学生フォーミュラ
2014年度大会報告
ものつくり大学
学生フォーミュラプロジェクトとは
ものつくり大学製造学科では、企画・製作・伝承・予算やスケジュールの管理等々、活動の一切を学生自ら(一応顧問の教員はいます)が主体的に運営する活動(学生プロジェクトと称しています)を積極的に支援しています。ものつくり大学学生フォーミュラプロジェクトMONO Racingは、「全日本学生フォーミュラ大会」への参加を目的とした学生プロジェクトです。
全日本学生フォーミュラ大会では、排気量610cc以下のガソリンエンジンを搭載したフォーミュラタイプのレーシングマシンを自ら設計・製作し、海外を含む他大学(およそ80チーム)と競い合います。今年(第13回大会)は9月2日から6日まで、静岡県の小笠山運動公園(ECOPA)で開催されます。
競技の概要
全日本学生フォーミュラ大会(http://www.jsae.or.jp/formula/jp/)は、優秀なエンジニアの育成を大きな目的として公益社団法人日本自動車技術会が主催する競技会で、学生が仮想の企業を運営するという想定のもと、ものづくり全般に亘る総合力を競います。教室の中だけでは優秀な技術者は育たないことに気付いた米国の自動車技術会が1981年(日本が4輪自動車生産で米国を抜いた翌年)に開催したのが始まりで、現在では世界12か国で開催されています。
大会では初めに車検を受検します。車検はレギュレーションへの適合(ルール違反はないか)、安全性(ブレーキは十分に効くか、カーブで転倒しないか)の確認などを目的としたもので、競技ではありませんが、これに合格しないマシンは会場内でエンジンをかけることができません(従って走行競技に参加できません)。
車検後から(あるいは並行して)競技が進行します。競技では、マシンのコンセプト・設計技術・製造方法やコスト管理などについて、事前に提出した書類と当日の口頭試問で審査する「静的競技」が3種目、実際にマシンを走行させて性能を競う「動的競技」が5種目行われます。
走る性能だけでなく、考え方や作り方まで厳しく評価される点がエンジニアの育成を目的とする学生フォーミュラ大会の特徴です。
2014年大会(9月2日~6日)に参加します
MONO Racing では、毎年大会終了後に最上級生が引退して新チームが発足します。2013年大会を無事終えた昨年9月、短い夏休みを取ったのち、チームは体制を一新して新たな挑戦に動き出しました。
今年はカーナンバー 24
ものつくり大学製造学科の学生フォーミュラプロジェクトMONO Racingが挑戦している「全日本学生フォーミュラ大会」は、今年で12回目を数えます。今年は9月2日~6日の日程で、静岡県の小笠山運動公園(ECOPA)にて開催されます。
去る6月末ころ、大会の主催者である(公社)自動車技術会から、マシンの安全性に関する書類審査に合格した旨の通知があり、6年連続8回目の参加が確定しました。今年のカーナンバーは24番です。
目下、2014年マシンはシェークダウン目前で、8月の富士SW試走会では練習走行ができる見込みです。人手不足が危惧された新チームでしたが、前回大会終了後に加入した現2年生メンバーはとても優秀で、3年生が第2クォータにインターンシップで不在となるハンデを克服しています。また、4月に加入した13名の新入生も、忙しい授業の合間を縫って積極的に活動しており、こちらも将来が楽しみです。
いろいろやっています、MONO Racing
マシンの製作や競技会の参加以外にも様々な活動を行っています。2013年~2014年の活動例をご紹介します。
東京モーターショーにてデモ走行(11/23)
特設展示場で学生フォーミュラマシンのデモ走行と展示を行いました。大学のパンフレットを配布してPRに貢献しました。
埼玉県商工祭りにて展示(11/30)
大宮にて開催された埼玉県商工会主催の行事で2013年大会マシンを展示しました。来訪者に説明し、質問に応じる練習は就活にも役立ちます。
ホンダ報告会(2/17)
本田技研工業様が支援している大学が集い、2013年度の活動と次年度の構想について、1チームあたり1時間ほど発表・議論しました。
学術講演会にて講演(3/7)
学生フォーミュラマシンに関連した研究テーマについて4年生が発表しました。
第12回全日本学生フォーミュラ―大会に参加して
9月2日から6日まで、静岡県袋井市から掛川市に跨る小笠山運動公園(エコパ)で第12回全日本学生フォーミュラ―大会が、参加86大学(エントリー96大学、EV部門含む)を集めて盛大に開催されました。ものつくり大学学生フォーミュラ―プロジェクト「モノレーシンング」は大会に初日から参加しました。ほとんどのメンバーが大会初体験である今年、最終競技にて時間切れによる競技打切りに見舞われ、目標としていた全種目完遂を果たせませんでした。
