しています。それでも、きちんと実用できるスピーカーというところを目標にしました。また、木箱以外は大学の機械で設計から加工まで全て行いました。 スピーカー部分 完成までの期間はどれくらいかかりましたか スピーカーの設計や材料集め、削る刃物の選定等含めると半年以上かかりました。しかし、始まりから終わりまで一貫して自ら取り組めることを大学で教わったので、これが4年間の集大成だったのではないかと思います。  削るにも、刃物の回転数を調節するたびに切れ味や材料への衝撃に変化が出てくるので、何度も考えながら取り組みました。薄いものを作るということは、強い力を加えると変形してしまったり割れてしまったりするので、特に注意をしながら進めていきました。何度も失敗はしましたが、削る順番や回転数を何度も試行錯誤した結果、今の形になりました。 大変だったこと、学びになったことはありましたか スピーカーはコーンという部品を振動させて音を出す機械ですが、ただ薄くしただけの金属だと振動しないことが制作の過程で分かりました。シミュレーションの段階ではどうしたら響くのか苦労しましたが、何度も設計を重ねていくうちに、コーンを支える箇所に溝を作ることで、大きく振動させることができました。 また、様々な失敗を繰り返していく中で、試行錯誤をやめずに諦めないということは、就職した現在でも役立っていると思います。 スピーカーの裏側 大学生活を通して社会で役に立っていることはありますか ものつくり大学での学びはとにかく密度が濃かったこともあり、実際の社会に即した勉強ができることはとても大きかったなという気持ちです。同期よりも持っている知識の厚さが違うことや、社会人として即戦力になれるような教育を受けられたことはものつくり大学の良いところだと思っています。 表彰式の様子 現在はどのような仕事に取り組んでいますか 品質保証室という部門で、製品評価の仕事に取り組んでいます。 お客さまへ安全で高品質な機械を提供できる様に、新たに開発された新機種が求められる性能を持っているかの検査・試験を行っています。 今後の目標についてお聞かせください この度大変栄誉ある表彰を受け、ものつくり大学の学生として多くの方に評価していただきました。学生時代、後輩の指導を行うようなこともあり、自分でもある程度モノづくりがわかっている自信がありました。その自信は今も仕事をするうえで私の強い支えとなっています。しかし、社会人となった今、自分の未熟さも強く感じています。 そんな中で、現在の目標は、とにかく仕事を覚えていち早く1人前として成長することです。社会人生活は今までの人生の数倍長い期間を過ごすことになります。長い目線で、まずは1人前になること、そして将来的には身に付けた能力をまた後進へ伝えていけるような人材になりたいと思います。 最後に、今回の結果を後輩たちが知って、自分もこうなりたいと思ってもらえたら嬉しいです。 勤務先 シチズンマシナリー(株)で使用している金属加工機械 関連リンク 情報メカトロニクス学科WEBページ 情報メカトロニクス学科 機械加工・技能伝承研究室(武雄研究室)

