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#情報メカトロニクス学科

  • 【知・技の創造】溶接技術者の仕事

    2022年8月5日発行の埼玉新聞に、『古いけど大事な溶接技術』というタイトルで溶接は難解だけど興味深いなどの記事を書かせて頂きました。  今回は溶接技術に携わる技術者の仕事について紹介させて頂きます。溶接技術者を大別すると、溶接施工をする人と溶接施工方案を作成する人に分けられます。ここでは後者に関して、私の経験を交えた二つの側面を紹介したいと思います。 トラブル対応 工場などの製造部門から品質検査で溶接部不良が増えているので何とかしてほしいといった相談が良くあります。場所が溶接部なので溶接技術者が対応することになりますが、溶接技術以外の問題である場合が少なくありません。 例えば、素材の保管環境が悪くて水分を吸着していたとかです。同じように作っていたのに、同じようになっていなかったという具合です。溶接技術者は変化点(時期、時間)や規則性などを探り、品質に影響を与え得る要因を列挙して、仮説を立てながら過去の記録との関係を調査していきます。 原因を突き止めるために専門知識と論理的思考をフル回転させます。とても骨の折れる仕事ですが、専門の技術者が頼られる数少ない活躍の場でもあります。原因究明が上手く行けば、それ以前のことが嘘のように不良がピタリとなくなり、自己満足と達成感に浸れます。 最近は部品に印字したQRコードから素材のロット番号、加工に使用した機械などの多くの情報が引き出せるようになっていますので、調査の手間は少し楽になっています。デジタル技術の恩恵です。 施工技術開発  施工技術開発は簡単に言うと、溶接技術の選定と溶接条件の最適化になります。アーク溶接、レーザ溶接、抵抗溶接などが溶接技術です。生産量(または溶接工程の時間)、溶接する材質(鋼、アルミ合金など)、寸法・形状や要求品質など工場からの要求事項を満足できそうな技術を選定します。複数の候補技術がある場合はコストを優先しますが、初期段階では並行して検討する場合が多いです。 溶接条件の最適化は試験片での検討から始まり、最後は製品(試作品)での実証になります。試験片の検討というと簡単そうに聞こえますが、ここに辿り着くまでに多くの予備検討もします。ジグへの熱拡散が気になれば、影響度合いを予備試験で確認します。影響が大きければ、試験片のジグに反映します。アーク溶接などは噴射するガスの流れの影響も予備試験で確認する場合もあります。本格的な試験は単純作業の繰り返しが多いですが、その前段階では周到な予備試験が重要になります。量産での環境をどれだけ想像できるかが鍵と思います。 初期段階の予備検討を怠ると、折角の試験データが使い物にならず、最初からやり直しということになりかねません。この辺の進め方は経験で培われることが多いと感じています。最後はこれらの試験データをまとめて、管理項目と管理値に追い込んだレシピを作成して技術移管となります。 最後に 溶接技術の観点で技術者の仕事を紹介してみました。溶接に限らず、多くの技術開発あるいは多くの業務でも共通する部分があるのではないかと思っています。技術者の仕事も奥深い所があると解って頂けると幸いです。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年10月4日号)掲載 profile 平野 聡(ひらの さとし)情報メカトロニクス学科 准教授 長岡技術科学大学大学院修士課程修了。東北大学大学院博士課程修了。博士(工学)株式会社日立製作所を経て2021年4月より現職。専門は接合技術、ロボット応用開発。 関連リンク ・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】銅合金鋳物の環境対応

    様々なところで使われている銅合金鋳物の性質 人類史における石器時代の次は「青銅器時代」と呼ばれるように、銅合金は人類が初めて手にした金属材料です。現代の銅合金は、電線やコネクタなどの配線材料に多く用いられるほか、鋳物としても様々に使われています。電気部品は銅鋳物、機械部品や梵鐘、モニュメント、仏具などはすずと亜鉛を混ぜた青銅や黄銅、電気部品はすずとりんを混ぜたりん青銅、船舶のプロペラはアルミを混ぜたアルミニウム青銅、など特性や用途が広いのも銅合金鋳物の特徴です。 特に多くを占めているのがバルブ・水栓金具用途に用いられる青銅鋳物で、銅に、おおよそ5%ずつのすず、亜鉛、鉛を含んでいます。この合金は、すずによる耐食性に加えて、適度な強度と伸びがあり、さらに鋳造しやすいというバランスの取れた性質を持っています。 銅合金中の鉛は、これまで鋳物の生産や使用に対して良好な性質をもたらす元素として使われてきました。鋳造品の内部には引け巣と呼ばれる空隙が生じやすいですが、鉛はこの場所に存在することによって空隙が繋がらずにバルブの水漏れを防いでいます。仕上げの切削やねじ切り加工の際には、鉛の潤滑作用により、加工しやすくなります。また、鉛青銅鋳物と呼ばれる材料では鉛を多く含ませて、すべり特性を持たせて各種機械の軸受として使われています。 銅合金鋳物の課題と対応 こうした一方で、鉛は環境負荷物質としてカドミウム等とともに、製品に含まれる割合を減らそうと規制が進められています。水質基準では飲料水中の鉛は0.01mg/l以下と2003年に改正されています。 水道に使う蛇口などの銅合金鋳物では、微量ながらおおよそその組成に応じて鉛が水道水中に溶け出すことがわかっています。浸出試験の結果、鉛が5%程度含まれている従来の青銅鋳物では水質基準を満たすことが難しいことがわかり、鉛の代わりにビスマス等を利用して、鉛の量を0.25%以下とした鉛フリー合金への移行を進めてきました。 さらに廃棄物中からの有害物質の溶出による環境への影響から、電気機器ではRoHS、自動車ではELVで規制されています。RoHSでは、一般素材に対しての鉛の制限は1,000ppm(0.1%)ですが、銅合金に対しては現在のところ適当な代替材料がないとして、暫定処置として4%を超えないものと規定されています。これは未だ汎用的な代替技術ができておらず、環境規制をリードするチャンスがあるということです。 銅合金鋳物のもう一つの課題は原材料高騰です。銅は現在1kgあたり1500円、すずに至っては5000円に達しています。昨今の円安の影響もあり、これらはいずれも数年前の2倍の水準です。今後とも続くのであれば、製品によってはステンレスや樹脂への変更を検討する一方、銅合金の新たな使い道も模索する必要もあります。 こうした状況のなかでものづくりを継続してゆくために、新たな技術開発やつくりかたの変化に対応するため、個々の材料や技術に対する深い理解が必要となると同時に、金属材料に限らず様々な材料を俯瞰的に理解・比較し、設計における形状変更も含めた適切な選択を行っていくことが必要となるでしょう。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年8月2日号)掲載 profile 岡根 利光(おかね としみつ)情報メカトロニクス学科教授 東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。ニコン、東京大学、産業技術総合研究所を経て2021年4月より現職。専門は凝固、凝固組織制御、鋳造、3Dプリンター。 関連リンク ・情報メカトロニクス学科WEBページ・高温プロセス研究室(岡根研究室)

  • ロボコンに注ぐ情熱!引き継がれる技術や技能、そして思い

    ものつくり大学には没頭できる学生プロジェクトがいくつもあります。「ろぼこんプロジェクト」もその1つ。2002年に結成され、現在に至るまで多くの卒業生・在学生がNHK学生ロボコンの優勝を目標に、ロボット開発のために切磋琢磨して大会出場に向けてロボットの製作を行ってきました。今回は、NHK学生ロボコンに出場経験のある川村迪隆さん(総合機械学科4年・三井研究室、上記写真:右)と荒川龍聖さん(大学院2年・三井研究室、上記写真:左)にプロジェクトについて、また、先輩から後輩に引き継がれる技術や思いなどについてインタビューしました。 われらの「ろぼこんプロジェクト」 -ものつくり大学の「ろぼこんプロジェクト」に関わることになったきっかけは。 【川村】高校時代からロボコンに関わっていて、2019年には全国高等学校ロボット競技大会にも出場しました。しかし、高校3年生だった2020年はコロナ禍で大会に出場できず、不完全燃焼で終わってしまって。大学の進学先はロボコンに集中できるところと決めていました。 ものつくり大学進学の決め手は、特に加工設備が整っていることと、新潟出身なので学内に寮があることでした。「この大学ならロボット作りに好きなだけ時間が割ける」と思い選んだといっても過言ではありません。 【荒川】中学生の頃、テレビでNHK学生ロボコンを見て「ロボコンに関わりたい」と強く思いました。ただ、進学した工業高校にはロボコンに取り組める部活がなく、中高とも独学で学びました。大学はNHK学生ロボコンに関われるところを探し、ものつくり大学は第一志望ではありませんでしたが、特待生として入学できました。やっとNHK学生ロボコンに向けていい機体を作れる環境になりました。 -プロジェクトに関わり、高校時代に比べ変化したことは。 【川村】大会出場に向けての熱意です。全国高等学校ロボット競技大会とNHK学生ロボコンの大きな違いは、大会に出場できる確率です。全国高等学校ロボット競技大会は各都道府県大会で入賞したチームから全国で約100チームが出場できます。一方、NHK学生ロボコンは狭き門で、全国の大学と高専から約20チームしか大会に出場することができません。 出場権を手にするためには、いくつものハードルがあります。8月にABUアジア・太平洋ロボットコンテストのテーマの発表があり、10月に日本語版のルールが発表されるので、戦略を考えます。11月にロボットの機構、アイデア、戦略を説明した書類審査を通過できると、翌年2月にロボットの戦術を書いた書類と手動機と自動機のロボットの動きや各種機構がわかる動画による1次ビデオ審査、4月に一連の流れや完成度がわかる動画による2次ビデオ審査があり、それらを1つずつ突破しないと大会には出場できません。 1年間かけてロボットの製作に取り組んでも、大会で1試合も出られずに終わることもあるので「絶対に大会に出場して、大きな舞台でロボットを動かすぞ」という思いでやってきました。 【荒川】高校生まではロボット作りに関われなかったので、大学に入ってからはプロジェクトマネージャー(プロマネ)を1年生からずっとやってきました。プロマネの役割は幅広く、重要なポジションです。プロジェクトを円滑に進めていくためにリーダーシップや高度なスキル、専門知識が求められます。 私が1年生だった2019年に、ものつくり大学がNHK学生ロボコンに出場したのですが、操縦者やピットクルーという表舞台に立てなくて。その後、4年生まで大会出場を果たすことができず、ずっともどかしさがありました。NHK学生ロボコンに出場して、成績を残すために、ロボット作りよりプロマネとして何ができるかを四六時中考えてきました。 2次ビデオ撮影前の様子 -1年間のスケジュールの中で、どんなことに力を入れていますか。 【荒川】私が担当するプロマネの仕事は1年を通してずっとあります。プロジェクト全体を指揮・管理するのがプロマネです。プロマネの存在が全体のスケジュールを支えているといっても過言ではありません。 全体のスケジュール管理に加え、チームメンバーのスキルを見極める能力も必要になります。ものつくり大学のロボット製作は、設計班・加工班・制御班の3つに分かれています。私は、3つの分野の知識や技術・技能などを日頃から研究し、それをマネジメントに生かしています。例えば、ロボットの製作期間中は、設計者の進捗を見る会議を週に1度開き、設計者にアドバイスを行ったり、設計のブラッシュアップをしたりしています。制御者や加工者としての視点で加工できる形を指摘することもあり、設計者側から嫌がられる立場でもあります。 なぜ私がプロマネとして必死にやってきたかというと、かつて同期のメンバー同士で人間関係がうまくいかなくなり、プロジェクト自体の存在が危うくなってしまった経験があるからです。「自分を捨ててでもなんとか後輩に思いをつなげなきゃ」とプロマネとしての役割を担ってきました。 【川村】荒川さんがメインのプロマネだとしたら私はサブのプロマネといった立ち位置で活動しています。また、操縦者としての視点で後輩にアドバイスもしています。ものつくり大学では、プロジェクトリーダーは2年生が担当と決まっています。私は2023年のNHK学生ロボコン出場に向けてプロジェクトリーダーを務めたり、2年連続大会に出場してチームリーダーを務めたりした経験も生かしています。 私がこのプロジェクトに加わった2021年は「学生同士に壁があるな」と感じました。高校時代にプロマネに近いことをやっていましたが、コミュニケーションがうまくいっているとプロジェクトも上手くいくことを実体験として持っていたんです。いい機体を作るために会議を月1回から週1回に増やすことも私が提案しました。その結果、機体の練度も上がっていきました。 設計講習会の様子 -プロジェクトの魅力や面白さは。 【川村】メンバー内の仲の良さです。今のプロジェクトメンバーは学年の壁がなく、後輩もしっかり意見を言える空気があります。 【荒川】一番はロボットに触れられることです。100人、200人単位のメンバーで構成されている大学も多く、ロボットに触れられずに4年間が終わってしまうケースもあります。しかし、ものつくり大学のろぼこんプロジェクトはやる気次第で1年生から関われます。「ロボットに関われる」というのは大きな魅力です。2024年もNHK学生ロボコンに出場を果たしましたが、ボールをつかむロボットの機構を設計したのは、なんと1年生です。 1年生が機構を設計したR1 NHK学生ロボコン2024での成果と課題 -6月9日にNHK学生ロボコンが開催され、2年連続の出場を果たしましたがどんな成果がありましたか。 【川村】昨年に続き2年連続チームリーダーを務めました。今年は「Harvest Day」をテーマに田植え、収穫をR1(手動機ロボット)が行い、収穫された穀物の倉庫への輸送をR2(自動機ロボット)が行い点を取り合うという競技でした。 昨年は予選リーグで2敗してしまいましたが、今年は1勝できたというのが何より大きな成果です。昨年残り数秒で負けてしまったチームに勝利でき、雪辱を晴らすことができました。また、昨年はコントローラーと受信機の通信トラブルがあったため、今年はコントローラーの電波が届きやすいように受信機の取り付け位置を工夫し、トラブルを回避しました。 【荒川】出場したことが何よりの成果です。連続出場したことで分かったことがたくさんありました。例えば、会場に持ち込む工具類は昨年の多さから見れば、今年は少なく済みました。逆に、チーム紹介ビデオの制作スケジュールの管理は大変でした。 また、昨年の経験から、競技には関われない大学院生の私は、多忙な大会前の1か月をプロマネに専念しました。結果的に大学での練習量を増やすことができて、出場メンバーは自信を持って大会に臨むことができました。 -大会ではどんな課題に直面し、今後どのように解決していこうと考えていますか。 【川村】一番の課題は、ロボットを制御できる人材の不足です。現プロジェクトの制御班にはメンバーが8人いますが、メイン担当は1人です。今大会のR1とR2のロボットの両機体ともほぼ1人で作ったため、R2にリソースを割けませんでした。ブラッシュアップも十分できず、制御自体ができたのが大会の1週間前でした。 ロボットを制御できるようになるためには、実際にロボットを動かす機会が必要です。実体験を通して、自分が関わっているロボットに求められる動きや機構について理解も深まります。今後は、制御について相談できる人がいなくなるという現状を解決していきたいと考えます。 【荒川】制御担当の負担を減らすために製作時間を短くすることが課題になると思います。そのためにスライドガイド付きシリンダーや一体型になっている部品などのロボットの組み立てを短縮できる資産を増やすことも大事だと思います。また、大会会場ではコントローラーの電波障害が起きやすいので、使用されていない電波を探したり、新たな技術を使っていったりする必要があります。 R2の制御を行うメンバー 引き継ぎたい知識や技術、そして思い -これから卒業までにどのように後輩を育成し、どんなことを継承しようとしていますか。 【川村】2年連続チームリーダーを務めた経験から言うと、今のプロジェクトチームの中にチームを導ける人は少ないと思っています。リーダーには些細なことでも気付けたり、周りを見て足りないところを補ったりする力が求められます。卒業までの間に人を育てるというのが大きな役目の1つだと考えています。 また、分からないことは人それぞれで異なるため、データで残すよりは言葉で伝えることが大事だと考えます。2023年のNHK学生ロボコンに向けて1次と2次ビデオ審査に必要な動画作成を担当しました。今大会は後輩に任せ、やらせてみて、分からないことは教えるというスタンスをとりました。会話することでしか伝わらないことも多いのでコミュニケーションを通して私のスキルを引き継いでもらいたいです。 【荒川】大会に出場し続けるための思いや技術を伝えていきたいと考えています。今後チームが大会に出場できないことがあっても、やる気のあるメンバーがいればいつでも活用できるデータを残したいです。取扱説明書や制御の仕組みのテンプレートなどの作成にすでに取り組んでいます。 それから、後輩たちには、ぜひOBを頼ってほしいです。そのためにも「手伝い続けたくなるチーム」「応援したくなるチーム」を目指すことが大事だと思います。 また、大会に出場した経験を強みに、工業高校などに出向いて、デモンストレーションを実施するなどして仲間を募る活動も川村君たちプロジェクトメンバーと行っています。 -直近の目標は9月に開催される大学1年生を対象とするF^3RC(エフキューブロボットコンテスト)優勝ですが、どのように関わっていますか。 【川村】設計・加工・制御のうち、設計と制御の基礎的なところを教えています。設計のほうは、セミナーを1週間行って、実際のものを作ったりしています。特に、やる気が出るように士気を上げる環境づくりを大事にしています。ぜひリーダーには周りを巻き込んでさまざまな問題を解消してほしいと思います。 1年生向けに設計の講習の一環として、設計したコマを3Dプリンタで印刷して大会を開催 【荒川】基板・はんだ付け・制御・プログラムなどの方法を教えています。方法を教えれば道具をうまく使って応用が利くと考えています。 2022年にF^3RCで優勝したメンバーの藤野君には回路基板のはんだ付けやロボットの制御の基礎をマンツーマンで教えたことで、驚くほど成長しました。伸びる学生は伸びます。やはりやる気が大事で、やる気のある1年生をどう育てるか、また、やる気を出させるために全体のモチベーションアップもしていきたいです。 1年生の中に、プロマネの後任になれそうな学生もいます。プロマネの難しいところは、メンバーから嫌われたら終わり。プロジェクトが成立しなくなるというリスクもあります。また、その年の部員たちの個性もあるので、その個性を潰さないように、プロマネがどうあるべきか常に悩みながら関わっているのが正直なところです。 1年生に加工機の操作方法を教える荒川さん -後輩に引き継ぎたい目標や思いは。 【川村】NHK学生ロボコンの優勝ですね。過去にはグループリーグを突破して準優勝まで進んでいます。出場するだけではなく、後輩には上を目指してほしいです。 また、明るくないと士気も上がらないので、メンバーには「明るく、楽しく」をモットーにプロジェクトでの活動を大事にした環境づくりを引き継いでほしいです。 【荒川】やはり、優勝してほしいです。そして、自立してほしい。私は後輩からの「先輩もう大丈夫です」という言葉を最高だと思っていて。その言葉を聞いたら身を引きたいです。それから、「出場だけしていてはだめだよ」と伝えたいです。出場して強豪校という状態になってほしいです。 後輩たちには多くのOBたちの思いが募って今の状態があることを心に刻み、4年生の思いをつなげてほしいと思います。 関連リンク ・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!①・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!②・ろぼこんプロジェクト「イエロージャケッツ」Webページ・情報メカトロニクス学科Webページ

  • 【知・技の創造】現場の元気さと幸せ

    トヨタ自動車で32年勤めた後、行田市のものつくり大学を拠点に地元企業に協力いただき「強い現場づくり」をテーマに研究と教育に取り組み10年目になります。クルマづくりの現場で先輩たちの指導を仰ぎ、仲間たちに協力してもらい成果につながったことを、少しでもたくさんの人に伝え活用していただくため、学生たちと地元企業の生産現場で課題抽出し、現場の方々と一緒に改善活動を実践し、研究と教育につなげています。 強い現場と人 Well-Being(人々の幸せ)について日々研究をされている方の講演での話です。働く人が幸せな企業ほど会社の業績が良い、すなわち働く人の幸せ度が高い企業は生産性が高く、高業績でさらには災害も少ないことがデータにも表れているとの事です。 私の経験や研究を振り返ってみても確かに納得させられることが多くあり、とても感銘を受けました。これまで現場での生産性や働く人の意識・モチベーションにばかりに気を取られていたような気がします。考えてみれば働いている人がそこでやりがいを感じ生き生きとしている会社は業績が良い、そして幸せを感じるということではないでしょうか。 ということであれば業績を上げたい会社経営者や生産性を上げたい現場のリーダーは、働く人たちに幸せになってもらうことが大切だということになります。 ではどうすれば日々の活動の中で人は幸せを感じるようになるのでしょうか?これまでの事例から考えてみました。 会社の一体感 県内企業で学生が改善活動に取り組み、その報告会の場で謝辞を伝える場面で、「協力して頂いた社員・作業員の皆様に感謝申し上げます」と文言に表したところ、管理者の方から「当社では社員と作業員の言葉の区別はない、皆がこの会社の社員である」とのご発言をいただいたことがあります。学生の何気ない言葉遣いに対してさえ、このように考え発言いただくことはとても素晴らしいと感じました。オンリーワンの技術開発力と一体感のある現場で業績を伸ばしているこの企業で、今後も一緒に改善に取り組んでいきたいと考えています。 また、県内の従業員数50名弱で部品製造を行っている企業の品質改良活動に参加しています。これは社長が毎日発生する製品不良で捨てているモノを減らす改善活動を通して、社員のモチベーションを高めたいとの思いから始めたことです。現場のリーダーが全員参加し現地・現物での定期的な活動をスタートしてから3年になりますが、不良は簡単には減りません。それでもそれぞれのリーダーがテーマを掲げ、対策に取り組むようになってきました。時間はかかりますがこのような活動が定着すれば、社員意識が向上し、今後1/10程の不良低減が見えてくるものと考えています。 社員一丸となって、改善することを継続し、それが風土となれば、働く人はやりがいと幸せを感じるようになるのではないでしょうか。 まとめ AI/IoTの有効活用が良く言われますが、継続的に改善が出来る自立した現場づくりを通して人が育ち、やりがいを感じ、少しでも幸せを感じるように、目的を明確にし、道具としてAI/IoTを活用する、そんな企業活動が基本と考えます。これからも学生と現場での人材育成に取り組んでいきます。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年6月7日号)掲載 profile 小塚 高史(こづか たかし)情報メカトロニクス学科教授 北見工業大学卒、トヨタ自動車株式会社明知工場製造部長を経て2015年より現職。トヨタ生産方式が専門。 関連リンク ・ものづくりマネジメント研究室(小塚研究室)・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】新しい機械加工の学び方

    5軸制御マシニングセンタの導入 昨年末、本学情報メカトロニクス学科に5軸制御マシニングセンタが、機械加工関連の実習用の機器として導入されました。5軸制御マシニングセンタとは、従来からある汎用の旋盤やフライス盤といった複数の工作機械の機能を1台に統合し、高度なIT技術で自動化された最新鋭のNC工作機械です。 類似のものに複合加工機がありますが、これらの出現により、これまでの工作機械では加工できなかった複雑な形状の製品が、容易に加工できるようになりました。今回、伝統的な技能と最新の技術を合わせ持つテクノロジストを育成する本学では、新しいモノの作り方を理解するために、5軸制御マシニングセンタは不可欠な要素であるという判断のもとでの導入となりました。 5軸制御マシニングセンタ 国内機械加工業界の現場では… 5軸制御マシニングセンタや複合加工機(以下、二つをまとめて5軸加工機)により、機械加工の現場は、さらなる自動化や省人化が可能になります。その優位性についての理解が進む欧州では、順調に販売実績を伸ばしていますが、日本国内では少々伸び悩んでいるのが実態です。 工作機械メーカーによる実機の貸し出しや、加工実績の紹介など、様々なキャンペーンが実施されてはいますが、国内機械加工業界全体に広がりを見せているとは、まだまだ言えません。これは高額な設備投資と、これらの新しい機械を使いこなすスキルを持つ人材が、圧倒的に不足していることが理由として挙げられます。 しかし、少子高齢化の影響による労働人口の減少は明らかで、すでに待ったなしの状況です。これに対応していくには、工程の自動化と省人化が絶対条件で、投資額や人材確保の問題を上回るものとなります。その答えのひとつとして、5軸加工機の導入があります。また、5軸加工機を用いての製造を前提とした製品や部品の設計がなされていないことも大きな要因と言えます。 これには、古くから国内産業の基盤を担ってきた、安定した生産体制を敷くためのノウハウの踏襲や、5軸加工機の強みを積極的に取り入れるなどといった、設計部門の十分な理解が得られていないことが考えられます。 教育現場の対応とこれから 一方で、我々のような教育機関での教育実績が少ないことも課題となっています。特に5軸加工機は、機械本体だけでなく、その周辺機器や加工プログラムを作成するアプリケーションは、高価なものが多く、これらを複数用意する必要があるため、費用面でも教育カリキュラムに組み込むことを困難にしています。 企業から学生へ5軸加工機のレクチャーを行う様子 そして何よりも、指導する教員のスキルアップも重要です。しかし、5軸加工機の販売実績が好調な欧州を中心とした海外では、これらの工作機械は機械加工の初学者が扱い、従来のものは、高度な技術や技能を持つ熟練者が扱うべきものという考え方があります。つまり、高度なIT技術により自動化された最新の工作機械は、誰でも扱いやすいので初学者向きであるということです。 この考え方には賛否両論あると思いますが、生まれた時からIT技術が身近にある若年層は、これまでのような汎用の工作機械からではなく、自動化が進んだ最新のものから学び始めるというのは、これからの機械加工の学び方に、我が国でもなるのかもしれません。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年4月5日号)掲載 profile 武雄 靖(たけお やすし)情報メカトロニクス学科教授 東京農工大学大学院工学府機械システム工学専攻(博士後期課程)修了。博士(工学)、MOT(技術経営修士)。専門は機械加工学、技術経営、技能伝承など。 関連リンク ・機械加工・技能伝承研究室(武雄研究室)・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】流動床インターフェースの応用研究