大会初日:9月2日(火)
未明に集合し、日の出とともに大学を出発しました。遅刻などのトラブルを防止するために、今年から遠征時にはドーミトリーの研修室に前泊することにしました。
今年は、チームメンバー22名のうち大会を経験しているのは3年生以上の4名だけで、2年生以下18名は全員が初参加です。試走会には参加していますが、“本番”の規模と緊張感は別格です。「マシン半分、人半分」の競技会、はたして無事に乗り切ることができるか?抜かりなく準備したつもりでも心配の種は尽きません。
トラックの空間を有効に活用するために、建設現場用の単管を組んで棚を製作しました。これにより、積み荷の整理がしやすいうえ、会場では倉庫兼事務スペースとしても利用できるようになりました。これ、今年の新作です。
途中休憩をとりながら、予定通り9時30分に会場に到着しました。会場で最初の仕事はトラックの乗り入れ・荷降ろし、ピット設営です。例年は様々な場面で要所に指揮役の上級生を配置できましたが、今年は経験者が極端に少ないので、各自が自分の判断で行動する場面が増えるでしょう。
動的競技に出走するためには、主催団体が実施する車検に合格しなければなりません。写真は、車検のうちの技術車検の様子です。会場にはこのようなブースが18コマも設置され、事前の予約に従って全チームが順次点検を受けます。昨年大会で24位だったモノレーシングは、シード校の権利によって大会初日の午後に技術車検を受検することができました。
モノレーシングのマシンは車体側面の覆いに関して指摘を受けましたが、急遽近隣のホームセンターで材料を入手、対策を施して、この日の内にどうにか技術車検を通過しました。本日、会場での活動はここまで。片付けをして宿へ向かいました。
ここ数年、モノレーシングは御前崎市内の民宿を定宿としています。競技を終えて宿舎へ帰ると20時を過ぎます。その後夕食、入浴、ミーティングを行い、23時頃に就寝するという毎日です。
この夜は、大会2日目に行われるプレゼン審査の最終チェックを行いました。プレゼン審査では、製作したマシンを用いたビジネスプランについて、審査員の前で15分のプレゼンテーション(質疑応答を含む)を行い、アイデアや発表の構成、スキルなどを競います。今年、モノレーシングでは2年生がプレゼン審査を担当します。初めての経験なので、作成したスライドをプロジェクタで宿舎の壁に投影し、要点が明確か、スライドは見やすいか、スピーチは聞きやすいか等々について上級生やFAにチェックしてもらい、本番前の最後のブラッシュアップとしました。
早朝からの作業で皆疲れているはずなのに、真剣な練習を聞いているうちに次第に頭は冴え(これを「何とかハイ」とでも呼ぶのでしょうか)、鋭い(しかも大学の学習が活かされた!)意見や提案が学生から多く聞かれました。嬉しく、楽しい一夜でした。
大会2日目:9月3日(水)
大会期間中は4時50分起床・5時20分出発で、朝食は途中のコンビニで調達し、移動しながら車内で済ませるという毎日です。
毎日のスケジュールは、ピットに設置した掲示板に書き出します(隣に時計があるのがイイでしょ)。また、作業に備え工具を整頓しておきます。これらは主に1年生の仕事です。
今日の最初のタスクはプレゼン審査です。自社のビジネスプランを携えて他社へ出向き、プレゼンテーションを行って先方の役員を説得するという想定なので、学生たちは皆スーツに着替え、仲間の声援に送られて会場へ向かいます(帽子とサングラスはご愛嬌、何しろ日差しが強いので)。さて、昨夜の練習の成果は?「緊張して、少し慌てました」いやぁ、ナカナカでしたよ。
静的審査の合間に、昨日未受検であった車検項目とドライバーテストを受検しました。写真(中)は緊急脱出のテストです。レギュレーションでは5秒以内に脱出できることとされています。
足回りの調整はマシンを水平な状態において行いますが、ピットは普段は駐車場として使用されている場所なので、雨水を排水する目的でかなり傾斜をつけています。そこで、傾斜した場所でもマシンを水平状態に保つ工夫が必要となります。
タイヤの位置に、高さと傾斜を調節できる板を設置し、板の上に水を入れたメスシリンダを載せます。4つのメスシリンダはホースで連結されているので、水位が揃うよう調節することで4つの板を同一水平面上に設置できます。これも今年の新作です。
車検の途中、エンジンから笛を吹くような音が聞かれるようになり、エンジンが不調になりました。調べてみると、吸気マニホルドの取り付け面から空気を吸っていることがわかりました。アルミパイプを溶接した際、熱でフランジ部が若干変形したため、取り付けボルトの締め加減によっては隙間ができることがあったのです。テスト走行では発現しませんでしたが、塗装時の分解・組立作業によって不具合が顕在化したものと思われます。細かな情報やノウハウがうまく伝承されないと、肝心な場面で状況判断を誤り、このようなトラブルに見舞われることがあります。