  • 【知・技の創造】装飾が愛着に繋がる

    「装飾」から考える「花飾建築」とは 「装飾」とは、飾ること。美しく装うこと。また、その装い・飾り。「愛着」とはなれ親しんだものに深く心が引かれること。を意味します。 私事になりますが、現在、行田市内花き農家応援花いっぱい運動に取り組んでいます。ヴェールカフェ(旧忍町信用組合)や忍城を装飾する「花飾《かしょく》建築」と題した花台を制作しました。そのため、装飾について考えることがしばしばありました。9月に亡くなられた英エリザベス女王が、生前使用していた装飾品に大英帝国王冠があります。この王冠は、女王が戴冠式から着用されていたもので、ジョージ6世から譲り受け女王のために再デザインされたものです。国葬の際、女王の棺の上に、宝石の散りばめられた王冠が飾られていたのがとても印象的でした。 ファッションも建築も装飾されることで注目される 私が専門とする建築の分野では、「建築装飾」という言葉が使われます。鬼瓦や風見鶏のような厄除け魔除けのために取り付けられたり、欄間や襖のようにインテリアとして設えたり、構造体や間取りなど実用的機能に関係しない建築表現を指します。また、建築物を飾りつけるものとしては、ハロウィンやクリスマスのイルミネーション、お正月に飾るしめ縄や門松などがあります。東京タワーを事例に挙げてみると、建設当初、しばしば4本の稜線を電球で点灯。1964年のオリンピック以降、毎日点灯、都市の高層化により目立たなくなる。1989年、石井幹子氏による季節感を取り入れたライトアップの開始。2013年、増上寺のプロジェクションマッピングの背景に活用される。このように東京タワーは、電気によって装飾されることで、ときには都市の主役のように、ときには脇役のように捉えられてきました。装飾は、その季節や時代のトレンドを取り入れつつ、伝統を重んじながら発展してきました。ファッションも建築も装飾されることで注目されます。そして、その装飾された人、建物、街への愛着へと結びつきます。私の研究室で制作した「花飾建築」も旧忍町信用組合や忍城、そして行田市への愛着に繋がればいいなと思います。 埼玉新聞「ものつくり大学発 知・技の創造」(2022年11月4日号)掲載 Profile 大竹 由夏 (おおたけ ゆか) ものつくり大学建設学科講師。筑波大学博士後期課程修了。博士(デザイン学)。一級建築士。筑波大学博士特別研究員を経て現職。 関連リンク 行田市花いっぱい運動 地域との交流を通じて得た学び 建設学科 デザイン・空間表現研究室(大竹研究室) 建設学科WEBページ

  • 【知・技の創造】D2C時代のものづくり

    「D2C」の潮流  皆さんは「D2C」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「D2C」とは「Direct to Consumer」(消費者に直接届ける)の略で、米国を中心に流行が始まっている新しい製品の販売、消費の動向です。「D2C」ブランドの特徴は原則小売店を介さずに、製造者が自社のwebサイトから直接消費者に販売する形態にあります。   「D2C」を代表するブランドとしては寝具の「Casper」、眼鏡の「Warby Parker」、日本でも若い世代を中心に支持を集めている、スニーカーの「Allbirds」などが挙げられます。  ではこれらの製品ジャンルは既に多くの製造者が古くから製品を供給しているにも関わらず、なぜこうした新興のブランドが誕生し消費者の支持を集めているのでしょうか。その背景にあるのはSNSの存在とサスティナビリティ(持続可能性)意識の普及にあると考えられます。  「Instagram」などのSNSの普及は、自分の持ち物を世界中の多くの人に見てもらう機会を生み出しました。それに従い、高価なものを自慢するのではなく「自分らしい」ものを選びたいというニーズ、そしてものを買うからにはそれを選んだ「確かな理由付け」が欲しいというニーズが消費者から求められるようになりました。  それに対し、例えば前述の「Warby Parker」は無償で5日間、5種類の試着用眼鏡を消費者の自宅に送付し、消費者はそれを試着してSNSに投稿し、その反応を見て自分に似合う眼鏡を選ぶ。といった新しい消費のスタイルを生み出しました。 そして「Allbirds」のスニーカーは、製品の製造から廃棄されるまでのCO2排出量を製品毎に公表し、消費者が出来るだけ環境負荷の少ない製品を選択できる仕組みを作っています。製品を購入し消費する以上、地球環境に対して何らかの悪影響を与えることは避けられませんが、このサスティナビリティに出来るだけ配慮してものづくりを行う企業姿勢が、環境意識に敏感な若い世代の支持を集めている理由であるといって良いでしょう。  こうしたD2Cの流行から考えられることは、消費者向けの製品開発は「小品種、大量生産」から「中品種、中量生産」、さらに「多品種、少量生産」の潮流へ向かっているということです。 これからの「ものづくり」教育 ではこの潮流に対して「ものづくり」教育はどのように応えていくべきでしょうか。「多品種、少量生産」の製品開発のためには、消費者個々のニーズを汲み取り、それをデザインに落とし込むユーザーリサーチ技術の研究や、サスティナビリティに配慮した素材を活用したデザインの研究が必要です。また少量生産に適した新しい生産プロセスの研究、あるいは手作りのプロセスによるものづくりの復権が考えられます。  従来「理系は人間の行動に対する想像力が弱く、文系は科学技術の進歩に対する理解力が足りない」と言われてきました。しかしこれからのものづくりに求められるのは、文理の枠を超えて消費者の行動、ニーズを理解した上で、最新の科学技術の進歩を享受した製品開発が出来るクロスオーバー型の人材であると言えるでしょう。ものつくり大学では2022年度より「教養教育センター」を設立し、従来の強みを活かしつつ分野をクロスオーバーする知を身につけた人材育成を目指しています。D2C時代のものづくりを切り拓く本学の教育展開にご期待ください。 埼玉新聞「ものつくり大学発 知・技の創造」(2022年10月7日号)掲載 Profile 町田 由徳 (まちだ よしのり) 教養教育センター・情報メカトロニクス学科 准教授 東京造形大学デザイン学科卒業後、デザイン事務所勤務、岡崎女子短期大学准教授等を経て、2020年より現職。専門はプロダクトデザイン。 関連リンク 教養教育センターWEBページ 情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 諦めない心が生んだ4年間の集大成と、卒業後の姿