    流動床インターフェースの研究 砂のような固体粒子を入れた容器の底面から空気のような流体を上向きに適度に噴出させると、固体粒子は浮遊懸濁して液体のような流動性を示す。的場やすし客員教授と一緒に、流動化した砂の特性を活用した流動床インタフェースを構築し、産業・医療応用や洪水体験等新しいインタラクションシステムの可能性の研究を行っている。 砂面に投影するプロジェクションマッピング 映像を投影した流動床インターフェースに魚の模型を出し入れする様子 その中で、砂面を投影面としたプロジェクションマッピングに関する研究を進めている。砂面は、水面よりも鮮明な映像が投影できるので、ゲームを始めとしたエンターテインメントに適している。流動化の有無や強さの違い等を組み合わせたり、砂の色を変えることにより、新しいプロジェクションマッピングの可能性を検討している。例えば流動化した砂面で人体模型や臓器をかたどり、そこに正確な色の映像を投影する技術により、医療教育や術前カンファレンスなどでの可能性を検討している。また、触れられて投影面の中に手や物を出し入れすることのできるディスプレーが実現できるので、新しい応用の可能性が広がる。写真は、流動床インターフェースに映像を投影し、表面の池の部分から泳ぐ魚に見立てた魚の模型を出し入れしている様子である。 砂には色がついていて白色スクリーンとは異なる。また砂面は滑らかではなく、流動化しているときは表面を動的制御できる。さらに物の出し入れが行える。そこで砂面の反射特性や観察角度の変化に伴う明るさと色の変化、さらに砂面の深さ方向の変化に伴う明るさや色の変化等に対する色再現手法、および色彩制御技術の研究を進めている。これらは、卒業研究やインターンシップのテーマとして学生と一緒に行っている。 また、噴水のように水を連続して噴出させたところに映像を投影するディスプレーが開発されているが、水は反射率が低いので明るい場所では不向きである。これに対して、砂などを連続して噴出させることで、何もない所に突然鮮明な映像を出現させるようなディスプレーの研究も進めている。 防災訓練の応用と触感再生装置への可能性 その他に流動床現象の出現原理の解明を進めると共に、医療応用では、自力で姿勢を変えられない人のポジショニング用具や癒し用具の開発を埼玉県内の病院・企業と産学連携で実施している。さらに疑似体験型拡張現実(AR)と流動床インターフェースを活用して、視覚と身体で水害を感じる洪水体験システムへの検討を進め防災訓練に応用している。また色々な触感を実現する触感再生装置への可能性を検討している。 流動床インターフェースを活用した洪水体験の様子 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年2月2日号)掲載 profile 菅谷 諭(すがや さとし)情報メカトロニクス学科教授 博士(工学)。東北大学大学院修了、NEC、アリゾナ大学オプティカルサイエンスセンター、静岡理工科大学助教授を経て現職。専門はオプトメカトロニクス。 関連リンク ・研究実績WEBサイト(researchmap)・的場やすし客員教授Youtubeチャンネル・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】高校ロボコンで埼玉無双

    高校生ロボコンと学生ロボコン 全国高等学校ロボット競技大会をご存じでしょうか? 主に工業高校の生徒が、毎年違うお題に対してロボットを開発する競技大会です。さまざまな対象を運んだり置いたりが課題となる「キャリアロボット」というジャンルの競技です。 11月末に福井県で全国大会が開催され、埼玉県大会で1位・2位に入賞した進修館高校が埼玉県の代表校に選出されました。 一方で、ものつくり大学「ろぼこんプロジェクト」は、NHK学生ロボコン2023に出場を果たし、出場回数は14回を誇ります。 NHK学生ロボコン大会会場にて NHK学生ロボコンは全国の大学・高専が対象のロボット競技大会で、優勝するとABUロボコン(アジア地域のロボコン大会)の出場権を得られます。全て英語のルール発表が10月初旬。これを深く理解し、ロボットを設計・開発・実装します。2月末、4月末の2回の厳正なビデオ審査を経て、出場チーム数は20チーム前後に絞られます。大会は6月初旬に開催されます。 従って大会に出場を果たすだけでもかなり大変で、メンバーの学生たちは、ほぼ1年中ロボットの開発にいそしんでいます。実はメンバーの中には前述の全国高等学校ロボット競技大会に出場経験のある学生もいます。 高大連携でロボコン無双 これらの背景から、本学と進修館高校で高大連携事業の一環として、去年12月よりロボコン講習会を始めました。本学学生が高校生に自分の経験や知識を教えます。内容は表のとおり、メカ設計・加工・制御回路と、ロボコンに必要な機械・電子・情報の内容を網羅してあります。7回目まで実施済みで、今年度末までに残りの講習を行います。今年12月からこの連携に児玉高校も仲間入りします。 埼玉県内の高校ロボコンチームの参加を募集中です。この活動を通じて、埼玉県から出場の高校生チームが全国高等学校ロボット競技大会で無双することを夢見ています。 回数内容1設計とは?(機構学とモノの捉え方)23DCADを用いた設計33Dプリンタを用いた実習4~7全国高等学校ロボット競技大会出場マシンのお悩み相談会8マイコンを用いた制御回路(センサ・アクチュエータ・LED)9マイコンを用いたシリアル通信10マイコンを用いた無線通信11板金工作の設計12板金工作と実装講習の内容 埼玉新聞「知・技の創造」(2023年12月8日号)掲載 Profile 三井 実(みつい みのる)情報メカトロニクス学科教授  北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程修了。博士(情報科学)。専門はシステム開発、音響工学、電気電子工学。 関連リンク ・ヒューマンメディアラボ(三井研究室)WEBサイト・情報メカトロニクス学科WEBページ・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!① ~リーダー&操作担当者編~・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!② ~ピットクルー&大学院生編~

  • 【知・技の創造】化学実験用流体ブロック

    もっと手軽に化学実験を 化学実験と聞くと何を思い浮かべるだろうか。試験官、ビーカー、フラスコ、ピペット、秤、バーナーなどのような実験器具・機材であろうか。学校で行った化学実験は準備や後片付けに時間がかかったのを覚えている。先生はさらに時間をかけていたに違いない。もっと手軽に化学実験を行えるようにはできないか。化学変化はつねに身近で起きている。なにしろ人間自体が大規模で複雑な化学実験の舞台であるからだ。全身に張り巡らされた血管の中を血液が流れ、脳内では神経細胞がさまざまな物質を使って情報処理を行っている。流れを利用して化学実験を行い、さらに流路を自在に組み換えることができれば、いろいろな化学実験を簡単に行えるではないか。筆者が子供の頃、電子ブロックというものが販売されていた。親指大のプラスチックのブロックの中に抵抗、コンデンサ、コイル、トランジスタなどいろいろな電子部品が内蔵されていて、ブロックの側面は接続端子になっている。ブロックを並べ替えることで、基礎的な電気回路の実験からラジオのような応用的な回路を組むことができた。 流体ブロックの研究 リソグラフィ技術を使ってガラス基板にマイクロメートル幅の流路をつくり、極微量サンプルの科学分析を行う研究(Micro-TAS)は30年くらい前から行われ、多くの成果をあげている。しかしながら、部品の再利用を前提とし自由に組み換えて実験を行うというよりは、特定の目的のために設計・調整されたものが主流である。微細な流路のため層流となり溶液の混合でさえもひと手間かける必要がある。本研究室では、試験官やビーカーよりは小さく、Micro-TAS が扱う領域より大きなサイズ、すなわち数ミリメートルの流路幅をターゲットにしている。このサイズは、重力が支配的になる世界と表面張力が支配的になる世界の境界である。さらに条件によっては層流にも乱流にもなる。流体ブロックの材質は透明で薬剤耐性に優れた PDMS (ポリジメチルシロキサン)である。PDMS は自己吸着性があるのでブロック同士やガラス面などによく密着する。このため並べるだけで3次元の流体回路も簡単に組むことができる。3Dプリンタなどを用いて流路の樹脂型をつくり、PDMS が硬化した後、樹脂型を溶解させれば所望の流体ブロックができあがる。 写真は製作した流体ブロックの1例である。今後、流路中にヒーター、熱電対などの様々なパーツを組み込んだ流体ブロックを製作していく予定である。埼玉新聞「知・技の創造」(2023年10月6日号)掲載 Profile 堀内 勉(ほりうち・つとむ) 情報メカトロニクス学科教授早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。博士(理学)。日本電信電話株式会社研究所を経て2014年4月より現職。

  • 【知・技の創造】地域連携と高大連携

    2つのフラワーデザインアート ものつくり大学の最寄り駅である高崎線吹上駅の改札を出ると、コスモスなどの美しい花々でデザインされた柱が視線に入ります。北口案内には元荒川の桜並木、南口案内には水管橋、窓にはコウノトリや花などのデザインが描かれています。これらは、「地域連携」および「高大連携」の取り組みの一環として制作されたものです。ものつくり大学では、学生プロジェクト団体として「ものつくりデザイナーズプロジェクト」(以下、MDP)が登録されています。作品制作や学外展示、ヒーローショーを行うプロジェクトとしてデザイン活動をしています。2021年度に鴻巣市、観光協会からの依頼により「鴻巣駅自由通路フラワーデザインアートプロジェクト」として、鴻巣駅自由通路に作品を展示し、次に、2022年度「吹上駅自由通路フラワーデザインアートプロジェクト」を実施しました。2022年度のプロジェクトでは、鴻巣高等学校、鴻巣女子高等学校、吹上秋桜高等学校美術部の生徒さんが四季を通じた花やコウノトリ、桜、水管橋などを手書きおよびコンピューターグラフィックスにより作品を制作しました。それらの作品群を、本学のMDPメンバーがレイアウト構成をし、大きさや濃淡の調整を行いながら全体を完成させました。 吹上駅改札付近のフラワーデザインアートとMDPの内田颯さん(写真左)、松本拓樹さん(写真右) 高校の生徒さんには、授業やテスト、学校行事の忙しい合間を縫いながら、素敵な作品を制作してもらいました。生徒さんの提案で、窓をスライドし、2枚の窓を重ね合わせることで、デザインの見え方が変化するなどの工夫も凝らしています。さらに、朝と夜間では外光の差し込み方や照明灯の反射により、作品の輪郭が白く浮かび上がるなど、時間帯によっても窓のデザインについて異なる見え方が楽しむことができます。窓越しから視線をさらに運ぶと、青空や大きな雲が広がり、それらが窓に溶け込むことで、さながら窓自体が額縁のようにも感じられます。 「地域連携」と「高大連携」の成果 「駅の通路」という多くの方々が日常的に利用する空間に、これらの作品が末永く展示されることを嬉しく思います。MDPメンバーにとっても、やりがいのあるプロジェクトでした。プロジェクトを通じて、名所、史跡や地域を知ること、高校との協力による作品制作など、「地域連携」と「高大連携」の成果が正に統合されたものと感じています。吹上駅および鴻巣駅の近郊では、多くの名所、史跡および観光スポットがございます。散歩および観光の「出発点」として、吹上駅および鴻巣駅へお立ち寄りの際に、これらの作品についてもご覧いただき、楽しんでいただければ幸いです。埼玉新聞「知・技の創造」(2023年8月4日)掲載 Profile 松本 宏行(まつもと・ひろゆき) 情報メカトロニクス学科教授工学院大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。専門は機械力学、設計工学。 関連リンク ・フラワーデザインアートで駅利用者をHAPPYに!・ものつくりデザイナーズプロジェクト「MDP」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!② ~ピットクルー&大学院生編~

    NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、大会優勝を目標にロボット開発に必要な知識や技術を自主的に学び、ロボットを製作しているプロジェクトです。 NHK学生ロボコン2023(2023年6月4日開催)に、4年ぶりに出場し奨励賞を受賞しました。 8月8日に掲載した「リーダー&操作担当者編」に続き、ピットクルーを務めた杉山丈怜さん(総合機械学科3年、上記写真:左)、篠木優那さん(総合機械学科3年、上記写真:中左)、茂木柊斗さん(情報メカトロニクス学科2年、写真:右)と、大学院生で後輩たちをサポートした荒川龍聖さん(ものつくり学研究科1年、上記写真:左)にピットクルーの役割や試合を間近で見て感じた思いを伺いました。 ピットクルーの仕事 -リーダー・操作担当者へのインタビューでは高校生の時からロボコンに関わっているメンバーがいましたが、皆さんは?【杉山】高校生の時は関わっていないです。ロボコンを始めたきっかけは、リーダーの川村君に誘われて、大学に入って何をするか決めていなかったので、ちょうど良いなと思って入りました。やっているうちにロボットを製作するのが楽しくなってきて、今も続けています。【篠木】私も大学から始めました。元々、どの大学に進学するか検討している時に、以前ロボコンがテレビで放送された時にものつくり大学の名前を見たことを思い出しました。オープンキャンパスに参加して、ロボット製作の楽しさを知り本学に入学しました。【茂木】私は高校からロボコンに関わっています。【荒川】私もロボコンをやりたくて、ものつくり大学に入学しました。ロボコンの常連校は国立大学が多くて、私立大学でロボコンに出場している大学はあまり無いんです。ロボットを作るには100万円、200万円かかります。さらに、国立大学のロボコンチームは、毎年100人単位で入部するので、一回もロボットに触ることができない人もなかにはいます。なので、ロボットを自分の手で作りたいと思っている人には、私立大学は穴場だったりします。その中で私たちは、ロボットを完成させるための加工技術が優れている大学なので、その点が評価されているのかなと思います。レーザー加工機などは本学くらいしか使っていませんから、他大学に羨ましがられます。 -大会出場までに大変だったことや、ロボットの製作でこだわったことはありますか。【杉山】私はうさぎロボットの射出機構の設計と各機構同士の組み付けを担当しました。大変だったのは、うさぎロボットが例年のロボットに比べて小さかったため、寸法の限界値も小さく、その中に機構を収めることです。こだわった点は、リングを射出するために使うローラーを3Dプリンタやゴム等を使って自作したことです。足回りのタイヤ等も3Dプリンタとゴムチューブを組み合わせて自分たちで作りました。【篠木】私は象ロボットの制御を担当していました。象ロボットの射出機構の角度が変わらない設計でしたから、その分回転速度を変えることで同じ場所からでもリングの飛距離を変えられるようにするのに苦労しました。2次ビデオ審査を提出する前から練習を始めましたが、射出精度を高めるため大会ギリギリまで何度も数値を変えてリングを放っては修正を繰り返しました。 練習中に機体を確認する篠木さん(左) 【茂木】私は両ロボットの加工を担当しました。2次ビデオ審査に合格して、本格的にロボットを仕上げる時に、象ロボットの精度を向上させるためにリング回収機構と射出機構が全て変更になり、加工を間に合わせるのが大変でした。 -ピットクルーはテストランや試合の時はどんな事をしているのでしょうか。【杉山】うさぎロボットは、基本的に想定したとおりに動いていました。大会前日のテストランでは、射出の回転数の調整や操縦者がロボットとポールの位置を確認していました。大会当日は変更を加えて不具合が出ても困るので、回転数などは変えずに、ロボットのネジがしっかり締まっているかとか、パーツが消耗していないかを確認していました。試合中、うさぎロボットが会場の電波干渉の影響でコントロールが難しくなってしまいましたが、その場では解決できなかったので、電波の干渉があまり起きない距離まで操縦者がロボットに近づく等の対策を考えていました。【篠木】象ロボットはテストランの時点では数値や制御を変える必要も無く、上手くいっているなと思いました。他の大学ではテストラン中にロボットが暴走したり、試合中に機体が破損した大学もありましたが、私たちのロボットはそういったトラブルはありませんでした。うさぎロボットは、電波干渉で止まらなくなりましたが、ぶつかって破損することが無かったのは不幸中の幸いです。 試合前に整列するメンバー(左3人がピットクルー) フィールド外の物語 -試合中はどんな気持ちでピットにいましたか。【杉山】「頑張れ!」という気持ちで試合を見ていました。私は設計がしたくてロボコンに参加しているので、操縦は得意な人に任せて、自分はサポートに徹しました。私がロボコンを始めてから、大会で自分たちのロボットを実際に動かせたのは初めてで、その楽しさを実感しました。他大学のロボットを間近で見られたことも大きな財産ですね。【篠木】私たちピットクルーは、外から試合を見ることしかできないので、少し怖いというか心配しながら応援するしかありませんでした。何か自分にできることはないのかと歯がゆい気持ちもありました。当日まで出場する実感がなかったのですが、会場で他大学のロボットを見て、やっと憧れの大会に出ていることに感激しました。【茂木】試合中は、フィールドの3人に聞こえているかは分からないですけど、声援を送っていました。NHK学生ロボコンの出場は良い経験になったと思います。高校からロボコンに関わっていますが、やっぱりNHK学生ロボコンはレベルが違うと感じました。来年は私がロボットを操作して、チームを勝たせたいと思っています。1年生の時のF3RC(エフキューブロボットコンテスト)では操作をしていたので、自分の操作技術を上げてチームをカバーしたいと思います。 フィールド外で試合を見守るピットクルー -院生としてサポートに回った荒川さんはどんな気持ちで大会を見守っていましたか。【荒川】2019年のNHK学生ロボコンに出場して、もう一度NHK学生ロボコンに出たいと思っていましたが、叶いませんでした。後輩たちが出場しているのを目の当たりにしてくやしい気持ちもありましたが、純粋に頑張れと思っていました。ルール上、大学院生がロボット製作をサポートすることはできないのですが、1次ビデオ審査や2次ビデオ審査の振り返りの時はアドバイスをして、ミーティングには参加していました。 練習中にアドバイスをする荒川さん(左) -体育館で練習をしている後輩を見ていてどうでしたか。【荒川】このまま上手く行けば良いところまで行けそうだとは感じていました。でも、大会を見ていて、電波干渉とか、ロボットが動かなくなるとかそういった会場でのトラブルは経験の差が出てしまうと思いました。私たちが2019年に出場してから、しばらく途切れてしまったのが悪いよなって。連続して出場できていれば、電波干渉も過去に経験していたかもしれません。やっぱり、出場し続けることが大切なのだと感じました。 -荒川さんが出場した2019年大会と比べて、今回の大会で何か感じたことは。【荒川】メンバー全体で設計の質や効率化について考えることができるようになってきました。後は、メンバー同士のコミュニケーションが変わりました。良くも悪くも学年関係なしに仲が良いので助かっています。以前は先輩後輩を意識していた感じでしたが、今は先輩にも容赦なく意見が飛ぶようになりました。特にここにいる茂木君とかは(笑)。 優勝に必要なこと -ピットクルーの皆さんは大会で何か課題を感じましたか。【杉山】今回、うさぎロボットは2台の試作機を作りましたが、他大学は何種類も試作機を作って戦略や戦術に沿った機体や機構を作っていました。例えば、ひたすら早く動くことを戦略にした場合、それに一貫した設計ができるようになれば、勝てる機体が作れると思いました。私たちもスケジュール管理をしっかりして、どんどん試作機の設計を進めていかなければならないと感じています。後は、設計についてもっと勉強して、強度を確保した上でコンパクトな機構を考え、基盤のスペースをもっと確保できるようにしたいです。【篠木】他大学の制御は半自動で効率化された動きですが、本学は完全手動なので、自動化していかないと他大学に追いつけないと感じています。私はプログラムに特別詳しいわけではないので、とにかく勉強するしかありません。センサーについても他大学は性能の良いセンサーを使っています。ただ、性能は良くても処理する技術がないと実力を発揮できないので、そういった点が課題になっていくと思います。【茂木】私たちは大体のパーツを自分で作っていますが、もっと既製品を使っていく必要があると思います。既製品を使えば効率的だし、規格が決まっているので代用がきくというメリットがあります。今までは金銭不足や自分たちで作りたいというこだわりで自作してきました。自作パーツのメリットは、設計に合わせて既製品にはない寸法のパーツを作れるところです。歯車一つにしても既製品を買うのか、3Dプリンタで作るのか。ちょっとの寸法のズレで誤差が生じてしまいます。どちらも一長一短がありますが、そこをもっと考えていきたいです。【荒川】実は、技術継承という意味でも既製品を使った方が良くて、「買える」というのが強いんです。自分たちで作る場合、技術が継承されていなかったら作れなくなってしまうリスクがあります。それならば、自分たちで作れる物の他に変える部品を増やしていったほうが良いのかなと思います。それと、今は予算がちょっと増えて、買える物が増えたから気になるものをバンバン買って、来年に向けて色々試している状況です。 関連リンク ・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!① ~リーダー&操作担当者編~・NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」Webページ・情報メカトロニクス学科Webページ・学生ロボコンWebサイト

  • ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!① ~リーダー&操作担当者編~

    NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、大会優勝を目標にロボット開発に必要な知識や技術を自主的に学び、ロボットを製作しているプロジェクトです。 NHK学生ロボコン2023(2023年6月4日開催)に、4年ぶりに出場し奨励賞を受賞しました。 今回は、チームリーダーの川村迪隆さん(総合機械学科3年、上記写真:中)、ロボットを操縦した岡本恭治さん(総合機械学科4年、上記写真:右)と藤野楓土さん(情報メカトロニクス学科2年、上記写真:左)に、大会出場に懸けた思いやこれからの目標をインタビューしました。 NHK学生ロボコン2023の競技ルールなどは以下のリンクをご参照ください。 【NHK学生ロボコン2023ルール動画】 https://youtu.be/eEnqrpgW8jU Road to NHK学生ロボコン2023 -4年ぶりのNHK学生ロボコンでしたが、出場が決まった時はどんな気持ちでしたか。【岡本】2021年度、2022年度と挑戦してきました(2020年度は新型コロナの影響でオンライン開催)がどちらも本戦には出場できず、私にとって今年がラストイヤーでしたから、出場決定の報せをチームリーダーの川村君から受けたときは、純粋に嬉しかったです。 【川村】私は高校生ロボコンに関わって、全国大会にも出場経験がありました。全国大会でしか味わえない緊張感を大学生になっても経験したいと思っていました。私はリーダーとして、大会事務局からの出場決定の連絡が届くまで毎日メールをチェックしていました。出場決定の連絡を何度も何度も確認しました。念願の大会にやっと出場できることを確信して感無量になりました。それからは、メンバー全員で出るからには結果を残そうという思いで頑張りました。 【藤野】私は中学・高校とロボコンに関わっています。なので、大学生になったらNHK学生ロボコンに出場することを目標として、大学を受験しました。本戦出場が決まった時は寮の自室でくつろいでいたのですが、メールを見た瞬間「え?マジ?よっしゃー!」って叫んでいました。そこでスイッチが入り、大会までに何をするか、どこを改善するか問題点を洗い出していました。高校生の時にロボットアメリカンフットボール大会の全国出場権があったのですが、残念ながらコロナ禍で大会が中止になりました。このまま終わってたまるかと、初めての全国大会で晴れの舞台だし、全力でいこうと意気込みました。 -本戦出場が決定するまでに苦労したことはありますか。【岡本】私は象ロボットの設計を担当しました。印象に残っているのは2次審査のビデオ提出締め切り前夜に、射出機構の角度を変更したことです。それまでは、射出口に対してリングを直角に送り出していたのですが、リングの射出距離が安定していませんでした。改善策をずっと考えていて、締め切り直前に角度を無くして水平にリングを送ってみたら、距離の差異が無くなりました。締め切り直前でCADの設計は間に合わないから、現場合わせでやることになるけど変更するか?というギリギリの選択でした。結局、ビデオの撮り直しはせずに、2次審査に通ることを前提にして作業を進めておき、2次審査が通ったらすぐに対応できるようにしていました。 【川村】個人的に大変だったのはビデオ審査の動画編集です。1次審査、2次審査とも私が編集を担当しましたが、今まで動画の編集をしたことが無かったので手探りで進めました。1次、2次とも5分の動画で、1次ではどういう機構を使うのかを紹介。2次では、ロボットの動きを見せて、1次からの変更点を紹介しました。自分たちのロボットを良く見せるためにどうやって撮影するか、編集はどうするかなど、他大学のYouTube動画などを研究しました。2本のビデオ制作にかかった時間は撮影・編集を含めて18時間ほどです。 【藤野】私は、うさぎロボットの制御や基盤をほとんど一人で担当していました。センサーで読み取って射出機構の回転速度を一定にさせるプログラムを急きょ導入しましたが、しっかりした制御システムが成り立っていない状況でプログラムを打ち込んでいたため、練習コートで調整しようとしてもなかなか上手くいかなくて苦労しました。リングを飛ばすローラーが、目標の回転数に到達するまでの時間を短縮させるため色々と手を尽くしましたが、私だけの知識ではなかなかできないこともありました。テストでは動いていたのに、ロボットに搭載したらセンサーの取り付け位置が変わって上手くいかないこともありましたし、ローラーなどの部品を付けて負荷がかかるとテストの時と変わってしまってセンサーが全く計算してくれないこともありました。大会直前まで何度も調整を繰り返していました。 練習中、動作を確認する藤野さん 予選リーグ第1試合 VS大阪工業大学-予期せぬトラブルの連続 【川村】1試合目は、象ロボットがまず手前のポールにリングを入れて、次にセンターエリアの手前の2本を狙い、最後に中心の1本を狙う予定でした。その間に、うさぎロボットがセンターエリアの奥の2本を狙う作戦でした。 今大会のフィールド ですが、象ロボットのリングが詰まってしまい、思うようにいきませんでした。練習では安定して動いていて、大会前日のテストランも問題は無かったのですが、いざ本番になると会場の雰囲気にロボット達も呑まれたみたいで、練習どおりに動かず焦ってしまいました。象ロボットが何発か放った後に詰まってしまい、さらに動かなくなってしまったのは致命的でした。 【岡本】リングが詰まった時はどうしようかと思いましたけど、リトライして再装填すれば数発は放てたので、いかに少ない発射数でポールに入れるかということだけを考えていました。 【藤野】うさぎロボットは会場の電波干渉の影響でコントローラーの電波がロボットに届かなくなり、ロボットが止まらなくなってしまった時は「なぜ⁉」って思いました。直感でコントローラーの電波が届いていないのかと思って、ロボットに近づいたら少しは操作できるようになりましたが、根本的な解決方法が無くて思うように操作できませんでした。 予選リーグ第2試合 VS長岡技術科学大学-今大会随一の大接戦 【岡本】長岡技術科学大学のロボットはリングの連射性能が凄かったので、これはもう「チェイヨ―(8つのポールの得点を全て獲得した状態)」されるかもしれないと思ったので、1試合目とは作戦を変え、相手にチェイヨ―させない戦略に基づいてセンターエリアのポールから狙いました。最後の最後で逆転されてしまいましたが、割と上手くいっていたと思います。 残り数秒まで大接戦だった第2試合 【川村】私は岡本さんの側で象ロボットが狙うポールの指示を出していて、藤野君には、象ロボットが狙っているポールとは別のポールを狙うよう指示していました。割と落ち着いて指示を出せていたと思いますが、会場の歓声で指示が伝わらないこともありました。これは来年度に向けての反省点です。 残り時間を確認しながら指示を出す川村さん(左) 【藤野】電波干渉の問題は2試合目も対策ができず、少しでもロボットに近づいて電波が届くようにするしかありませんでした。練習で想定していなかったトラブルが起きて、事前に考えていた作戦もできずパニックになってしまいました。 これからも優勝を目指して-We love スポ根 -練習の時、川村さんの楽しそうな表情。そして、予選で敗退した時の悔しそうな表情が印象的でした。リーダーとしての意気込みはどうでしたか。【川村】練習は、皆が楽しくできる環境にしたいと思っていました。高校生の時にロボットの操作を担当していて、嫌々やるより楽しくやった方がチームとして相乗効果があったので、今回も「楽しく練習する」をモットーにしていました。後は、メンバーが一人で抱え込まないようにコミュニケーションを取ることを心がけていました。本戦では、長岡技術科学大学が1試合目で勝っていたので、勝てれば1勝1敗で並び、予選突破の可能性が出てくるので何としてでも勝ちたいと思っていました。ところが、残り数秒で負けてしまい、他大学との実力の差を目の当たりにしました。負けず嫌いな性格も相まって悔しさが表情に出てしまいましたね。 体育館での練習の様子 -藤野さんはF3RC(エフキューブロボットコンテスト)優勝のメンバーですが、何か違いを感じましたか。【藤野】まず、観客が多くて会場の雰囲気がF3RCとは全く違っていました。競技は点の取り合いになる試合形式なので、相手からのプレッシャーが凄いです。また、ロボットのレベルが全然違っていました。NHK学生ロボコンは投てき競技が多いのですが、F3RCは投げることはあまり無いので考え方を大きく変える必要がありました。F3RCでやった事と同じやり方では太刀打ちできないことを実感しました。中学生の頃からロボットを作り続けていますが、大会に出る度に段々と難易度が上がり、アイデアの出し方や違う考え方がある事を思い知らされています。2年生のうちに本戦を体験することができて、いろいろな課題を見つけられました。残りの2年間は課題解決に全力を注ぎたいです。 -岡本さんは学生生活最後の年につかんだ出場でしたが、どのような思いで大会に臨みましたか。【岡本】4年生にして初めて出場できたので「あぁ、やっとか」という思いでした。1年生の時は新型コロナがまん延し始めた時で、ロボコンプロジェクトに参加できたのは夏からでした。NHK学生ロボコンもプレゼン形式のオンライン開催でした。2年生の時は無観客で開催されましたが、出場校が通常時より絞られていて私たちは本戦には出場できませんでした。3年生の時は2次ビデオ審査で落ちてしまいました。今大会では、ロボットの性能を最大限活かした操縦を心がけました。設計者だからこそ、特性の理解から特長を活かしつつ、短所も補いながら操縦することを念頭に置いて挑みました。後は、大会を少しでも盛り上げられるようにと思っていました。チーム紹介のビデオに出演しているのですが、顧問の三井先生がストーリーを考えて、私がロボットにされました(笑)。撮影の時は川村君と先輩がいたのですが、何回もダメ出しされて、階段を落ちるシーンは先輩の演技指導を受けながら10テイクくらい撮りました。 https://www.youtube.com/watch?v=IeIpz_GShx4 NHK学生ロボコン2023 チーム紹介動画 -今回出場して得られたものは。【岡本】技術面で言えば、他大学のロボットを間近で観れたことです。他大学は独立ステアリングを用いていて、足回りが強化されていたので、私たちも導入しようと取り組み始めました。独立ステアリングは、操舵と駆動を別々のモーターで制御して、進行方向にタイヤの向きを揃えることができ、タイヤの駆動力すべてを移動に費やせるため高速移動が可能になります。試合の仕方では、他大学は迷わずリトライをしていたのが印象的でした。私たちは4年ぶりの出場で経験者が少なかったのでリトライをした方が良い状況でも、もう一機のロボットが動いていたらリトライを躊躇して行動が遅れることがありましたね。 【川村】大会の雰囲気を感じて、場慣れできたことが大きいです。前回出場したのが4年前で、大会の進行が分からず、他大学の人に「どうしたらいいんですか」とか質問して右往左往していましたが、今回出場したことで後輩たちに伝えていけます。また、SNSで他大学同士が交流している様子を見て、私たちも技術を向上させるためにもっと交流会に参加しないといけないと思うようになりました。これまで、他大学主催の交流会に参加させてもらっていましたが、今後は私たち主催の交流会を開催したいです。 【藤野】過去のNHK学生ロボコンや高専ロボコンの映像を結構見てきましたが、他大学のロボットを直に見て、もう今までとは違うレベルに進んでいることが身に染みて分かりました、今の自分たちの技術を使いまわしているだけでは駄目だなと。新しい事に挑戦しないと今使っている技術もいずれ古くなり、他大学との差がさらに開いてしまいます。これから私たちが勝つためには、他大学の先を行く考え方や技術が必要です。 -優勝を目指すために変えていきたいところは。【川村】アイデアをしっかり再現できるように技術力を向上させていきたいです。今はインターネットから色々な情報を得られる時代ですから、情報収集をして、アイデアどおりに加工できる技術を身に付けていきたいと思っています。 【藤野】設計、加工、制御の3つの班のうち、私が所属する制御班の強化が必要だと思っています。制御班は人が少ない上に、技術が進化し、覚えなくてはいけないことが莫大になってきています。センサーの扱い方やプログラムの仕方も以前より複雑になっていて、プログラミングの経験が無い人が学ぶには範囲が広すぎる状況になっています。だから、初心者にも分かりやすく教えて、後輩を育てたいです。また、今までのプログラムのデータを再利用できるようにマニュアルを残していきたいです。 【岡本】資料をしっかり残すことです。プログラミングも設計も、ちゃんと動くシステムや機構をデータとして残しておけば、後輩も「このデータを使えば絶対に動くんだ」と安心して設計できます。そうすればもっと精度の高いロボットを作れるようになっていきます。これからも私たちはNHK学生ロボコン優勝を目指して活動を続けます。ものつくり大学に入学したら、ぜひロボコンプロジェクトに参加してください! 関連リンク ・ロボコンはスポコンだ!優勝目指してひた走れ!② ~ピットクルー&大学院生編~・NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ・学生ロボコンWEBサイト

  • フラワーデザインアートで駅利用者をHAPPYに!

    デザインフェスタ等への展示製作活動を行っている、ものつくりデザイナーズプロジェクト「MDP」は、鴻巣市と鴻巣市観光協会から依頼を受け、地域の魅力発信を目的にしたフラワーデザインアートを制作しました。 2021年度は鴻巣高校、鴻巣女子高校の美術部と協力してJR高崎線鴻巣駅に制作し、2022年度は吹上秋桜高校の美術部も加わり、JR高崎線吹上駅に制作しました。作品は現在も両駅舎を彩っています。 吹上駅のフラワーデザインアートを制作した当時、リーダーだった松本拓樹さん(総合機械学科4年、上記写真右)と、新リーダーの内田颯さん(情報メカトロニクス学科2年、上記写真左)に作品制作について伺いました。 フラワーデザインアートについて 【内田】私たちが手がけるフラワーデザインアートを町おこしの一助にしたいというのが一番の思いでした。そして、鴻巣、吹上の代表的な花や、コウノトリなどを取り入れて華やかにしたい。そういう思いを作品に込めました。吹上駅の作品は、吹上の代表的な花であるコスモスをふんだんに取り入れました。北口、南口の欄間に飾った作品にはその出口にある象徴的な風景を取り入れて、パッと見て方角が分かるように意識しました。北口には元荒川の桜並木を、南口には荒川に架かる水管橋をデザインしています。 【松本】関係者全体の会議で、以前の吹上駅は「北口」「南口」の表示が見づらかったので、大きく表示したいという意見から、北口、南口にある風景を絵にすれば直感的に分かりやすくなるのではという意見が出てデザインが決まっていきました。 デザイン検討の打合せ   南口の欄間に飾られている作品   北口の欄間に飾られている作品 制作過程について 【松本】私たちMDPは、ディレクターとして高校生たちが描いた絵をまとめていきました。一昨年の鴻巣駅の時は、高校の美術部にはレイアウトまでは考えてもらっていませんでした。今回の吹上駅は吹上秋桜高校も加わったこともあり、北口と南口に飾る絵については、各高校からどんな雰囲気で作りたいのか分かるように、ある程度のレイアウト案を考えてもらいました。その上で、3校の美術部には、自由に絵を描いてくださいとお願いしました。 【内田】高校生が紙に描いた絵を一枚一枚、私たちがスキャンしてデータ化しました。白地に描かれている背景を透過して、描かれた花をコピーして反転させたりして、見ていて飽きないように配慮しながらレイアウトしていきました。北口の桜についても、一枚の絵からピンクや白で濃淡をつけてランダムに配置しています。単調にならないように加工したのが特に苦労したところです。 【松本】北口の絵は、高校生から提案されたレイアウトが想定より小さかったんです。そのままでは、絵がスペースの半分もいかないくらいで終わってしまうので、不自然にならない程度に引き伸ばしました。空白を埋めるために桜を多くしたり、最初のレイアウトには無かった灰色のグラデーションを加えたりして整えました。改札を出て左手の柱に飾った作品は、3校に描いてもらった花を私たちでレイアウトしました。この作品は作業量が多く、特に大変でした。四季をイメージして柱を飾るということは決まっていましたが、柱が細いのでどうやって四季を並べるか苦心しました。4面を1面ずつ四季にして並べる案などが出ましたが、最終的に螺旋で四季が流れていくようなデザインになりました。下の方は春をイメージしてパンジーを並べ、真ん中あたりは夏をイメージして向日葵を配置しています。柱に貼る時は、一面全部に絵を描いた状態で柱に巻くことになっていたので、両側の絵が揃うように処理をしています。   改札付近の柱の作品 【内田】窓に貼ったイラストは、当初はステンドグラス風にする予定でしたが、それでは光が遮られてしまい、駅構内が暗くなってしまうため実現できませんでした。イラストの線が細すぎると目立たないし、色をつけると光を遮ってしまうし、折り合いをつけるのに苦労しました。最終的には色の無い線画に落ち着きましたが、できれば色をつけたかったなと思います。普段のプロジェクトの活動であれば、発想を広げることを重視して好きなように作れますが、今回のように公共の場に飾る作品となると様々な制約があることが分かり勉強になりました。       鴻巣女子高校の作品     鴻巣高校の作品     吹上秋桜高校の作品 【内田】今回、作業量が多かったのですが、前例があるというのは非常に助かりました。絵をスキャンしてデータに取り込む方法などは先輩が資料として残してくれていたから作業を効率的に進めることができました。作業は手順どおりにやればできたのですが、鴻巣駅より作業量が多かったため、その作業を一つひとつ終わらせていくことが大変でした。 【松本】鴻巣駅の作品は自由通路の両側に作品を展示していて、一枚の絵を分割して作りました。しかし、吹上駅では絵を3枚制作し、窓に貼るシールの制作もあり、複数の作業になりました。さらに、制作時期が高校の文化祭や私たちの碧蓮祭と重なっていました。高校生も私たちも文化祭で展示する作品の制作もあったので、フラワーデザインアートの制作スケジュールが圧迫されていました。高校生は期末テストもあり、その時期は打合せに参加できない高校生もいたから、意見をまとめたくても思うようにいかないことがありました。   鴻巣駅自由通路に飾られている作品①   鴻巣駅自由通路に飾られている作品② フラワーデザインアートの見どころ 【内田】やっぱり、改札付近の柱の作品です。春夏秋冬をできる限り表現して、どの方向から見ても楽しめるようにレイアウトを考えたので、一周ぐるりと回って見ていただきたいです。この柱は3校が描いた絵でできています。絵のタッチが花によって違っていますが統一感を出せたと思います。それから、欄間に描かれている水管橋や元荒川の桜は、その方向に降りれば現物がありますから、ぜひ見に行っていただきたいです。 【松本】実は、北口の絵にものつくり大学を描くという案もありましたが、コンセプトがフラワーデザインアートだっため人工物より花をたくさん入れたいということもあり、ボツになりました。 【内田】制作中は、見ていて飽きない作品にするということを大切にしていました。町おこしとして協力させていただいているので、デザインに偏りが出ないようにすることも気をつけていました。現場では制約が多く、最初の構想と変わってしまい、断念したこともあるので、もっと華やかにできたという思いはあります。その中で、最善策を探して調整しなくてはならないということが分かりました。きっと、社会に出ても同じようなことは多々あると思いますが一足先に学べました。 【松本】大学でも授業やプロジェクトの活動で展示作品を作りますが、公共の場に展示され、なおかつ大規模な作品の制作に携わったことはありませんでしたから、すごい経験をさせていただいたと思います。それに、MDPだけではなく、鴻巣市の方々や高校生が関わっていて、スケジュールが厳しい中で無事に完成させることができ、リーダーとして安心しました。 【内田】私たちの通常の活動は、個人の自主的な活動が多いので、人をまとめて作業を進めるのは大変でした。だからこそ、プロジェクトとして一丸となって一つの大きな作品を作るというのは新鮮でしたし、皆でものを作る大切さを感じました。学内で限られた人だけに見られる作品と、不特定多数の人の目に触れる作品では達成感が違いました。両駅を利用している市民の方々に少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。フラワーデザインアートは鴻巣駅と吹上駅の2か所で終わってしまいましたが、リーダーを引き継いだ今、共通目標が無くなってしまったので、皆が団結できるようなものを作れないか模索しているところです。目標があると達成するための意志というか、やる気が湧いてくるから、それでプロジェクトが活発になると良いなと思っています。 関連リンク   ・ものつくりデザイナーズプロジェクト「MDP」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【Fゼミ】私の仕事 #2--私が在籍してきた企業におけるマーケティング

    1年次のFゼミは、新入生が大学生活を円滑に進められるように、基本的心構えや、ものづくりを担う人材としての基礎的素養を修得する授業です。このFゼミにおいて各界で活躍するプロフェッショナルを招へいし、「現場に宿る教養」とその迫力を体感し、自身の生き方やキャリアに役立ててもらうことを目的として、プロゼミ(プロフェッショナル・ゼミ)を実施しました。今回は、外資系企業を中心に7社の在籍経験があり、約23年にわたってマーケティングに従事している平賀敦巳氏を講師に迎えたプロゼミの内容をお届けします。 マーケティングとは何か 本日の話の流れとして、まず初めに、「マーケティング」とは何を意味する言葉なのかを説明して、全体像をつかみ、その上で「マーケティング」に含まれる具体的な仕事の種類を説明します。そして、より個別具体的に、私が在籍してきた企業でどんな仕事に実際に取り組んで来たのか、事例を紹介しながら説明します。 現在、担当している商品、当日学生に配布された まず、大家と言われる3名の方が、「マーケティング」をどのように定義しているか?ハーバード大学教授のレビットは、マーケティングとは「顧客の創造」だと言いました。「マーケティングの父」の異名をとるコトラーは、「個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセス」という、大変緻密な定義を行っています。そして、有名な経営学者であるドラッカーは、マーケティングとは「セリング(販売)を不要にすること」だと語りました。では、私は、マーケティングをどのように定義しているか。二つの○と、それを結び付ける両向きの矢印を使って、図で説明をすると分かりやすいのです。片方の○は、生活していく中で様々な課題なり欲求を抱える消費者、生活者。もう片方の○は、そういった課題を解決し、欲求を満たすリソースを持つ事業者。これら二つの○を結び付けてあげると、そこに取引が生まれ、市場が生まれます。この、市場をつくるために両者を結び付けてあげることがマーケティングなのですね。 MarketingというのはMarketにingが付いていることから分かる通り、「Marketすること」という意味。要は、「市場を作ること」がマーケティング、市場をつくり、より大きくするために、色々な働きかけることが全てマーケティング活動と言えます。こう定義すると、マーケティングというのはとても広い概念で、ほぼ「経営」と同じ意味合いになります。とはいえ、経営活動の中には、人事、経理・財務、IT等々、確かにマーケティングとは言いにくいものも含まれるので、私は以下のように整理しています。経営=直接お客様に働きかけて市場を作る広義のマーケティング+間接業務広義のマーケティング=狭義のマーケティング+セリングコトラーは、このマーケティングの全体像を、「R-STP-MM-I-Cモデル」という枠組みで整理しました。R=Research(リサーチ・調査や情報収集)STP=Segmentation(セグメンテーション・市場を分類すること)、Targeting(ターゲティング・お客様を絞ること)、Positioning(ポジショニング・お客様の頭の中での居場所、位置付けを決めること)、これらの頭文字で、マーケティングの戦略部分。MM=Marketing Mixの略でいわゆる「4P」と言われるものと同じ意味。4Pとは、Product(商品)、Price(価格)、Place(販路)、Promotion(販促)の4つのPから始まる要素を指し、マーケティングの戦術部分。I=Implementation(実行)の頭文字。頭の中で考えた戦略や戦術は、実際に実行に移されないことには現実が変化しないので、実行はとても大切です。C=Control(改善)の頭文字。俗にいう「PDCA」。実行したら必ず結果を評価して、上手くいった点は維持し、上手くいかなかったことは改善する。そのプロセスを繰り返すことが重要です。 「お客様」を知ること ビジネスをする場合、通常何らかの目的を持って始めます。その目的を達成するために、様々な商品を取り扱い、その商品を市場で売れるようにするために、先程の「R-STP-MM-I-Cモデル」に沿って、戦略を考え、戦術を練り、それらを実行に移していきます。マーケティング戦略を考える上では、まず何よりも先に、市場の一方当事者である「お客様」を知ることが重要です。お客様は、何かしらモノを買うまでに、様々な段階を経て意思決定しますが、この時の心の流れを「パーチェスファネル」などと呼びます。ファネルとは、漏斗(じょうご/ろうと)で、必ず上が広く、下に行くに従って細くなります。基本的に、認知、興味、行動、比較、購入という段階を踏んで、ようやくモノを買ってくれることになるわけで、段階を進むごとに離脱する人も出て来るため、必ず下へ行くほど細い。このパーチェスファネルを、出来るだけ横に広げていくことで、市場がつくられ、大きくなる。また、下の方をより太らせて逆三角形から台形に近付けていくことで、更に市場が大きくなる。なので、各段階の間口を広げること、そして次の段階へと進む確率を上げること、それを実現することがマーケティングの仕事のイメージとなります。お客様が持っている顕在ニーズと潜在ニーズ(ホンネ)を、質的調査(ヒアリングや観察)や量的調査(アンケート、データ分析)を通じて調べ上げたら、そのニーズを満たすことを考えなければなりません。そのために、「コンセプト」を練り上げます。コンセプトの要素は、よくABCで整理されます。A:Audience・お客様B:Benefit・便益、嬉しさC:Compelling Reason Why・お客様がその嬉しさを得られると信じるに足る理由お客様に選ばれる商品をつくるには、Aの誰を相手にするのか、Bの相手が喜んでくれそうな何を提供するのか、そしてCのそれがいかに良い商品だと分かるような根拠をどうやって伝えるか、これらABCをワンセットで提供しなくてはなりません。3つ目の、お客様に提供する「根拠」については、3つの「差別化軸」(①手軽軸、②品質軸、③密着軸)を活用します。 私が在籍してきた企業の具体例 ①女性用カミソリのポジショニング圧倒的なシェアを持っていた競合の商品が、ハッキリとしたポジショニングを持っていない点に気付き、消費者のニーズに基づいた明確なポジショニングで「挟み込み」を行った結果、多くの売場を獲得し、シェアの逆転につなげることができました。②商品をラッピングしてギフト化し、価値を高めて価格を上げる一つだと安価なキャンディを、沢山集めてお花のブーケのようなラッピング仕立てにすることで、単価を上げて発売しています。キャンディだけで比較すると割高ですが、ギフトとしての価値を創り出すことで多くの方に買い求めていただいています。 ③商品カテゴリによるコスト構造の違いと値付け化粧品や日用雑貨で様々な商品を扱ってきた中で、売価と原価の関係はカテゴリによってバラバラであることを見て来ました。より多くの粗利を稼げるカテゴリでは、その粗利を原資にして、広告や販促を展開し、逆に粗利が低いカテゴリでは、ギリギリ安値でとにかく数をさばくというやり方になっています。④小売店のバイヤーとの「棚割」商談における資料作成小売店では半年に一度、「棚割」といって棚に並べる商品の入れ替えを実施しています。消費者に商品を買ってもらう機会を確保するために、棚割で自分のところの商品がなぜ必要なのか、ロジックを組み立て、説得を試みます。⑤TVCM制作広告代理店に依頼をして、誰にどんなメッセージを伝えたいのかを説明し、目的に応じたクリエイティブを制作してきました。⑥店頭販促消費者は、「期間限定」だったり「お買い得」といったメッセージ、見た目に反応することが多いので、店頭でより多くの人に、より頻度高く買っていただくための工夫を様々に行ってきました。⑦DMを用いた店頭への集客化粧品会社で、愛用顧客の方に再び店頭へと足を運んでもらうために、凝りに凝ったDMを送付していました。頻繁に新商品を出し、常に店頭を新鮮に保って、DMによる集客でにぎわいを創り出していました。 Profile 平賀 敦巳(ひらが・あつみ) 1972年東京都出身、横浜市在住1996年慶應義塾大学大学院法学研究科修了(法学修士)外資系企業を中心に7社の在籍経験。27年強のキャリアのうち、約23年マーケティングに一貫して従事。これまでに取り扱ってきた商品は、主に日用雑貨と化粧品を中心に、洗剤や家庭紙(トイレットペーパーやティッシュペーパーなど)、スキンケアやヘアケアやボディケア、カミソリ、香水、キャンドル、保険などが挙げられる。マーケティング戦略の立案から、商品・コンセプトの調査や開発、値決め、チャネル開拓、広告宣伝・PR、販売促進に至るまで、幅広い経験を積んで来た。現在は、ベルフェッティ・ヴァン・メレ・ジャパン・サービス株式会社に勤務、カテゴリーマネージャーとしてメントスとチュッパチャップスの二つのブランドを管掌。 関連リンク 【Fゼミ】私の仕事 #1--デジタルマーケティングとオンライン販売 基礎・実践 【Fゼミ】私の仕事 #3--自分を活かす 人を活かす 【Fゼミ】私の仕事 #4--歌手としての歩みとライフワーク 原稿井坂 康志(いさか・やすし)ものつくり大学教養教育センター教授