大会3日目:9月4日(木)
いつも通り6時半に会場へ到着し、ピットを立ち上げます。3日目にもなるとだいぶ慣れて、指示されなくても自らの判断でてきぱきと動けるようになりました。
昨日から、2番シリンダが燃焼していません。点火プラグか、イグナイタか、はたまたインジェクタか、断線か、誤配線か。いくつもの原因が考えられます。各部品の作動を点検し、配線図を頼りに各部の電気信号を順次チェックしたところ、インジェクタへ繋がる配線が1か所断線していることがわかりました。
機械的な壊れ方と異なり、電装系のトラブルでは目で見ただけでは分からないことが多く、原因を突き止めるには計測値や観察結果に基づくロジカルシンキングが必要です。
午前中にアクセラレーション(加速競技)とスキッドパッド(旋回性能競技)に出走しました(下の写真)。エンジンの不調はまだ十分には解消されていないうえ、ドライバーも走行経験が少ないために、タイムはよくはありませんが、この後さらにアクセラ競技にも出走し、完走に向けてどうにか記録だけは残すことができました。
午後はオートクロス(複合コース1周のタイム)に出走しました。オートクロスのタイムによって翌日のエンデュランス(耐久走行)の出走順が決まります。調整不足で好タイムは期待できそうにありませんが、トップの記録から一定時間以上遅れると次のエンデュランスに出走できないルールなので、気が抜けません。モノレーシングは、走行中に新たにスロットルベダルの故障が発生し、大幅にタイムをロスしましたが、「足切り」にはなりませんでした。
明日の出走順位がだいぶ遅いことが確定したので、吸気マニフォルドの本格的な修繕を行うことにしました。オートクロスのタイムによる足切りは免れましたが、出走順位が遅い場合は、当日の進行具合によっては時間切れで出走できないことあるので、安心できません。
大会4日目:9月5日(金)
会場は早朝から激しい雷雨に見舞われ、エンデュランス競技の開始が2時間近くも遅れてしまいました…
競技開始後、出走までの時間を利用して、プラクティス(練習走行)エリアでマシンを調整しました。写真ではレインタイヤを履いているのがわかります。吸気マニフォルドのシール、燃料噴射系の配線の修理、スロットルワイヤーの修理を経て、遅まきながら完成したという印象です。
写真は、プラクティスエリアで調整の様子です。今年から導入した、ちょっとお高いサスペンションがしっかりと伸びて、急な旋回でもインリフトせずにグリップしている様子がわかります。結構いい調子、期待が膨らみなす。
エンデュランスでは、周回数の把握はチームの責任です。間違いのないよう(昨年はしくじりましたので)、大きなサインボードを急遽拵え、提示の仕方も綿密に打ち合わせました。・・・・が・・・・。
競技は順調に進み、「これならば走れるかも」と思った矢先、コース内で走行中の他大学のマシンが火災を起こし、消火活動とコースの清掃で大幅な時間ロスが生じました。幸いにも怪我人はなく、競技は引き続き行われましたが、結局はモノレーシングを含む15大学が時間切れ打切りで出走できずに、競技は終了しました。
あともう30分あれば出走できたでしょうが、初めからわかっていたルールですし、主催側も3台の混走によって進行を促進するなどの努力をしてくれましたので、残念な結果ですが受け入れるしかありません。
大会最終日:9月6日(土)
競技を終えると、最終日はのんびりした一日となります。この時間を利用して学生は他大学の取材に出かけます。マシンを見学し、質問し、来年のマシン作りの参考にするのです。会場は言わば「好きモノ」が集まっているので、大抵は訊ねれば惜しみなく語ってくれますし、聞かないことでも“勝手に”しゃべってくれます。
他大学からモノレーシングへも見学に来ますので交代で留守番をします。時には海外のチームが訪ねてきて英語で質問されることもありますが、身振り手振りを交えてどうにか対応している姿は微笑ましく、また頼もしく見えます。
経験値が低さは仕方ないとしても、詰めや確認の甘さ、うっかりミスなど、心がけで防げるトラブルも目立った大会でした。新チームも最上級生は極めて少ないですが、この1年間をともに苦労した2年生とモチベーションの高い1年生が多く残っていることには大いに希望が持てます。
次の1年を人材の厚みを増す好機と捉え、上昇の足掛かりにしたいと思います。
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