    11月8日(火)、東京ビッグサイトにてJIMTOF2022が開催され、DMG森精機株式会社のブースにおいて「第17回切削加工ドリームコンテスト」の表彰式が行われました。本コンテストでは、2021年度3月に本学の製造学科(2022年現在は情報メカトロニクス学科) 武雄研究室の卒業生であり、現在はシチズンマシナリー株式会社に勤務している大澤 怜史さんが卒業研究で製作した「総削りスピーカー」が、アカデミック部門において見事銅賞に選ばれました。そこで、大澤さんが製作に込めた思いや、学びになったことと、今後の目標をお伺いしました。 なぜスピーカーにしようと思ったのですか 趣味でイヤホンやオーディオ機器を集めています。良いものを買って聞くことはいつでもできますが、4年間様々な勉強を積み重ねてきたので、好きなものを1から作ってみよう考えたことがきっかけです。 スピーカー全体図 総削り出しの特徴とは 無垢の金属の塊から形を作り出していくことを総削り出しと言います。彫刻とは違うのですが、彫刻のようなイメージで、機械を使って掘るように加工します。 通常のスピーカーと異なる部分はありますか? 既製品のスピーカーを参考に設計したため、形状に大きな違いはありません。 しかし、一般的なスピーカーには大きく振動させるためにゴムやスポンジ部品が使用されていますが、このスピーカーにはそのような柔らかい素材は一切使用せず、すべて金属で製作しています。それでも、きちんと実用できるスピーカーというところを目標にしました。また、木箱以外は大学の機械で設計から加工まで全て行いました。 スピーカー部分 完成までの期間はどれくらいかかりましたか スピーカーの設計や材料集め、削る刃物の選定等含めると半年以上かかりました。しかし、始まりから終わりまで一貫して自ら取り組めることを大学で教わったので、これが4年間の集大成だったのではないかと思います。  削るにも、刃物の回転数を調節するたびに切れ味や材料への衝撃に変化が出てくるので、何度も考えながら取り組みました。薄いものを作るということは、強い力を加えると変形してしまったり割れてしまったりするので、特に注意をしながら進めていきました。何度も失敗はしましたが、削る順番や回転数を何度も試行錯誤した結果、今の形になりました。 大変だったこと、学びになったことはありましたか スピーカーはコーンという部品を振動させて音を出す機械ですが、ただ薄くしただけの金属だと振動しないことが制作の過程で分かりました。シミュレーションの段階ではどうしたら響くのか苦労しましたが、何度も設計を重ねていくうちに、コーンを支える箇所に溝を作ることで、大きく振動させることができました。 また、様々な失敗を繰り返していく中で、試行錯誤をやめずに諦めないということは、就職した現在でも役立っていると思います。 スピーカーの裏側 大学生活を通して社会で役に立っていることはありますか ものつくり大学での学びはとにかく密度が濃かったこともあり、実際の社会に即した勉強ができることはとても大きかったなという気持ちです。同期よりも持っている知識の厚さが違うことや、社会人として即戦力になれるような教育を受けられたことはものつくり大学の良いところだと思っています。 表彰式の様子 現在はどのような仕事に取り組んでいますか 品質保証室という部門で、製品評価の仕事に取り組んでいます。 お客さまへ安全で高品質な機械を提供できる様に、新たに開発された新機種が求められる性能を持っているかの検査・試験を行っています。 今後の目標についてお聞かせください この度大変栄誉ある表彰を受け、ものつくり大学の学生として多くの方に評価していただきました。学生時代、後輩の指導を行うようなこともあり、自分でもある程度モノづくりがわかっている自信がありました。その自信は今も仕事をするうえで私の強い支えとなっています。しかし、社会人となった今、自分の未熟さも強く感じています。 そんな中で、現在の目標は、とにかく仕事を覚えていち早く1人前として成長することです。社会人生活は今までの人生の数倍長い期間を過ごすことになります。長い目線で、まずは1人前になること、そして将来的には身に付けた能力をまた後進へ伝えていけるような人材になりたいと思います。 最後に、今回の結果を後輩たちが知って、自分もこうなりたいと思ってもらえたら嬉しいです。 勤務先 シチズンマシナリー(株)で使用している金属加工機械 関連リンク 情報メカトロニクス学科WEBページ 情報メカトロニクス学科 機械加工・技能伝承研究室(武雄研究室)