  • でっかいロケットを作りたい-1年生ながらリーダーとして種子島ロケットコンテストで優勝!-

    宇宙開発研究プロジェクト「MAXS」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、ロケットの構造や制御、整備、運用体制を学生が主体となって学んでいるプロジェクトです。 第19回種子島ロケットコンテスト(2023年3月2日~3月5日開催)に、6チームが参加し、ロケット部門の種目3「高度※」で優勝、種目2「ペイロード有翼滞空※」でベストデザイン賞(川崎重工賞)を受賞しました。 「高度」で優勝した機体「KYLEEROCKET-Ⅱ」をチームの中心となって製作したのは、ボートライト 海里さん(情報メカトロニクス学科2年)です。機体製作で工夫したことや初めてロケットコンテストに出場した印象などを伺いました。 最後にはロケット打ち上げの様子を動画で見ることができます。そちらもぜひご覧ください。 幼い頃のワクワクが蘇ってロケット製作へ 工業高校に通っていて、高校生の時から親にものつくり大学を勧められていました。大学進学はあまり考えていませんでしたが、宇宙開発研究プロジェクト(以下、宇宙研)というロケットを作っているプロジェクトがある事を聞きました。その時、幼い頃の記憶がふと蘇ってきました。当時の私はアメリカに住んでいて、広い平野の一角で、父が趣味で全長1mくらいの小さなロケットを打ち上げていました。その光景を見て「ロケットって楽しそうだな」と思っていました。親から勧められた進学でしたが、ロケット目当てに入学し、宇宙研に参加しました。 高校生の時は電子の勉強をしていて、CADは苦手でしたが、ロケットを設計するようになってからは苦手意識がなくなりました。宇宙研は1年生教育がしっかりしていて、入ってすぐにCADの勉強をさせてもらえます。特に、ロケットのトップの部分などは、SOLIDWORKSという3DCADソフトで作ります。CADだけではなく、ロケットの翼の部分はレーザー加工機でバルサ材から切り出して作っています。 種子島ロケットコンテストについて 種子島ロケットコンテストは、小型のモデルロケットを打ち上げる大会です。競技はロケット部門とCanSat部門に分かれています。私はロケット部門の4種目(「滞空・定点回収」、「ペイロード有翼滞空」、「高度」、「インテリジェント」)のうちの1つ「高度」に出場して、優勝することができました。この種目は、大会が支給する高度測定装置をロケットに搭載して、どれだけ高く飛ばせたかを競います。 競技のルールとして、打ち上げた後に機体からパラシュートが開かなかった場合や、落下途中に機体が分離してしまうと失格になります。また、射点から半径400m以内に落下しなかった場合も失格です。それから、高度ロケットは高度計や位置情報を把握するビーコンをロケットの先端に収納するのですが、落下した衝撃で中の機材が壊れたら失格になる可能性もあります。だから、他の部門のロケットに比べて頑丈に作る必要があります。 競技以外にも技術発表会があり、3分という限られた時間の中で機体のプレゼンテーションをします。その後、実行委員から技術面について質問を受けます。技術発表会は大会の結果にも影響があります。晴天であれば、ロケットを打ち上げた結果で順位が決まりますが、雨で競技が中止になってしまった時はこのプレゼンテーションで決まります。だから、必死です。 宇宙研から出場した機体たち(最奥が「KYLEEROCKET-Ⅱ」) 優勝よりも記録を狙った機体づくり 初期デザインや設計計画書の作成は2022年度卒業の先輩に手伝ってもらいましたが、その他はほぼ一人で作りました。他にもチームメイトはいたのですが、他のプロジェクトが忙しかったり、アルバイトが忙しかったりしてなかなか来れなくて。だから、機体名も自分の名前から取って「KYLEEROCKET-Ⅱ」と名付けました(笑)。コンテストの前の試し打ちや機体の改良、技術発表会のプレゼンテーション資料の作成などもほとんど一人でやりました。機体の改良は先輩が残してくれた初期設計を元にして、自分で設計しながら作り上げていきました。 ロケットは打ち上げた後、落下時にバックファイアが開くのですが、初期デザインではチューブの細いところから出る設計でした。試し打ちした時は、展開せずに自由落下して壊れてしまったり、そのまま飛んでいって機体を無くしてしまったりしました。コンテストが迫ってくる中で、このままではいけないと思い、もっとチューブが太くなっている位置からバックファイアを出るようにデザインし直したら、上手く開くようになりました。 改良後の機体 また、機体の強度を上げるために、尾翼のバルサ材を硬化樹脂でコーティングして、落ちても割れないようにしました。他の部分にも硬化されたガラス繊維を使って、軽くて硬い機体を製作しました。それから、フィンの形状も工夫しています。ロケットのシミュレーションが可能な「オープンロケット」というアプリで、遊び心でデザインしてみたら今までで一番高く飛ぶという結果が出ました。たまたまだったのですが、よく考えてみると、先端の方が急な角度になっていて打ち上げた際に空気抵抗を受けにくいデザインになっていました。 今回の機体は、シミュレーション上は319mの高さまで飛びます。大会では280mくらいの高さでした。過去に優勝した機体は500m近くまで飛んだ機体もあって、今回の大会でも私の機体より高く飛んだ機体もひょっとしたらあったのかもしれません。しかし、他のチームは高く飛んでも機体が壊れてしまったり、強風に煽られて紛失したりして失格になってしまったチームも少なからずありました。その結果、私の機体が優勝ということになりました。初めての大会ですから、優勝を狙うよりも記録を残そうと思って頑丈に作っていましたが、それが結果として優勝につながりました。だから、優勝するためには高さをだすことも重要ですが強度のある設計も必要です。優勝した後も機体の改良を続けていて、5月に開かれるプロジェクト内の部内戦でその機体を打ち上げたいと思っています。 初めて大会に出場してみて 初めてロケットの大会に出場しましたが、めちゃくちゃ楽しかったです。競技の他にワークショップという、自分の機体を他の参加者にアピールできる時間があり、その時に私のロケットに興味を持ってくれた人が何人かいました。競技の時も話しかけてもらえて、表彰式の時に「何でこのフィンの形にしたの?」とか質問攻めでした。初めての大会で、1年生でチームのリーダーとして出場できて、優勝できるって言葉にならないくらい嬉しいです。 種目2「ペイロード有翼滞空」でベストデザイン賞(川崎重工賞)を受賞したチームとともに 種子島まで宇宙研のメンバーと行って楽しい思い出もできたかと思われるかもしれませんが、大会のことで頭がいっぱいですごく疲れてしまい、観光する余裕はありませんでした。宿泊していた旅館の近くに鉄砲館があったので、興味があった先輩にノリでついて行ったくらいです(笑)。大会が終わって種子島を離れる時に、ちょうどH3ロケットの打ち上げを港から見ることができました。ロケットを打ち上げる時って赤く光るのですが、その赤い物体がものすごい速さで高くまで上がっていくのを生で見て、遠くからでも凄さを感じました。実際に打ち上げの瞬間を自分の目で見ることができたのは良い体験でした。いつか、自分もでっかいロケットを作りたいです。 関連リンク ・宇宙開発研究プロジェクト 航空機製作への新たな挑戦・宇宙開発研究プロジェクト「MAXS」・情報メカトロニクス学科・種子島ロケットコンテストWEBサイト (※競技内容の詳細は上記のリンクを参照してください)

  • 【Fゼミ】私の仕事 #1--デジタルマーケティングとオンライン販売 基礎・実践

    1年次の「Fゼミ」は、新入生が大学生活を円滑に進められるように、基本的心構えや、ものづくりを担う人材としての基礎的素養を修得する授業です。このFゼミにおいて各界で活躍するプロフェッショナルを招聘し、「現場に宿る教養」とその迫力を体感し、自身の生き方やキャリアに役立ててもらうことを目的として、プロゼミ(プロフェッショナル・ゼミ)を実施しました。大企業勤務、起業、コンサルティングなど多様な活動をし、現在は日本工芸株式会社 代表取締役を務める松澤斉之氏を講師に迎えたプロゼミの内容をお届けします。 とにかくいろんな仕事をしてきた この27年を振り返ると、私は大企業に勤めたこともありますし、第三者としてコンサルをしたこともあります。自分で会社を立ち上げて経営してきたこともあります。とにかくいろいろな活動に携わってきた自負はあるのですね。 現在も、自分の会社を経営していますが、SBI大学院大学のMBAコースで講師も務めていますし、企業の研修を行ったり新規事業のコンサルティングもしています。早稲田大学、広島大学などで「デジタルマーケティングとオンライン販売の実践」について講義をしたり、福岡県物産振興会、東京都中小企業振興公社、新宿区立高田馬場創業支援センターなどで「企画発想力人材」の育成・活用、EC活用などについて相談に乗ったりもしています。その他企業内では事業開発、EC加速、越境EC立上げ、など様々なテーマでレクチャー+立上げ支援を実施しています。 こういう生き方は、学生時代、すなわち皆さんと同じころのつまり二十歳あたりの頃のある思いに遡れると思っていますが、それについては最後にお話ししたいと思います。 新卒で就職した会社の倒産 私は東京理科大学の出身です。とにかく旅行が好きで、バックパックを背負って世界中を旅行して回っていました。在学中は中国の四川大学に1年間の短期留学もしました。これには元来の『三国志』好きが大いに関係していたと思います。 1996年に大学を卒業してから、ヤオハンジャパン社に入社しました。大学時代中国に留学したこともあり、アジア展開に注力する会社で働きたいと考えたからです。ヤオハンは小売業で、1990年代の前半までは飛ぶ鳥を落とす勢いの躍進を続けていました。ところが、この巨大な一部上場企業が、私が入社した翌年に倒産してしまいます。これは日本の企業史に残る巨大な倒産としても知られています。これはなかなかショックな出来事でありましたが、就職先の倒産を機に私の人生が本格的に始まったと言ってもよいかもしれません。その後、しばらくの間、東南アジアなどからの輸入水産商社にて製品開発・輸入及び国内販売に従事していました。やはりアジア諸国との仕事をしたくてヤオハンに入ったわけですから、その思いはずっと心にとどまっていたからです。日々とても忙しかったけれども、充実していました。 たいてい人は何かに一生懸命打ち込んでいれば、必要な出会いは向こうからやってきてくれるものです。私の場合、勤め先の倒産から数年してからでした。それは日本を代表するコンサルタント・大前研一氏との出会いです。このご縁から、1999年、大前氏の起業家育成学校(㈱ビジネス・ブレークスルー)の立ち上げに参画する幸運に恵まれました。私が従事したのは国内最大規模の起業家育成プログラムを提供するスクールです。これを機に、同スクールの企画運営に関する統括責任者となり事業戦略・マーケティングを立案・実行してきました。社内新規事業として、企業内アントレプレナー育成サポート事業を立ち上げ、リクルート、三井不動産、NTTドコモなどの大手クライアントを獲得することに成功し、マザーズ上場にも貢献できました。 ビジネス・ブレークスルーから約7年がたち、自分自身もいつか起業することを考えていましたので、2006年、新規事業開発支援のコンサルティング会社フロイデの設立に参画し、役員に就任しています。これは、事業規模に関わりなく、新規事業をスタートしたいという企業は実に多いものの、そのための人員もリソースも不足していて、なかなか着手できずにいる状況を機会と考えたためです。新規事業の専門家は世の中にさほど多くなかったのも理由の一つです。実際に着手してみると、相談件数も着々と伸びて、ホンダ、日経新聞、パナソニック、NEC、東京電力などかなり大手企業の事業開発事案に携わることができました。このフロイデという会社は現在も関わりを持っており、私の複数の活動の一つとして、現在も新規事業のコンサルティングを続けています。 40歳を目前にAmazonへの転職 その間世の中は大きく変化を続けており、私としても、ネットによる世の変化を直接目で見て、学び取りたいという思いがふつふつと湧き上がってきました。そんなときに、Amazonジャパンの求人があることを知り、すでに40歳を目前としていたにもかかわらず応募したら合格してしまいました。ここから、私の大企業との関わりが再度始まったことになります。就職して翌年で倒産したヤオハン以来です。 私がAmazonに入ったのは2012年6月でした。このAmazon体験は、私にとってとても大きなものをもたらしてくれたと思います。まずはインターネット通販 Amazonジャパンホーム&キッチン事業部に配属され、バイイングマネージャーとして販売戦略の立案と実行を任されました。これはかなり重要なポジションで、会社としても私のこれまでの経験やスキルを十分に生かせるように配慮してくれたのだろうと思います。 Amazonで得たことは実に多いのですが、私は三つあると考えています。一つはEC、すなわちネットビジネスの基本が理解できたことです。ECとは何のことかといえば、6つの要素、商品、物流、集客、販売、決済、顧客からなっています。これらへの対応、作戦計画を行うのがバイヤーの仕事です。AmazonのECは世界最高と言ってよく、仕入れはもちろんのこと、マーケティングやアフターサービスまで、多くを学ぶことができました。この体験は独立している現在、とても役に立っています。 第二が世界最高レベルの組織です。Amazonの構築した組織は、巨大でありながら実に柔軟であり、機能的でした。Amazonの組織の一員であることによって、特に大きな組織を動かすためのエッセンスのようなものが会得できたと思っています。 最後がビジネス・パートナーです。仕事をしていると仲間ができます。その仲間がいろいろな情報をもたらしてくれますし、私もいろいろな情報をシェアしたりします。そのような人間関係は、会社を辞めた後も続きます。「人脈」という言い方もしますが、これは仕事の醍醐味だと思います。 Amazonは今あげた三つの要素のどれをとっても一流であったのは間違いありません。その恵まれた環境の中で、とにかく日々の商談を行いました。結果として2,000社以上のEC化サポートの経験を積み上げることができました。 日本工芸㈱を設立--想いをつなぐ工芸ギフトショップ 私がAmazonに在籍したのは約4年です。いつかは独立しようと考えていましたから、退職は当初より織り込み済みでした。私が再び事業を立ち上げたのは、2016年12月のことです。Amazonを退職し、工芸品の越境EC運営を生業とする日本工芸株式会社を設立しました。「想いをつなぐ工芸ギフトショップ」をキャッチコピーにしています。仕事内容は伝統工芸領域のプロデュース・販売事業です。日本の伝統工芸のすばらしさを世界に知っていただきたいと思い、スタートしました。 詳しくはHPをご覧ください。https://japanesecrafts.com/ それ以前から、新規事業開発アドバイザーは長く従事しており、専門領域は、新規事業案策定、実行支援、事業創出の仕組みづくり、人材育成、EC戦略立案、集客支援など多様に展開させていただいています。 私は日本工芸㈱のビジョンを「日本の工芸、職人の技と精神性・製法・技法に宿るこだわりやプロセスを理解し、商品流通・教育など通して製品を愛する日本内外の人、世の中に広げていく」としました。日本ではたくさんの優れた職人がおられ、日々逸品の製作に励んでいます。しかし、伝統工芸品は1983年の5,410億円をピークに、2015年は1,020億円と5分の1にまで減少しています。売上減少に伴い、人手の不足、新商品開発への対応不足なども加わって産地の生産・流通は構造的に疲弊してきているのが現状です。これには、昨今の百均などに見られるように、消費者動向に添う効率よい商品調達・流通が大きく関係しています。所得・消費も減少していますので、「安くてそこそこの」ものに消費者がどんどん吸い寄せられているのでしょう。それに対して、専門店やECなどが十分に対応できていないのではないかということも、日本工芸㈱立ち上げの原動力になっています。 そのために、選定したブランド、産地、工芸品を不易流行なブランドとして発掘するところから始めます。職人さんとじっくり語り合い、文章と画像で語り、販売するようにしています。こうすることによって、国内でハンドメイドによる工芸品をセレクトしてお客様に提供する、目利き役も務めています。それぞれの職人は小規模ですから、広告や大規模なプロモーションを打つことはできませんし、その知識も乏しいのが実情です。日本工芸㈱が行いたいと考えるのは、職人さんに職人さんらしい仕事をしてもらうことです。そのほかの面倒なことは引き受ける。その価値を理解してくれる全国のお客さんをインターネットによって仲介・プロデュースしています。最近では法人による購入も増えてきました。 死ぬまで挑戦したい 私は現在で50歳です。今までいろいろな事業に携わってきました。大企業勤務、企業、コンサルティングなどなかなか経験できない多様な活動ができたのは本当にありがたかったと思います。 事業の形態は実にいろいろあるのですが、私は一番大事なのは「人」だと思うのですね。経営学者のドラッカーも、経営的問題は結局は人の問題に帰着すると語っていたかと思います。私にとっては、仕事そのものの大切さもさることながら、その仕事が社会的に意味を持つためには、やはり人との関係を創生するものがなくてはならないと考えています。新規事業のコンサルを始めたときも、Amazonでの開発業務も、日本工芸㈱の企業もつまるところは、人の力になりたいし、私自身もそこから力を得たいという思いがあったためだと思います。早いうちに海外に出たことで、いろいろな人に会うことができましたし、多くの体験をすることができました。社会人になってからも、ずいぶんたくさんの国を旅行やビジネスで訪れました。これは私が職場を始め居場所をどんどん変えてきたことも関係していると思うのですが、それによって変化していくことが恐くなくなってきたということは言えると思います。世の中は何もしなくても変わっていくものです。むしろ変わっていくことがこの世の本来の姿です。変化していくことを後ろ向きにではなく、積極的に活用していくような生き方を結果としてしてきたように思います。 私は社会人になって27年目になります。その意味では私は一社に就職して長く勤め上げる人生を送ってきたわけではありません。現在もなお複数の仕事を同時に行っています。おそらく現在学生の皆さんも、一社で勤め上げるのではなく、適宜ふさわしい仕事や会社で働いていく人生になると思います。 思い起こせば、学生時代、私はあることを考えるようになりました。それは人はいつか死ぬということです。それはいつかの問題であり、避けることのできないことです。そうであるならば、私は死ぬときに100名の友人がいる状態を理想と思うようになりました。死ぬときに100名。これを実現するためにこれから生きていこうと思ったのです。私の人生ビジョンは「挑戦する精神とともに成長する」です。死ぬまで挑戦して生きたいと日々考えています。挑戦するとは、いつでも生き方を変える準備があるということです。 大学生の皆さんは、現在基礎を築く大事な時期にいるのですから、ぜひ日々を大切に送っていただきたいと思います。技能や技術を担うテクノロジストの皆さんにとって本日のお話が何らかの参考になればと願っております。 Profile 松澤 斉之(まつざわ・なりゆき)1996年 東京理科大学卒業、在学中に中国四川大学に留学同年、ヤオハンジャパンに入社するも翌年倒産1999~2006年 大前研一氏のベンチャー(現㈱ビジネス・ブレークスルー)に参画、マザーズ上場2006年~現在 新規事業開発会社(㈱フロイデ)に参画2012~2016年 アマゾンジャパン ホーム&キッチン事業部シニアバイイングマネージャー2016年~現在 日本工芸㈱ 代表取締役、国内外EC事業、プロデュース事業(卸)、販路開拓支援事業を実施2017年~ SBI大学院大学講師(事業計画演習)2019年~ 独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業支援アドバイザー 関連リンク 【Fゼミ】私の仕事 #2--私が在籍してきた企業におけるマーケティング 【Fゼミ】私の仕事 #3--自分を活かす 人を活かす 【Fゼミ】私の仕事 #4--歌手としての歩みとライフワーク

  • 【知・技の創造】加工技術で環境課題に貢献

    自動車や鉄道車両の軽量化手法 自動車や鉄道車両に代表される輸送機器の軽量化は、省エネルギー化や二酸化炭素排出低減などの環境問題に対し効果的な手段です。つまり、部材の強度や剛性に対する制約条件がある中で軽量化を図る必要があります。軽量化の手法としては大きく、材料の変更と形状の変更があり、要求される仕様に応じて一方または両方の手法が用いられます。 材料の変更については、単に強度や剛性が高い材料ということではなく、重量に対して強度や剛性が高い材料であることが重要です。自動車の強度部材として多く用いられている高張力鋼板は、一般的な鋼板と単位体積あたりの重量に差はありませんが、強度が高いため鋼板の板厚を薄くすることができ、体積減少により軽量化を図ることができます。アルミニウム合金やマグネシウム合金の強度や剛性は一般的な鉄系材料より小さいですが、単位重量あたりでは一般的な鉄系材料より大きくなります。このため、必ずしも板厚を薄くするなど体積を減らすことはできませんが、軽量化を図ることが可能です。 形状の変更については、1つの部材内において求められる強度や剛性に対応した断面積となるように設計することが重要です。なお、形状の変更は使用する素材の体積を減らすことを目的としているため、省資源化の観点でも優れた手法です。軽量化と省資源化を目的とした構造部品の代表的な例として管材があり、輸送機器の分野でも広く使用されています。管材は構造として、曲げやねじりの強度や剛性に対して影響の小さい半径方向中心部が空洞となっており、一方で影響の大きい半径方向中心部から距離の大きい位置で力を受けるため、重量に対して強度や剛性を高くすることができます。 変断面管の加工方法に関する研究 現在私は、管材において更なる軽量化を実現する変断面管の加工方法を提案し、その実用化に向けた研究を行っています。変断面管は長手方向にも要求される強度や剛性の分布に対応した形状とすることができるため、軽量化により有利な部材です。変断面管は自転車のフレームなど限られた部品に適用されているのが現状であり、実用的な加工方法も含めて、自動車や鉄道車両への積極的な適用の検討が進められている段階です。 提案している変断面管の加工方法は逐次鍛造によるもので、素材把持部と金型による加圧部の動作をコンピュータで制御し、刀鍛冶のように間欠的に素材を加圧し所望の形状に加工するものです。従来技術であるラジアルフォージングやスウェージングなどと比較し、汎用的な金型のみで複雑形状に加工できるため、金型素材や金型製作の観点でも省資源、省エネルギー化を図ることができる利点があります。この研究の最終ゴールとしては、コンピュータ上で設計した変断面管の形状データを入力とし、加工条件を自動決定後、自動加工を行う一連のシステムの実用化を目指しています。そして、提案した加工技術を用いた輸送機器部品の軽量化により環境問題に貢献していきたいと考えています。 埼玉新聞「知・技の創造」(2023年4月7日号)掲載 Profile 牧山 高大(まきやま たかひろ) 情報メカトロニクス学科講師電気通信大学大学院博士後期課程修了 博士(工学)株式会社日立製作所生産技術研究所を経て、2019年4月より現職。専門は塑性加工学。 関連リンク ・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】溶接技術者の仕事

    2022年8月5日発行の埼玉新聞に、『古いけど大事な溶接技術』というタイトルで溶接は難解だけど興味深いなどの記事を書かせて頂きました。  今回は溶接技術に携わる技術者の仕事について紹介させて頂きます。溶接技術者を大別すると、溶接施工をする人と溶接施工方案を作成する人に分けられます。ここでは後者に関して、私の経験を交えた二つの側面を紹介したいと思います。 トラブル対応 工場などの製造部門から品質検査で溶接部不良が増えているので何とかしてほしいといった相談が良くあります。場所が溶接部なので溶接技術者が対応することになりますが、溶接技術以外の問題である場合が少なくありません。 例えば、素材の保管環境が悪くて水分を吸着していたとかです。同じように作っていたのに、同じようになっていなかったという具合です。溶接技術者は変化点(時期、時間)や規則性などを探り、品質に影響を与え得る要因を列挙して、仮説を立てながら過去の記録との関係を調査していきます。 原因を突き止めるために専門知識と論理的思考をフル回転させます。とても骨の折れる仕事ですが、専門の技術者が頼られる数少ない活躍の場でもあります。原因究明が上手く行けば、それ以前のことが嘘のように不良がピタリとなくなり、自己満足と達成感に浸れます。 最近は部品に印字したQRコードから素材のロット番号、加工に使用した機械などの多くの情報が引き出せるようになっていますので、調査の手間は少し楽になっています。デジタル技術の恩恵です。 施工技術開発  施工技術開発は簡単に言うと、溶接技術の選定と溶接条件の最適化になります。アーク溶接、レーザ溶接、抵抗溶接などが溶接技術です。生産量(または溶接工程の時間)、溶接する材質(鋼、アルミ合金など)、寸法・形状や要求品質など工場からの要求事項を満足できそうな技術を選定します。複数の候補技術がある場合はコストを優先しますが、初期段階では並行して検討する場合が多いです。 溶接条件の最適化は試験片での検討から始まり、最後は製品(試作品)での実証になります。試験片の検討というと簡単そうに聞こえますが、ここに辿り着くまでに多くの予備検討もします。ジグへの熱拡散が気になれば、影響度合いを予備試験で確認します。影響が大きければ、試験片のジグに反映します。アーク溶接などは噴射するガスの流れの影響も予備試験で確認する場合もあります。本格的な試験は単純作業の繰り返しが多いですが、その前段階では周到な予備試験が重要になります。量産での環境をどれだけ想像できるかが鍵と思います。 初期段階の予備検討を怠ると、折角の試験データが使い物にならず、最初からやり直しということになりかねません。この辺の進め方は経験で培われることが多いと感じています。最後はこれらの試験データをまとめて、管理項目と管理値に追い込んだレシピを作成して技術移管となります。 最後に 溶接技術の観点で技術者の仕事を紹介してみました。溶接に限らず、多くの技術開発あるいは多くの業務でも共通する部分があるのではないかと思っています。技術者の仕事も奥深い所があると解って頂けると幸いです。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年10月4日号)掲載 profile 平野 聡(ひらの さとし)情報メカトロニクス学科 准教授 長岡技術科学大学大学院修士課程修了。東北大学大学院博士課程修了。博士(工学)株式会社日立製作所を経て2021年4月より現職。専門は接合技術、ロボット応用開発。 関連リンク ・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】銅合金鋳物の環境対応

    様々なところで使われている銅合金鋳物の性質 人類史における石器時代の次は「青銅器時代」と呼ばれるように、銅合金は人類が初めて手にした金属材料です。現代の銅合金は、電線やコネクタなどの配線材料に多く用いられるほか、鋳物としても様々に使われています。電気部品は銅鋳物、機械部品や梵鐘、モニュメント、仏具などはすずと亜鉛を混ぜた青銅や黄銅、電気部品はすずとりんを混ぜたりん青銅、船舶のプロペラはアルミを混ぜたアルミニウム青銅、など特性や用途が広いのも銅合金鋳物の特徴です。 特に多くを占めているのがバルブ・水栓金具用途に用いられる青銅鋳物で、銅に、おおよそ5%ずつのすず、亜鉛、鉛を含んでいます。この合金は、すずによる耐食性に加えて、適度な強度と伸びがあり、さらに鋳造しやすいというバランスの取れた性質を持っています。 銅合金中の鉛は、これまで鋳物の生産や使用に対して良好な性質をもたらす元素として使われてきました。鋳造品の内部には引け巣と呼ばれる空隙が生じやすいですが、鉛はこの場所に存在することによって空隙が繋がらずにバルブの水漏れを防いでいます。仕上げの切削やねじ切り加工の際には、鉛の潤滑作用により、加工しやすくなります。また、鉛青銅鋳物と呼ばれる材料では鉛を多く含ませて、すべり特性を持たせて各種機械の軸受として使われています。 銅合金鋳物の課題と対応 こうした一方で、鉛は環境負荷物質としてカドミウム等とともに、製品に含まれる割合を減らそうと規制が進められています。水質基準では飲料水中の鉛は0.01mg/l以下と2003年に改正されています。 水道に使う蛇口などの銅合金鋳物では、微量ながらおおよそその組成に応じて鉛が水道水中に溶け出すことがわかっています。浸出試験の結果、鉛が5%程度含まれている従来の青銅鋳物では水質基準を満たすことが難しいことがわかり、鉛の代わりにビスマス等を利用して、鉛の量を0.25%以下とした鉛フリー合金への移行を進めてきました。 さらに廃棄物中からの有害物質の溶出による環境への影響から、電気機器ではRoHS、自動車ではELVで規制されています。RoHSでは、一般素材に対しての鉛の制限は1,000ppm(0.1%)ですが、銅合金に対しては現在のところ適当な代替材料がないとして、暫定処置として4%を超えないものと規定されています。これは未だ汎用的な代替技術ができておらず、環境規制をリードするチャンスがあるということです。 銅合金鋳物のもう一つの課題は原材料高騰です。銅は現在1kgあたり1500円、すずに至っては5000円に達しています。昨今の円安の影響もあり、これらはいずれも数年前の2倍の水準です。今後とも続くのであれば、製品によってはステンレスや樹脂への変更を検討する一方、銅合金の新たな使い道も模索する必要もあります。 こうした状況のなかでものづくりを継続してゆくために、新たな技術開発やつくりかたの変化に対応するため、個々の材料や技術に対する深い理解が必要となると同時に、金属材料に限らず様々な材料を俯瞰的に理解・比較し、設計における形状変更も含めた適切な選択を行っていくことが必要となるでしょう。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年8月2日号)掲載 profile 岡根 利光(おかね としみつ)情報メカトロニクス学科教授 東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。ニコン、東京大学、産業技術総合研究所を経て2021年4月より現職。専門は凝固、凝固組織制御、鋳造、3Dプリンター。 関連リンク ・情報メカトロニクス学科WEBページ・高温プロセス研究室(岡根研究室)

  • ロボコンに注ぐ情熱!引き継がれる技術や技能、そして思い

    ものつくり大学には没頭できる学生プロジェクトがいくつもあります。「ろぼこんプロジェクト」もその1つ。2002年に結成され、現在に至るまで多くの卒業生・在学生がNHK学生ロボコンの優勝を目標に、ロボット開発のために切磋琢磨して大会出場に向けてロボットの製作を行ってきました。今回は、NHK学生ロボコンに出場経験のある川村迪隆さん(総合機械学科4年・三井研究室、上記写真:右)と荒川龍聖さん(大学院2年・三井研究室、上記写真:左)にプロジェクトについて、また、先輩から後輩に引き継がれる技術や思いなどについてインタビューしました。 われらの「ろぼこんプロジェクト」 -ものつくり大学の「ろぼこんプロジェクト」に関わることになったきっかけは。 【川村】高校時代からロボコンに関わっていて、2019年には全国高等学校ロボット競技大会にも出場しました。しかし、高校3年生だった2020年はコロナ禍で大会に出場できず、不完全燃焼で終わってしまって。大学の進学先はロボコンに集中できるところと決めていました。 ものつくり大学進学の決め手は、特に加工設備が整っていることと、新潟出身なので学内に寮があることでした。「この大学ならロボット作りに好きなだけ時間が割ける」と思い選んだといっても過言ではありません。 【荒川】中学生の頃、テレビでNHK学生ロボコンを見て「ロボコンに関わりたい」と強く思いました。ただ、進学した工業高校にはロボコンに取り組める部活がなく、中高とも独学で学びました。大学はNHK学生ロボコンに関われるところを探し、ものつくり大学は第一志望ではありませんでしたが、特待生として入学できました。やっとNHK学生ロボコンに向けていい機体を作れる環境になりました。 -プロジェクトに関わり、高校時代に比べ変化したことは。 【川村】大会出場に向けての熱意です。全国高等学校ロボット競技大会とNHK学生ロボコンの大きな違いは、大会に出場できる確率です。全国高等学校ロボット競技大会は各都道府県大会で入賞したチームから全国で約100チームが出場できます。一方、NHK学生ロボコンは狭き門で、全国の大学と高専から約20チームしか大会に出場することができません。 出場権を手にするためには、いくつものハードルがあります。8月にABUアジア・太平洋ロボットコンテストのテーマの発表があり、10月に日本語版のルールが発表されるので、戦略を考えます。11月にロボットの機構、アイデア、戦略を説明した書類審査を通過できると、翌年2月にロボットの戦術を書いた書類と手動機と自動機のロボットの動きや各種機構がわかる動画による1次ビデオ審査、4月に一連の流れや完成度がわかる動画による2次ビデオ審査があり、それらを1つずつ突破しないと大会には出場できません。 1年間かけてロボットの製作に取り組んでも、大会で1試合も出られずに終わることもあるので「絶対に大会に出場して、大きな舞台でロボットを動かすぞ」という思いでやってきました。 【荒川】高校生まではロボット作りに関われなかったので、大学に入ってからはプロジェクトマネージャー(プロマネ)を1年生からずっとやってきました。プロマネの役割は幅広く、重要なポジションです。プロジェクトを円滑に進めていくためにリーダーシップや高度なスキル、専門知識が求められます。 私が1年生だった2019年に、ものつくり大学がNHK学生ロボコンに出場したのですが、操縦者やピットクルーという表舞台に立てなくて。その後、4年生まで大会出場を果たすことができず、ずっともどかしさがありました。NHK学生ロボコンに出場して、成績を残すために、ロボット作りよりプロマネとして何ができるかを四六時中考えてきました。 2次ビデオ撮影前の様子 -1年間のスケジュールの中で、どんなことに力を入れていますか。 【荒川】私が担当するプロマネの仕事は1年を通してずっとあります。プロジェクト全体を指揮・管理するのがプロマネです。プロマネの存在が全体のスケジュールを支えているといっても過言ではありません。 全体のスケジュール管理に加え、チームメンバーのスキルを見極める能力も必要になります。ものつくり大学のロボット製作は、設計班・加工班・制御班の3つに分かれています。私は、3つの分野の知識や技術・技能などを日頃から研究し、それをマネジメントに生かしています。例えば、ロボットの製作期間中は、設計者の進捗を見る会議を週に1度開き、設計者にアドバイスを行ったり、設計のブラッシュアップをしたりしています。制御者や加工者としての視点で加工できる形を指摘することもあり、設計者側から嫌がられる立場でもあります。 なぜ私がプロマネとして必死にやってきたかというと、かつて同期のメンバー同士で人間関係がうまくいかなくなり、プロジェクト自体の存在が危うくなってしまった経験があるからです。「自分を捨ててでもなんとか後輩に思いをつなげなきゃ」とプロマネとしての役割を担ってきました。 【川村】荒川さんがメインのプロマネだとしたら私はサブのプロマネといった立ち位置で活動しています。また、操縦者としての視点で後輩にアドバイスもしています。ものつくり大学では、プロジェクトリーダーは2年生が担当と決まっています。私は2023年のNHK学生ロボコン出場に向けてプロジェクトリーダーを務めたり、2年連続大会に出場してチームリーダーを務めたりした経験も生かしています。 私がこのプロジェクトに加わった2021年は「学生同士に壁があるな」と感じました。高校時代にプロマネに近いことをやっていましたが、コミュニケーションがうまくいっているとプロジェクトも上手くいくことを実体験として持っていたんです。いい機体を作るために会議を月1回から週1回に増やすことも私が提案しました。その結果、機体の練度も上がっていきました。 設計講習会の様子 -プロジェクトの魅力や面白さは。 【川村】メンバー内の仲の良さです。今のプロジェクトメンバーは学年の壁がなく、後輩もしっかり意見を言える空気があります。 【荒川】一番はロボットに触れられることです。100人、200人単位のメンバーで構成されている大学も多く、ロボットに触れられずに4年間が終わってしまうケースもあります。しかし、ものつくり大学のろぼこんプロジェクトはやる気次第で1年生から関われます。「ロボットに関われる」というのは大きな魅力です。2024年もNHK学生ロボコンに出場を果たしましたが、ボールをつかむロボットの機構を設計したのは、なんと1年生です。 1年生が機構を設計したR1 NHK学生ロボコン2024での成果と課題 -6月9日にNHK学生ロボコンが開催され、2年連続の出場を果たしましたがどんな成果がありましたか。 【川村】昨年に続き2年連続チームリーダーを務めました。今年は「Harvest Day」をテーマに田植え、収穫をR1(手動機ロボット)が行い、収穫された穀物の倉庫への輸送をR2(自動機ロボット)が行い点を取り合うという競技でした。 昨年は予選リーグで2敗してしまいましたが、今年は1勝できたというのが何より大きな成果です。昨年残り数秒で負けてしまったチームに勝利でき、雪辱を晴らすことができました。また、昨年はコントローラーと受信機の通信トラブルがあったため、今年はコントローラーの電波が届きやすいように受信機の取り付け位置を工夫し、トラブルを回避しました。 【荒川】出場したことが何よりの成果です。連続出場したことで分かったことがたくさんありました。例えば、会場に持ち込む工具類は昨年の多さから見れば、今年は少なく済みました。逆に、チーム紹介ビデオの制作スケジュールの管理は大変でした。 また、昨年の経験から、競技には関われない大学院生の私は、多忙な大会前の1か月をプロマネに専念しました。結果的に大学での練習量を増やすことができて、出場メンバーは自信を持って大会に臨むことができました。 -大会ではどんな課題に直面し、今後どのように解決していこうと考えていますか。 【川村】一番の課題は、ロボットを制御できる人材の不足です。現プロジェクトの制御班にはメンバーが8人いますが、メイン担当は1人です。今大会のR1とR2のロボットの両機体ともほぼ1人で作ったため、R2にリソースを割けませんでした。ブラッシュアップも十分できず、制御自体ができたのが大会の1週間前でした。 ロボットを制御できるようになるためには、実際にロボットを動かす機会が必要です。実体験を通して、自分が関わっているロボットに求められる動きや機構について理解も深まります。今後は、制御について相談できる人がいなくなるという現状を解決していきたいと考えます。 【荒川】制御担当の負担を減らすために製作時間を短くすることが課題になると思います。そのためにスライドガイド付きシリンダーや一体型になっている部品などのロボットの組み立てを短縮できる資産を増やすことも大事だと思います。また、大会会場ではコントローラーの電波障害が起きやすいので、使用されていない電波を探したり、新たな技術を使っていったりする必要があります。 R2の制御を行うメンバー 引き継ぎたい知識や技術、そして思い -これから卒業までにどのように後輩を育成し、どんなことを継承しようとしていますか。 【川村】2年連続チームリーダーを務めた経験から言うと、今のプロジェクトチームの中にチームを導ける人は少ないと思っています。リーダーには些細なことでも気付けたり、周りを見て足りないところを補ったりする力が求められます。卒業までの間に人を育てるというのが大きな役目の1つだと考えています。 また、分からないことは人それぞれで異なるため、データで残すよりは言葉で伝えることが大事だと考えます。2023年のNHK学生ロボコンに向けて1次と2次ビデオ審査に必要な動画作成を担当しました。今大会は後輩に任せ、やらせてみて、分からないことは教えるというスタンスをとりました。会話することでしか伝わらないことも多いのでコミュニケーションを通して私のスキルを引き継いでもらいたいです。 【荒川】大会に出場し続けるための思いや技術を伝えていきたいと考えています。今後チームが大会に出場できないことがあっても、やる気のあるメンバーがいればいつでも活用できるデータを残したいです。取扱説明書や制御の仕組みのテンプレートなどの作成にすでに取り組んでいます。 それから、後輩たちには、ぜひOBを頼ってほしいです。そのためにも「手伝い続けたくなるチーム」「応援したくなるチーム」を目指すことが大事だと思います。 また、大会に出場した経験を強みに、工業高校などに出向いて、デモンストレーションを実施するなどして仲間を募る活動も川村君たちプロジェクトメンバーと行っています。 -直近の目標は9月に開催される大学1年生を対象とするF^3RC(エフキューブロボットコンテスト)優勝ですが、どのように関わっていますか。 【川村】設計・加工・制御のうち、設計と制御の基礎的なところを教えています。設計のほうは、セミナーを1週間行って、実際のものを作ったりしています。特に、やる気が出るように士気を上げる環境づくりを大事にしています。ぜひリーダーには周りを巻き込んでさまざまな問題を解消してほしいと思います。 1年生向けに設計の講習の一環として、設計したコマを3Dプリンタで印刷して大会を開催 【荒川】基板・はんだ付け・制御・プログラムなどの方法を教えています。方法を教えれば道具をうまく使って応用が利くと考えています。 2022年にF^3RCで優勝したメンバーの藤野君には回路基板のはんだ付けやロボットの制御の基礎をマンツーマンで教えたことで、驚くほど成長しました。伸びる学生は伸びます。やはりやる気が大事で、やる気のある1年生をどう育てるか、また、やる気を出させるために全体のモチベーションアップもしていきたいです。 1年生の中に、プロマネの後任になれそうな学生もいます。プロマネの難しいところは、メンバーから嫌われたら終わり。プロジェクトが成立しなくなるというリスクもあります。また、その年の部員たちの個性もあるので、その個性を潰さないように、プロマネがどうあるべきか常に悩みながら関わっているのが正直なところです。 1年生に加工機の操作方法を教える荒川さん -後輩に引き継ぎたい目標や思いは。 【川村】NHK学生ロボコンの優勝ですね。過去にはグループリーグを突破して準優勝まで進んでいます。出場するだけではなく、後輩には上を目指してほしいです。 また、明るくないと士気も上がらないので、メンバーには「明るく、楽しく」をモットーにプロジェクトでの活動を大事にした環境づくりを引き継いでほしいです。 【荒川】やはり、優勝してほしいです。そして、自立してほしい。私は後輩からの「先輩もう大丈夫です」という言葉を最高だと思っていて。その言葉を聞いたら身を引きたいです。それから、「出場だけしていてはだめだよ」と伝えたいです。出場して強豪校という状態になってほしいです。 後輩たちには多くのOBたちの思いが募って今の状態があることを心に刻み、4年生の思いをつなげてほしいと思います。 関連リンク ・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!①・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!②・ろぼこんプロジェクト「イエロージャケッツ」Webページ・情報メカトロニクス学科Webページ

  • 【知・技の創造】現場の元気さと幸せ

    トヨタ自動車で32年勤めた後、行田市のものつくり大学を拠点に地元企業に協力いただき「強い現場づくり」をテーマに研究と教育に取り組み10年目になります。クルマづくりの現場で先輩たちの指導を仰ぎ、仲間たちに協力してもらい成果につながったことを、少しでもたくさんの人に伝え活用していただくため、学生たちと地元企業の生産現場で課題抽出し、現場の方々と一緒に改善活動を実践し、研究と教育につなげています。 強い現場と人 Well-Being(人々の幸せ)について日々研究をされている方の講演での話です。働く人が幸せな企業ほど会社の業績が良い、すなわち働く人の幸せ度が高い企業は生産性が高く、高業績でさらには災害も少ないことがデータにも表れているとの事です。 私の経験や研究を振り返ってみても確かに納得させられることが多くあり、とても感銘を受けました。これまで現場での生産性や働く人の意識・モチベーションにばかりに気を取られていたような気がします。考えてみれば働いている人がそこでやりがいを感じ生き生きとしている会社は業績が良い、そして幸せを感じるということではないでしょうか。 ということであれば業績を上げたい会社経営者や生産性を上げたい現場のリーダーは、働く人たちに幸せになってもらうことが大切だということになります。 ではどうすれば日々の活動の中で人は幸せを感じるようになるのでしょうか?これまでの事例から考えてみました。 会社の一体感 県内企業で学生が改善活動に取り組み、その報告会の場で謝辞を伝える場面で、「協力して頂いた社員・作業員の皆様に感謝申し上げます」と文言に表したところ、管理者の方から「当社では社員と作業員の言葉の区別はない、皆がこの会社の社員である」とのご発言をいただいたことがあります。学生の何気ない言葉遣いに対してさえ、このように考え発言いただくことはとても素晴らしいと感じました。オンリーワンの技術開発力と一体感のある現場で業績を伸ばしているこの企業で、今後も一緒に改善に取り組んでいきたいと考えています。 また、県内の従業員数50名弱で部品製造を行っている企業の品質改良活動に参加しています。これは社長が毎日発生する製品不良で捨てているモノを減らす改善活動を通して、社員のモチベーションを高めたいとの思いから始めたことです。現場のリーダーが全員参加し現地・現物での定期的な活動をスタートしてから3年になりますが、不良は簡単には減りません。それでもそれぞれのリーダーがテーマを掲げ、対策に取り組むようになってきました。時間はかかりますがこのような活動が定着すれば、社員意識が向上し、今後1/10程の不良低減が見えてくるものと考えています。 社員一丸となって、改善することを継続し、それが風土となれば、働く人はやりがいと幸せを感じるようになるのではないでしょうか。 まとめ AI/IoTの有効活用が良く言われますが、継続的に改善が出来る自立した現場づくりを通して人が育ち、やりがいを感じ、少しでも幸せを感じるように、目的を明確にし、道具としてAI/IoTを活用する、そんな企業活動が基本と考えます。これからも学生と現場での人材育成に取り組んでいきます。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年6月7日号)掲載 profile 小塚 高史(こづか たかし)情報メカトロニクス学科教授 北見工業大学卒、トヨタ自動車株式会社明知工場製造部長を経て2015年より現職。トヨタ生産方式が専門。 関連リンク ・ものづくりマネジメント研究室(小塚研究室)・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】新しい機械加工の学び方

    5軸制御マシニングセンタの導入 昨年末、本学情報メカトロニクス学科に5軸制御マシニングセンタが、機械加工関連の実習用の機器として導入されました。5軸制御マシニングセンタとは、従来からある汎用の旋盤やフライス盤といった複数の工作機械の機能を1台に統合し、高度なIT技術で自動化された最新鋭のNC工作機械です。 類似のものに複合加工機がありますが、これらの出現により、これまでの工作機械では加工できなかった複雑な形状の製品が、容易に加工できるようになりました。今回、伝統的な技能と最新の技術を合わせ持つテクノロジストを育成する本学では、新しいモノの作り方を理解するために、5軸制御マシニングセンタは不可欠な要素であるという判断のもとでの導入となりました。 5軸制御マシニングセンタ 国内機械加工業界の現場では… 5軸制御マシニングセンタや複合加工機(以下、二つをまとめて5軸加工機)により、機械加工の現場は、さらなる自動化や省人化が可能になります。その優位性についての理解が進む欧州では、順調に販売実績を伸ばしていますが、日本国内では少々伸び悩んでいるのが実態です。 工作機械メーカーによる実機の貸し出しや、加工実績の紹介など、様々なキャンペーンが実施されてはいますが、国内機械加工業界全体に広がりを見せているとは、まだまだ言えません。これは高額な設備投資と、これらの新しい機械を使いこなすスキルを持つ人材が、圧倒的に不足していることが理由として挙げられます。 しかし、少子高齢化の影響による労働人口の減少は明らかで、すでに待ったなしの状況です。これに対応していくには、工程の自動化と省人化が絶対条件で、投資額や人材確保の問題を上回るものとなります。その答えのひとつとして、5軸加工機の導入があります。また、5軸加工機を用いての製造を前提とした製品や部品の設計がなされていないことも大きな要因と言えます。 これには、古くから国内産業の基盤を担ってきた、安定した生産体制を敷くためのノウハウの踏襲や、5軸加工機の強みを積極的に取り入れるなどといった、設計部門の十分な理解が得られていないことが考えられます。 教育現場の対応とこれから 一方で、我々のような教育機関での教育実績が少ないことも課題となっています。特に5軸加工機は、機械本体だけでなく、その周辺機器や加工プログラムを作成するアプリケーションは、高価なものが多く、これらを複数用意する必要があるため、費用面でも教育カリキュラムに組み込むことを困難にしています。 企業から学生へ5軸加工機のレクチャーを行う様子 そして何よりも、指導する教員のスキルアップも重要です。しかし、5軸加工機の販売実績が好調な欧州を中心とした海外では、これらの工作機械は機械加工の初学者が扱い、従来のものは、高度な技術や技能を持つ熟練者が扱うべきものという考え方があります。つまり、高度なIT技術により自動化された最新の工作機械は、誰でも扱いやすいので初学者向きであるということです。 この考え方には賛否両論あると思いますが、生まれた時からIT技術が身近にある若年層は、これまでのような汎用の工作機械からではなく、自動化が進んだ最新のものから学び始めるというのは、これからの機械加工の学び方に、我が国でもなるのかもしれません。 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年4月5日号)掲載 profile 武雄 靖(たけお やすし)情報メカトロニクス学科教授 東京農工大学大学院工学府機械システム工学専攻(博士後期課程)修了。博士(工学)、MOT(技術経営修士)。専門は機械加工学、技術経営、技能伝承など。 関連リンク ・機械加工・技能伝承研究室(武雄研究室)・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】流動床インターフェースの応用研究