  • 【知・技の創造】装飾が愛着に繋がる

    「装飾」から考える「花飾建築」とは 「装飾」とは、飾ること。美しく装うこと。また、その装い・飾り。「愛着」とはなれ親しんだものに深く心が引かれること。を意味します。 私事になりますが、現在、行田市内花き農家応援花いっぱい運動に取り組んでいます。ヴェールカフェ(旧忍町信用組合)や忍城を装飾する「花飾《かしょく》建築」と題した花台を制作しました。そのため、装飾について考えることがしばしばありました。9月に亡くなられた英エリザベス女王が、生前使用していた装飾品に大英帝国王冠があります。この王冠は、女王が戴冠式から着用されていたもので、ジョージ6世から譲り受け女王のために再デザインされたものです。国葬の際、女王の棺の上に、宝石の散りばめられた王冠が飾られていたのがとても印象的でした。 ファッションも建築も装飾されることで注目される 私が専門とする建築の分野では、「建築装飾」という言葉が使われます。鬼瓦や風見鶏のような厄除け魔除けのために取り付けられたり、欄間や襖のようにインテリアとして設えたり、構造体や間取りなど実用的機能に関係しない建築表現を指します。また、建築物を飾りつけるものとしては、ハロウィンやクリスマスのイルミネーション、お正月に飾るしめ縄や門松などがあります。東京タワーを事例に挙げてみると、建設当初、しばしば4本の稜線を電球で点灯。1964年のオリンピック以降、毎日点灯、都市の高層化により目立たなくなる。1989年、石井幹子氏による季節感を取り入れたライトアップの開始。2013年、増上寺のプロジェクションマッピングの背景に活用される。このように東京タワーは、電気によって装飾されることで、ときには都市の主役のように、ときには脇役のように捉えられてきました。装飾は、その季節や時代のトレンドを取り入れつつ、伝統を重んじながら発展してきました。ファッションも建築も装飾されることで注目されます。そして、その装飾された人、建物、街への愛着へと結びつきます。私の研究室で制作した「花飾建築」も旧忍町信用組合や忍城、そして行田市への愛着に繋がればいいなと思います。 埼玉新聞「ものつくり大学発 知・技の創造」(2022年11月4日号)掲載 Profile 大竹 由夏 (おおたけ ゆか) ものつくり大学建設学科講師。筑波大学博士後期課程修了。博士(デザイン学)。一級建築士。筑波大学博士特別研究員を経て現職。 関連リンク 行田市花いっぱい運動 地域との交流を通じて得た学び 建設学科 デザイン・空間表現研究室(大竹研究室) 建設学科WEBページ