    流動床インターフェースの研究 砂のような固体粒子を入れた容器の底面から空気のような流体を上向きに適度に噴出させると、固体粒子は浮遊懸濁して液体のような流動性を示す。的場やすし客員教授と一緒に、流動化した砂の特性を活用した流動床インタフェースを構築し、産業・医療応用や洪水体験等新しいインタラクションシステムの可能性の研究を行っている。 砂面に投影するプロジェクションマッピング 映像を投影した流動床インターフェースに魚の模型を出し入れする様子 その中で、砂面を投影面としたプロジェクションマッピングに関する研究を進めている。砂面は、水面よりも鮮明な映像が投影できるので、ゲームを始めとしたエンターテインメントに適している。流動化の有無や強さの違い等を組み合わせたり、砂の色を変えることにより、新しいプロジェクションマッピングの可能性を検討している。例えば流動化した砂面で人体模型や臓器をかたどり、そこに正確な色の映像を投影する技術により、医療教育や術前カンファレンスなどでの可能性を検討している。また、触れられて投影面の中に手や物を出し入れすることのできるディスプレーが実現できるので、新しい応用の可能性が広がる。写真は、流動床インターフェースに映像を投影し、表面の池の部分から泳ぐ魚に見立てた魚の模型を出し入れしている様子である。 砂には色がついていて白色スクリーンとは異なる。また砂面は滑らかではなく、流動化しているときは表面を動的制御できる。さらに物の出し入れが行える。そこで砂面の反射特性や観察角度の変化に伴う明るさと色の変化、さらに砂面の深さ方向の変化に伴う明るさや色の変化等に対する色再現手法、および色彩制御技術の研究を進めている。これらは、卒業研究やインターンシップのテーマとして学生と一緒に行っている。 また、噴水のように水を連続して噴出させたところに映像を投影するディスプレーが開発されているが、水は反射率が低いので明るい場所では不向きである。これに対して、砂などを連続して噴出させることで、何もない所に突然鮮明な映像を出現させるようなディスプレーの研究も進めている。 防災訓練の応用と触感再生装置への可能性 その他に流動床現象の出現原理の解明を進めると共に、医療応用では、自力で姿勢を変えられない人のポジショニング用具や癒し用具の開発を埼玉県内の病院・企業と産学連携で実施している。さらに疑似体験型拡張現実(AR)と流動床インターフェースを活用して、視覚と身体で水害を感じる洪水体験システムへの検討を進め防災訓練に応用している。また色々な触感を実現する触感再生装置への可能性を検討している。 流動床インターフェースを活用した洪水体験の様子 埼玉新聞「知・技の創造」(2024年2月2日号)掲載 profile 菅谷 諭(すがや さとし)情報メカトロニクス学科教授 博士(工学)。東北大学大学院修了、NEC、アリゾナ大学オプティカルサイエンスセンター、静岡理工科大学助教授を経て現職。専門はオプトメカトロニクス。 関連リンク ・研究実績WEBサイト(researchmap)・的場やすし客員教授Youtubeチャンネル・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【知・技の創造】高校ロボコンで埼玉無双

    高校生ロボコンと学生ロボコン 全国高等学校ロボット競技大会をご存じでしょうか? 主に工業高校の生徒が、毎年違うお題に対してロボットを開発する競技大会です。さまざまな対象を運んだり置いたりが課題となる「キャリアロボット」というジャンルの競技です。 11月末に福井県で全国大会が開催され、埼玉県大会で1位・2位に入賞した進修館高校が埼玉県の代表校に選出されました。 一方で、ものつくり大学「ろぼこんプロジェクト」は、NHK学生ロボコン2023に出場を果たし、出場回数は14回を誇ります。 NHK学生ロボコン大会会場にて NHK学生ロボコンは全国の大学・高専が対象のロボット競技大会で、優勝するとABUロボコン(アジア地域のロボコン大会)の出場権を得られます。全て英語のルール発表が10月初旬。これを深く理解し、ロボットを設計・開発・実装します。2月末、4月末の2回の厳正なビデオ審査を経て、出場チーム数は20チーム前後に絞られます。大会は6月初旬に開催されます。 従って大会に出場を果たすだけでもかなり大変で、メンバーの学生たちは、ほぼ1年中ロボットの開発にいそしんでいます。実はメンバーの中には前述の全国高等学校ロボット競技大会に出場経験のある学生もいます。 高大連携でロボコン無双 これらの背景から、本学と進修館高校で高大連携事業の一環として、去年12月よりロボコン講習会を始めました。本学学生が高校生に自分の経験や知識を教えます。内容は表のとおり、メカ設計・加工・制御回路と、ロボコンに必要な機械・電子・情報の内容を網羅してあります。7回目まで実施済みで、今年度末までに残りの講習を行います。今年12月からこの連携に児玉高校も仲間入りします。 埼玉県内の高校ロボコンチームの参加を募集中です。この活動を通じて、埼玉県から出場の高校生チームが全国高等学校ロボット競技大会で無双することを夢見ています。 回数内容1設計とは?(機構学とモノの捉え方)23DCADを用いた設計33Dプリンタを用いた実習4~7全国高等学校ロボット競技大会出場マシンのお悩み相談会8マイコンを用いた制御回路(センサ・アクチュエータ・LED)9マイコンを用いたシリアル通信10マイコンを用いた無線通信11板金工作の設計12板金工作と実装講習の内容 埼玉新聞「知・技の創造」(2023年12月8日号)掲載 Profile 三井 実(みつい みのる)情報メカトロニクス学科教授  北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程修了。博士(情報科学)。専門はシステム開発、音響工学、電気電子工学。 関連リンク ・ヒューマンメディアラボ(三井研究室)WEBサイト・情報メカトロニクス学科WEBページ・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!① ~リーダー&操作担当者編~・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!② ~ピットクルー&大学院生編~

  • 【知・技の創造】化学実験用流体ブロック

    もっと手軽に化学実験を 化学実験と聞くと何を思い浮かべるだろうか。試験官、ビーカー、フラスコ、ピペット、秤、バーナーなどのような実験器具・機材であろうか。学校で行った化学実験は準備や後片付けに時間がかかったのを覚えている。先生はさらに時間をかけていたに違いない。もっと手軽に化学実験を行えるようにはできないか。化学変化はつねに身近で起きている。なにしろ人間自体が大規模で複雑な化学実験の舞台であるからだ。全身に張り巡らされた血管の中を血液が流れ、脳内では神経細胞がさまざまな物質を使って情報処理を行っている。流れを利用して化学実験を行い、さらに流路を自在に組み換えることができれば、いろいろな化学実験を簡単に行えるではないか。筆者が子供の頃、電子ブロックというものが販売されていた。親指大のプラスチックのブロックの中に抵抗、コンデンサ、コイル、トランジスタなどいろいろな電子部品が内蔵されていて、ブロックの側面は接続端子になっている。ブロックを並べ替えることで、基礎的な電気回路の実験からラジオのような応用的な回路を組むことができた。 流体ブロックの研究 リソグラフィ技術を使ってガラス基板にマイクロメートル幅の流路をつくり、極微量サンプルの科学分析を行う研究(Micro-TAS)は30年くらい前から行われ、多くの成果をあげている。しかしながら、部品の再利用を前提とし自由に組み換えて実験を行うというよりは、特定の目的のために設計・調整されたものが主流である。微細な流路のため層流となり溶液の混合でさえもひと手間かける必要がある。本研究室では、試験官やビーカーよりは小さく、Micro-TAS が扱う領域より大きなサイズ、すなわち数ミリメートルの流路幅をターゲットにしている。このサイズは、重力が支配的になる世界と表面張力が支配的になる世界の境界である。さらに条件によっては層流にも乱流にもなる。流体ブロックの材質は透明で薬剤耐性に優れた PDMS (ポリジメチルシロキサン)である。PDMS は自己吸着性があるのでブロック同士やガラス面などによく密着する。このため並べるだけで3次元の流体回路も簡単に組むことができる。3Dプリンタなどを用いて流路の樹脂型をつくり、PDMS が硬化した後、樹脂型を溶解させれば所望の流体ブロックができあがる。 写真は製作した流体ブロックの1例である。今後、流路中にヒーター、熱電対などの様々なパーツを組み込んだ流体ブロックを製作していく予定である。埼玉新聞「知・技の創造」(2023年10月6日号)掲載 Profile 堀内 勉(ほりうち・つとむ) 情報メカトロニクス学科教授早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。博士(理学)。日本電信電話株式会社研究所を経て2014年4月より現職。

  • 【知・技の創造】地域連携と高大連携

    2つのフラワーデザインアート ものつくり大学の最寄り駅である高崎線吹上駅の改札を出ると、コスモスなどの美しい花々でデザインされた柱が視線に入ります。北口案内には元荒川の桜並木、南口案内には水管橋、窓にはコウノトリや花などのデザインが描かれています。これらは、「地域連携」および「高大連携」の取り組みの一環として制作されたものです。ものつくり大学では、学生プロジェクト団体として「ものつくりデザイナーズプロジェクト」(以下、MDP)が登録されています。作品制作や学外展示、ヒーローショーを行うプロジェクトとしてデザイン活動をしています。2021年度に鴻巣市、観光協会からの依頼により「鴻巣駅自由通路フラワーデザインアートプロジェクト」として、鴻巣駅自由通路に作品を展示し、次に、2022年度「吹上駅自由通路フラワーデザインアートプロジェクト」を実施しました。2022年度のプロジェクトでは、鴻巣高等学校、鴻巣女子高等学校、吹上秋桜高等学校美術部の生徒さんが四季を通じた花やコウノトリ、桜、水管橋などを手書きおよびコンピューターグラフィックスにより作品を制作しました。それらの作品群を、本学のMDPメンバーがレイアウト構成をし、大きさや濃淡の調整を行いながら全体を完成させました。 吹上駅改札付近のフラワーデザインアートとMDPの内田颯さん(写真左)、松本拓樹さん(写真右) 高校の生徒さんには、授業やテスト、学校行事の忙しい合間を縫いながら、素敵な作品を制作してもらいました。生徒さんの提案で、窓をスライドし、2枚の窓を重ね合わせることで、デザインの見え方が変化するなどの工夫も凝らしています。さらに、朝と夜間では外光の差し込み方や照明灯の反射により、作品の輪郭が白く浮かび上がるなど、時間帯によっても窓のデザインについて異なる見え方が楽しむことができます。窓越しから視線をさらに運ぶと、青空や大きな雲が広がり、それらが窓に溶け込むことで、さながら窓自体が額縁のようにも感じられます。 「地域連携」と「高大連携」の成果 「駅の通路」という多くの方々が日常的に利用する空間に、これらの作品が末永く展示されることを嬉しく思います。MDPメンバーにとっても、やりがいのあるプロジェクトでした。プロジェクトを通じて、名所、史跡や地域を知ること、高校との協力による作品制作など、「地域連携」と「高大連携」の成果が正に統合されたものと感じています。吹上駅および鴻巣駅の近郊では、多くの名所、史跡および観光スポットがございます。散歩および観光の「出発点」として、吹上駅および鴻巣駅へお立ち寄りの際に、これらの作品についてもご覧いただき、楽しんでいただければ幸いです。埼玉新聞「知・技の創造」(2023年8月4日)掲載 Profile 松本 宏行(まつもと・ひろゆき) 情報メカトロニクス学科教授工学院大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。専門は機械力学、設計工学。 関連リンク ・フラワーデザインアートで駅利用者をHAPPYに!・ものつくりデザイナーズプロジェクト「MDP」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!② ~ピットクルー&大学院生編~

    NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、大会優勝を目標にロボット開発に必要な知識や技術を自主的に学び、ロボットを製作しているプロジェクトです。 NHK学生ロボコン2023(2023年6月4日開催)に、4年ぶりに出場し奨励賞を受賞しました。 8月8日に掲載した「リーダー&操作担当者編」に続き、ピットクルーを務めた杉山丈怜さん(総合機械学科3年、上記写真:左)、篠木優那さん(総合機械学科3年、上記写真:中左)、茂木柊斗さん(情報メカトロニクス学科2年、写真:右)と、大学院生で後輩たちをサポートした荒川龍聖さん(ものつくり学研究科1年、上記写真:左)にピットクルーの役割や試合を間近で見て感じた思いを伺いました。 ピットクルーの仕事 -リーダー・操作担当者へのインタビューでは高校生の時からロボコンに関わっているメンバーがいましたが、皆さんは?【杉山】高校生の時は関わっていないです。ロボコンを始めたきっかけは、リーダーの川村君に誘われて、大学に入って何をするか決めていなかったので、ちょうど良いなと思って入りました。やっているうちにロボットを製作するのが楽しくなってきて、今も続けています。【篠木】私も大学から始めました。元々、どの大学に進学するか検討している時に、以前ロボコンがテレビで放送された時にものつくり大学の名前を見たことを思い出しました。オープンキャンパスに参加して、ロボット製作の楽しさを知り本学に入学しました。【茂木】私は高校からロボコンに関わっています。【荒川】私もロボコンをやりたくて、ものつくり大学に入学しました。ロボコンの常連校は国立大学が多くて、私立大学でロボコンに出場している大学はあまり無いんです。ロボットを作るには100万円、200万円かかります。さらに、国立大学のロボコンチームは、毎年100人単位で入部するので、一回もロボットに触ることができない人もなかにはいます。なので、ロボットを自分の手で作りたいと思っている人には、私立大学は穴場だったりします。その中で私たちは、ロボットを完成させるための加工技術が優れている大学なので、その点が評価されているのかなと思います。レーザー加工機などは本学くらいしか使っていませんから、他大学に羨ましがられます。 -大会出場までに大変だったことや、ロボットの製作でこだわったことはありますか。【杉山】私はうさぎロボットの射出機構の設計と各機構同士の組み付けを担当しました。大変だったのは、うさぎロボットが例年のロボットに比べて小さかったため、寸法の限界値も小さく、その中に機構を収めることです。こだわった点は、リングを射出するために使うローラーを3Dプリンタやゴム等を使って自作したことです。足回りのタイヤ等も3Dプリンタとゴムチューブを組み合わせて自分たちで作りました。【篠木】私は象ロボットの制御を担当していました。象ロボットの射出機構の角度が変わらない設計でしたから、その分回転速度を変えることで同じ場所からでもリングの飛距離を変えられるようにするのに苦労しました。2次ビデオ審査を提出する前から練習を始めましたが、射出精度を高めるため大会ギリギリまで何度も数値を変えてリングを放っては修正を繰り返しました。 練習中に機体を確認する篠木さん(左) 【茂木】私は両ロボットの加工を担当しました。2次ビデオ審査に合格して、本格的にロボットを仕上げる時に、象ロボットの精度を向上させるためにリング回収機構と射出機構が全て変更になり、加工を間に合わせるのが大変でした。 -ピットクルーはテストランや試合の時はどんな事をしているのでしょうか。【杉山】うさぎロボットは、基本的に想定したとおりに動いていました。大会前日のテストランでは、射出の回転数の調整や操縦者がロボットとポールの位置を確認していました。大会当日は変更を加えて不具合が出ても困るので、回転数などは変えずに、ロボットのネジがしっかり締まっているかとか、パーツが消耗していないかを確認していました。試合中、うさぎロボットが会場の電波干渉の影響でコントロールが難しくなってしまいましたが、その場では解決できなかったので、電波の干渉があまり起きない距離まで操縦者がロボットに近づく等の対策を考えていました。【篠木】象ロボットはテストランの時点では数値や制御を変える必要も無く、上手くいっているなと思いました。他の大学ではテストラン中にロボットが暴走したり、試合中に機体が破損した大学もありましたが、私たちのロボットはそういったトラブルはありませんでした。うさぎロボットは、電波干渉で止まらなくなりましたが、ぶつかって破損することが無かったのは不幸中の幸いです。 試合前に整列するメンバー(左3人がピットクルー) フィールド外の物語 -試合中はどんな気持ちでピットにいましたか。【杉山】「頑張れ!」という気持ちで試合を見ていました。私は設計がしたくてロボコンに参加しているので、操縦は得意な人に任せて、自分はサポートに徹しました。私がロボコンを始めてから、大会で自分たちのロボットを実際に動かせたのは初めてで、その楽しさを実感しました。他大学のロボットを間近で見られたことも大きな財産ですね。【篠木】私たちピットクルーは、外から試合を見ることしかできないので、少し怖いというか心配しながら応援するしかありませんでした。何か自分にできることはないのかと歯がゆい気持ちもありました。当日まで出場する実感がなかったのですが、会場で他大学のロボットを見て、やっと憧れの大会に出ていることに感激しました。【茂木】試合中は、フィールドの3人に聞こえているかは分からないですけど、声援を送っていました。NHK学生ロボコンの出場は良い経験になったと思います。高校からロボコンに関わっていますが、やっぱりNHK学生ロボコンはレベルが違うと感じました。来年は私がロボットを操作して、チームを勝たせたいと思っています。1年生の時のF3RC(エフキューブロボットコンテスト)では操作をしていたので、自分の操作技術を上げてチームをカバーしたいと思います。 フィールド外で試合を見守るピットクルー -院生としてサポートに回った荒川さんはどんな気持ちで大会を見守っていましたか。【荒川】2019年のNHK学生ロボコンに出場して、もう一度NHK学生ロボコンに出たいと思っていましたが、叶いませんでした。後輩たちが出場しているのを目の当たりにしてくやしい気持ちもありましたが、純粋に頑張れと思っていました。ルール上、大学院生がロボット製作をサポートすることはできないのですが、1次ビデオ審査や2次ビデオ審査の振り返りの時はアドバイスをして、ミーティングには参加していました。 練習中にアドバイスをする荒川さん(左) -体育館で練習をしている後輩を見ていてどうでしたか。【荒川】このまま上手く行けば良いところまで行けそうだとは感じていました。でも、大会を見ていて、電波干渉とか、ロボットが動かなくなるとかそういった会場でのトラブルは経験の差が出てしまうと思いました。私たちが2019年に出場してから、しばらく途切れてしまったのが悪いよなって。連続して出場できていれば、電波干渉も過去に経験していたかもしれません。やっぱり、出場し続けることが大切なのだと感じました。 -荒川さんが出場した2019年大会と比べて、今回の大会で何か感じたことは。【荒川】メンバー全体で設計の質や効率化について考えることができるようになってきました。後は、メンバー同士のコミュニケーションが変わりました。良くも悪くも学年関係なしに仲が良いので助かっています。以前は先輩後輩を意識していた感じでしたが、今は先輩にも容赦なく意見が飛ぶようになりました。特にここにいる茂木君とかは(笑)。 優勝に必要なこと -ピットクルーの皆さんは大会で何か課題を感じましたか。【杉山】今回、うさぎロボットは2台の試作機を作りましたが、他大学は何種類も試作機を作って戦略や戦術に沿った機体や機構を作っていました。例えば、ひたすら早く動くことを戦略にした場合、それに一貫した設計ができるようになれば、勝てる機体が作れると思いました。私たちもスケジュール管理をしっかりして、どんどん試作機の設計を進めていかなければならないと感じています。後は、設計についてもっと勉強して、強度を確保した上でコンパクトな機構を考え、基盤のスペースをもっと確保できるようにしたいです。【篠木】他大学の制御は半自動で効率化された動きですが、本学は完全手動なので、自動化していかないと他大学に追いつけないと感じています。私はプログラムに特別詳しいわけではないので、とにかく勉強するしかありません。センサーについても他大学は性能の良いセンサーを使っています。ただ、性能は良くても処理する技術がないと実力を発揮できないので、そういった点が課題になっていくと思います。【茂木】私たちは大体のパーツを自分で作っていますが、もっと既製品を使っていく必要があると思います。既製品を使えば効率的だし、規格が決まっているので代用がきくというメリットがあります。今までは金銭不足や自分たちで作りたいというこだわりで自作してきました。自作パーツのメリットは、設計に合わせて既製品にはない寸法のパーツを作れるところです。歯車一つにしても既製品を買うのか、3Dプリンタで作るのか。ちょっとの寸法のズレで誤差が生じてしまいます。どちらも一長一短がありますが、そこをもっと考えていきたいです。【荒川】実は、技術継承という意味でも既製品を使った方が良くて、「買える」というのが強いんです。自分たちで作る場合、技術が継承されていなかったら作れなくなってしまうリスクがあります。それならば、自分たちで作れる物の他に変える部品を増やしていったほうが良いのかなと思います。それと、今は予算がちょっと増えて、買える物が増えたから気になるものをバンバン買って、来年に向けて色々試している状況です。 関連リンク ・ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!① ~リーダー&操作担当者編~・NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」Webページ・情報メカトロニクス学科Webページ・学生ロボコンWebサイト