  • 【知・技の創造】D2C時代のものづくり

    「D2C」の潮流  皆さんは「D2C」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「D2C」とは「Direct to Consumer」(消費者に直接届ける)の略で、米国を中心に流行が始まっている新しい製品の販売、消費の動向です。「D2C」ブランドの特徴は原則小売店を介さずに、製造者が自社のwebサイトから直接消費者に販売する形態にあります。   「D2C」を代表するブランドとしては寝具の「Casper」、眼鏡の「Warby Parker」、日本でも若い世代を中心に支持を集めている、スニーカーの「Allbirds」などが挙げられます。  ではこれらの製品ジャンルは既に多くの製造者が古くから製品を供給しているにも関わらず、なぜこうした新興のブランドが誕生し消費者の支持を集めているのでしょうか。その背景にあるのはSNSの存在とサスティナビリティ(持続可能性)意識の普及にあると考えられます。  「Instagram」などのSNSの普及は、自分の持ち物を世界中の多くの人に見てもらう機会を生み出しました。それに従い、高価なものを自慢するのではなく「自分らしい」ものを選びたいというニーズ、そしてものを買うからにはそれを選んだ「確かな理由付け」が欲しいというニーズが消費者から求められるようになりました。  それに対し、例えば前述の「Warby Parker」は無償で5日間、5種類の試着用眼鏡を消費者の自宅に送付し、消費者はそれを試着してSNSに投稿し、その反応を見て自分に似合う眼鏡を選ぶ。といった新しい消費のスタイルを生み出しました。 そして「Allbirds」のスニーカーは、製品の製造から廃棄されるまでのCO2排出量を製品毎に公表し、消費者が出来るだけ環境負荷の少ない製品を選択できる仕組みを作っています。製品を購入し消費する以上、地球環境に対して何らかの悪影響を与えることは避けられませんが、このサスティナビリティに出来るだけ配慮してものづくりを行う企業姿勢が、環境意識に敏感な若い世代の支持を集めている理由であるといって良いでしょう。  こうしたD2Cの流行から考えられることは、消費者向けの製品開発は「小品種、大量生産」から「中品種、中量生産」、さらに「多品種、少量生産」の潮流へ向かっているということです。 これからの「ものづくり」教育 ではこの潮流に対して「ものづくり」教育はどのように応えていくべきでしょうか。「多品種、少量生産」の製品開発のためには、消費者個々のニーズを汲み取り、それをデザインに落とし込むユーザーリサーチ技術の研究や、サスティナビリティに配慮した素材を活用したデザインの研究が必要です。また少量生産に適した新しい生産プロセスの研究、あるいは手作りのプロセスによるものづくりの復権が考えられます。  従来「理系は人間の行動に対する想像力が弱く、文系は科学技術の進歩に対する理解力が足りない」と言われてきました。しかしこれからのものづくりに求められるのは、文理の枠を超えて消費者の行動、ニーズを理解した上で、最新の科学技術の進歩を享受した製品開発が出来るクロスオーバー型の人材であると言えるでしょう。ものつくり大学では2022年度より「教養教育センター」を設立し、従来の強みを活かしつつ分野をクロスオーバーする知を身につけた人材育成を目指しています。D2C時代のものづくりを切り拓く本学の教育展開にご期待ください。 埼玉新聞「ものつくり大学発 知・技の創造」(2022年10月7日号)掲載 Profile 町田 由徳 (まちだ よしのり) 教養教育センター・情報メカトロニクス学科 准教授 東京造形大学デザイン学科卒業後、デザイン事務所勤務、岡崎女子短期大学准教授等を経て、2020年より現職。専門はプロダクトデザイン。 関連リンク 教養教育センターWEBページ 情報メカトロニクス学科WEBページ