  • ロボコンはスポ根だ!優勝目指してひた走れ!① ~リーダー&操作担当者編~

    NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、大会優勝を目標にロボット開発に必要な知識や技術を自主的に学び、ロボットを製作しているプロジェクトです。 NHK学生ロボコン2023(2023年6月4日開催)に、4年ぶりに出場し奨励賞を受賞しました。 今回は、チームリーダーの川村迪隆さん(総合機械学科3年、上記写真:中)、ロボットを操縦した岡本恭治さん(総合機械学科4年、上記写真:右)と藤野楓土さん(情報メカトロニクス学科2年、上記写真:左)に、大会出場に懸けた思いやこれからの目標をインタビューしました。 NHK学生ロボコン2023の競技ルールなどは以下のリンクをご参照ください。 【NHK学生ロボコン2023ルール動画】 https://youtu.be/eEnqrpgW8jU Road to NHK学生ロボコン2023 -4年ぶりのNHK学生ロボコンでしたが、出場が決まった時はどんな気持ちでしたか。【岡本】2021年度、2022年度と挑戦してきました(2020年度は新型コロナの影響でオンライン開催)がどちらも本戦には出場できず、私にとって今年がラストイヤーでしたから、出場決定の報せをチームリーダーの川村君から受けたときは、純粋に嬉しかったです。 【川村】私は高校生ロボコンに関わって、全国大会にも出場経験がありました。全国大会でしか味わえない緊張感を大学生になっても経験したいと思っていました。私はリーダーとして、大会事務局からの出場決定の連絡が届くまで毎日メールをチェックしていました。出場決定の連絡を何度も何度も確認しました。念願の大会にやっと出場できることを確信して感無量になりました。それからは、メンバー全員で出るからには結果を残そうという思いで頑張りました。 【藤野】私は中学・高校とロボコンに関わっています。なので、大学生になったらNHK学生ロボコンに出場することを目標として、大学を受験しました。本戦出場が決まった時は寮の自室でくつろいでいたのですが、メールを見た瞬間「え?マジ?よっしゃー!」って叫んでいました。そこでスイッチが入り、大会までに何をするか、どこを改善するか問題点を洗い出していました。高校生の時にロボットアメリカンフットボール大会の全国出場権があったのですが、残念ながらコロナ禍で大会が中止になりました。このまま終わってたまるかと、初めての全国大会で晴れの舞台だし、全力でいこうと意気込みました。 -本戦出場が決定するまでに苦労したことはありますか。【岡本】私は象ロボットの設計を担当しました。印象に残っているのは2次審査のビデオ提出締め切り前夜に、射出機構の角度を変更したことです。それまでは、射出口に対してリングを直角に送り出していたのですが、リングの射出距離が安定していませんでした。改善策をずっと考えていて、締め切り直前に角度を無くして水平にリングを送ってみたら、距離の差異が無くなりました。締め切り直前でCADの設計は間に合わないから、現場合わせでやることになるけど変更するか?というギリギリの選択でした。結局、ビデオの撮り直しはせずに、2次審査に通ることを前提にして作業を進めておき、2次審査が通ったらすぐに対応できるようにしていました。 【川村】個人的に大変だったのはビデオ審査の動画編集です。1次審査、2次審査とも私が編集を担当しましたが、今まで動画の編集をしたことが無かったので手探りで進めました。1次、2次とも5分の動画で、1次ではどういう機構を使うのかを紹介。2次では、ロボットの動きを見せて、1次からの変更点を紹介しました。自分たちのロボットを良く見せるためにどうやって撮影するか、編集はどうするかなど、他大学のYouTube動画などを研究しました。2本のビデオ制作にかかった時間は撮影・編集を含めて18時間ほどです。 【藤野】私は、うさぎロボットの制御や基盤をほとんど一人で担当していました。センサーで読み取って射出機構の回転速度を一定にさせるプログラムを急きょ導入しましたが、しっかりした制御システムが成り立っていない状況でプログラムを打ち込んでいたため、練習コートで調整しようとしてもなかなか上手くいかなくて苦労しました。リングを飛ばすローラーが、目標の回転数に到達するまでの時間を短縮させるため色々と手を尽くしましたが、私だけの知識ではなかなかできないこともありました。テストでは動いていたのに、ロボットに搭載したらセンサーの取り付け位置が変わって上手くいかないこともありましたし、ローラーなどの部品を付けて負荷がかかるとテストの時と変わってしまってセンサーが全く計算してくれないこともありました。大会直前まで何度も調整を繰り返していました。 練習中、動作を確認する藤野さん 予選リーグ第1試合 VS大阪工業大学-予期せぬトラブルの連続 【川村】1試合目は、象ロボットがまず手前のポールにリングを入れて、次にセンターエリアの手前の2本を狙い、最後に中心の1本を狙う予定でした。その間に、うさぎロボットがセンターエリアの奥の2本を狙う作戦でした。 今大会のフィールド ですが、象ロボットのリングが詰まってしまい、思うようにいきませんでした。練習では安定して動いていて、大会前日のテストランも問題は無かったのですが、いざ本番になると会場の雰囲気にロボット達も呑まれたみたいで、練習どおりに動かず焦ってしまいました。象ロボットが何発か放った後に詰まってしまい、さらに動かなくなってしまったのは致命的でした。 【岡本】リングが詰まった時はどうしようかと思いましたけど、リトライして再装填すれば数発は放てたので、いかに少ない発射数でポールに入れるかということだけを考えていました。 【藤野】うさぎロボットは会場の電波干渉の影響でコントローラーの電波がロボットに届かなくなり、ロボットが止まらなくなってしまった時は「なぜ⁉」って思いました。直感でコントローラーの電波が届いていないのかと思って、ロボットに近づいたら少しは操作できるようになりましたが、根本的な解決方法が無くて思うように操作できませんでした。 予選リーグ第2試合 VS長岡技術科学大学-今大会随一の大接戦 【岡本】長岡技術科学大学のロボットはリングの連射性能が凄かったので、これはもう「チェイヨ―(8つのポールの得点を全て獲得した状態)」されるかもしれないと思ったので、1試合目とは作戦を変え、相手にチェイヨ―させない戦略に基づいてセンターエリアのポールから狙いました。最後の最後で逆転されてしまいましたが、割と上手くいっていたと思います。 残り数秒まで大接戦だった第2試合 【川村】私は岡本さんの側で象ロボットが狙うポールの指示を出していて、藤野君には、象ロボットが狙っているポールとは別のポールを狙うよう指示していました。割と落ち着いて指示を出せていたと思いますが、会場の歓声で指示が伝わらないこともありました。これは来年度に向けての反省点です。 残り時間を確認しながら指示を出す川村さん(左) 【藤野】電波干渉の問題は2試合目も対策ができず、少しでもロボットに近づいて電波が届くようにするしかありませんでした。練習で想定していなかったトラブルが起きて、事前に考えていた作戦もできずパニックになってしまいました。 これからも優勝を目指して-We love スポ根 -練習の時、川村さんの楽しそうな表情。そして、予選で敗退した時の悔しそうな表情が印象的でした。リーダーとしての意気込みはどうでしたか。【川村】練習は、皆が楽しくできる環境にしたいと思っていました。高校生の時にロボットの操作を担当していて、嫌々やるより楽しくやった方がチームとして相乗効果があったので、今回も「楽しく練習する」をモットーにしていました。後は、メンバーが一人で抱え込まないようにコミュニケーションを取ることを心がけていました。本戦では、長岡技術科学大学が1試合目で勝っていたので、勝てれば1勝1敗で並び、予選突破の可能性が出てくるので何としてでも勝ちたいと思っていました。ところが、残り数秒で負けてしまい、他大学との実力の差を目の当たりにしました。負けず嫌いな性格も相まって悔しさが表情に出てしまいましたね。 体育館での練習の様子 -藤野さんはF3RC(エフキューブロボットコンテスト)優勝のメンバーですが、何か違いを感じましたか。【藤野】まず、観客が多くて会場の雰囲気がF3RCとは全く違っていました。競技は点の取り合いになる試合形式なので、相手からのプレッシャーが凄いです。また、ロボットのレベルが全然違っていました。NHK学生ロボコンは投てき競技が多いのですが、F3RCは投げることはあまり無いので考え方を大きく変える必要がありました。F3RCでやった事と同じやり方では太刀打ちできないことを実感しました。中学生の頃からロボットを作り続けていますが、大会に出る度に段々と難易度が上がり、アイデアの出し方や違う考え方がある事を思い知らされています。2年生のうちに本戦を体験することができて、いろいろな課題を見つけられました。残りの2年間は課題解決に全力を注ぎたいです。 -岡本さんは学生生活最後の年につかんだ出場でしたが、どのような思いで大会に臨みましたか。【岡本】4年生にして初めて出場できたので「あぁ、やっとか」という思いでした。1年生の時は新型コロナがまん延し始めた時で、ロボコンプロジェクトに参加できたのは夏からでした。NHK学生ロボコンもプレゼン形式のオンライン開催でした。2年生の時は無観客で開催されましたが、出場校が通常時より絞られていて私たちは本戦には出場できませんでした。3年生の時は2次ビデオ審査で落ちてしまいました。今大会では、ロボットの性能を最大限活かした操縦を心がけました。設計者だからこそ、特性の理解から特長を活かしつつ、短所も補いながら操縦することを念頭に置いて挑みました。後は、大会を少しでも盛り上げられるようにと思っていました。チーム紹介のビデオに出演しているのですが、顧問の三井先生がストーリーを考えて、私がロボットにされました(笑)。撮影の時は川村君と先輩がいたのですが、何回もダメ出しされて、階段を落ちるシーンは先輩の演技指導を受けながら10テイクくらい撮りました。 https://www.youtube.com/watch?v=IeIpz_GShx4 NHK学生ロボコン2023 チーム紹介動画 -今回出場して得られたものは。【岡本】技術面で言えば、他大学のロボットを間近で観れたことです。他大学は独立ステアリングを用いていて、足回りが強化されていたので、私たちも導入しようと取り組み始めました。独立ステアリングは、操舵と駆動を別々のモーターで制御して、進行方向にタイヤの向きを揃えることができ、タイヤの駆動力すべてを移動に費やせるため高速移動が可能になります。試合の仕方では、他大学は迷わずリトライをしていたのが印象的でした。私たちは4年ぶりの出場で経験者が少なかったのでリトライをした方が良い状況でも、もう一機のロボットが動いていたらリトライを躊躇して行動が遅れることがありましたね。 【川村】大会の雰囲気を感じて、場慣れできたことが大きいです。前回出場したのが4年前で、大会の進行が分からず、他大学の人に「どうしたらいいんですか」とか質問して右往左往していましたが、今回出場したことで後輩たちに伝えていけます。また、SNSで他大学同士が交流している様子を見て、私たちも技術を向上させるためにもっと交流会に参加しないといけないと思うようになりました。これまで、他大学主催の交流会に参加させてもらっていましたが、今後は私たち主催の交流会を開催したいです。 【藤野】過去のNHK学生ロボコンや高専ロボコンの映像を結構見てきましたが、他大学のロボットを直に見て、もう今までとは違うレベルに進んでいることが身に染みて分かりました、今の自分たちの技術を使いまわしているだけでは駄目だなと。新しい事に挑戦しないと今使っている技術もいずれ古くなり、他大学との差がさらに開いてしまいます。これから私たちが勝つためには、他大学の先を行く考え方や技術が必要です。 -優勝を目指すために変えていきたいところは。【川村】アイデアをしっかり再現できるように技術力を向上させていきたいです。今はインターネットから色々な情報を得られる時代ですから、情報収集をして、アイデアどおりに加工できる技術を身に付けていきたいと思っています。 【藤野】設計、加工、制御の3つの班のうち、私が所属する制御班の強化が必要だと思っています。制御班は人が少ない上に、技術が進化し、覚えなくてはいけないことが莫大になってきています。センサーの扱い方やプログラムの仕方も以前より複雑になっていて、プログラミングの経験が無い人が学ぶには範囲が広すぎる状況になっています。だから、初心者にも分かりやすく教えて、後輩を育てたいです。また、今までのプログラムのデータを再利用できるようにマニュアルを残していきたいです。 【岡本】資料をしっかり残すことです。プログラミングも設計も、ちゃんと動くシステムや機構をデータとして残しておけば、後輩も「このデータを使えば絶対に動くんだ」と安心して設計できます。そうすればもっと精度の高いロボットを作れるようになっていきます。これからも私たちはNHK学生ロボコン優勝を目指して活動を続けます。ものつくり大学に入学したら、ぜひロボコンプロジェクトに参加してください! 関連リンク ・ロボコンはスポコンだ!優勝目指してひた走れ!② ~ピットクルー&大学院生編~・NHK学生ロボコンプロジェクト「イエロージャケッツ」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ・学生ロボコンWEBサイト

  • フラワーデザインアートで駅利用者をHAPPYに!

    デザインフェスタ等への展示製作活動を行っている、ものつくりデザイナーズプロジェクト「MDP」は、鴻巣市と鴻巣市観光協会から依頼を受け、地域の魅力発信を目的にしたフラワーデザインアートを制作しました。 2021年度は鴻巣高校、鴻巣女子高校の美術部と協力してJR高崎線鴻巣駅に制作し、2022年度は吹上秋桜高校の美術部も加わり、JR高崎線吹上駅に制作しました。作品は現在も両駅舎を彩っています。 吹上駅のフラワーデザインアートを制作した当時、リーダーだった松本拓樹さん(総合機械学科4年、上記写真右)と、新リーダーの内田颯さん(情報メカトロニクス学科2年、上記写真左)に作品制作について伺いました。 フラワーデザインアートについて 【内田】私たちが手がけるフラワーデザインアートを町おこしの一助にしたいというのが一番の思いでした。そして、鴻巣、吹上の代表的な花や、コウノトリなどを取り入れて華やかにしたい。そういう思いを作品に込めました。吹上駅の作品は、吹上の代表的な花であるコスモスをふんだんに取り入れました。北口、南口の欄間に飾った作品にはその出口にある象徴的な風景を取り入れて、パッと見て方角が分かるように意識しました。北口には元荒川の桜並木を、南口には荒川に架かる水管橋をデザインしています。 【松本】関係者全体の会議で、以前の吹上駅は「北口」「南口」の表示が見づらかったので、大きく表示したいという意見から、北口、南口にある風景を絵にすれば直感的に分かりやすくなるのではという意見が出てデザインが決まっていきました。 デザイン検討の打合せ   南口の欄間に飾られている作品   北口の欄間に飾られている作品 制作過程について 【松本】私たちMDPは、ディレクターとして高校生たちが描いた絵をまとめていきました。一昨年の鴻巣駅の時は、高校の美術部にはレイアウトまでは考えてもらっていませんでした。今回の吹上駅は吹上秋桜高校も加わったこともあり、北口と南口に飾る絵については、各高校からどんな雰囲気で作りたいのか分かるように、ある程度のレイアウト案を考えてもらいました。その上で、3校の美術部には、自由に絵を描いてくださいとお願いしました。 【内田】高校生が紙に描いた絵を一枚一枚、私たちがスキャンしてデータ化しました。白地に描かれている背景を透過して、描かれた花をコピーして反転させたりして、見ていて飽きないように配慮しながらレイアウトしていきました。北口の桜についても、一枚の絵からピンクや白で濃淡をつけてランダムに配置しています。単調にならないように加工したのが特に苦労したところです。 【松本】北口の絵は、高校生から提案されたレイアウトが想定より小さかったんです。そのままでは、絵がスペースの半分もいかないくらいで終わってしまうので、不自然にならない程度に引き伸ばしました。空白を埋めるために桜を多くしたり、最初のレイアウトには無かった灰色のグラデーションを加えたりして整えました。改札を出て左手の柱に飾った作品は、3校に描いてもらった花を私たちでレイアウトしました。この作品は作業量が多く、特に大変でした。四季をイメージして柱を飾るということは決まっていましたが、柱が細いのでどうやって四季を並べるか苦心しました。4面を1面ずつ四季にして並べる案などが出ましたが、最終的に螺旋で四季が流れていくようなデザインになりました。下の方は春をイメージしてパンジーを並べ、真ん中あたりは夏をイメージして向日葵を配置しています。柱に貼る時は、一面全部に絵を描いた状態で柱に巻くことになっていたので、両側の絵が揃うように処理をしています。   改札付近の柱の作品 【内田】窓に貼ったイラストは、当初はステンドグラス風にする予定でしたが、それでは光が遮られてしまい、駅構内が暗くなってしまうため実現できませんでした。イラストの線が細すぎると目立たないし、色をつけると光を遮ってしまうし、折り合いをつけるのに苦労しました。最終的には色の無い線画に落ち着きましたが、できれば色をつけたかったなと思います。普段のプロジェクトの活動であれば、発想を広げることを重視して好きなように作れますが、今回のように公共の場に飾る作品となると様々な制約があることが分かり勉強になりました。       鴻巣女子高校の作品     鴻巣高校の作品     吹上秋桜高校の作品 【内田】今回、作業量が多かったのですが、前例があるというのは非常に助かりました。絵をスキャンしてデータに取り込む方法などは先輩が資料として残してくれていたから作業を効率的に進めることができました。作業は手順どおりにやればできたのですが、鴻巣駅より作業量が多かったため、その作業を一つひとつ終わらせていくことが大変でした。 【松本】鴻巣駅の作品は自由通路の両側に作品を展示していて、一枚の絵を分割して作りました。しかし、吹上駅では絵を3枚制作し、窓に貼るシールの制作もあり、複数の作業になりました。さらに、制作時期が高校の文化祭や私たちの碧蓮祭と重なっていました。高校生も私たちも文化祭で展示する作品の制作もあったので、フラワーデザインアートの制作スケジュールが圧迫されていました。高校生は期末テストもあり、その時期は打合せに参加できない高校生もいたから、意見をまとめたくても思うようにいかないことがありました。   鴻巣駅自由通路に飾られている作品①   鴻巣駅自由通路に飾られている作品② フラワーデザインアートの見どころ 【内田】やっぱり、改札付近の柱の作品です。春夏秋冬をできる限り表現して、どの方向から見ても楽しめるようにレイアウトを考えたので、一周ぐるりと回って見ていただきたいです。この柱は3校が描いた絵でできています。絵のタッチが花によって違っていますが統一感を出せたと思います。それから、欄間に描かれている水管橋や元荒川の桜は、その方向に降りれば現物がありますから、ぜひ見に行っていただきたいです。 【松本】実は、北口の絵にものつくり大学を描くという案もありましたが、コンセプトがフラワーデザインアートだっため人工物より花をたくさん入れたいということもあり、ボツになりました。 【内田】制作中は、見ていて飽きない作品にするということを大切にしていました。町おこしとして協力させていただいているので、デザインに偏りが出ないようにすることも気をつけていました。現場では制約が多く、最初の構想と変わってしまい、断念したこともあるので、もっと華やかにできたという思いはあります。その中で、最善策を探して調整しなくてはならないということが分かりました。きっと、社会に出ても同じようなことは多々あると思いますが一足先に学べました。 【松本】大学でも授業やプロジェクトの活動で展示作品を作りますが、公共の場に展示され、なおかつ大規模な作品の制作に携わったことはありませんでしたから、すごい経験をさせていただいたと思います。それに、MDPだけではなく、鴻巣市の方々や高校生が関わっていて、スケジュールが厳しい中で無事に完成させることができ、リーダーとして安心しました。 【内田】私たちの通常の活動は、個人の自主的な活動が多いので、人をまとめて作業を進めるのは大変でした。だからこそ、プロジェクトとして一丸となって一つの大きな作品を作るというのは新鮮でしたし、皆でものを作る大切さを感じました。学内で限られた人だけに見られる作品と、不特定多数の人の目に触れる作品では達成感が違いました。両駅を利用している市民の方々に少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。フラワーデザインアートは鴻巣駅と吹上駅の2か所で終わってしまいましたが、リーダーを引き継いだ今、共通目標が無くなってしまったので、皆が団結できるようなものを作れないか模索しているところです。目標があると達成するための意志というか、やる気が湧いてくるから、それでプロジェクトが活発になると良いなと思っています。 関連リンク   ・ものつくりデザイナーズプロジェクト「MDP」WEBページ・情報メカトロニクス学科WEBページ

  • 【Fゼミ】私の仕事 #2--私が在籍してきた企業におけるマーケティング

    1年次のFゼミは、新入生が大学生活を円滑に進められるように、基本的心構えや、ものづくりを担う人材としての基礎的素養を修得する授業です。このFゼミにおいて各界で活躍するプロフェッショナルを招へいし、「現場に宿る教養」とその迫力を体感し、自身の生き方やキャリアに役立ててもらうことを目的として、プロゼミ(プロフェッショナル・ゼミ)を実施しました。今回は、外資系企業を中心に7社の在籍経験があり、約23年にわたってマーケティングに従事している平賀敦巳氏を講師に迎えたプロゼミの内容をお届けします。 マーケティングとは何か 本日の話の流れとして、まず初めに、「マーケティング」とは何を意味する言葉なのかを説明して、全体像をつかみ、その上で「マーケティング」に含まれる具体的な仕事の種類を説明します。そして、より個別具体的に、私が在籍してきた企業でどんな仕事に実際に取り組んで来たのか、事例を紹介しながら説明します。 現在、担当している商品、当日学生に配布された まず、大家と言われる3名の方が、「マーケティング」をどのように定義しているか?ハーバード大学教授のレビットは、マーケティングとは「顧客の創造」だと言いました。「マーケティングの父」の異名をとるコトラーは、「個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセス」という、大変緻密な定義を行っています。そして、有名な経営学者であるドラッカーは、マーケティングとは「セリング(販売)を不要にすること」だと語りました。では、私は、マーケティングをどのように定義しているか。二つの○と、それを結び付ける両向きの矢印を使って、図で説明をすると分かりやすいのです。片方の○は、生活していく中で様々な課題なり欲求を抱える消費者、生活者。もう片方の○は、そういった課題を解決し、欲求を満たすリソースを持つ事業者。これら二つの○を結び付けてあげると、そこに取引が生まれ、市場が生まれます。この、市場をつくるために両者を結び付けてあげることがマーケティングなのですね。 MarketingというのはMarketにingが付いていることから分かる通り、「Marketすること」という意味。要は、「市場を作ること」がマーケティング、市場をつくり、より大きくするために、色々な働きかけることが全てマーケティング活動と言えます。こう定義すると、マーケティングというのはとても広い概念で、ほぼ「経営」と同じ意味合いになります。とはいえ、経営活動の中には、人事、経理・財務、IT等々、確かにマーケティングとは言いにくいものも含まれるので、私は以下のように整理しています。経営=直接お客様に働きかけて市場を作る広義のマーケティング+間接業務広義のマーケティング=狭義のマーケティング+セリングコトラーは、このマーケティングの全体像を、「R-STP-MM-I-Cモデル」という枠組みで整理しました。R=Research(リサーチ・調査や情報収集)STP=Segmentation(セグメンテーション・市場を分類すること)、Targeting(ターゲティング・お客様を絞ること)、Positioning(ポジショニング・お客様の頭の中での居場所、位置付けを決めること)、これらの頭文字で、マーケティングの戦略部分。MM=Marketing Mixの略でいわゆる「4P」と言われるものと同じ意味。4Pとは、Product(商品)、Price(価格)、Place(販路)、Promotion(販促)の4つのPから始まる要素を指し、マーケティングの戦術部分。I=Implementation(実行)の頭文字。頭の中で考えた戦略や戦術は、実際に実行に移されないことには現実が変化しないので、実行はとても大切です。C=Control(改善)の頭文字。俗にいう「PDCA」。実行したら必ず結果を評価して、上手くいった点は維持し、上手くいかなかったことは改善する。そのプロセスを繰り返すことが重要です。 「お客様」を知ること ビジネスをする場合、通常何らかの目的を持って始めます。その目的を達成するために、様々な商品を取り扱い、その商品を市場で売れるようにするために、先程の「R-STP-MM-I-Cモデル」に沿って、戦略を考え、戦術を練り、それらを実行に移していきます。マーケティング戦略を考える上では、まず何よりも先に、市場の一方当事者である「お客様」を知ることが重要です。お客様は、何かしらモノを買うまでに、様々な段階を経て意思決定しますが、この時の心の流れを「パーチェスファネル」などと呼びます。ファネルとは、漏斗(じょうご/ろうと)で、必ず上が広く、下に行くに従って細くなります。基本的に、認知、興味、行動、比較、購入という段階を踏んで、ようやくモノを買ってくれることになるわけで、段階を進むごとに離脱する人も出て来るため、必ず下へ行くほど細い。このパーチェスファネルを、出来るだけ横に広げていくことで、市場がつくられ、大きくなる。また、下の方をより太らせて逆三角形から台形に近付けていくことで、更に市場が大きくなる。なので、各段階の間口を広げること、そして次の段階へと進む確率を上げること、それを実現することがマーケティングの仕事のイメージとなります。お客様が持っている顕在ニーズと潜在ニーズ(ホンネ)を、質的調査(ヒアリングや観察)や量的調査(アンケート、データ分析)を通じて調べ上げたら、そのニーズを満たすことを考えなければなりません。そのために、「コンセプト」を練り上げます。コンセプトの要素は、よくABCで整理されます。A:Audience・お客様B:Benefit・便益、嬉しさC:Compelling Reason Why・お客様がその嬉しさを得られると信じるに足る理由お客様に選ばれる商品をつくるには、Aの誰を相手にするのか、Bの相手が喜んでくれそうな何を提供するのか、そしてCのそれがいかに良い商品だと分かるような根拠をどうやって伝えるか、これらABCをワンセットで提供しなくてはなりません。3つ目の、お客様に提供する「根拠」については、3つの「差別化軸」(①手軽軸、②品質軸、③密着軸)を活用します。 私が在籍してきた企業の具体例 ①女性用カミソリのポジショニング圧倒的なシェアを持っていた競合の商品が、ハッキリとしたポジショニングを持っていない点に気付き、消費者のニーズに基づいた明確なポジショニングで「挟み込み」を行った結果、多くの売場を獲得し、シェアの逆転につなげることができました。②商品をラッピングしてギフト化し、価値を高めて価格を上げる一つだと安価なキャンディを、沢山集めてお花のブーケのようなラッピング仕立てにすることで、単価を上げて発売しています。キャンディだけで比較すると割高ですが、ギフトとしての価値を創り出すことで多くの方に買い求めていただいています。 ③商品カテゴリによるコスト構造の違いと値付け化粧品や日用雑貨で様々な商品を扱ってきた中で、売価と原価の関係はカテゴリによってバラバラであることを見て来ました。より多くの粗利を稼げるカテゴリでは、その粗利を原資にして、広告や販促を展開し、逆に粗利が低いカテゴリでは、ギリギリ安値でとにかく数をさばくというやり方になっています。④小売店のバイヤーとの「棚割」商談における資料作成小売店では半年に一度、「棚割」といって棚に並べる商品の入れ替えを実施しています。消費者に商品を買ってもらう機会を確保するために、棚割で自分のところの商品がなぜ必要なのか、ロジックを組み立て、説得を試みます。⑤TVCM制作広告代理店に依頼をして、誰にどんなメッセージを伝えたいのかを説明し、目的に応じたクリエイティブを制作してきました。⑥店頭販促消費者は、「期間限定」だったり「お買い得」といったメッセージ、見た目に反応することが多いので、店頭でより多くの人に、より頻度高く買っていただくための工夫を様々に行ってきました。⑦DMを用いた店頭への集客化粧品会社で、愛用顧客の方に再び店頭へと足を運んでもらうために、凝りに凝ったDMを送付していました。頻繁に新商品を出し、常に店頭を新鮮に保って、DMによる集客でにぎわいを創り出していました。 Profile 平賀 敦巳(ひらが・あつみ) 1972年東京都出身、横浜市在住1996年慶應義塾大学大学院法学研究科修了(法学修士)外資系企業を中心に7社の在籍経験。27年強のキャリアのうち、約23年マーケティングに一貫して従事。これまでに取り扱ってきた商品は、主に日用雑貨と化粧品を中心に、洗剤や家庭紙(トイレットペーパーやティッシュペーパーなど)、スキンケアやヘアケアやボディケア、カミソリ、香水、キャンドル、保険などが挙げられる。マーケティング戦略の立案から、商品・コンセプトの調査や開発、値決め、チャネル開拓、広告宣伝・PR、販売促進に至るまで、幅広い経験を積んで来た。現在は、ベルフェッティ・ヴァン・メレ・ジャパン・サービス株式会社に勤務、カテゴリーマネージャーとしてメントスとチュッパチャップスの二つのブランドを管掌。 関連リンク 【Fゼミ】私の仕事 #1--デジタルマーケティングとオンライン販売 基礎・実践 【Fゼミ】私の仕事 #3--自分を活かす 人を活かす 【Fゼミ】私の仕事 #4--歌手としての歩みとライフワーク 原稿井坂 康志(いさか・やすし)ものつくり大学教養教育センター教授

  • でっかいロケットを作りたい-1年生ながらリーダーとして種子島ロケットコンテストで優勝!-

    宇宙開発研究プロジェクト「MAXS」は情報メカトロニクス学科の学生プロジェクトの1つで、ロケットの構造や制御、整備、運用体制を学生が主体となって学んでいるプロジェクトです。 第19回種子島ロケットコンテスト(2023年3月2日~3月5日開催)に、6チームが参加し、ロケット部門の種目3「高度※」で優勝、種目2「ペイロード有翼滞空※」でベストデザイン賞(川崎重工賞)を受賞しました。 「高度」で優勝した機体「KYLEEROCKET-Ⅱ」をチームの中心となって製作したのは、ボートライト 海里さん(情報メカトロニクス学科2年)です。機体製作で工夫したことや初めてロケットコンテストに出場した印象などを伺いました。 最後にはロケット打ち上げの様子を動画で見ることができます。そちらもぜひご覧ください。 幼い頃のワクワクが蘇ってロケット製作へ 工業高校に通っていて、高校生の時から親にものつくり大学を勧められていました。大学進学はあまり考えていませんでしたが、宇宙開発研究プロジェクト(以下、宇宙研)というロケットを作っているプロジェクトがある事を聞きました。その時、幼い頃の記憶がふと蘇ってきました。当時の私はアメリカに住んでいて、広い平野の一角で、父が趣味で全長1mくらいの小さなロケットを打ち上げていました。その光景を見て「ロケットって楽しそうだな」と思っていました。親から勧められた進学でしたが、ロケット目当てに入学し、宇宙研に参加しました。 高校生の時は電子の勉強をしていて、CADは苦手でしたが、ロケットを設計するようになってからは苦手意識がなくなりました。宇宙研は1年生教育がしっかりしていて、入ってすぐにCADの勉強をさせてもらえます。特に、ロケットのトップの部分などは、SOLIDWORKSという3DCADソフトで作ります。CADだけではなく、ロケットの翼の部分はレーザー加工機でバルサ材から切り出して作っています。 種子島ロケットコンテストについて 種子島ロケットコンテストは、小型のモデルロケットを打ち上げる大会です。競技はロケット部門とCanSat部門に分かれています。私はロケット部門の4種目(「滞空・定点回収」、「ペイロード有翼滞空」、「高度」、「インテリジェント」)のうちの1つ「高度」に出場して、優勝することができました。この種目は、大会が支給する高度測定装置をロケットに搭載して、どれだけ高く飛ばせたかを競います。 競技のルールとして、打ち上げた後に機体からパラシュートが開かなかった場合や、落下途中に機体が分離してしまうと失格になります。また、射点から半径400m以内に落下しなかった場合も失格です。それから、高度ロケットは高度計や位置情報を把握するビーコンをロケットの先端に収納するのですが、落下した衝撃で中の機材が壊れたら失格になる可能性もあります。だから、他の部門のロケットに比べて頑丈に作る必要があります。 競技以外にも技術発表会があり、3分という限られた時間の中で機体のプレゼンテーションをします。その後、実行委員から技術面について質問を受けます。技術発表会は大会の結果にも影響があります。晴天であれば、ロケットを打ち上げた結果で順位が決まりますが、雨で競技が中止になってしまった時はこのプレゼンテーションで決まります。だから、必死です。 宇宙研から出場した機体たち(最奥が「KYLEEROCKET-Ⅱ」) 優勝よりも記録を狙った機体づくり 初期デザインや設計計画書の作成は2022年度卒業の先輩に手伝ってもらいましたが、その他はほぼ一人で作りました。他にもチームメイトはいたのですが、他のプロジェクトが忙しかったり、アルバイトが忙しかったりしてなかなか来れなくて。だから、機体名も自分の名前から取って「KYLEEROCKET-Ⅱ」と名付けました(笑)。コンテストの前の試し打ちや機体の改良、技術発表会のプレゼンテーション資料の作成などもほとんど一人でやりました。機体の改良は先輩が残してくれた初期設計を元にして、自分で設計しながら作り上げていきました。 ロケットは打ち上げた後、落下時にバックファイアが開くのですが、初期デザインではチューブの細いところから出る設計でした。試し打ちした時は、展開せずに自由落下して壊れてしまったり、そのまま飛んでいって機体を無くしてしまったりしました。コンテストが迫ってくる中で、このままではいけないと思い、もっとチューブが太くなっている位置からバックファイアを出るようにデザインし直したら、上手く開くようになりました。 改良後の機体 また、機体の強度を上げるために、尾翼のバルサ材を硬化樹脂でコーティングして、落ちても割れないようにしました。他の部分にも硬化されたガラス繊維を使って、軽くて硬い機体を製作しました。それから、フィンの形状も工夫しています。ロケットのシミュレーションが可能な「オープンロケット」というアプリで、遊び心でデザインしてみたら今までで一番高く飛ぶという結果が出ました。たまたまだったのですが、よく考えてみると、先端の方が急な角度になっていて打ち上げた際に空気抵抗を受けにくいデザインになっていました。 今回の機体は、シミュレーション上は319mの高さまで飛びます。大会では280mくらいの高さでした。過去に優勝した機体は500m近くまで飛んだ機体もあって、今回の大会でも私の機体より高く飛んだ機体もひょっとしたらあったのかもしれません。しかし、他のチームは高く飛んでも機体が壊れてしまったり、強風に煽られて紛失したりして失格になってしまったチームも少なからずありました。その結果、私の機体が優勝ということになりました。初めての大会ですから、優勝を狙うよりも記録を残そうと思って頑丈に作っていましたが、それが結果として優勝につながりました。だから、優勝するためには高さをだすことも重要ですが強度のある設計も必要です。優勝した後も機体の改良を続けていて、5月に開かれるプロジェクト内の部内戦でその機体を打ち上げたいと思っています。 初めて大会に出場してみて 初めてロケットの大会に出場しましたが、めちゃくちゃ楽しかったです。競技の他にワークショップという、自分の機体を他の参加者にアピールできる時間があり、その時に私のロケットに興味を持ってくれた人が何人かいました。競技の時も話しかけてもらえて、表彰式の時に「何でこのフィンの形にしたの?」とか質問攻めでした。初めての大会で、1年生でチームのリーダーとして出場できて、優勝できるって言葉にならないくらい嬉しいです。 種目2「ペイロード有翼滞空」でベストデザイン賞(川崎重工賞)を受賞したチームとともに 種子島まで宇宙研のメンバーと行って楽しい思い出もできたかと思われるかもしれませんが、大会のことで頭がいっぱいですごく疲れてしまい、観光する余裕はありませんでした。宿泊していた旅館の近くに鉄砲館があったので、興味があった先輩にノリでついて行ったくらいです(笑)。大会が終わって種子島を離れる時に、ちょうどH3ロケットの打ち上げを港から見ることができました。ロケットを打ち上げる時って赤く光るのですが、その赤い物体がものすごい速さで高くまで上がっていくのを生で見て、遠くからでも凄さを感じました。実際に打ち上げの瞬間を自分の目で見ることができたのは良い体験でした。いつか、自分もでっかいロケットを作りたいです。 関連リンク ・宇宙開発研究プロジェクト 航空機製作への新たな挑戦・宇宙開発研究プロジェクト「MAXS」・情報メカトロニクス学科・種子島ロケットコンテストWEBサイト (※競技内容の詳細は上記のリンクを参照してください)

  • 【Fゼミ】私の仕事 #1--デジタルマーケティングとオンライン販売 基礎・実践

    1年次の「Fゼミ」は、新入生が大学生活を円滑に進められるように、基本的心構えや、ものづくりを担う人材としての基礎的素養を修得する授業です。このFゼミにおいて各界で活躍するプロフェッショナルを招聘し、「現場に宿る教養」とその迫力を体感し、自身の生き方やキャリアに役立ててもらうことを目的として、プロゼミ(プロフェッショナル・ゼミ)を実施しました。大企業勤務、起業、コンサルティングなど多様な活動をし、現在は日本工芸株式会社 代表取締役を務める松澤斉之氏を講師に迎えたプロゼミの内容をお届けします。 とにかくいろんな仕事をしてきた この27年を振り返ると、私は大企業に勤めたこともありますし、第三者としてコンサルをしたこともあります。自分で会社を立ち上げて経営してきたこともあります。とにかくいろいろな活動に携わってきた自負はあるのですね。 現在も、自分の会社を経営していますが、SBI大学院大学のMBAコースで講師も務めていますし、企業の研修を行ったり新規事業のコンサルティングもしています。早稲田大学、広島大学などで「デジタルマーケティングとオンライン販売の実践」について講義をしたり、福岡県物産振興会、東京都中小企業振興公社、新宿区立高田馬場創業支援センターなどで「企画発想力人材」の育成・活用、EC活用などについて相談に乗ったりもしています。その他企業内では事業開発、EC加速、越境EC立上げ、など様々なテーマでレクチャー+立上げ支援を実施しています。 こういう生き方は、学生時代、すなわち皆さんと同じころのつまり二十歳あたりの頃のある思いに遡れると思っていますが、それについては最後にお話ししたいと思います。 新卒で就職した会社の倒産 私は東京理科大学の出身です。とにかく旅行が好きで、バックパックを背負って世界中を旅行して回っていました。在学中は中国の四川大学に1年間の短期留学もしました。これには元来の『三国志』好きが大いに関係していたと思います。 1996年に大学を卒業してから、ヤオハンジャパン社に入社しました。大学時代中国に留学したこともあり、アジア展開に注力する会社で働きたいと考えたからです。ヤオハンは小売業で、1990年代の前半までは飛ぶ鳥を落とす勢いの躍進を続けていました。ところが、この巨大な一部上場企業が、私が入社した翌年に倒産してしまいます。これは日本の企業史に残る巨大な倒産としても知られています。これはなかなかショックな出来事でありましたが、就職先の倒産を機に私の人生が本格的に始まったと言ってもよいかもしれません。その後、しばらくの間、東南アジアなどからの輸入水産商社にて製品開発・輸入及び国内販売に従事していました。やはりアジア諸国との仕事をしたくてヤオハンに入ったわけですから、その思いはずっと心にとどまっていたからです。日々とても忙しかったけれども、充実していました。 たいてい人は何かに一生懸命打ち込んでいれば、必要な出会いは向こうからやってきてくれるものです。私の場合、勤め先の倒産から数年してからでした。それは日本を代表するコンサルタント・大前研一氏との出会いです。このご縁から、1999年、大前氏の起業家育成学校(㈱ビジネス・ブレークスルー)の立ち上げに参画する幸運に恵まれました。私が従事したのは国内最大規模の起業家育成プログラムを提供するスクールです。これを機に、同スクールの企画運営に関する統括責任者となり事業戦略・マーケティングを立案・実行してきました。社内新規事業として、企業内アントレプレナー育成サポート事業を立ち上げ、リクルート、三井不動産、NTTドコモなどの大手クライアントを獲得することに成功し、マザーズ上場にも貢献できました。 ビジネス・ブレークスルーから約7年がたち、自分自身もいつか起業することを考えていましたので、2006年、新規事業開発支援のコンサルティング会社フロイデの設立に参画し、役員に就任しています。これは、事業規模に関わりなく、新規事業をスタートしたいという企業は実に多いものの、そのための人員もリソースも不足していて、なかなか着手できずにいる状況を機会と考えたためです。新規事業の専門家は世の中にさほど多くなかったのも理由の一つです。実際に着手してみると、相談件数も着々と伸びて、ホンダ、日経新聞、パナソニック、NEC、東京電力などかなり大手企業の事業開発事案に携わることができました。このフロイデという会社は現在も関わりを持っており、私の複数の活動の一つとして、現在も新規事業のコンサルティングを続けています。 40歳を目前にAmazonへの転職 その間世の中は大きく変化を続けており、私としても、ネットによる世の変化を直接目で見て、学び取りたいという思いがふつふつと湧き上がってきました。そんなときに、Amazonジャパンの求人があることを知り、すでに40歳を目前としていたにもかかわらず応募したら合格してしまいました。ここから、私の大企業との関わりが再度始まったことになります。就職して翌年で倒産したヤオハン以来です。 私がAmazonに入ったのは2012年6月でした。このAmazon体験は、私にとってとても大きなものをもたらしてくれたと思います。まずはインターネット通販 Amazonジャパンホーム&キッチン事業部に配属され、バイイングマネージャーとして販売戦略の立案と実行を任されました。これはかなり重要なポジションで、会社としても私のこれまでの経験やスキルを十分に生かせるように配慮してくれたのだろうと思います。 Amazonで得たことは実に多いのですが、私は三つあると考えています。一つはEC、すなわちネットビジネスの基本が理解できたことです。ECとは何のことかといえば、6つの要素、商品、物流、集客、販売、決済、顧客からなっています。これらへの対応、作戦計画を行うのがバイヤーの仕事です。AmazonのECは世界最高と言ってよく、仕入れはもちろんのこと、マーケティングやアフターサービスまで、多くを学ぶことができました。この体験は独立している現在、とても役に立っています。 第二が世界最高レベルの組織です。Amazonの構築した組織は、巨大でありながら実に柔軟であり、機能的でした。Amazonの組織の一員であることによって、特に大きな組織を動かすためのエッセンスのようなものが会得できたと思っています。 最後がビジネス・パートナーです。仕事をしていると仲間ができます。その仲間がいろいろな情報をもたらしてくれますし、私もいろいろな情報をシェアしたりします。そのような人間関係は、会社を辞めた後も続きます。「人脈」という言い方もしますが、これは仕事の醍醐味だと思います。 Amazonは今あげた三つの要素のどれをとっても一流であったのは間違いありません。その恵まれた環境の中で、とにかく日々の商談を行いました。結果として2,000社以上のEC化サポートの経験を積み上げることができました。 日本工芸㈱を設立--想いをつなぐ工芸ギフトショップ 私がAmazonに在籍したのは約4年です。いつかは独立しようと考えていましたから、退職は当初より織り込み済みでした。私が再び事業を立ち上げたのは、2016年12月のことです。Amazonを退職し、工芸品の越境EC運営を生業とする日本工芸株式会社を設立しました。「想いをつなぐ工芸ギフトショップ」をキャッチコピーにしています。仕事内容は伝統工芸領域のプロデュース・販売事業です。日本の伝統工芸のすばらしさを世界に知っていただきたいと思い、スタートしました。 詳しくはHPをご覧ください。https://japanesecrafts.com/ それ以前から、新規事業開発アドバイザーは長く従事しており、専門領域は、新規事業案策定、実行支援、事業創出の仕組みづくり、人材育成、EC戦略立案、集客支援など多様に展開させていただいています。 私は日本工芸㈱のビジョンを「日本の工芸、職人の技と精神性・製法・技法に宿るこだわりやプロセスを理解し、商品流通・教育など通して製品を愛する日本内外の人、世の中に広げていく」としました。日本ではたくさんの優れた職人がおられ、日々逸品の製作に励んでいます。しかし、伝統工芸品は1983年の5,410億円をピークに、2015年は1,020億円と5分の1にまで減少しています。売上減少に伴い、人手の不足、新商品開発への対応不足なども加わって産地の生産・流通は構造的に疲弊してきているのが現状です。これには、昨今の百均などに見られるように、消費者動向に添う効率よい商品調達・流通が大きく関係しています。所得・消費も減少していますので、「安くてそこそこの」ものに消費者がどんどん吸い寄せられているのでしょう。それに対して、専門店やECなどが十分に対応できていないのではないかということも、日本工芸㈱立ち上げの原動力になっています。 そのために、選定したブランド、産地、工芸品を不易流行なブランドとして発掘するところから始めます。職人さんとじっくり語り合い、文章と画像で語り、販売するようにしています。こうすることによって、国内でハンドメイドによる工芸品をセレクトしてお客様に提供する、目利き役も務めています。それぞれの職人は小規模ですから、広告や大規模なプロモーションを打つことはできませんし、その知識も乏しいのが実情です。日本工芸㈱が行いたいと考えるのは、職人さんに職人さんらしい仕事をしてもらうことです。そのほかの面倒なことは引き受ける。その価値を理解してくれる全国のお客さんをインターネットによって仲介・プロデュースしています。最近では法人による購入も増えてきました。 死ぬまで挑戦したい 私は現在で50歳です。今までいろいろな事業に携わってきました。大企業勤務、企業、コンサルティングなどなかなか経験できない多様な活動ができたのは本当にありがたかったと思います。 事業の形態は実にいろいろあるのですが、私は一番大事なのは「人」だと思うのですね。経営学者のドラッカーも、経営的問題は結局は人の問題に帰着すると語っていたかと思います。私にとっては、仕事そのものの大切さもさることながら、その仕事が社会的に意味を持つためには、やはり人との関係を創生するものがなくてはならないと考えています。新規事業のコンサルを始めたときも、Amazonでの開発業務も、日本工芸㈱の企業もつまるところは、人の力になりたいし、私自身もそこから力を得たいという思いがあったためだと思います。早いうちに海外に出たことで、いろいろな人に会うことができましたし、多くの体験をすることができました。社会人になってからも、ずいぶんたくさんの国を旅行やビジネスで訪れました。これは私が職場を始め居場所をどんどん変えてきたことも関係していると思うのですが、それによって変化していくことが恐くなくなってきたということは言えると思います。世の中は何もしなくても変わっていくものです。むしろ変わっていくことがこの世の本来の姿です。変化していくことを後ろ向きにではなく、積極的に活用していくような生き方を結果としてしてきたように思います。 私は社会人になって27年目になります。その意味では私は一社に就職して長く勤め上げる人生を送ってきたわけではありません。現在もなお複数の仕事を同時に行っています。おそらく現在学生の皆さんも、一社で勤め上げるのではなく、適宜ふさわしい仕事や会社で働いていく人生になると思います。 思い起こせば、学生時代、私はあることを考えるようになりました。それは人はいつか死ぬということです。それはいつかの問題であり、避けることのできないことです。そうであるならば、私は死ぬときに100名の友人がいる状態を理想と思うようになりました。死ぬときに100名。これを実現するためにこれから生きていこうと思ったのです。私の人生ビジョンは「挑戦する精神とともに成長する」です。死ぬまで挑戦して生きたいと日々考えています。挑戦するとは、いつでも生き方を変える準備があるということです。 大学生の皆さんは、現在基礎を築く大事な時期にいるのですから、ぜひ日々を大切に送っていただきたいと思います。技能や技術を担うテクノロジストの皆さんにとって本日のお話が何らかの参考になればと願っております。 Profile 松澤 斉之(まつざわ・なりゆき)1996年 東京理科大学卒業、在学中に中国四川大学に留学同年、ヤオハンジャパンに入社するも翌年倒産1999~2006年 大前研一氏のベンチャー(現㈱ビジネス・ブレークスルー)に参画、マザーズ上場2006年~現在 新規事業開発会社(㈱フロイデ)に参画2012~2016年 アマゾンジャパン ホーム&キッチン事業部シニアバイイングマネージャー2016年~現在 日本工芸㈱ 代表取締役、国内外EC事業、プロデュース事業(卸)、販路開拓支援事業を実施2017年~ SBI大学院大学講師(事業計画演習)2019年~ 独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業支援アドバイザー 関連リンク 【Fゼミ】私の仕事 #2--私が在籍してきた企業におけるマーケティング 【Fゼミ】私の仕事 #3--自分を活かす 人を活かす 【Fゼミ】私の仕事 #4--歌手としての歩みとライフワーク

  • 【知・技の創造】加工技術で環境課題に貢献

    自動車や鉄道車両の軽量化手法 自動車や鉄道車両に代表される輸送機器の軽量化は、省エネルギー化や二酸化炭素排出低減などの環境問題に対し効果的な手段です。つまり、部材の強度や剛性に対する制約条件がある中で軽量化を図る必要があります。軽量化の手法としては大きく、材料の変更と形状の変更があり、要求される仕様に応じて一方または両方の手法が用いられます。 材料の変更については、単に強度や剛性が高い材料ということではなく、重量に対して強度や剛性が高い材料であることが重要です。自動車の強度部材として多く用いられている高張力鋼板は、一般的な鋼板と単位体積あたりの重量に差はありませんが、強度が高いため鋼板の板厚を薄くすることができ、体積減少により軽量化を図ることができます。アルミニウム合金やマグネシウム合金の強度や剛性は一般的な鉄系材料より小さいですが、単位重量あたりでは一般的な鉄系材料より大きくなります。このため、必ずしも板厚を薄くするなど体積を減らすことはできませんが、軽量化を図ることが可能です。 形状の変更については、1つの部材内において求められる強度や剛性に対応した断面積となるように設計することが重要です。なお、形状の変更は使用する素材の体積を減らすことを目的としているため、省資源化の観点でも優れた手法です。軽量化と省資源化を目的とした構造部品の代表的な例として管材があり、輸送機器の分野でも広く使用されています。管材は構造として、曲げやねじりの強度や剛性に対して影響の小さい半径方向中心部が空洞となっており、一方で影響の大きい半径方向中心部から距離の大きい位置で力を受けるため、重量に対して強度や剛性を高くすることができます。 変断面管の加工方法に関する研究 現在私は、管材において更なる軽量化を実現する変断面管の加工方法を提案し、その実用化に向けた研究を行っています。変断面管は長手方向にも要求される強度や剛性の分布に対応した形状とすることができるため、軽量化により有利な部材です。変断面管は自転車のフレームなど限られた部品に適用されているのが現状であり、実用的な加工方法も含めて、自動車や鉄道車両への積極的な適用の検討が進められている段階です。 提案している変断面管の加工方法は逐次鍛造によるもので、素材把持部と金型による加圧部の動作をコンピュータで制御し、刀鍛冶のように間欠的に素材を加圧し所望の形状に加工するものです。従来技術であるラジアルフォージングやスウェージングなどと比較し、汎用的な金型のみで複雑形状に加工できるため、金型素材や金型製作の観点でも省資源、省エネルギー化を図ることができる利点があります。この研究の最終ゴールとしては、コンピュータ上で設計した変断面管の形状データを入力とし、加工条件を自動決定後、自動加工を行う一連のシステムの実用化を目指しています。そして、提案した加工技術を用いた輸送機器部品の軽量化により環境問題に貢献していきたいと考えています。 埼玉新聞「知・技の創造」(2023年4月7日号)掲載 Profile 牧山 高大(まきやま たかひろ) 情報メカトロニクス学科講師電気通信大学大学院博士後期課程修了 博士(工学)株式会社日立製作所生産技術研究所を経て、2019年4月より現職。専門は塑性加工学。 関連リンク ・情報メカトロニクス学科WEBページ